2021/02/07

【読書メモ】 よくわかる 最新レンズの基本と仕組み

つい先日のこと、何らかの先進的な工業技術について簡易にしたためられた概説書の類を探していたところ、偶然にパッと目に留まった一冊がある。
図解入門 よくわかる 最新レンズの基本と仕組み 桑嶋幹・著 秀和システム 刊 

ほぅ、レンズか、なかなか多元的な素材たりえよう、現実に適用技術も多岐にわたっていると伝え聞く、そして本書は図案と基本数式が明瞭であり文字通りわかりやすい、うむ、これこそは概説本として絶好の一冊でありえよう
─ などなど思い立つやいなや即座に本書を購入してしまった。

本書にては幾つか基本的な方程式や公式が引用されているが、いずれもかなり簡易にまとめられたものであり、また一般教養として知られるものが大半なので読み進めやすい。
例えば、光と焦点距離などについてのいわゆる写像公式(1/f = 1/A + 1/B)や実像虚像うんぬんは中学~高校の物理や幾何数学でひととおり学ぶものであり、また光が波として最短時間経路(速度)をとる由を微分的に説くフェルマーの原理も高校物理でちらっと触れている。

さて本書の醍醐味のひとつは、工業上の基幹技術のひとつとしてレンズまわりの技術をカラフルに続々と概説しているところ。
だが僕は寧ろ第5章に注目した ─ ここでは、実際のレンズによって像面に引き起こされるさまざまな「収差」と、それら克服のため適用されうるさまざまな公式の概括紹介がなされているようである
よって、今回の【読書メモ】にては本書の第5章に絞ってごく大雑把に挙げておく。


<収差>
いかなるレンズも、数学上の計算にかかわらず、物理上の光の道筋においてはなんらかの焦点のずれ→像面における「なんらかの結像の歪み」を起こしてしまう。
この物理上の歪みを収差という。

単色光において起こる収差と、光の波長の長短によって起こる収差がある。
全ての収差を克服したレンズは存在していないが、レンズの形状も構成もさまざま工夫されてきた。

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<レンズメーカーの式、球面収差>
レンズと焦点距離を数理上定義している方程式としてレンズメーカーの公式がある。
レンズ媒質の屈折率: n
光入射側のレンズ曲面(円)の曲率半径: R1
光射出側のレンズ曲面(円)の曲率半径: R2
レンズの厚さ: d
レンズ主点から射出光の焦点までの距離: f
レンズメーカーの公式で焦点距離を記せば
1/f = (n-1) x [(1/R1-1/R2) + d(n-1)/nR1R2] と一般的に記され、
第1項と第2項に分離して記せば 1/f = [(n-1)(1/R1-1/R2)] + [d(n-1)2 / nR1R2]

本式から;
レンズの厚さdを無視できる薄肉レンズとみなせば、右辺の第2項を無視出来るので、
1/f = [(n-1)(1/R1-1/R2)] におさまる。
かつ、例えば両面が対称形の両凸レンズの場合は、曲率半径R1とR2は同じかつ正負±が逆になるのでR1=R, R2=-R とみなし、1/f = 2(n-1) / R におさまる。
また、媒質の屈折率n=1.5であるとすれば(ガラスなど)、焦点距離が曲率半径と等しくなる。

さて、レンズの物理形状が球状であるために起こってしまう光の収差をとくに球面収差と称す。
一般にレンズ内側を通る光ほど焦点に向かって集まり点像を成すが、一方で周辺を通る光は焦点の手前に集まってしまい焦点の像が円形に拡がってしまう(スポットダイヤグラムが同心円となる)。
レンズ入光の「有効径」の3乗に比例してこの収差が起こる。
そこで、同じ曲率半径のレンズであればその有効径を物理的に1単位狭めるごとにこの球面収差を3乗ずつ克服出来、カメラでいえば「絞り」の調整がこれにあたる。

ただし、有効径を物理的に狭めるのみでは光量が減るため像が暗くなってしまう。
有効径のみに光量が左右されぬよう、凸レンズと凹レンズを組み合わせた「タブレットレンズ」が用いられているが、このタブレットレンズの場合にはレンズの厚みが増し物理形状が大きくなるとともに、光の透過率が低下してしまう。
そこで、上述の「レンズメーカーの公式」を精密に活かして、周辺部の曲率半径ほど大きく確保し(つまり焦点距離を確保し)つつもレンズ全体を薄型に抑える形状の「非球面レンズ」がさまざま開発されてきた。

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<ペッツバール・サム、非点収差、像面湾曲>
レンズにおける光軸およびそこから離れた或る主光線による、結像の縦位置と横位置にずれが生じ、これを非点収差という。
また、レンズの光軸から離れたところからやってくる光が、光軸に垂直な平面ではなく、お椀の内側のような曲面上に結像してしまい、この現象を像面湾曲という。
これらによる像の歪みの広がりは画角の2乗に比例、またレンズの有効径に比例した円となる。

非点収差や像面湾曲を補正するためには、レンズの有効径の物理上の調整のみではなく、レンズ形状を変えたり絞りを調整する必要があり、そこで複数の組み合わせレンズにおいて活用されている数式がペッツバール・サムである。
レンズの数: k
「各レンズの」屈折率: n
「各レンズの」焦点距離: f
P = Σ[i=0→k] {1/(fi・ni)} = 0 となるように総和Pをおけば、非点収差も像面湾曲も数学上は補正されたことになる。

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<光学ガラスの屈折率、レンズによる色収差>
そもそも、波長の短い光と長い光の屈折率の差が大きい光学ガラス→光の分散が大きな光学ガラスであり、逆に、この屈折率の差が小さい光学ガラス→光の分散が小さな光学ガラスといえる。
光学ガラスの屈折率は、真空中のヘリウム原子の587.562nmのd(黄色)スペクトル線を基準波長とした上で、この基準波長における基準屈折率ndで表される。
多くの光学ガラスは、高精度ならばこの基準屈折率ndが̟±0.0002にあるように保証されている。
(※ なお、この基準波長は可視光線の波長領域(380~780nm)のほぼ中央にある。)

或る光学ガラスの、波長と屈折率と分散度合いの関係。
nd: 波長587.562nm光に対する屈折率(基準屈折率)
nF: 波長486.133nm光に対する屈折膣
nC: 波長656.273nm光に対する屈折率
とした上で、このnFとnCの差を主分散とする。
全体の分散の度合いを (nF-nC) / (nd-1) であらわせば同じ基準屈折率ndであっても波長による屈折率の差異が明らか。
そして、実際のレンズによる光の分散では基準屈折率ndを以て表現するため、この分散度合いの逆数値つまりアッベ数が充てられる。
アッベ数ν = (nd-1) / (nF-nC) 
アッベ数が小さければ、光の波長ごとの屈折率の差が大きい→光の分散が大きいことになる。
アッベ数νは多くの光学ガラスにては±0.8%以下にあるよう保証されている。

以上の光学ガラスにおける光の波長つまり色とそれぞれの屈折率の関係から、レンズによる焦点位置も波長色によってずれてしまう、これを色収差という。

※ 「スネルの法則」によれば、光の入射角と屈折角の正弦比は媒質ごとに必ず一定となり、全反射の臨界角も定義出来 ─ とあるが、これはあくまで幾何数学上の表現であり、実際のレンズにて起こる色収差は物理現象である。

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以上、本書の第5章まわりにつき、ごく一部を大雑把にざーっとまとめてみた。
本書にては、この他にも光学ガラスの(そしてレンズの)仕様、構成、収差克服の工夫、カメラなどにおける実装と制御などなど、各ページごとに明瞭な図解を以て概説されている。
学際的であるとともに業際的でもあるこのレンズ分野、こんごのICTやIoTの基幹技術としてウォッチを続けていきたいものである。

(おわり)