『融けるロボット 安藤健・著 NPO法人ミラツク 』
もともとロボットは一瞬一瞬のインプットコマンドごとに呼応しつつ精密な反復アウトプットを体現する機構系である。
これら連続精度を以て、そのロボット導入による「効用(benefit)」を論じてよかろう、そしてバラついてしまえば効用は小さいことにもなろう。
そして「効用」は某かによって為される'供給力(量)'でもあるが、同時にまたそこから反作用的にまた派生的に生じる'需要力(量)'ともいえ、かようにして関係当事者は増えてゆくので、いずれ社会全般がロボット化されうる。
…といったところが僕なりの要約でありかつ所感である。
さて、本書にてはロボットによる「効用」をヨリ多元的に切り分けている。
たとえばハードウェア物理特性、ソフトウェア論理、自律性と拡張性と環境要件、全体最適と部分最適、エネルギー損得からカネ勘定まで ─ さまざまなプリズムを通しつつ段階的に事態分析を進めている(ようである)。
しかしながら本書の主要メッセージのひとつは、自動化~事業化~社会全般まで諸々の「効用」を相乗的に接続し拡張させる新観念、『ロボット・トランスフォーメーション RX の追求』であろう。
むろん一方では、マクロな横軸を貫いた辛辣な批評も随所に見られ、これらは警告性が高い。
たとえば、ロボットの数理判断力と感覚・運動能力がむしろ反比例しうる由を論う’モラベックのパラドックス’などの引用、などなど。
本書の楽しさは、多元的な分析眼よりも、むしろロボット規格~開発~導入事例の豊富さ、それら通じてのロボット・トランスフォーメーションの未来像、に見いだせよう。
具体的事例なればこそ教訓もさまざま、よって是非とも学生諸君や若手社会人に紹介しおきたいと思い立ったところである。
※ 付言しおけば、僕自身かつて電機メーカ在籍時に(ロボットとまでは行かぬまでも)さまざまな自動化システム機器の拡販に携わった経緯あり、それら自動化システムがもたらすさまざまな「効用」についての顧客たちとの論争は今も記憶に新しく、これもあって本書におけるふんだんなロボット投入レポートはなかなかエキサイティングである。
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<本書におけるロボット導入事例を幾つか掲げおく>
・1つの木に複数の実を成す作物の収穫作業にては、従来はどうしても’不適格なサイズ/不適格な時期’の実を棄てざるをえなかった。
しかし、ここでロボットが実のサイズと時期を精密に峻別しつつ収穫出来るようになれば、不適格な実を廃棄するどころかむしろさまざまな実を活かしつつ徐々に収穫出来るようになる。
これが上手くゆけば、総じてこの作物の収穫量は増えてゆく。
・豆腐の梱包作業にては、ロボット起用によって作業精密化が増すのはむろん、高温の豆腐をいちいち冷ますことなく直に掴んで梱包続けること可能にもなる。
これによって、梱包され販売される豆腐の鮮度(衛生水準)が高まることになる。
・牛の搾乳にては、乳牛の体調や生理データをロボットが’センシング’し蓄積可能。
これらデータを元にして、これら乳牛の受胎から繁殖まで管理し効率化図れる。
・病院内での各患者への薬剤の配送作業は、患者ひとりひとりの容態によってさまざまありうる。
ここで、調剤から配送までさまざまな作業パターンと所要時間を従前にスタディの上で、これらを配送ロボットに学習させることが出来る。
これにより、これら配送ロボットに’どこまで任せうるか’(どこまで人手が担うか)を人間側がいつでも確認可能となり、よって最適な調剤~配送パターンを見出すこと可能。
・空港内にては、身体の不自由な人々の移動サポートが義務化されており、車椅子によるこれらの人々の搬送の’完全自動化’が最適解のように見做されがちではある。
よって、精密な走行可能なロボット車椅子こそが望ましいと。
しかし、車椅子利用者は必ずしもロボットとの直接コマンド入出力を望んでいるわけではなく、むしろ「人間との」の応答を求めている。
よって、たとえばこれらロボット車椅子に人間が同速度で随行するなど、フレキシブルな’共存型’システム実現こそが求められ続けている。
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以上、あくまでほんの一端ながら、ちょっと要約紹介してみた。
他にも、リモートセンシングを活かしつつ距離と時間を克服するロボット、それらとの共存や功罪判断などなど、なかなかの頭の体操たりうる事例が続々だ。
※ なお、上でも触れたとおり僕は電機メーカの営業あがりゆえ、ロボットについては僕なりに更に想像力が大いに掻き立てられる。
極端な未来像をふっと想像たくましく描いてみれば ─ たとえば、特定の元素(電荷や電磁場)それ自体がコンピュータ/ロボットとして活かされる日が来るだろうか、そんな物質がありえようか、液体や気体としてならどうか、人体細胞レベルで駆動するウルトラミクロロボットはありうるか、などなど。
これらロボットがいつか出現したとして、人間との役割/責任分界はどうなるのか、社会はどう変容するのか…通貨媒体は??
おわり