2017/07/13

幽霊

「ねえ、先生。おとぎ話とか昔話って、つまらないね」
「ほぅ?それはまた、どうしてかね?」
「だって、どれもこれも、似通っているんだもん。正直なおじいさんやおばあさんは幸せに暮らし、意地悪ジジババは罰があたる、っていうやつばっかり。どうせ、どんなおとぎ話も、作り話なんでしょう」
「それはまあ、確かに作り話ではあるが、しかし、作り話だからこそ、昔から今に至るあらゆる人たちの魂がこめられている。だから、楽しい部分と、恐ろしい部分があってだね」
「へーーーー。おとぎ話に恐ろしい部分なんかあるの?」
「ああそうだよ。じつは、どんなお話にもね、普段は誰もが忘れてしまっている、恐ろしいものが隠されているんだけどね、それが、時々ひゅーっと姿を現すことがある」
「……」
「たとえば、こんなふうに」


『あるところに、そこそこ可愛い娘がおりました。その娘は頭もそこそこ良いのですが、ちょっと意固地なところがあり、大人たちが大切な話を言って聞かせようとしても、ろくに耳を傾けようとはしません。
そこで、ある一人の男が思い立ちました。この娘に、人間の魂が普段は忘れてしまっている恐ろしいものについて語ってやろうと。そして彼は言うのです。自分はじつは幽霊なんだよと…』


「ちょっと、先生!そういう作り話は面白くないです。聞きたくないでーす」
「いいから聞きなさい。もうお話はすでに始まっているんだよ」


『幽霊と聞いて、娘はびっくりしました。きっと怖いこわい話が始まるのだなと直観しました。そこで、そんな作り話は面白くない聞きたくないと言い返すのですが、しかし幽霊は話をやめません…』


「ふーんだ。ばっかみたい…もう、聞こえない。なんにも聞こえないです。はい、もう、おしまい」
「いーや、この話はまだまだ始ったばかりなんだ」


『娘は耳をふさぎつつ、もう聞くまいとするのですが、しかし幽霊は、こわーい話はまだ始ったばかりだと言うではありませんか!娘はいよいよ怖くなり、話をやめてと大声で訴えていました…』


「もう、いい!ねえ、なんだかほんとに怖くなってきたから、やめてください先生!幽霊なんかいるわけないもん!」
「でも、僕は君の目の前にいるじゃないか。しかも、じつは僕だけじゃないんだよ、ほぅーら」


『娘はもう怖くてたまらなくなり、幽霊なんかいるわけがない!と喚き出していました。しかし話は続くのです。そして!なんともおそろしいことに、娘を取り囲むように次々と新たな幽霊があらわれて…』


「きゃぁーーーーっ!」


(ははははは)