2023/10/31

【読書メモ】みんなの量子コンピュータ

みんなの量子コンピュータ クリス・バーンハルト 翔泳社

本書は3年前に日本語訳の初版が起こされたもの。
量子コンピュータにおける数学と演算について説いた概説本であり、数学ベースの著作ゆえ、発行の古い新しいは拘る必要なかろう。
本書は図案こそ控えめなものの、数式がわんさか例示されており、しかもあくまでも2次元に留めた線形代数や正規化や(基底)ベクトルや確率振幅そしてそれら複合の行列論…である由。
よって、これらに手慣れている理数系の読者であれば論旨了察は容易かろう。
そしてそういう読者なればこそ、本書後段から起こされる素子デバイス論やアルゴリズム論についてもスリリングな期待感を覚えるかもしれぬ。

但し、本書に挑むにあたっては量子力学基礎について高校~大学初頭レベルの教養が必須 ─ たとえば電子粒子独自の角運動量(スピン)その離散値、そして不確定性や測定問題などなど。
これら物理上の常識無くしてはたとえ数学論が分かっても何のこっちゃ殆ど理解進まぬのではないか。

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さて本書の最初の総括箇所は、p.46における3.2項『量子スピンの数学』および、p.59における3.9項『量子ビット』の箇所であろう。

これらから掻い摘んで要約すれば;

量子スピンがいかなる’測定’からも2つの結果しか得られぬとして、この’測定’モデルが2次元数空間R2にあると見做す。
この前提にて、量子スピンをその状態の基底ベクトルとし、「順序付き」「正規直交基底」によるブラ(行ベクトル)およびケット(列ベクトル)の単位形式にて表現、これを |b1>, |b2とする。
じっさいにスピン’測定’がなされる直前には、このスピン状態の基底ベクトルは |b1> と |b2> の線形結合として c1|b1> + c2|b2 で表現するものとする。
そしてスピン’測定’がなされた後に、このスピン状態基底ベクトルが |b1> か |b2 いずれかの状態に’ジャンプ’しているものとし、前者と成っている確率振幅が C12であり、後者と成っている確率振幅が C22 であるとする。

以上を一般形として d0|b0> + d1|b1> の形式とすると ─
基底ベクトル |b0をビット0に対応付け、基底ベクトル |b1基底をビット1に対応付ければ、d02の確率振幅にて0が得られ d12の確率振幅にて1が得られることになる。

物理上の’測定’のみでは2分法上の区分が不可能な量子スピンといえども、このように2次元空間にての状態を基底ベクトルの線形結合と見做しつつ、その’測定’前後での変身の'確率振幅’を充てこめば、綺麗に0と1を表現できることになる。
つまり量子は2進法ビットを表現出来る。


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以上を数理上の大前提とおきつつ、さらに第3章ではBB84乱数プロトコルの概括に触れている。

さらに第4章以降は「量子もつれ」(もつれさせ)における数学テクニックがつらつらと続きつつ、いわゆる「ベルの不等式」などなどをも留意させる抽象性の高い論考が飽きさせない。

さて第6章~第7章における論理演算素子まわりの論考は、ブラ・ケットの直交行列と量子回路ゲートについて、アダマールゲートやCNOTゲートの機構論および数学上の検証など。
もとより論理学と論理演算こそは社会人としての僕なりのコンピュータ事始めであり、だからこれらは僕自身としては最も楽しめる範疇である。
(一方で僕は直観的な数学勘そのもの鈍いこと自認しているし、そもそも数学は好きじゃねぇんだ。)

なお第8章の「量子アルゴリズム」となると、もはや量子の数学論を超えており、P/NP問題の引用などなど数学論そのもののスケール巨大がとてつもなく巨大であり、抽象度がとてつもなく高いためおいそれと了察できるような代物ではない。

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以上、此度の【読書メモ】は短くまとめてしまったが、本書の触れている量子まわりの数学論がどんなものであるのか、そしてどれほど多元的かつ多様に未来を臨ませうるものであるのか、皆様はあらかたお分かりのことと察する。
繰り返すが、量子力学の基本は分かった上で「数学やアルゴリズムが大好きである」という、そういう変人的な読者諸兄(とくに大学生など)に薦めてはみたい一冊ではある。

此度の投稿は「ひとまず」いったん終わりとする。