この力学のド原則は’輸送機関’においてこそ端的に再認識出来よう。
あらゆる輸送機関は、地球上にて運用されるかぎり力学的に’無抵抗’の空間を進むことはなく、自動車は気体と個体の抵抗を克服しつつ走行し、航空機はほとんど気体の抵抗のみを克服しつつ飛行する。
では船はといえば、気体と液体(一般的には空気および水)の抵抗を克服しつつ航行する。
かつ、船はおのれ自身および積載物の質量つまり力学スケールがケタ外れに巨大な輸送機関でもある。
だから船の力学を知ることは力学自体を解剖的かつ巨視的に包括理解することともなりえよう。
…以上のような思案は、あくまで高校レベル物理に留まっている僕なりの拙き総括にすぎず、じっさいのところ輸送機関については電気系統は或る程度分かるにせよ、力学上はこれまでさして知るところではなかった。
それで、輸送機関についての平易な物理本を探し続けてはきたが、たまたま目に入ったのが本書である。
『最新図解 船の科学 池田良穂・著 講談社Blue Backs』
サブタイトルとして、「基本原理からSDGS時代の技術まで」とある。
SDGSうんぬんはさておくとして、少なくとも基本原理についてちょっと学びなおしてみようかと、とりあえずは本書の「第2章:船と力」を読みぬいてみた。
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さて、’最新図解’と銘打たれているとおり、本書はところどころ要約的な図解や図案がふんだんであり、だから力学として直観的に把握しやすい箇所も散見される。
しかしながら、文面もまたしばしば要約に過ぎる箇所が多く、とりわけ「全体系」「要素」「何が」「何を」「作用/反作用」「与える/得る」「和/差」などの相対関係についてところどころ不明瞭に省略されているのが惜しまれる。
これら基本的な相対性を整然と把握出来なくても電磁場や電子については数学的に直観しえよう、しかし力学~仕事(エネルギー)まわりについての理解はどうしてもウヤムヤになってしまう。
だから、本書の第2章以降に挑む読者としては、少なくとも以下の中学~高校物理について従前に理解必須である
(僕なりに参考書類から引用・要約してみた ─ 物理選択の高校生なら誰もが概ね知っているコンテンツだ。)
或る物体の内部にて別の物体が為す力Fは、それぞれは垂直方向の圧力pともいえ、それら圧力は面積Sごとに定義できる。
面積圧力p[Pa] = 力F[N] / 面積S[m2]
とくに、或る液中にて 密度ρ、底面積S、深さh、重力加速度gの液柱があるとして、
かつこの液柱自身の体積は V[m3] = Sh[m3] 、またこの液柱自身の密度は ρ[kg/m3]
この液柱自身の質量mは 密度x体積ゆえ、ρSh[kg]
だからこの液柱自身の面積圧力pは
力F[N] / 面積S[m2] = mg[N] / S[m2] = ρShg[kg] / S[m2] = ρhg[N/m2] = ρhg[pa]
さらにこの液柱の上に大気圧p0が働いているとすると、水深hでの圧力p = p0 +ρhg[pa]
次に’浮力’の基本について。
或る液体あるいは気体つまり流体の中に、別密度の或る物体を置く。
この物体は流体と力の作用/反作用を為し、上下方向にては釣り合いが崩れる。
この上下方向にずれていく力をとくに浮力F[N]とする。
あらためて、上同様に密度ρ[kg/m3]、体積V[m3]、重力加速度gとし、ここで上面から押し下げる力をF1[N]、下面から押し上げる力をF2[N]とすると、
F= F2 - F1 = p2S - p1S = ρh2gS - ρh1gS = ρ(h2 -h1)gS
= ρhgS = ρVg[N]
この ρVg[N]が 浮力F[N]によって排除された流体にかかる重力(重量)を表す。
ここまでがアルキメデスによる浮力の原理。
なお、ここでの液体や液中は一般的には「水」において説明されている。
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ここまで一通り理解した上で、あらためて本書の第2章以降を読み進めてゆこう。
一般に、物体に働く重力は、その物体の体積に比例する。
また揚力は、その物体の面積までにしか比例しない。
よって、その物体サイズが大きくなると必ず重力が揚力を上回ることになる。
しかしながら、アルキメデス原理 (浮力F= ρVg[N] ) のとおり;
液中における物体の浮力はその物体の体積に比例。
かつ、浮力は物体によって排除された液の重力に等しい。
よって、その物体がどれほどの巨大体積であっても浮力と重力を均衡させることは可能。
これが、水上における船のサイズがどこまででも巨大たりうる理由である。
ここまでが、清水(流れの静止している水)における浮力。
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しかしながら、流水における浮力となると話は更に込み入ってくる。
いわゆるベルヌーイの定理に拠って、流体の速度とその圧力、そして動圧と静圧の総圧一定則を踏まえた考察が必要。
この定理に則って ─ 船体周りの流水の速度が増せば圧力が下がり、だから船体がそれだけ沈み込むこととなり、逆にその流水の速度を落とせば滑走艇のように浮上し…うんぬん。
だがこの段になると「何が」「何を」について把握し難くなってくることは否めない。
(水と船舶のかかわりにて、何が何を与え何を得ていることになるのか。)
このベルヌーイの定理まわりについても、本書ではおそろしく要約的な引用に留まっているため、読者はあらかじめ参考書類などで了察の必要があろう。
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ざっと、本書第2章のさわりの箇所について触れただけでも、上述したように高校物理ないしそれ以上の物理学の基本素養が必須であろうこと、お分かり頂けるのではないか。
なお、本書【第4章:船の運動】をもチラリと垣間見れば、ここの冒頭部では’横揺れの運動方程式’と冠した概説もあり、いわば船にかかる力学の総合演習のごときと捉えられなくもないが、しかし本箇所も文面は省略的に留められており、一方で緻密な図案も無いため、全貌の理解はかなり難しそうである。
このあたりは ─ いわゆる質点と質量中心と重心速度、それらの運動量と運動方程式、そしてそれら複合させた剛体としての慣性モーメントうんぬんを踏まえたコンテンツであろう、そしてこれらは高校物理としてはかなりの応用範疇だ。
(それでも、駿台文庫『新・物理入門』や河合出版『理論物理への道程』などなどにてはここいらも紹介されており、だから物理が好きな高校生諸君にとっては格好の勉強対象たりえようか。)
以上、此度の読書メモはあくまでもほんの一端の要約と感想に留め置くこととし、ここいらで終わり。