’キャリア’とはいえ、大層なものではない。
むしろ、常にどこかへ横入りしてはイザコザを起こすような、そんな日々ではあった。
新規の需要創造を前提としている(であろう)商社などならまだしも、多くの技術規格と供給量があらかじめ定義されがちな製造業ゆえ、どうしても人間が余り或いは不足しつつ、それでいて自然調整は効き難いのである。
だから、新参者がちょっと割り込む度に、余計なことはするなと反発をくらい、それでドカドカと揉めてしまい、別部門に救われたかと思えば、やはり新参者が余計なことをするなとドカドカ…
あたかも、企業全体がどこかの誰かによって遥か上空からギュゥギュウ押さえつけられいるようではあり、なんのことはない、結局は内々のカネの差配次第じゃないのか、割り算と引き算とデフレジジイじゃないのか、官公庁や政党と同じじゃないのか、これでも大企業か、若者の世界と言えるのか
…といった憤懣をちらちら覚えつつ、ドカドカぶっつかり合いを繰り返す東芝生活ではあった。
こんなだから、僕なりに東芝で見分したことや考えたことを壮大に論じるつもりはないし、そんな詳らかな知識経験も無い。
また、製造業に入社して一回り二回りくらいすると辞めてしまう若手が多いのも、分かる気がする。
とはいえ、世界の潮目がいつまでも同じってことはなかろう、割り算と引き算ばかりでもなかろう、一方では科学技術の掛け算と足し算も健在なのだ、それどころか巨大な胎動はもう始まっている…。
そう思い返してみればワクワク感もひとしお以上だ。
だから、学生や若手社会人にとっての思考上のヒントとして、以下記す次第である。
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いわゆる技術産業とくに製造業を成しそして有する重大要素。
① 物質量
② 技術・知識
③ 富
① 物質量は、源泉資源(エネルギー)量であり、素材量であり、土地空間サイズであり、製品の新規開発量であり、製造量であり、それらのバリエーションでありまたバラエティである。
電機メーカーでいえば、燃料電池、パワーMOSFET、蒸気タービン、電波設備から、超電導モーター、光型量子コンピュータ、核融合発電システム…などなど。
② 技術・知識は人間自身に内在する知的資源である。
電機メーカーでいえば、数学全般、物理学全般、化学全般、生物学の一部、コンピュータ技術、ソフトウェア技術、セキュリティ技術、精密加工、複製量産、移送、さらに工業所有権、商法、外国語知識、…など。
そしてとりわけ文系タイプとして必須の素養が、新規需要喚起の能力である。
③ 富(wealth)は、実体としては上の①と②の積である。
なお、対外交渉や取引にては、この①と②の積を'効用'さらに'権利'であると主張し、もっと総称的に'価値'と主張しうる。
さらに関税や納税といった数字ゲームにては、これらはカネ、債券、証券に勘定換算され、これらを帳簿上は資産(および資本)ともいう。
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…とまあ、ここまでざっとまとめたところで、あらためてもわっと突き当たる疑義がある。
それは、'生産性(productivity)' と '付加価値(added value)' である。
どちらも僕なりに社会人ことはじめから了察しきれていない観念である。
もちろん勘定や利益計算や償却におけるこれら数値操作は易しい、そんなもの俺だって新人そこそこからノウハウは知っていたし、それこそ派遣女子でも計算できよう。
しかしだぜ、そもそも’生産性’については、生産というくらいだから①と②のどちらか或いは両方が増産されていないければならないはずだが、見聞するところカネ勘定換算における額面上の増進を以て’生産性’と言いやがる。
ましてや’付加価値’となると、①と②の積を’価値’と換言した上で、これが増えましたと主張しておるので、なおさら①と②のどっちがどうなったのかが不明瞭なのであり、それでいて国内はむろんアメリカや欧州や中国などとの取引にても’付加価値税(VAT)’を考慮しなければならず、実際のところこれら国地域で解釈が微妙に異なってやがんの。
もっと不明瞭な観念がある。
’情報(information' であり、'データ(data)'であり、'情報通信技術(ICT)'である。
これらは①の物理量であり、②の知性でもあり、これら積の③富でもあり、そしてそれぞれにおける属性でもありプログラムであり数値でもある。
つまり、ほわんとし過ぎている。
ほわんとしたままでも①と②と③に掛かる実務はこなせる。
’情報’や’データ’については別途考えるところを記す。
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ともあれだ。
少なくともこれだけは確かであろうこと。
新規の①物質量あるいは②知識技術がガンガン活性化していれば、相応に③富も膨らむはずだ。
逆に①と②に上限をおいたり他者から侵され続ければ、③富が縮小するのもやむなしであり、さればとカネばっかり運用していれば貧乏なバカに陥るは必定。
おのれを奮い立たせ、ガンガンやる気を起こすには、なんといっても①と②に(ある程度まで)通じるべきであろう。
そしてこれらこそが、本当の製造業 ─ つまり新規の世の中を創り上げていくパワーの源泉であり、会社の盛衰もあくまでこれらに掛かっている。
だから①と②をどこまでも大切にして欲しい。
とくに、②においては数学や物理学以上に化学知識と技法が、①の物質バリエーションやバラエティに大いに寄与しうるだろう。
あくまで僕なりの経験則ではあるが、数学や物理学は概して’高速化’と省力化’と’小型化’を導いてしまい、これらだけでは製品のバリエーションは増えてもバラエティは膨らみ難いのではないか。
一方で化学の知識と技法は製品の素材をさまざま組み換えうるので、バリエーションもバラエティもさまざま展開しやすく、だから次から次へと新規需要を喚起出来る ─ ような気がしてならない。
(①や②に通じきれず、なかんずく嫌悪を覚えるようであれば、巡り合わせが悪かったのだと割り切ってとっとと辞めるべきではないか。)
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ウェスティングハウスとか福島原発など、思い出したくはない名ではあるが、しかしこれらとて変わりゆく。
変わりゆけばあらたな①物質量と②知識技術が興る。
なお、一応は技術知識のインテリが揃いに揃っているはずの東芝において、CO2温暖化について其処此処で疑義の声は挙がっていたにせよ、全社としては、まあいいや、風も潮流も常に方位を変えているんだ。
(おわり)