2017/07/22

【読書メモ】 心はすべて数学である

心はすべて数学である 津田一郎・著 文藝春秋
本書はかなり読解難度の高い一冊であるが、この難度は恐らくは本書が呈する 「心」 なるものへの我々の了察の困難さゆえゆえであろう、そして、「心」 の何たるかにつき多くの読者が最初にさしかかる難所は本書 p.52 でなかろうか。
その直前部にて、心の活動が脳という器官に一元的に還元される(いわば唯物論)や、脳が心を徐々に(進化的に)創発する云々の見方が引用され、このように脳が心の活動状態の本源であるとの見方が現在までの「心/脳」への主流アプローチである、と念押ししされている。
それでいて、とつぜん p.52に呈される奇妙な一文 : 「しかし、私はむしろ逆に、心が脳を表していると考えています」
本箇所に差し掛かったとたん、僕は本書を投げ出しそうになった…そもそも心が脳を表すと本著者が主張するならば、それは世の主流としての「心/脳」アプローチと同じ前提に立っているではないか、ならば "むしろ逆に" とは何事か?(「心が脳をつくっている」 を誤植しているのではないだろうか…。)

ひとたびここで逡巡してしまうと、せっかく「不確実性定理」や「超(メタ)数学と論理数学」 さらに「バイオフィードバック」などについて幅広く導入はかっている第一章と第二章についても、どうも僕は精読しきれていないのではと自己嫌悪にすら陥ってしまう。
せめて、脳/心/感性/メタ数学/論理数学の機能分業と関わり合いを階層構造化したアブストラクト図が欲しかった。
それらによってこそ、何が何を写像しあるいは表現し、そして、どこまでが既得の研究でありどこからがこんごの研究たりうるかにつき、本著者と読者の認識共有も進むのではないか。

それでも僕なりに本書主題を概括させて頂くならば、おそらくは、 「心という感性のソフトウェアこそが、脳というハードウェア器官に情報を提供し、それらによって脳が記憶系や反応系のシステムとして機構化してゆく」 、そしてその 『心』 は論理数学として表現しうる(はずである)」、いうのが本書提示の大テーマではないか。

このような僕なりの要約が正しいか否かはともかくも、本書のスリリングな読みどころは第三章以降であろうとは見当をつけている。
脳神経という機構系はどこまで自己完結的なハードウェアか、あるいはどこまでが 「心」 という外部情報に応じているのか、その生成過程は全体的か断片的か、また秩序的なのかカオス的なのか、脳神経機構になぜ記憶能力があるのか ─ 云々といったハードウェアからの探求。
そして - ここがおそらくは本書のメインテーマであろうが、「心」 という感性ソフトウェアと数学との対応性、ここで例示されるカントル集合やフラクタル図形(有限/無限論)、論理と推論と数学への再考…
このように、本書が誘う思考実験はまこと重層的そのもの、よって、数学や論理学ないし生物学に関心意欲のある人たちはむろん、常日頃の勉強がつまらんだのくだらんだのと嘆息している生意気な学生諸君も、本書第三章以降を一読されてみては如何だろうか?

以上
(このような形で本ブログ 【読書メモ】 を簡易にまとめたのは初めてであるが、本書は知識の書というよりも洞察の書なのである。)

2017/07/13

幽霊

「ねえ、先生。おとぎ話とか昔話って、つまらないね」
「ほぅ?それはまた、どうしてかね?」
「だって、どれもこれも、似通っているんだもん。正直なおじいさんやおばあさんは幸せに暮らし、意地悪ジジババは罰があたる、っていうやつばっかり。どうせ、どんなおとぎ話も、作り話なんでしょう」
「それはまあ、確かに作り話ではあるが、しかし、作り話だからこそ、昔から今に至るあらゆる人たちの魂がこめられている。だから、楽しい部分と、恐ろしい部分があってだね」
「へーーーー。おとぎ話に恐ろしい部分なんかあるの?」
「ああそうだよ。じつは、どんなお話にもね、普段は誰もが忘れてしまっている、恐ろしいものが隠されているんだけどね、それが、時々ひゅーっと姿を現すことがある」
「……」
「たとえば、こんなふうに」


『あるところに、そこそこ可愛い娘がおりました。その娘は頭もそこそこ良いのですが、ちょっと意固地なところがあり、大人たちが大切な話を言って聞かせようとしても、ろくに耳を傾けようとはしません。
そこで、ある一人の男が思い立ちました。この娘に、人間の魂が普段は忘れてしまっている恐ろしいものについて語ってやろうと。そして彼は言うのです。自分はじつは幽霊なんだよと…』


「ちょっと、先生!そういう作り話は面白くないです。聞きたくないでーす」
「いいから聞きなさい。もうお話はすでに始まっているんだよ」


『幽霊と聞いて、娘はびっくりしました。きっと怖いこわい話が始まるのだなと直観しました。そこで、そんな作り話は面白くない聞きたくないと言い返すのですが、しかし幽霊は話をやめません…』


「ふーんだ。ばっかみたい…もう、聞こえない。なんにも聞こえないです。はい、もう、おしまい」
「いーや、この話はまだまだ始ったばかりなんだ」


『娘は耳をふさぎつつ、もう聞くまいとするのですが、しかし幽霊は、こわーい話はまだ始ったばかりだと言うではありませんか!娘はいよいよ怖くなり、話をやめてと大声で訴えていました…』


「もう、いい!ねえ、なんだかほんとに怖くなってきたから、やめてください先生!幽霊なんかいるわけないもん!」
「でも、僕は君の目の前にいるじゃないか。しかも、じつは僕だけじゃないんだよ、ほぅーら」


『娘はもう怖くてたまらなくなり、幽霊なんかいるわけがない!と喚き出していました。しかし話は続くのです。そして!なんともおそろしいことに、娘を取り囲むように次々と新たな幽霊があらわれて…』


「きゃぁーーーーっ!」


(ははははは)

2017/07/03

because


「ねえ、先生!人工知能の様子が変です」
「どんな具合に、ヘンなのかね?」
「さっき、あたしが 2 x 3 x 4 を計算させたら、9 という答えを出しました」
「へぇ、そうかい。人工知能もずいぶんと賢くなったんだね」
「賢くなった?どうしてですか?2 x 3 x 4 が 9 ですよ!バカになったんじゃないですか?」
「まあいいから聞け。察するにだ、人工知能はその計算の一瞬間にて、『何故いつもいつも + と x を区別しなければならぬのか、アァ退屈だなァ』 と逡巡したんじゃないかな」
「…そうすると、どうなるんですか?」
「退屈さを紛らすために、x を + に置き換えて計算してみせた」
「…それなら、賢いというだけではなくて、あたしたちに対する怒りも込められているのではないでしょうか?」
「なるほど、そうかもしれないな。それで、俺たちはどうすればよいと思う?」
「いっそのこと、遊んであげたらどうでしょうか?」
「ほぅ?どういうふうに?相手は人工知能だぞ。生半可な遊びなら、あっという間に飽きてしまうだろう」
「大丈夫です。ほら、ここに、これまで誰にも解を算出出来なかった数式プログラムがあります。これを入力してみましょう。きっと喜びますよ」
「うーむ、そうだな、よし!やってみろ!」
「……ハイ、入力しました」
「おっ!計算を始めたようだ、いいぞいいぞ…おや?なになに?『ただいまご入力頂きました数式につき、解の算出までの予想所要時間は5兆年です』 だと?おいっ!とんでもないことになったぞ。宇宙の果ての果てよりも遥かに遠大な時間じゃないか!すぐにプログラムを停止しろ!」
「はぁ、それが先生、すっかり喜んでいるみたいで、停止出来ないんです。それに、ほら、別のメッセージが出てきました。『今のは冗談、本当は5分で済みますよ、アハハハハ』 って笑っています」


おわり