2025/10/26

等号 ' = ' とはなにか? (1)

理系でも文系でも、日常生活から職能まで至る局面で使っている記号がある。
記号というより論理そのものでもある。
それが等号である、つまりイコール '=' である。
ちょっと考えてみれば、等号 '=' は何らかの「数の等しさ」、「量の等しさ」、そして「価値の等しさ」を表現しているようではある。
しかし、どこまで理に適っているのだろうか?


ここで、等号 '=' を数学や証明論やアルゴリズムなどにて捉えてしまうとキリが無くなり、全ては0あるいは1のどちらかに集約され、0は1とも言え1は0とも言え、よってどっちも等価たりうる…などの眩いような抽象論に紛れ込んでしまう。
だから数学まわりやアルゴリズムなどに突っ込むのはやめだやめだ。

むしろ、等号 '=' を、「リアルな実体の恒常な等量さ」の表現として捉えなおしてみれば、この意義をかなりの程度まで見極め、なんらかの腑に落ちるのではなかろうか?。
実体、恒常、等量とくれば、物理方程式だ。
だから物理方程式における等号 '=' を軽く検証しなおしてみよう。

==============================


物理方程式の古典の典型がいわゆる運動方程式でF=ma であろう。
古典ゆえにほとんど普遍でもある。
ここで、物理方程式なのだから実体量の’単位’を付記してみよう。
すると、F[N] = m[kg]  x a[m/s2] であり、左辺における組立単位の[N]の素性は右辺における基本単位の [kg], [m/s2]  である由だが、ここで右辺の2者はいわば別次元の実体量。
よってここでの等号 '=' は数のペタっとした恒等関係は示さない。
しかし方程式ではあるのだから、量の恒常的な正(反)比例関係は表しているはず。
かつ、どれも関数(時間)で微分された純粋な一般量である。
※ なお英語表現上は’或る力’と’或る慣性質量’と’或る加速度’よって前置詞'a/an'で括るべきであると

一方で、地球上の重力加速度gに限った物理方程式 F=mg はどうだろうか?
これまた物理方程式ゆえ、それぞれ単位[N], [kg], [9.8m/s2] をひっつけてみれば、右辺の基本単位は別次元の実体量であること明白、よって数の恒等関係ではない。
しかし方程式なので、この等号 '=' は量の恒常的な正(反)比例関係は表しているはず。
ここまでは上述の運動方程式と同様だが、関数(時間)で微分の重力加速度g[9.8m/s2]はあくまでも特定量であり、だからすべてが純粋な一般量関係とはいえない  ─ よってこちらは運動方程式ではない。
※ なお英語表現上は前置詞’the’による特定化が必要。

これら2例から分かること。
物理方程式における等号 '='は、一般量であろうと特定の量であろうと、左辺と右辺における基本単位量の正(反)比例を表現しているってこと。



コンデンサでお馴染みのやつ、電気量Q[C] = 静電容量C[Fx 直流電位V[v] はどうだろう?
量単位は [C], [F], [v] だ
このうち、[F]は組立単位で[C]/[v]。
ここで組立単位[v] は素性は [J]/[C] でもあり、これらは基本単位 [m2][kg] ,[s-3], [A-1]から成る。
この組立単位[J]をさらにバラすと 組立単位[N] x 基本単位[m] 、もっとバラすと基本単位 [kg] x [m/s2x [m]だ。

こうして基本単位にバラして捉えてみれば、左辺は基本単位[C]である
右辺は、基本単位[C]  [m2][kg] ,[s-3], [A-1]である。
だがまた右辺は、基本単位[C] と[kg] と[m] と[m/s2] でもある。
これら左辺と右辺をつなぐ等号 '=' は量の正比例の表現として明瞭。


 
もっと混み入ったやつはどうか。
態方程式 P[pa] x V[m3= n[mol] x 一般気体定数R x T[K]  にても、組立単位をすべからく基本単位にバラしつつ、等号 '=' を捉えてみよう。
組立単位[pa] は 組立と基本単位 [N]/[m2] であり、組立単位[N]は基本単位 [kg] x [m/s2] だ。
[mol] は 現在は要素粒子数そのもの定義済の基本単位「数」。
一般気体定数Rは 組立単位[J] を 基本単位である[mol]と熱力学温度[K]の積で割った数。
組立単位[J]は 組立単位[N] x 基本単位[m] ゆえ、基本単位 [kg] x [m/s2] x [m]だ。

かくてこの状態方程式は、左辺が基本単位の [m2], [m/s2], [kg] からなり、右辺は基本単位の[m], [m2], [m/s2] , [kg], [K] そして要素粒子数 [mol] から成る。
これら基本単位量からなる左辺と右辺を等号 '=' で結びつけている次第であり、だから数値上の一致は表現しないが、物理量と数の正(反)比例関係は表現している。

※ なお基本単位の熱力学温度[K]とボルツマン係数についても教科書や参考書に


==========================

まだまだ組立単位として[Ω]とか[Wb]とか[Hz]などなど挙げることは出来るし、これらを基本単位の物理量に崩しつつ、物理方程式における等号 '=' の量上の呼応関係につき納得することは出来る。

また、むしろ基本諸元の組立積分としての[J]に則って運動エネルギーや位置エネルギー(そしてエントロピー)の等号 '=' の妥当性を論じるのも一興ではある。
超マクロに考えて ─ たとえば、地球の全物質の質量[kg] と 全電気量[C] と全電力量[J] の関わりについてみるとどうだろう?
これらは比例関係にあるのか?
全電気量[C]は発電方式次第でなんぼでも変わるのか?
たとえ人類が居なくなり、たとえ地球が無くなっても、宇宙発電で電力を賄いうるのかな?
(こんなことがありうるだろうか?)

一方で、一般相対性理論 E = mc2における「等価性」や、核融合における質量「欠損」など捉えてみれば物理上は精密な議論となろうが、ここで考えを及ぼすのは面倒そうではある。
ましてや宇宙の物質量が増え続けているのかどうか、ダークエネルギーは、などなど考えを膨らませるとだ、果たして宇宙すべてが何らかの等号 '=' で繋げられうると見做せるのかどうか…。

ただ、物理(数学)方程式における等号’=’ のうちで最も把握し難いものは、おそらく波についてのそれらだろう。
僕が文系頭のせいか、どうにもこれらは真意いや直観そのものが腹に座らず、しばしばイラついてくる。

また気が向いたら。

=======================


ところで。
等号 '=' の正当性について、波についての表現のモヤモヤ感もさることながら、もっともっと別次元レベルでずっと以前から抱いている疑念がある。
それは、「物質(エネルギー)」と「情報」と「数学」のかかわり。
もっと文系的に突けば、最初にもちらっと記したが「物質量」と「価値」の正当性についてだ。
ヨリ物理化学よりに立脚しつつ捉えてみての、それぞれ原子における核子や電子の「量」と、その原子と、それら分子の「価格」についてのことだ。
誰が何の正当性を以てこれらを等号 '=' で繋ぐのよ?
ましてや、経済学にて’価値の増減’、’需給の変動’、’等価交換’などと言うもんだから、'=’がなおさら分からなくなってくる。
特定の資源や資産を好き勝手に査定しやがってよ。
腹も立ってくるんだ。

もちろん全てキチッと統一しろなどとは言わぬし、一人ひとりがおのおの有限の時間に制限されているこの世界で絶対神だの共産社会だのが叶うわけもない。
そんなこたぁ分かってんだけども。


(続く。たぶん。)

2025/10/18

【読書メモ】 日本のすごい先端科学技術

日本のすごい先端科学技術 橋本幸治 かんき出版』
本書は本年(2025)時点にての日本発のさまざま最先端の科学技術を取り上げた一冊だ。
それぞれのトピックはささやかな概説に留まってはいるものの、それらほんの一端を垣間見るだけでも、我が国の科学技術界のバイタリティに感嘆しさらに驚嘆しきりである。
じっさい本書で紹介される科学技術トピックは、どれもこれも地道なトライ&エラーと天啓のごときイノヴェーションがパラレルに綴られている。
だからこそ、あらためて認識させられる大教訓がある ─ すなわち、科学技術上のあらゆる動機も意欲もコロンブスの卵も、カネの「割り算」「引き算」による陳腐化や停滞からは生じえず、まして無秩序のランダムネスから起ころうわけもなく、むしろ既得の物理と経験測と冒険的直観の「掛け合わせ」によってこそ新たに捻出されるのである。

さて、此度の【読書メモ】として、本書コンテンツの幾つかを僕なりに掻い摘んで以下に略記する。
これらのさまざまな’新しさ’におけるそれぞれ淵源と未来像の邂逅に、読者の皆さんは想像力を大動員はかってみては如何だろうか。




<磁気浮上装置>

4つのネオジム磁石をそれぞれ磁極が反転するよう配置すると、磁石の縁の極めて曲率半径が小さな範囲に、磁場とその空間的変化率の積として磁気力場が凝縮される。
この磁気力場が反磁性物質(水など)に働きかけると、それら反磁性物質は重力を克服してこの磁気力場に浮上し、エネルギー最小点にて安定静止する。
このネオジム磁石の強度やサイズ次第では、磁気力場がさまざまな物質の反磁性に働きかけてそれらの重力を克服し浮上させうる。
ただし現時点では、ネオジム磁石によって浮上/静止させられる物体サイズは0.1~1.0nmに留まってはいる。

このネオジム磁石による物体浮上装置の'無重力性’は、いずれはタンパク質結晶の生成などにも応用されうるかもしれない。

==========================


<Mie共鳴塗料>

或るサイズの球状粒子に、同程度の波長サイズの光を入射すると、この球状粒子の内部で入射光が特定のパターンで振動し、これに共鳴したこの球状粒子から特定の波長色の光が強く散乱される。
この特定の共鳴~発光現象にて、とくに「Mie共鳴」に注目する。
たとえば直径100~200nmのシリコン微粒子にてこのMie共鳴が起こり、同じ微粒子にても微細な制御によってさまざまな波長色を散乱させることが出来る。

ここでの微粒子は化学結合によるさまざまな色素ではなく、一つ一つが入射光に応じて散乱波長色を変えうる、いわば「構造色」の微粒子である。
よってこの微粒子は色素混交による厚みを克服し、極限の薄さを実現し、また紫外線などの入射光と化学変化を起こす(分解する)こともない。
こういう微粒子のMie共鳴を活かして超薄型の「構造色塗料」を作れば、さまざまな波長色の物質塗装が可能、しかも工程短縮される塗装技術が可能たりうる。

===========================


<ペロブスカイト太陽電池>

ペロブスカイトは軽くまた薄型の素材ゆえ、微細な結晶構造を成し、フレキシブルな加工が可能。
圧電素材としても広く工業製品に起用されてきた。
ペロブスカイトの主材料はヨウ素であり、日本は世界2位のヨウ素生産国である。

太陽電池においては、ペロブスカイト結晶は太陽光によってハロゲンイオンが分離してしまうため、発電能力は下がってしまう。
ところが、このペロブスカイト太陽電池の発電層とホール輸送層の合間に水酸化ガリウムフタロシアニンを組み込むと、これらがP型半導体を成してハロゲンイオンを捕捉するので、電荷の移動効率→発電効率が堅持される。
さらに、ペロブスカイト層の凹凸を平らかにすれば電流ショートも回避出来る。

==========================


<超電導モーター>

モーターのコイルに超電導材料を採用する。
超電導状態では電気抵抗がゼロとなるため、このコイルに大量の電流を流してもエネルギー損失(発熱)が無い。
そこでこのモーターコイルは、圧倒的に強力な磁力を、極めて少ない巻数とサイズから発生させうる。

ただし、抵抗ゼロの超電導現象は絶対零度に近い低温で起こるため、このモーターは磁場発生ステーターも回転ローターも安定的に相応の低温に留め置かなければならず、そのための冷媒供給や断熱素材~構造の循環システムとしなければならない。
また、この超電導モーターは高速運転時に約80000Gの遠心力がかかるため、これに耐えうる構造設計も必要。

東芝が2022年に完成させた超電導モーターは、最高出力が2MWで、同出力の既製品と比べて重量と体積が1/10以下に収まるもの。
一方で、エアバス社は燃料電池による水素によってモーターを駆動させる’水素航空機’を開発中で、この水素航空機は極低温の液体水素を燃料として搭載するもの。
この極低温の液体水素による気化熱が、じつは超電導モーターを冷却させ続けうる。
よって、エアバス社は水素航空機に東芝の超電導モーターの搭載を検討図っている。

===========================


<光量子コンピュータ>

現在まで主流の量子コンピュータは超電導方式ゆえ発熱回避が必須、よって量子ビットを絶対零度近くまで下げなければならない。
しかし量子コンピュータを'光'による駆動とすれば、熱にほとんど影響されないので常温にて運用可能となり、システムまわりの消費電力もまたサイズも大幅に削減可能。

'光’の数百テラヘルツの振動をクロック周波数に活かす「光量子コンピュータ」の実現が図られている。
その一つ、光量子コンピュータOptQCでは、光パルスが光ファイバを超高速循環、ここで量子もつれの’テレポーテーション’を成し、量子ビット’状態’を超速で転送可能。
このOptQCは2026年4月より商用開始とされている。

========================


<熱テスラバルブ>

電子部品において、’熱’拡散の制御は重要な課題であり、電子の伝導制御よりも遥かに困難である。
電子の伝導率が導体と絶縁体にて1015倍以上も差が有る一方で、熱の伝搬率は物質ごとに104倍程度の差しかない。

精密な熱伝搬制御デバイスとしていわば熱ダイオードや熱トランジスタの実現が追求され続けており、ここで想起されたモデルの1つが、かつてニコラ・テスラが考案した’流体制御’用の「テスラバルブ構造」。
これを参考として「熱テスラバルブ」が作成されるにあたり、シリコン素材で挑んでみたところ、熱伝搬の制御効率はあまり向上していない。
一方で、高純度の固体グラファイトを素材として流路幅4.5nmの「熱テスラバルブ」を作成したところ、熱の精密な伝搬制御が可能と分かり、しかもこの性能は25~60K絶対温度下でも確認されているので、量子コンピュータまわりでも活用可能である。

==========================


以上、本書のほんの一端を略記してみた。
理論系の科学ファンも、技術系の工業ファンも、本書をきっかけに科学技術の最前線を垣間見ては如何だろうか。

※ とりわけ、常日頃から学校がつまらんだの勉強が虚しいだのとこぼしている学生諸君、世の中はつまらなくも虚しくもないんだぜ、いつも「何か」が新たに起こり、ぶっつかりあい、巡り合い、変身し、別離し、そして新たな組み合わせと結びつきも起こるんだ、もちろん俺たち人間もひっくるめてだ、これらを過去と称し現在と称し未来とも称す。
これら「何か」は遥か遠くかもしれぬが、すぐ近傍で出番を待っているかもしれぬ、だから完成形や採算に捉われるな、とりあえず知識を増やせ、発想力を磨け。


おわり