「先生こんにちは」
「やぁ、君か。こんにちは。元気にしているかね?」
「ええ、まあまあ、あたしなりに」
「それはよかった ─ さて、今日は何の用件でここへ来たのかな?」
「はぁ……あのぅ、それなんですけど、ちょっとヘンな話がありまして」
「ははははは。ヘンな話とはね。なんだそれは?」
「…いまは話さないでおきます。それはともかくとして、先生は何をしていらっしゃるんですか?」
「ふふん、これかね?これはカメラの不思議な機能、いわゆる『逆・消しゴムマジック』だよ」
「『逆・消しゴムマジック』?それはいったい何ですか?」
「或るものを撮影するにさいして、実在していないものを併せて写してしまう、そういう機能だ」
「へーーー。なんだか面白そうですね。ねえ先生、その機能であたしを撮影してみて下さいよ」
「そうだな。よし、君を撮ってみよう……さぁ画像が出来たよ」
「あれっ!?ねえ先生?あたしが2人写り込んでいますよっ?」
「うむ。なんとも奇妙な現象だけどね、ホンモノの君と併せて、’数分後の君’をも先取り撮像し、それでこのように2人の君が一緒に写り込んでいるんだよ」
「へぇー。ちょっとしたタイムマシン機能ですね」
「なかなか不思議だろう ─ さて!何か用件があったようだが、話す気になったのならまた来ればいいよ。とりあえず今日はもう帰りなさい」
「はい、分かりました。それではさようなら!」
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「先生、こんにちは」
「おや、どうした?用件を明かす気になったのかね?」
「はぁ?どういう意味ですか?あたしはたったいま来たところですよ」
「おいおい、何を言ってるのかな。はっははは。ついさっき話をしたばかりじゃないか」
「いえいえ、あたしはちょうどいま来たばかりなんです!」
「ふ~む??……それで?」
「はぁ。じつはとても大切な話があるんですけど。どうしようかな、話そうかな、よそうかな…」
「…ほぅ??」
「やっぱり話さないでおきます ─ それはさておき、先生は何をしていらっしゃるんですか?」
「何をしているかって?これはカメラの『逆・消しゴムマジック』だよ。さっき説明しなかったっけ?…」
「『逆・消しゴムマジック』?それはいったい何ですか?」
「或るものを撮影するにさいに、実在していないものを併せて写してしまう機能だよ。ねえ、さっき説明したような気がするんだけどなあ」
「面白そうな機能ですね。ねえ先生、その機能であたしを撮影してみて下さいよ」
「さっき撮ったじゃないか!ほらっ、この画像だよ」
「あれっ!?ねえ先生?あたしが3人も写り込んでいますよっ?」
「なにっ?そんなことが…?うわぁ本当だ、君が増えているっ!ホンモノの君と、数分後の’君たち’、あわせて3人の君が一緒に写り込んでいるんだ」
「へぇー。なんだかタイムマシンみたい」
「…どうにも奇妙なこともあるもんだ。まあいい ─ さて!大切な話とやらを明かすつもりが無いのなら、今日はもう帰りなさい。そして、明かす気になったらまた来ればいいよ」
「はい、それではさようなら!」
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「先生、こんにちは。うっふふふ♪」
「……なんだ?!大切な話とやらをいよいよ明かす気になったのかっ?」
「はぁ?おかしなこと言わないでくださいよ先生。あたしはたった今ここへ来たばかりなんですけど。うふふふふ」
「……う~む…?そうかね…それで、ここへ来た用件は?」
「はぁ、それなんですけどね、実はとてつもなく重大なことをお話ししようと思っていたんですけど、うふふふふ、話そうっかなあ、よそうっかなぁ、どうしようっかなあ、うっふふふふ」
「……」
「ところで、先生は何をしていらっしゃるんですか?」
「……ねえ、君、さっきっから僕は説明を繰り返しているじゃないか!これはカメラの『逆・消しゴムマジック』だよ!」
「『逆・消しゴムマジック』?うっふふふふ、それはいったい何ですか?」
「或るものを撮影するにさいに、実在していないものを併せて先取り撮像してしまう機能だ!ねえ、僕はさっきっから何度も君に説明しているぞ!そしてじっさいに君を撮影もしている。その画像がこれだ」
「あれっ!?あたしが4人も写り込んでいますよっ?うふふふふふふ」
「なんだとっ??また増えているっ!うむ、ホンモノの君と併せて、’数分後の君たち’の先取り撮像、それでこのように4人の君が一緒に写り込んでしまい…」
「へぇー。まるでタイムマシンみたい。うっふふふふふ ─ ところで先生。さらに次の’あたしたち’がもうすぐそこで待っているんですけど、どうしますか?まとめて招き入れちゃいますか?」
(ずーっと続く)
※ 怪談の落語のネタに出来ぬものか。