2021/05/25

【読書メモ】人類の未来を変える核融合エネルギー

核融合とはまこと学際的な響き、そして多様な応用を期待させつつも、じっさいのところ我々のほとんどは意外にもこの分野について見識に乏しい。
もちろんその理由は、そもそも核融合が諸元素や恒星の生成に見られるように長大な物理現象の必然プロセスに過ぎぬのか、あるいは強引な人工技術の粋であるのか、いまひとつ思考の軸を定め難いためであろう。
とはいえ、自然か人工かといえば、水素電子の電離と自由運動を人為的に起こして核子を(原子を)変えてしまい、そのさいのエネルギーを抽出する核融合技術こそは、もうとびっきりの人工技術の粋である。
ここのところ僕なりに再認識してみようと思い立ち、だからこそ、此度は核融合技術の超基本要件をまとめた概説本を読み進めてみることにした。
『人類の未来を変える核融合エネルギー 核融合エネルギーフォーラム・編 C&R研究所

本書は単純明瞭にセーブされた文面がじつに読み進めやすいが、とりわけ随所に呈された簡素な図案類にこそ注目すべきであろう、簡素とはいえ学際的かつ多元的な関心や興味を続々と触発してくれる。
とはいえ、もちろん原子や核子にかかわる基礎知識は従前に必要であること、いうまでもない。

さて、此度の読書メモとしては、本書のとくに導入部分にて呈されている基本的な物理単位や関係式を引用しつつ、相応の次元とエネルギーのフェーズ合わせを図るつもりで、以下にいくつか列記してみた。



<水素・核融合>
核融合は、複数の水素同位体などに巨大なエネルギーを投入して電子を電離させ自由運動させて核子を「変え」、このさいにエネルギーを抽出する技術。
ひとつの比較例として、水素1gからどれだけのエネルギーを抽出出来るか。
水素1gを「化学的に」燃やして得られるエネルギー(水から水素1gを得るための最小エネルギーに等しい)は約1.43x105Jである。
一方で、同じ水素1gを「核融合」させて得られるエネルギーは3.38x1011Jにもなる。

核融合炉における核融合燃料として、水素同位体の実用化が図られ続けている。
とくに地球上では、重水素(D)と三重水素トリチウム(T)によってヘリウム(HE)同位体と中性子(n)が生成される核融合が最も反応しやすいため、最有望視され続けている。
(とくにDT核融合反応と称す。)

この1核子あたりの反応式は  1D2 + 1T3  →  2HE4+ 0n1 
核融合反応前も反応後も、陽子の総数は2であり、中性子の総数(質量数-陽子数)は3である。
さて、これを原子量(アボガドロ数あたり総質量)でみると、反応前の重水素(D)のは2.141g、三重水素(T)の原子量は3.0160g、合わせると5.0301gとなる、が、反応後のヘリウム(HE)は4.0026g、中性子(n)が1.0086gであり、合わせると5.0112gにしかならず、反応後の質量は反応前より0.4%ほど軽くなったことになる。
この「欠損分」が、ここでの核融合反応によって運動エネルギーに変換されたことになり、1.7x1012J に相当。
これを電位差1Voltあたりの電子の運動エネルギー(つまり電子ボルト)1.6x10-19J≒1eV で換算すると1.06x1025MeV となり、あらためてアボガドロ数で割れば1回あたり17.6MeVがここでの核融合反応で運動エネルギーに変換されたことになる。
(さらに内訳として、ヘリウム(HE)では3.5MeV, 中性子(n)では14.1MeVとなる。)


<電離・プラズマ>
上に挙げた重水素と三重水素のDT核融合反応をはじめ、核融合反応を継続させるためには、構成粒子の「平均的な運動エネルギー」を増して相互の正面衝突の機会を増やし、一部の電子を原子核のクーロン力をふりきって「電離」させ、こうして電子とイオンの荷電粒子をつくらなければならない。
(ここで投入すべき必要最小のエネルギーが「電離エネルギー」)。

Dビーム(重水素ビームの意か)をぶつければその一瞬だけ荷電粒子と中性粒子に電離しうるが、ビームは直線的にしか働かず、一方でそれら粒子は瞬時に軌道を変えてしまうので(クーロン散乱を起こすので)、電離がすぐに終わってしまう。
一方で、一定以上の超高温が維持されていればそれら粒子がクーロン力を超越して正面衝突し続けるので、荷電粒子が出来る割合と再結合して元の中性粒子に戻る割合がうまく釣り合い、両者が一定の割合で電離し続ける状態を継続できる。
この状態がプラズマである。

そもそも、或る物質の構成粒子による運動エネルギーE(J)と粒子の質量M(kg)と速さv(m/s)の関係は
E = (1/2)Mv2
かつ、エネルギーE(J)と絶対温度T(K)を結びつける「ボルツマン定数kB」が
kB=1.38 x 10-23(J/K) 
すると、これら1粒子あたりの平均の運動エネルギーE(J)と絶対温度T(K)の関係はそれぞれ(1/2)kBTであり、これが3次元方向に運動するので E = (3/2)kBT とまとめられる。

同じ密度の物質であれば、高温になればなるほど電離度合いも高くなる。
また、荷電粒子とイオンが再結合で中性粒子に戻る場合でも、他の原子と結合しやすい「ラジカル」な中性粒子状態となる場合もある。


核融合炉が物理的に成立し機能するためには、「核融合炉で発生するエネルギー」が「プラズマから損失するエネルギー」よりも常に大きくなければならない。
DT核融合反応であれば、プラズマ状態にて、反応断面積あたりの核融合発生確率は摂氏5億度までは高温に応じて大きくなる。
また、これに核融合反応1回あたりの発生エネルギーを掛けて発生パワーとすると、これは構成粒子の密度の2乗に比例して大きくなる ─ とくにDT核融合反応であれば重水素と三重水素の比率を同じにしたさいにこの発生パワーが最大となる。

だが一方では、このプラズマ自体から熱エネルギーが常に放射され損失し続けており、それぞれの損失パワーはプラズマの温度と密度に応じて大きくなりつつ、プラズマがこの熱エネルギーを閉じ込め続けておく時間には反比例する。

核融合炉においてプラズマ状態を維持するためには、摂氏1億度(電子温度でいえば10keV)を維持する必要があり、いまだ完全な実現には至っていないが、瞬時の温度であれば既に約5億度の達成実績がある
また、ヨリ電離度の高いプラズマ生成のために、電気(高電圧)と電場を活かして電子を高速に加速し電流を起こす(放電させる)方法もある ─ じっさいに雷もまた蛍光灯も放電プラズマである。


<燃料物質および排出物>
重水素は海水中にあり、海水のわずか0.0158%を占めるに過ぎないが、硫化水素を用いれば効率よく海水から採取出来る。
利用可能とされる重水素の総質量は約50兆トンもあり、これを核融合の燃料に有効に活かすとすると地球の寿命よりも長くもつ。
三重水素は、リチウムを原料とし、核融合反応で得られる中性子の大部分を活用して核融合炉内で生成出来、一方でリチウムは海水中から採取出来る。

ヘリウムには放射能も毒性も無く、また、核融合炉が実用化された場合に排出されうるヘリウムの量(1台あたりで100kg~200kg程度予想)をすべて合わせても、全世界ヘリウム生産量の0.0007%にすぎない。
なお、リチウムを原料に三重水素を生成する中性子の一部は核融合反応容器に吸収されて放射性物質をつくるが、ここでの放射能は核分裂原発と比しても遥かに速く減衰するので、対人毒性はほとんど問題にはなりえない。

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以上が、重水素と三重水素から起こすDT核融合反応、その導入編。
もちろん核融合反応の組み合わせはこれに留まらず、軽水素を用いるもの、重水素同士を用いるもの、リチウムを起用するものなどなど、いくつか併せて研究や検証が進められているようである。
その上で、核子ごとの結合エネルギー大小とエネルギー入出力の収支はもとより、電離実現のためのプラズマと装置まわりの諸技術(トカマク型炉とヘリカル型炉などなど)、本分野はまこと学際的な科学技術論としてさまざまなアプローチを堪能しえよう。
ともあれ本書はこんごとも書棚の目の付く場所に控えおきたい一冊である。


おわり

2021/05/13

【読書メモ】宇宙の始まりに何が起きたのか

宇宙の実像と実体について、もちろん巨体な難題であることは朧気ながら見当はついている、しかしいかなるものであろうとも、我々の観察対象たりうる以上は然るべき思考秩序や順序が有るはずだ。
そんなことを自問自答していた昨今のこと ─ ふと目に留まったのが本書である。
『宇宙の始まりに何が起きたのか 杉山直・著 講談社Blue Backs

本書は「宇宙マイクロ波」の実在証明などを大テーマに据えつつ、かなり総覧的に宇宙論を展開する一冊だ。
さっと読みかけてみれば、本書コンテンツの大半は平易な文面を採りつつ、高校物理の補完レベルの基礎教養論に留められているようにも見受けられるが、おそらく安易な速読は困難であろう。
なにしろ本書の主題は、宇宙の実像と実体の検証という超スケールの思考チャレンジであり、まこと深遠かつ高尚な論題の数々が展開されており、かつ、それらに際して物理や化学の基礎教養がどれほど強力な素養たりうるかあらためて思い知らされる。
したがって、多くの読者は本書の随所にてしばしば思考難度のギヤチェンジに追随しきれず、目を回してしまうのではなかろうか。

僕も本書を中盤まで読みかけて幾度か目を回しそうになった、だからこそ此度このブログでとくに若年者や学生諸君に紹介してみたいと思い立ったわけである。
以下に、本書第4章までを僕なりにごく簡単にまとめてみた




・宇宙全体の構成元素のほとんどは水素とヘリウムであり、たとえば天の川銀河では質量比で98%が(原子数換算で99.5%が)水素とヘリウム。
恒星は、水素が核融合反応を起こしヘリウムが作られることによっておこり、水素を使い果たすと、さらにヘリウムが核融合反応を起こして炭素や酸素などが作られ、太陽のように「軽い」恒星においては、ここで核融合反応が終わる。
さらに「重い」恒星においては、中心核にて炭素が核融合反応してケイ素やマグネシウムなどが生成され、さらなる核融合反応によって最終的には鉄までが生成される。

よって、ヘリウムよりも原子番号の大きな(陽子数の多い)元素の核融合反応→生成は「どこかの恒星の中」でなされていることになる。

・だが、鉄よりも原子番号の大きな金などなどの元素の生成にては、核融合反応のためのエネルギーが超巨大でなければならない。
それらの超巨大なエネルギーは、超新星爆発から生じたであろう中性子の原子核そのもののごとき重い天体(いわゆる中性子星)が起源であり、それらの衝突によってもたらされてきたのでは、と想定されてきた。
2017年の重力波の検出分析をきっかけに、この中性子星による超巨大エネルギー起源説が検証されたことにはなり、これがあらゆる元素生成の核融合反応を完全に解明したとまではいかぬにせよ、更なるスタディが期待されている。

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・ヨリ根元的な疑問。
そもそも宇宙と恒星の核融合反応の原料であろう水素とヘリウムはどのように生成されてきたのだろうか。
これに答えを与える学説こそが、ガモフらによって興されたビッグバン起源説である。

ガモフが想定したビッグバン起源説によれば、宇宙の始まりにては宇宙全体が極めて高いエネルギーを有していたために物質の原子核そのものを結びつけることが出来ず、超高温の中性子ガスのみから成っていたとされる。

中性子がベータ崩壊を起こす(陽子と電子とニュートリノに崩れる)と、ここで陽子の一部が水素原子になりつつ、また陽子は中性子との核融合も起こして重水素を成す。
これら重水素同士がまた核融合し、ヘリウム3と中性子のペア、あるいは三重水素と陽子のペアが作られ、これらにさらに重水素が反応して…
結果的にヘリウム4と陽子のペアおよび、ヘリウム4と中性子のペアとなって、おのおのが陽子と中性子を放出することになる。

・以上の核融合プロセスが正しいとして、じっさいに起こるためにはどうしても原初に高密度かつ超高温の環境状態が不可欠であり、それ自体は「何らかの断熱圧縮によるもの」であろうとの仮説を立てることも出来る。
だが一方では、「宇宙は膨張している」との観測結果もある。
これら圧縮と膨張の両フェーズをともに説明するためには、まず圧縮された状態の(超高温かつ高密度の)宇宙があり、それがドカンと膨張した、と見做すしかない ─ これがビッグバン起源説の原型。

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・宇宙の温度の測定について。
そもそも原子・分子自身の温度とそれらの運動エネルギーは正比例関係にあり、それら運動エネルギーによって弾き出される光(電子量)も正比例しているので、それら光のエネルギーと温度も正比例関係にある。
さらに、光は波長が短いほどエネルギーが高い、だから温度が高いことになる。

(※ ここまでは学校理科で学ぶ基本、さらに光量子仮説やアインシュタインなどなど量子物理学の関連本でも触れられるものゆえ分かりやすいが、p.78から展開される「光の強度」となると何を意味/意図しているのか、僕なりにしばし逡巡してしまった。
なるほど文脈展開および図表中の単位表示からして、おそらくは「恒星などによる瞬時ごとの熱放射強度」の意であろうと察せられるが、このあたりは高校物理ではやや発展的な内容たりえよう。)

或る物体による熱放射は、その物体の温度が低い状態では構成原子・分子の運動エネルギーも小さく、だから弾き出される光子の数と光の強度も総じて小さく、とくに短波長の光の強度が弱い。
だがその物体の温度が高くなるにつれて構成原子・分子の運動エネルギーが増し、弾き出される光子の数と強度も大きくなりつつ、短波長の光の強度も増す。
或る物体がこの性質の理想状態(原子・分子の熱平衡状態)に在る場合、その熱放射現象をとくに「黒体放射」とし、その弾き出す光子と光の強度によって、その物体の構成原子・分子ごとの温度を精密に知ることが出来る。

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以上が本書の第4章まで掻い摘んだ超概略だ。
なお、本書の最初の真骨頂はおそらくは第7章であろう ─ ざっと察するに、黒体放射の観測に則って「宇宙マイクロ波」の背景放射およびビッグバン宇宙論が証明された由が記されている。
もちろん本書ほどの巨視的な物理化学本ともなると、素粒子や量子論、物質の分布とゆらぎ、さらにダークマター論などなど、どのページを見開いてみても軽く驚かされずにはいられない高度な論題の数々。
よって、さまざまな見識とさまざまなアプローチによって本書読解を楽しむことも出来よう。
とりあえずはこのへんで。

(おわり)