2024/03/11

ピノキオ


世界には、さまざまな命題の組み合わせがある。
これら命題には、『真』と『偽』のいずれかがありうる。

さて、ここにピノキオという人形が在り、このピノキオは『真』の命題のみを叩き込まれて作り上げられた存在 ─ としよう。
ゆえに、ピノキオは『真』の命題のみを発信するはずである。

もしもピノキオがうっかり『偽』の命題を発信した場合、ピノキオは鼻が伸びてしまう。
ちょっと『偽』を言うと、ちょっとだけ鼻が伸びる。
もっと『偽』を言ってしまうと、もっと鼻が伸びる。
更にさらに『偽』の命題を発すれば、更にさらに鼻が伸びてしまう。

いったい、ピノキオの意義は何だろう?
『真』から成る神によって創られ、人間による『偽』を戒めるようにと遣わされたのではないだろうか?

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ああ、なるほどね。
ここまではあたしにも分かった。
でも、あたしはまだ納得しきれていないのよ。
だって、あたしは ─ ピノキオくんの鼻をこうしてキュッキュッと引っ張っているんだから。
さぁさぁピノキオくん、おまえは鼻を引っ張られると『偽』の言葉を発するんでしょう?

あら、なんですって?『僕は人形ではなく、人間です、だから鼻を引っ張るのはやめて下さい』ですって?
な~るほど、おまえは『偽』を叫んでいるわけね。
じゃあ、もっともっと鼻を引っ張ってみましょうね、ほぅらほらほら!
えっ?なんだって?『僕は人間です、もう鼻を引っ張らないで下さい』ですって??
はっはははは、や~っぱり『偽』を叫んでいるわね。ふっふふふふふ、それじゃあもっともっとも~っと鼻を引っ張っちゃうわよ~、さてさてどういうことになっちゃうのかしら?…

おやっ?
AIの生成プログラムがメッセージを送信してきたわね。
えーーと、なになに?…『世俗常識から鑑みればピノキオは人間である。この命題は真である』… ですって?!
ああ!そうだったのね!ピノキオくん!おまえは人間だったのね!それじゃあ鼻がこんなに伸びているのはおかしいわ。縮めなければならないわね!



(おわり)