2019/12/25

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「こんにちは先生。あたし、質問があるんです」
「ほぅ?何かね?きっとくだらない質問だろうが、一応は聞いてあげよう」
「ではお伺いします。先生は自分が人間だという自意識がありますか?」
「あ?なんだ?俺が?自分自身を?人間だと自覚しているかって?…はっははは、そんなもの当たり前じゃないか。そもそも人間とは不完全なもの。そして俺自身も不完全。そう自覚出来るのは俺がまさに人間であるからだよ」
「そうですか。まあ、なんとなく分かりました。では次の質問です」
「なんだと?」
「神さまは、自らを神さまだと自覚されているのでしょうか?」
「なになに?神はおのれ自身を神だと自覚しているかどうか?……ふーーーむ」
「先生は、分からないのですか?」
「いや、分かるぞ ─ うむ、つまりこういうことだ。神というものはあらゆる力量において完全無欠だ。それは認識能力においてもだ。よって、おのれがまさに神であるというその認識能力こそがまさに神の神たる所以なのだよ」
「はぁ、そうなんですか。まぁ、なんとなくは分かりました。さぁ!それではいよいよ応用問題です!」
「おいちょっと待て。まだ続くのか?」
「サンタクロースは、自分自身を神と考えているのでしょうか?それとも人間だと了解しているのでしょうか?」
「うぐっ……えーと、もしもサンタクロースが自らを神だと意識しているとして……いや、しかしだぜ、それが実は誤解だとしたら、そもそもサンタクロースの認識能力そのものに欠陥があることになるわけで…」
「やっぱり、先生には分からないのですか?」
「待てってば!うーーーーん……もしもだよ、サンタクロースがおのれを人間であると自覚しているとしたら、おのれ自身の超人的な能力と精神を自ら説明出来ないことになってしまう、とすると…?背理的に帰納すればやっぱりサンタクロースは神であるということに…?」
「どうしたのですか先生?降参なら降参と言って下さい」
「誰が降参すると言った?!」



サンタクロースは自らを神と見做しているのか、はたまた人間であると自覚しているのか、有効な見解を導き出すには至らず、釈然とせぬままにその少女は寝床に就いた。
そんなだったから、当のサンタクロースが夜半時にそっと出現して傍らにプレゼントを置いて去っていくさまを、彼女はそっと見届けていたのである。
そこで、彼女は無言のままで話しかけていた。
サンタさん、サンタさん、あなたは自分自身を全知全能の神さまだと信じているの?それとも人間だと信じているの?」
ここで、サンタクロースは一瞬だけ戸惑ったふうを見せたが、しかしそれもつかの間、たちまちのうちに立ち去ってしまった。
「そう、あたしの心を読みとったのね、ということは、あなたは…あなたは…いいわ、もうどちらでも構わない」
そんなことを少女はひとりごちたが、やがて、ふ、と新たな思案に突き当たっていた。
たった今、サンタクロースが届けてくれたこのプレゼントは、どちら側の存在となるのかしら…?

彼女は咄嗟に、そのプレゼントを開梱して中身を確かめてみたいとの念にとらわれ、しばらく逡巡しつつ ─ いや、これは明日のお楽しみだから開けないでおこうと一人ごちた。
そしてようやく眠り始めたが、それでも、これから待ち受けているであろう新たな人生展開はきっと想像を超えたスリリングなものとなるのではと、そんなようなドキドキするほどの期待感と緊張感はいよいよ膨らむ一方であり、やっぱりなかなか寝入ることが出来ないのだった。


(おわり)

※ 『パンドラの箱』の逸話から着想を得たもの。