2014/04/06

恐怖の呪文 (ははははは)


いいかね。
人間のあらゆる言葉というのはね、もともと数学だったのだよ。
いや、言葉と数学のルーツが同じだと言った方が正しいかな。
ただし!
ひとつだけ決定的に違うところがある。
つまり、だ、数学は時間や空間にかかわらず常に「行ったり来たり」の思考実験が可能なのだが、言葉というのは時間や空間に逆らって唱えることは許されないんだ。

ちょっと怖い話になるけどね…
本に載っている文字を、普通は前から徐々に読み進めて、最後に裏表紙をパタリと閉じて、これで読書完了だよね。
ところが ─ もしもだよ、まず最初に裏表紙をぺらっとめくって、最後のページから言葉を逆読みしつつ、ずーっと逆方向にページを追っていくとね、恐ろしいことが起こるらしい。
一番最後に、表紙に戻って、ぱたりとその本を閉じた時に…
いや、もうよそう。
もう一度言うが、数学と言葉は似ている、でも似て非なるもの、だから、絶対に本を逆から読んではいけないよ。

おや?ここに本があるね。
あぁ、これは、無限の克服について書かれた本だね。
アキレスとカメの駆けっこの話も載っている、とても面白い数学の本なんだよ。

先生!
実は、あたし、その本を…逆からずっと読んでしまったんです。
だってこれ、あまり文字も多くないから、構わないかと思って。
それで、今ちょうど読み終わったんですけど。
そしたら、ねぇ、ほらっ!亀とアキレスの距離がどんどん離れていって………てっいてれ離んどんどが離距のスレキアと亀!っらほ、ぇね、らたしそ ─

わっ!なんてことをしてくれたんだ!
ああ、もう、アキレスが亀の遥か後方に居るじゃないか…あっ、もうアキレスが見えなくなった!……!たっなくなえ見がスレキアうも、っあ…かいなゃじる居に方後か遥の亀がスレキア、うも、ああ


気がつくと、僕は洞窟の中でゴロっと寝返りをうっていた。
洞窟の入口から差し込む日光をぼやっと楽しんでいると、やがて、何かがとてつもない速度でヒューーーンと地面を走り去っていくのを、ほんの一瞬だけ垣間見たのだった。
あれ?いまのは何だったのだろう ─ なんとなく亀みたいな形をしていたような。
妙な気分で、更にしばらくの間ゴロゴロとしていると、いつしかビュービューと凄まじい風雨の吹きすさびが洞窟にも舞い込んでくる。
ちょっと心細くなり、岩を重ねて入口を塞ごうとしていると ─ 何か引きちぎれた切れっ端がバタバタバタと額に当たる。
そのぐしゃぐしゃの一片を掴んで、ぼやーーっと眺めてみれば、何か小さな模様がたくさん描かれていたが、腹の足しにもなりそうもないので、火にくべて燃やしてみようと…。
あれ?そういえばどうやって火を起こせばいいんだろうか。

永遠に続く