2015/06/28

【読書メモ】 元素111の新知識

『元素111の新知識 桜井弘・編著 講談社Blue Backs』 
此度手にとったのは2013年の第二版「増補版」。 

僕なりに本書を手にとった理由の一つは、社会人としてのインダストリアルな関心に駆られてのこと。
化学関連では、以前に 『炭素文明論』 や 『素材は国家なり』 などを読んだ経緯も有ったが、ヨリ広範に化学物質の産業アプリケーション事例を案内した本はないものかと模索しての、本書のピックアップであった。
なるほど本書は体裁こそカチっとコンパクトな廉価版にして、文面は平易簡潔に留まり、カラー刷りも無い質素なダイジェスト本ではある。
しかし、パラリパラリと頁を捲ってゆけば、原子番号順に次々と紹介される基本属性、発見史、産出/保存方式、工業技術そして医療技術へのアプリケーション事例案内などなど、息をもつかせずズラリと続く。
そもそも、その可変性からして、「元素」こそは逆説的にとれば最も多元的な実在であり、じっさい本書はぎっしりと高密度に圧縮された実体サイエンスの星座集ともいえまいか。

同時に、本書はまた理科の基礎理論への回帰意欲をあらためて掻き立てる触発の書でもある。
僕なりの本書ピックアップのもう一つのきっかけも、「化学を学ぶ意義」について女子高生たちと交わした議論からであった。
ただし僕自身、学術としての化学分野は全くの門外漢、たとえば水について、極性分子と水和反応の関係すらあやしいレベルからの本書挑戦、よって(若干は)往生したことを併せて白状しておきたい ─ それでも酸化還元だの電池だのといったくらいは製造業あがりとして理解してんだゾ。

さて、僕なりの読書メモとして、ごく最初の箇所につき、高校化学もふまえつつ、ちょっと興味惹かれたところを以下列記してみる。


<水素>
・水素は宇宙空間の質量の70%を占め、他の元素は全て水素原子をもとに核融合反応によって生まれたと考えられる。
核融合による放出エネルギーは、原子数あたりで比較すると化石燃料の約100万倍、太陽では水素原子からヘリウムを生み出す核融合反応が継続中、光や熱を発している。
地球の水と地殻表面において、水素は原子数において酸素とケイ素に次いで多く存在、特に大部分が海洋水として存在する。
海水中にほぼ無限に存在しうる重水素を核融合させるエネルギーが期待されているが、まだ実用化には至っていない。

・水素の工業的な生成は、石油類と水蒸気の高音反応、また鉄と水蒸気の高温反応による。
工業における最大の用途は、窒素分子との反応によるアンモニア合成。
なお、トウモロコシや綿実油などに水素を添加すると、油の炭素二重結合が減少しつつ属性が変化、固体化してマーガリンになる(??)
ここは説明文が圧縮され過ぎており、炭素の結合が減少するのにどうして油が個体化するのか、化学担当講師に聞けば何とも込み入った物理属性に依っている由、僕にはどうも理解出来ないが、昨今話題のマーガリンについてのこと、素養のありそうな学生たちに自由課題として放り投げている。

・水素ガスと酸素ガスを体積比2:1で混ぜて点火すると爆発的に反応して水になり、この反応が燃料電池の基本。

・水素はあらゆる元素のうち分子量が最小で、同じ温度下での気体としては分子移動速度が最も速く、よって熱伝導率が大きく冷却効果にすぐれ、発電機の冷却に使われている。
また、多くの金属元素は水素を吸収する性質がある。

・水素は電気陰性度の高い元素と水素結合しつつ、さらに他分子とも「ゆるやかに」結合するため、全体として沸点を高くする。
タンパク質分子のアミノ酸も水素結合しコンパクトにまとまった形状。
また遺伝物質DNAは核酸塩基分子の二重らせん構造をとるが、これも水素結合ゆえに適度にほどけ易く、複製に向いている。

・有機分子中の水素原子の位置や結合によって共鳴磁場の強さが変わり、この性質から有機分子の構造解析が間接的に可能、医療における磁気共鳴画像診断(MRI)に活用されている。

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<ヘリウム>
・ヘリウムは単原子ガスで、地球上の大気にはわずかしか存在せず、工業的なヘリウム源は北米やアルジェリアの天然ガス。

・ヘリウムは通常圧力下では絶対零度においても液体のまま、極低温をもたらす素材として超電導技術に有用である。
個体とならず、液体をミクロな粒子でみて位置と運動量が同時に確定値をとることはない(=不確定性原理)。


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<リチウム>
・リチウムは宇宙での存在量が極めて少ないが、これは陽子がヨリ重い元素を生成していく核反応過程にて、最軽量金属であるリチウムおよびベリリウムやホウ素よりも、ヨリ重い炭素、窒素、酸素の生成の方が先に進むため。
またアルカリ金属のうち、リチウムだけが空気中の窒素と反応しやすく、またすぐに酸化されるので合金として用いられる。
リチウムは融点と沸点は1200℃も離れている。

・ニッケル-水素電池と比べて、リチウム電池は電流値で25%上回り、単位体積あたりの蓄積電力で2倍近くになり、電圧は約3.5Vまで。

・リチウムは水に浮き、リチウムによる潤滑グリースは耐水性高く、自動車用グリースの1/3を占める。
炭素と結合した有機リチウム類は、イソプレン(合成ゴム)の製造触媒に用いられる。
水酸化アルミニウムリチウムは、有機合成化学における有力な還元剤として用いられている。

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<ベリリウム>
・ベリリウムは電子数が少なくかつ位置が安定しているため、X線が電子と反応しにくく通りやすい、よってX線管にてX線取り出し窓の部分に用いられている。

・ウラン235による中性子エネルギーに核分裂を連鎖させるための減速材として、軽水、重水、炭素12とともにベリリウムが用いられるが、これはベリリウム原子核の質量が中性子に近く、しかも中性子を吸収しにくいため。

・ベリリウムは酸・アルカリへの両性化合物となり、酸化ベリリウムは化学的に安定で耐火性に優れ、原子炉材料やロケットエンジン燃焼室の素材として用いられる。

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<ホウ素>
・ホウ素は単体としては天然に存在せず、ホウ酸塩鉱物やホウケイ酸塩鉱物として産出、アメリカやインドの砂漠地帯には塩類を含んでいた太古の湖が干上がって出来たホウ砂鉱床がある。

・単体のホウ素は耐火性の非金属個体で、ダイヤモンドに次いで固い。
融点が高く耐火性があるので、高温反応容器、ロケットのノズル、タービン翼などに塗られる。
ホウ素を混ぜた耐熱硬化ガラスはフラスコやビーカーの素材として用いられている。

・ホウ素は電気的に金属と非金属の間の半導体的性質がある。

・腫瘍細胞に、ホウ素同位体B10の化合物を取り込ませ、そこに中性子線を照射して出てくるα線によって、ガン細胞を破壊することが出来る(ホウ素中性子捕捉療法として普及)。

・ホウ素は植物の細胞壁形成にも使われ、またホウ酸水溶液は弱酸性の消毒薬として目薬の素材に用いられている。

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<炭素>
・現在の地球上で知られる7000万種類の物質のうち、90%が有機化合物である。

・大気上層部の窒素原子が宇宙線にさらされ元素変換し、炭素14をわずかに含む大気となる。
この炭素14が二酸化炭素として生命活動中の生物に取り込まれ、その蓄積量と原子崩壊半減期からその生物の死後経過年数を測定しうること、周知の通り。

・炭素の同素体のうち、ダイヤモンドは立体の結晶構造で、すべての物質のうち最も固く、最も熱伝導率が大きい(銅の5倍)が、自由電子が皆無のため、熱伝導は結晶格子の振動であり、電気伝導性はない。
同じ炭素の同素体でも、平面膜の結晶構造である黒鉛には電気伝導性がある。
黒鉛は石炭を原料に酸化鉄を触媒として電気炉で造ることも出来、黒鉛のダイヤモンドへの変換も3000℃かつ13万気圧の条件下で実現されている。
フラーレン分子も炭素の同素体で球状の結合。
カーボンナノチューブ、グラフェンと、炭素の新素材が次々と合成されている。

・結晶構造の無い「無定形炭素」として、炭素繊維、活性炭、スス、コークスが工業的に生成され、活用されている。
炭素繊維は炭素が不規則に絡み合った構造で、弾力があり軽量で熱に強い。
活性炭は1gあたりの表面積が3000㎡におよび、表面に様々な分子を吸着させる性質があり、空気や水の脱臭や脱色に用いられる。

・日本では年間1億本の廃タイヤが出るが、この90%は燃料や再生ゴムなど炭素資源としてリサイクルされている。

・一酸化炭素は血液中のヘモグロビン分子における鉄とともに配位結合するため、酸素ヘモグロビン間と比べて1000倍も結合しやすい。
この結果、ヘモグロビンの酸素運搬能力が下がってしまう。

・二酸化炭素は赤外線を吸収しやすく、太陽熱を保持しやすいとされている。
植物の光合成による二酸化炭素吸収は、年間およそ1000億トン。

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<窒素>
・窒素分子は空気の最多成分で体積の78.1%、重量の75.5%を占める。
主要鉱石は硝石であり、窒素ガスは空気を冷却してつくる。
液体窒素は空気の冷却と他元素の分離でつくられ、マイナス195.8℃を保つ冷却材として生物試料の凍結に利用される。

・ある種の根粒バクテリアは、いわゆるニトロゲナーゼというタンパク質酵素を触媒としつつ空気中の窒素を固定してアンモニアに還元し、植物にアンモニアを供給、その一方では(自分がつくれない)炭化水素を植物から得て代謝しATPを生成、そのエネルギーでさらに窒素を固定しアンモニアに還元している。
さて植物にとりこまれたアンモニアは、アミノ酸や核酸など有機化合物に変換され、それが動物にも取り込まれ、動植物が死ぬと微生物に分解されつつ、有機化合物はまたアンモニアや窒素ガスに戻る。
有名なハーバーとボッシュの窒素固定法は、窒素ガスと水素ガスを鉄触媒で反応させてアンモニアを合成、つまり人為的に肥料を作り出すもの、これにより農業生産高が飛躍的に伸び、食糧の増産が可能となった。
なお、上述の根粒バクテリアにおけるアンモニア生成触媒ニトロゲナーゼは、反応機構が複雑なタンパク質で完全には解明されていないが、もし人工的に作りさせれば食料問題の更なる解決も期待出来る。

・窒素は雷による放電で酸化物となり、雨となって地上に降り注ぎ、これも生物に吸収されている。

・一酸化窒素はいわゆるラジカル活性の分子であり、直接的な反応性が高く、人体内のアミノ酸と酵素によっても微量ながら生成され、免疫系、循環器系、消化器系、神経系で重要な薬理作用を果たすことが近年明らかにされている。
人の血を吸う昆虫は、一酸化窒素を放出して血管を拡げてから吸っており、またニトログリセリンを体内に取り込むと、分解されて一酸化窒素が出来、これが冠動脈を拡張して狭心症発作を押さえる効用がある。

 ・エンジンやボイラーでは高温のために窒素が酸素と直接反応して様々な窒素酸化物類つまりNOx(ノックス)となり、大気中で雨水に吸収されて硝酸に変化、酸性雨となって、中性条件の望ましい植物を枯らす。

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<フッ素>
・フッ素原子はすべての原子の中で最も電気「陰性度」が高く ─ ハロゲン元素でかつ最も電子周期小さく ─、窒素以外のすべての元素と直接反応する。

・有機フッ素化合物となると電気的に極端に安定するため、耐熱性や耐薬品性に優れ、高分子洗浄剤、冷媒、医薬、農薬として用いられる。
ただし、これらのうちフロン類は大気中で紫外線に分解されて塩素化合物に変わり、これが大気圏のオゾン層から酸素原子をもぎとる(オゾン層の破壊。)

・有機フッ素化合物を液化させれば酸素を多く溶かすので、人工血液としての活用も期待されている。

・工業的なフッ素生産はウランとの化合物である6フッ化ウランとして始まり、気体分子運動の違いによりここからウラン235が分離・濃縮され、原子爆弾の製造に活用された。

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<ネオン>
・ネオンは工業的は冷却空気中から液体の酸素と窒素を除去し、残りのガスから水素とヘリウムを分離除去して製造される。
ネオンは放電発色が豊富で消費電力が少ないため、広告塔などに使用される。
また落雷による高い電圧でイオン化し、電流を速やかにアースに逃がすため、過電流保護の用途でも使われる。

・液体ネオンは沸点が低いため、気化熱を大きく奪い、高効率の冷媒として用いられる。

・ネオンが気体になると体積は1400倍にも増え、貯蔵や輸送に有利、そこで深海や宇宙などで酸素と混ぜて人工空気をつくるのに都合がよい。

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<ナトリウム>
・ナトリウムは単体としては地上に無く、すべて岩塩(塩)、チリ硝石、天然ソーダなど、化合物として存在する。
海水にては、塩化物イオン(Cl-)についでナトリウムイオン(Na+)が多く溶在している。

・ナトリウムは外殻電子が1個で失われやすく、+1イオンとなってさまざまな塩化ナトリウムとなる。
その大部分は、水酸化ナトリウム、金属ナトリウム(非イオン)、炭酸ナトリウムの原料とされ、食塩としての利用は一部にすぎない。

・水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)は工業的に重要な塩基であり、水分を吸収しやすく、化学薬品、セルロースフィルム、紙パルプの製造にて起用される。

・金属ナトリウム(非イオン)は、塩化ナトリウムと塩化カルシウムの混合溶解液を電気分解して生成。
金属ナトリウムの電気伝導率は、銀・銅・金についで大きい。
金属ナトリウムは、液体アンモニアや有機アミン化合物に容易に溶け、強力な還元剤として使われる。
植物油の炭素二重結合に水素を添加し、マーガリンへと変える。

金属ナトリウムは融点が低く液体になりやすく、また熱伝導率が大きい。
またナトリウムは質量が水素と酸素(水)よりも大きく、中性子をほどんと減速しない。
よって原発において、とくに発熱量の大きな高速増殖炉から熱を取り出す冷却材として使われる。

・食塩としての塩化ナトリウムの効用は、塩分が高いため浸透圧も高くなり、食品において細菌の菌体から水を奪い生存させないというところ。
よって食品保存料として活用されてきた。

・ナトリウムの炎色反応はとくに鋭敏で波長幅が大変狭い、霧もよく透過する、よって高速道路やトンネル証明における単色光源に向く。

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<マグネシウム>
・マグネシウムは単体としては天然に産出しないが、鉱物、海水、動植物のうちに含まれる。
海水の塩化マグネシウムを電解法によって塩素と金属マグネシウム(非イオン)に分離抽出すすみ、効率的でこんごも有望。

金属マグネシウムはアルミニウムの2/3の重量しかなく、重量節約が問われる輸送機体やエンジン - 船舶や航空機や自動車、さらに大陸間航行ミサイルの構造素材として使われる。

・植物にはクロロフィル(葉緑素)の中心にマグネシウムがあり、だから緑色になっており、太陽エネルギーを化学エネルギーに変換するはたらきがある。
マグネシウムイオンは、タンパク質にリン酸基を導入する酵素を活性化、このリン酸基の導入が生体内のシグナル伝達手段となっている。
また、マグネシウムイオンは生体内にてATPと錯体をつくり、生体がATPからエネルギーを取り出すときはマグネシウムがはずれてADPになる。

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<アルミニウム>
・アルミニウムは地殻中に、酸素、ケイ素に次いで豊富に存在、金属元素としては鉄の倍も存在し、最も多い。
主要鉱石はボーキサイトで、ここに水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムが含まれており、水硝石を加えて低温で天然アルミナを融解しつつ、電気分解でアルミニウムを析出する。
尤も、現在の日本では産業廃棄物処理問題のためアルミナ製造は縮小されている。

・アルミニウムの製造は大量の電気を用い(電気の缶詰とも形容されている)、たとえば 350ml のアルミ缶1個を得るために、20w の白熱電球を15時間つけ続けるだけの電気が必要。

・酸化アルミニウムは両性酸化物であり、また水酸化アルミニウムは両性の水酸化物、ともに水には溶けないが、塩酸や水酸化ナトリウム溶液には溶ける。

天然アルミナの単結晶コランダム(金剛砂)は酸化アルミニウムであり極端に硬いので、金属やガラスの研磨剤として使われる。
このコランダムに酸化鉄や酸化チタンが含まれたものがサファイア、一方で酸化クロムが含まれたものがルビー、いずれも精密部材としても用いられている。

水酸化アルミニウムはコロイドと呼ばれる分子集合体になり、コロイドは表面に他の成分を沈殿させるので、浄水場にて水から汚染物質を除去するために使われている。

・酸化被膜を付けたアルミニウム(アルマイト、アルミライト)は耐腐食性や絶縁性に優れ、電気回路におけるコンデンサとして使われる。

・ジュラルミンはアルミニウムが95%を占める合金で、軽くてかつ強いため、車両や航空機などに広く用いられる。

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<ケイ素>
・ケイ素は地殻にて酸素に次いで豊富に存在、工業的には二酸化ケイ素(シリカ)を炭素で高速に還元し、単体ケイ素を製造。

二酸化ケイ素は水晶やメノウなどの宝石類の主成分であり、水晶クォーツを薄膜にして電気刺激を与えると極めて正確に振動するので、電気周波数の制御機器に起用されている。

・二酸化ケイ素は酸性酸化物で、水酸化ナトリウムなどの塩基と反応して、イオンが立体的に並んだ高分子のケイ酸ナトリウムとなる。
ケイ酸ナトリウムを水中で加熱すると、ナトリウムが水酸化イオンに置換した水ガラスになり、地盤の改良剤などに用いられる。
さらに水ガラスを乾燥させるとケイ酸になり、単位あたりの表面積が大きいので水分子や気体や色素を強く吸着、これが乾燥材シリカゲルである。

二酸化ケイ素に炭酸ナトリウムや炭酸カリウムを加え、加熱溶解してから冷やすとガラスになる。
ガラスは、ケイ素と酸素がつくる立体構造の中にナトリウムイオンやカルシウムイオンなどが入り込み、構成粒子の配列が不規則な非晶質(アモルファス)となっており、形状変化が連続しておこる。

ケイ酸カルシウムはセメントの主成分である。

ケイ素が炭素と結合した有機ケイ素化合物が、共有結合で強くつながってシリコーン、グリース、ゴム、樹脂になる。

・単体ケイ素は非金属の結晶で、半導体の素材である。
第二次大戦中にレーダー電波の検知器として、ケイ素整流器の研究がなされ、ケイ素結晶の半導体としての特性が注目されるに至った。


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<他、電気・電子の関連事項>

・半導体の基本であるダイオードの典型例。
シリコンの結晶中にホウ素を混ぜると、ホウ素は共有結合電子が1つ足りず=正の電荷をもつ孔が1つ、これがいわゆるp型ダイオード。
一方で、シリコンの結晶中にリンを混ぜると、リンは共有結合電子を1つ余らせ=負の電子が1つ、これがn型ダイオードである。
これらn型ダイオードとp型ダイオードをつないで電圧をかける場合、電流方向は2通りで、ひとつは、n型とp型の間を接合部分とおして電流が流れる組み合わせ、もうひとつは逆に、これらの接合部分で電流を絶縁させる組み合わせ。
このようにして、ダイオードの組み合わせ方で電流の有無を制御するのが、半導体の基本機能である。

・ケイ素やゲルマニウムはそれ自体が半導体属性をもっており、第二次大戦後の半導体開発はこれらから始まった。

周期表でゲルマニウムの前後のガリウムとヒ素を反応させると、やはり半導体になる (ジーメンス社のウェルカーが実証した。)
このガリウムヒ素半導体は、その発光性を活かした発光ダイオード(LED)として、またレーザー用途の半導体として、またマイクロ波特性を活かした電界効果トランジスタとして(FETのことか?)、さらに磁気感応性を活かしたデバイスとして、などなど、極めて広範囲にて実装されている。

ガリウムヒ素半導体の電子速度はケイ素の約5倍もあり、高速集積回路のデバイスとして実用化が検証されている。

・窒化ガリウムは、青色発光ダイオード(LED)として実用化されてきたが、現在はこれに代わり酸化亜鉛が次世代の青色発光ダイオードとして期待されている。

・半金属は半導体に近い性質をもち、ケイ素にアンチモンを混ぜたもの、インジウムと混ぜたものが半導体として開発されている。
ゲルマニウム、アンチモン、テルルの合金は安定したアモルファス(非晶質)をとるため、高速の記録書き換えに(DVDなど)に用いられている。
セシウムは全元素中で最も陽性が強く、陽イオン化エネルギーも、陰イオン化の電子親和力も最も小さい、よって光電効果(電子の放出しやすさ)がきわめて高く、アンチモンとセシウムの化合物は光電管の半導体として用いられている。

遷移元素は、最外殻電子は1~2で周期ごとに異ならないが、電子軌道(オービタル?)3dが10個の電子で満たされ、結晶格子の中の伝導電子の錯乱(の確率)が小さくなる。
このため、遷移元素は電気抵抗が小さくなる ─ 電気の伝導性が大きくなる。
電気抵抗は銀が一番小さく、次いで金と銅が小さい。
銅は電線などの電気の導体として用いられている。
(同じ伝導電子の構造理由から、銀、金、銅は熱伝導も大きい。)

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以上 ─ ごくごく最初の箇所だけちょっと要約してみたが、さらに紹介続けたいコンテンツがわんさかと溢れんばかり。
もちろん元素についてのことゆえ、高校化学の素養があれば本書は半分程度までは理解可能ではある。
が、一方で原子力や半導体やレアメタルや医療事例の具体的捕捉ともなれば、物理学や生物学あわせた学際的(ヨリ原理的)な見識も求められる。
或いは社会人にとって、自身担当の製品仕様知識を更に学術的に深化させるきっかけたりうるか。 

あらためて、本書は科学の近未来案内かつ基礎教養へのモチベーション素材として、誰もがいかなる知識境遇にてもおのれなりの新たな一歩を踏みこめる、手近な便利本といえよう。

2015/06/14

リスクマネジメント


① 年金機構から受給者(および被保険者?)の個人情報がまとめて大量に「流出」したという。
きっかけが何らかのソフトウェア事故によるものであったか、徹頭徹尾マルウェアによる転送・複写なのか、当局がテクニカルな顛末を詳らかに公開するわけがないから、仔細は分からない。
ただ、何にしてもこれらの個人情報は犯罪集団の側に渡ってしまう、あるいは既に渡ってしまっただろう。
まことに遺憾でありんす、まったくもってイカンぞ、イカンやん。

この犯罪集団の狙いは、「大量の」個人情報を極めて短期間のうちに「一斉に」悪用することに決まっている。
チョボチョボと詐欺メールなど送っていてはリターンが極少であり、自分たちが挙げられるリスクの方が大きくなるからである。
要するに、リスクの本質は、悪意のある人間集団による 「大量」 かつ 「一斉」 の詐欺。 

そこで、ふと思いついたこと。
世界共通ルールとして、業種の如何を問わず、「ある一定数」以上の異なった宛先への同時データ配信、電話アクセス、郵送を規制すればよろし。
たとえばだが、如何なる業種間であろうと個人間であろうと、異なった宛先配信は1日に1000件を上限とするなど。
これにより、たとえ犯罪集団がこんご1000万件の個人情報を盗み出したとしても、それらすべてを詐欺に悪用するのに最低1万日(=27年以上)かかることになり、「大量」かつ「一斉」の悪用メリットを活かせず、宝の持ち腐れのまま(笑)。
それでも、長期にわたって詐欺を続けている連中がいるとしたら。
そいつらの方が年金機構よりも大量のデータマネジメント能力に優っているというわけで、むしろ信用してやったらいいような気もする (冗談だよ)。

いやいや、こんな宛先/回数規制をおいたら、行政上の通知通達が出来なくなっちゃうじゃないか ─ というのだろうが、もちろん政府機関や大手金融保険などは例外とする。
そういう公的機関や大手金融保険「以外」の某かが、「大量」かつ「一斉」のトランザクションを起こしたら、きっとそいつがワル、でなければ、公的機関や大手金融保険そのものがワルだということでしょ。

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② さて、もうひとつのリスクは、量としてではなく、それぞれの個人情報そのものの複製、改ざんなどの可能性。
もともと、如何なるデータでもひとたび電子化されれば、いかなるセキュリティで保全しようともいつか必ず複製され改ざんされること、コンピュータ出現とともに謂われてきたこと。
だいたい、個人情報レコードを特定のセキュリティシステムで総括的に保全する、という考え方が間違っている……それつまり、特定のサイバー攻撃で一気に破られうるということではないか。
セキュリティソフト会社の関係者だって、論理的には同旨のことを認めている。

しょうがない、これらの個人情報レコードが「盗まれる」ことは百も承知の上、ゲートウェイやルータなど様々なエンティティにおいてフィルタリングしても、やっぱり盗られちゃうとの前提をおいてみる。
その上で。
運用当局としては、「真」の個人情報レコードに加え、たとえば架空の住所番地や氏名などから成る「デタラメな」ダミーデータを100件くらいおり混ぜておく (もちろん本人はどれがホンモノか分かっている) ─ といった形態で個人情報レコードを運用管理したらどうかな?
デタラメなデータの生成や保管くらい、わけないでしょう。
たとえば、「山本拓」 のマイナンバーがデタラメ番号とゴチャ混ぜで100件、氏名そのものも架空の名前を混ぜて100件、住所もデタラメごちゃ混ぜこぜで100件、学歴も勤務先も電話もメールもみんなデタラメ混ぜて100件づつ、といった按配だ。

これらの個人情報レコードをわんさかと 「盗んだ」 奴らが、正真正銘の悪事に活かすためには、どのデータの組み合わせがホンモノの個人情報レコードか識別する必要がある。
彼らはデタラメのメールや電話にアクセスしつつ、公的機関にも照会を続けるかもしれない。
そんなこんなで必死に数万件以上の真偽を確認しているうちに、おのれの所業がバレてしまうのではないかな。 

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③ ところで。
官公庁によれば、「リスク管理を官から民へ委ねる」、という言質があるが、これは実に妙な論理である。
そもそも、リスクというものは、「その資産や情報の当事者」が自身の能力や判断に沿って設定する何らかの閾値である。
「我々からあいつらへ」と当事者が異なった場合、その「あいつら」が同じリスク判断に則ることはあまりなさそうな気がする。

官公庁による民間へのリスク移管とは、じっさいには 「我々が見倣すリスクマネジメントのコスト」 を庶民のあいつらに委ねる、との意だろう。
だったら ─ それを押し付けられた庶民の「あいつら」は、おのれ自身のコスト判断に則って、「リスクはゼロ」とおいてもよかろうな。
それで何かことがおこっても、リスク判断責任など負う必要はないじゃないか。
(半ば冗談だよ笑)

以上

2015/06/09

【読書メモ】 ゲーム理論・入門

「ゲーム理論・入門 (新版) 有斐閣アルマ 岡田章・著」
サブタイトルは 「人間社会の理解のために」 とあり、此度読み進めたのは昨年9月の刷新版。
入門とはいえ、本書は経済理論の概説書であるため、人間による意思決定の「(なんらかの)量化」、「関数化」、「確率」、「均衡」、「利得」、「分配」など仮想思考、それらの数理的解釈について基本から複合へと厳密に論が展開していく構成。
だから、僕のように遠い昔ちょいとかじっただけの素人にとってはなかなか読み応えがある。

さて、あらかじめ、経済理論に対して営業経験者としての僕なりの疑念を一つ。
実際の市場競争活動においては、「或る経済主体の利得」 「別の経済主体のコスト」 たりうるそれでは「全経済主体を通じた絶対善としての意思決定」を定義しきれる経済理論がありえようか?
もちろん我ながら青臭いとは察してのもの、ただ、経済学が政策論の礎たりうるのであれば、この疑念は常に全経済主体の意思決定にかかる問題ではないか。

むろん、本書にてもヒントらしきは呈されている ─ ひとつは公共財への寄付について、各プレーヤーの利得意識がもともと異なるとの前提にある仮想ゲームである。
もうひとつ、例えばナッシュ理論における「集団均衡」論にては、少なくとも利得のための意思決定は全プレーヤーが経験的に収斂に向かう由、論理的に納得(したつもりになった)。


なお、本書は初学者にとっても読み易い丁寧な文面、かつ、ゲームの戦略選択についての行・列図などもふんだんで、大意了察において惑わされることはない。
ただ、慎重に過ぎた為であろうか、或る箇所に紹介された基本理論が別の基礎理論の前提か、或いは論理的な帰着か、さらに助詞の「は」と「が」など、却って読みとり難い箇所も見受けられた。
むしろ数理的思考に慣れている読者は、要約的に引用されている簡易な数式「のみ」を追って読み進めれば、大意への理解が速いのではなかろうか。

それでは、いつもの【読書メモ】のように、僕なりに咀嚼し要約した処を僕なりの文脈にて、以下に簡単に列記しおく。
但し一部記号は表記出来ないため文言として記す。



<期待効用仮説>

或る合理的な人間の、複数の意思決定における選好順位を総覧的に表す。
(1) 彼の選好対象としての意思を仮に P, Q, R とする。
(2) これらの選好順位を、たとえばP≧Q などと完備的に」 明確化し、一方でまた、 たとえば P≧Q≧R というように選好順位の「推移性も明確であるとする。
(3) また、これら選好対象 P, Q, R の内に、何らかの量 x や y の「効用=u」として効用関数 u(x), u(y) などが在るとする、が、それら効用関数は、発生確率を加味していない(序数的な大小関係に過ぎない)。
(4) そこで、ヨリ現実をふまえ、選好対象Pの発生確率をpとして、P の「期待効用」とする。
同時に選好対象Q, Rの発生確率をも確率pで表しつつ、P, Q, R すべて期待効用として、お互いの選好順位を示す。

…、と、ここまでふまえつつ、このような選好順位の不等式を設定してみる。
pP + (1-p)R ≧ pQ + (1-p)R 

(5) この不等式の選好順位関係では、「どのような発生確率pにおいても」、期待効用としての選好順位はあくまで P≧Q そのものによって決まり、かつ、「選択対象Rの発生確率には無関係である」。よって、期待効用としての選好順位関係の「独立性」を確認出来る。
(6) さらに、今度は P≧Q≧R という選好順位を設定すると、上の式での左辺 pP + (1-p)R の期待効用は発生確率pに関して「連続的」に変化し、またその発生確率p はどんな選択対象Q に対しても無差別に連続変化する。

以上に列記した、選好順位の「完全性」「推移性」「独立性」「連続性」を同時に満たす「期待効用仮説」、ノイマンとモルゲンシュテルンが定義している。
この期待効用の定義に則れば、たとえば或る行為を為す人物の(何か定量化された)期待効用が発生リスク愛好的かあるいは発生リスク回避的かについて推察することが出来る。

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<最適応答、ナッシュ均衡点>

・複数の事業者が取りうる戦略について、それぞれの戦略から見込める利得が何らか定量化とされ、それらがある行/列表に場合分けされているとする。
これら事業者は、この行/列表において、互いに相手の戦略とその利得を予想しつつ、おのれの利得に有利となる戦略採択を続けていくとし、このプロセスを両者の最適応答のゲームと呼ぶ。

・なお、選択する戦略は更に、その利得が不変で明らかである「純戦略」と、期待利益が確率に応じて変わる「混合戦略」とに、分類出来る。
(実際には利得以外のフォーカルな戦略要素もある。)

・この最適応答のゲームは、どこかで互いに利得増加を期待出来なくなりそこで停まるが、その停まった段階における採用戦略の定量的な「組」を、「ナッシュ均衡点」 と称す。
一般的には fi (s) ≧ fi (s/si) という不等式で単純に表現される。
ここで s とは、一意のプレーヤー i が採りうるあらゆる戦略の「組」、一方で s/si とは、その i 自身のみが戦略を si に変えた場合の「組」
そしてfi とは、一意のプレーヤー何らかの定量的な利得関数、とする。
この利得関数の不等式が成り立つ場合戦略の「組」sがナッシュ均衡点 である。

・或るプレーヤーが、或る混合戦略のゲームを続けていくとする。
そのプレーヤーは期待利得を実際に学習するため、彼の平均的な利得は、彼を含めた母集団全体による混合戦略ゲームの利得と、次第に等しくなっていく
…というのが、ナッシュの提示した「集団均衡-マスアクション理論」の概要(だと僕なりに理解してみた)。
これは数学における大数の法則からも説明されている。

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<クールノー均衡>

・一般に、限られた企業による独占市場を「クールノー寡占市場」と称し、ここでは2社による複占のケースを考える。

或る2つの企業が、「同じ製品」を「同じ市場」に提供していて、競争関係にあるとする。
企業1によるその製品の「供給量」を q1 とし、企業2による同じ製品の「供給量」を q2 とおき、「売価」の合計をp とすると、これが市場における(逆)需要価格となり、 p = a-b(q1+q2) と表現出来る。
但しここで、 a はその製品の売価上限、b はその製品供給量が1単位増加したさいの売価減少幅を示し、a, b > 0 とする。

さらに、企業1の供給量をやはり q1, 企業2のものを q2 として、その会社 i (ここでは2社)の同じ製品における「利潤関数」を以下のように表現出来る。
fi (q1, q2) = pqi - ciqi
ここで左辺 fi (q1,q2)  が、 i 社によるその製品の供給量 q1,q2 で決まる利潤。
右辺では同じ製品の供給量を(なんらかの) qi としてpqi  2社の売価合計を表し、そして ciqi が 2社それぞれの費用(ただし0以上)を表す。

・では、この2社それぞれの市場戦略は供給量で決まるとすると、それぞれの「最適応答」はどうなるか。
まず、企業2の供給量 q2 に対する企業1の「最適応答」は、企業1の利潤を最大にする供給量 q1 の決定。
これつまり、企業1の戦略の前提は利潤関数 fi(q1,q2) = pqi-ciqi 」に則り q1 で微分した値がゼロになる点 (※最適解の1階条件による)、ただし一方では、製品価格p の上限は「(逆)需要価格式 p = a-b(q1+q2)」 で定まっているということ。
よって 利潤関数(逆)需要価格式 を代入し計算、dfi / dqi = d / dqi { (a-b(q1+q2))q1 - c1q1} = 0 から、q1 = (a-c1) / 2b - q2/2 となる。
同様に、企業1の供給量 q1 に対する企業2の「最適応答」も自身の利潤を最大にする供給量 q2 の決定であるから、これも上同様に代入と微分から、q2 = (a-c2) / 2b - q1/2 となる。

こうして2社の最適応答による=ナッシュ均衡の点としての新たな供給量の「組」が算出され、連立方程式の解として、均衡点q1 は (a-2c1+c2) / 3b となり、 均衡点q2 は (a+c1-2c2) / 3b となる
そして、この最適応答解としての新たな供給量q1 と q2 をあらためて(逆)需要価格式利潤関数 に代入すれば、2社が落ち着くはずの価格と利潤を確認出来る。

・ここまで例示した、クールノー寡占市場における戦略のナッシュ均衡点を、特に「クールノー均衡点」と呼ぶ。

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以上、基本箇所をざっと触りまで。

本書は今後も少しづつ読み進めるつもり、僕自身の数理的思考の鍛錬も含めあわせつつ、人間の意思決定プロセスがどこまで論理的に定義しうるかを見極めてゆきたいもの。

以上