2023/12/17

量子メモ(メモ量子)

電子~量子まわりについて、初学者向けのさまざま類書をもとに、ちょっとだけメモをまとめてみた。
実験と学術におけるさまざま試行錯誤、そしてそれらに拠る着想と論法などが、如何様に進展してきたか、ざっくり時系列的にだ

来春の大学入試物理にて、これらの仔細がギリギリ質されることは恐らく無かろう ─ しかし少なくとも着想上のヒントたりうるだろうとは察しうる。
(もちろん、力学におけるモーメントや運動量や保存則などの超基礎は、従前に了察必須ではある。)

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光はさまざまな物質から放出され'輝線’として認識される。
同じ波長の光は同じ物質によって吸収もされ、こちらは’暗線'として認識される。

太陽光のスペクトルが成す’暗線(フラウンホーファー線)'の観察分析がなされる。
水素原子の光スペクトルにおける輝線と暗線の波長および振動数が、「バルマー系列」として整数の乗数によって表現される。

更に「リュードベリ公式」によって、あらゆる原子の光の波長と振動数が二つの整数mとnおよび定数によって一般化される。
これに則って、水素原子による赤外線領域は「パッシェン系列」、そして紫外線領域は「ライマン系列」として波長と振動数が表現される。


・マクスウェルは電気と磁気と光を連関させて捉え、磁場における電気的振動が「電磁波」を起こしこれが自由空間を光の速さで伝播すると推論。

ローレンツは、光が電磁波ならば電荷の振動体を有すると、そしてあらゆる物質の分子や原子そのものの内に'振動の電荷微粒子が存在するとみなした。
よって、電荷にはたらく力は磁場と電荷の動く速さに比例すると ─ ここからローレンツ力へ。
(なお高校物理におけるローレンツ力は 電荷微粒子の電気量 x その粒子の運動速度 x 磁束密度としてまとめられているね。知ってんだろ。)


・太陽光のフラウンホーファー暗線が磁場によって3つに分かれると観察され、これが「『正常』ゼーマン効果」として記録される。
ローレンツはこの「正常」ゼーマン効果について、磁場において原子内の電荷の微粒子が回転数を変化させ、この回転変化が光の放出エネルギーを変化させている、と見做した。

ここで、回転する微粒子が「電子」として定義されることになった。

・ウラン原子から出る放射線にて、ヘリウム原子核のα線と電子のβ線が発見され、それら放射線と物質崩壊の観察が進む。
一方では陰極線において「電子」を発見

またアインシュタインはブラウン運動から物質の'分子'存在を示唆。

これらから、原子自体は究極の(独立した)素粒子ではなく、更なる内部構造を有する物質であると明らかになった。


・スペクトル光における熱放射の観察によって、その物体における電磁波のエネルギー密度が温度によって決まること、かつその物体の温度はおもに電子の振動に拠っていることが明らかになってきた。

プランクは、特定の振動数の熱放射/吸収ごとに不連続に応じる’何らかの’振動子'がさまざまな物質の内に在ると仮定してこれを「量子」とした。
ここにボルツマンによる分子運動論をも取り入れつつ、エネルギー「量子仮説」につきあたる。

現在の高校物理にて学ぶエネルギー「量子仮説」は;
物質を構成する分子、原子、電子などが振動数ν[HZ]の光を放射/吸収する場合、そのエネルギーはこの振動数にプランク定数h[J・s]を乗じたhν[J]に比例しつつ不連続に変化する。

さらに、アインシュタインによる光量子仮説」も、現在の高校物理の表現にては;
光は特定の光量子によるエネルギー粒子として進行し、これは物質から放射されるさいも物質に吸収されるさいも分割されえない粒子…として、上のエネルギー量子仮説のとおりhν[J]に比例しつつ不連続に変化する。


・原子において電子は安定軌道上を回っているが、この電子が新たに励起されると基底状態からのエネルギー準位がエネルギー量子同様にとびとびの量子数nずつ上がっていく。
このヒラメキから、電子運動についてのラザフォード=ボーアモデルが出来上がり、これによってエネルギー量子仮説が具体的に説明された。
ここで定義された「主量子数nが最初の量子数。

・光と磁場についての実験装置が改良されるにつれて、さまざまな電磁波のスペクトル分裂が新たに観察されることになった。
ただし、これらは磁場と微粒子(電子)回転についてのローレンツの解釈(正常ゼーマン効果)のみでは完全には説明しきれないもの。
別の実体による現象であるとされ、あらたに「異常ゼーマン効果」とされた。

また、水素原子におけるバルマー系列の内にては、磁場をかけずとも2重におこるスペクトルが見つかった。


・’スペクトル多重分裂’の発見に伴い、電子の軌道についての新解釈がなされ量子数が新たに定義された。
ゾンマーフェルトは水素原子におけるスペクトル多重分裂の微細構造を量子的に説明するため、その電子軌道の形を表現する「軌道量子数 l 」を導入。
さらに、電子軌道の向きを説明する「磁気量子数mを導入することによって、これまでの「正常ゼーマン効果」も説明した。

ここまでで、電子軌道についての量子数は「主量子数n」、「軌道量子数 l 」、「磁気量子数m」 まで定まった。
しかしこれらのみでは、スペクトル分裂の「異常ゼーマン効果」を説明しきるには至っていない。


・原子におけるボーア洞察の電子殻構造においては、それぞれの電子殻に入ることの出来る電子数には必ず制限があり、よって原子そのものの大きさが決まってしまうが、これはいかなる力によるか?
また、ローレンツ力は電子をいったいどこまで説明しきれるか?

「シュテルン=ゲルラッハの実験」は、電子の動きがローレンツ力のみでは説明しきれぬと示した。
磁力勾配のはたらく磁場にて銀原子を1つずつ入射すると、それぞれの銀原子はローレンツ力どおりの磁場の向きにも運動の向きにも力を制限されることなく、N極側あるいはS極側に’二価的に’分かれてしまい、これは銀原子における磁石型の電子が独自の磁気モーメントを有することを示す。

パウリは電子とは何かを突き詰める過程で、この実験における電子の不連続な’二価性’を表現すべく4つ目の量子数が必要だと
そして、磁場においてどの電子も必ずどこか異なる'二価性'のエネルギー状態をとる由の「パウリの排他原理」に至り、この特性あってこそ電子は「異常ゼーマン効果」を起こすのだと気づく。


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以上、ごく大雑把にだが、量子物理学における思考上そして実践上の試行錯誤を、或る程度は垣間見ることができよう。
そして、それら試行錯誤に厳密に則った着想と論法こそが物理学なのである(たぶん)。