しかしながら、あらゆる財貨の通貨額面「だけ」は、人間の論理で設定したものゆえ、人知と完全に同期をとっているのも当たり前。
そもそも社会科系の諸分野からして、人間の論理のみにて完結を図るもの、とりわけ会計分野こそは自然物の無作為性や未知の市場の可能性を徹底排除したという点で、最も人間寄りの学問系といえまいか。
…と、いったことをあらためて考えるきっかけとなったのが、此度紹介の本である。
図解・直観でわかる経理のしくみ 加藤弘道・著 東洋経済新報社
此度読んだものは2014年の新版。
本書は経理・財務会計のコンセプトを、あたかもソフトウェア仕様書におけるメインルーチン/サブルーチンの多重的な体系構造のごとく、びっくりするほど完結的にそして視覚的に説明したもの。
数学教育における最良の教材はタイル図である、とはよく言われるところ、まして財務会計は数学ほどの抽象性は求めないもの、よって本書掲載の多くの図表から基本理念は十分に捕捉出来よう。
なるほど文面にては散発的な説明が随所に見られるものの、筆者も推奨されるとおり、文面よりもまずはコンセプトの図表そのものから直観的な理解を引き出されたい。
思い返せば僕自身、社会人生活の前半期には技術系の方々の指示(や叱責)を仰ぐ経験が多く、その一方で法務や財務の諸知識については商社からの聞きかじりで学んだものの、体系立てた勉強はしたことがなかった。
そんな我流学習の「すっ転がし」のような僕なりに、今さらながら言う ─ たとえば、恐らくは誰もが一度は困惑させられるストックとフロー(資産と費用)の連関、固定資産、棚卸、原価計算(とくに製造業)といったところも、本書から直感的に理解しうると信じる。
会計分野を狙う学生諸君、企業人ことはじめの若い人たち、ほか財務会計についてオーバーオールな理解を期する社会人の皆さんにも是非ともお薦めしたい、大傑作本である。
よって、今回の本ブログにおける【読書メモ】として、特に興味惹かれたコンテンツを、「該当の図表番号」から適宜抜粋、僕自身のリマークもつけて以下に要約しおきたい。
パチオリ図とは、会計史上の巨人ルカ=パチオリに始まる複式簿記方式からおいた総称。
本箇所こそが、本書を読みぬくための最も根本的な、そして究極のコンセプトといえようか。
本箇所における総覧図が、B/S(貸借対照表:バランスシート) と P/L(損益計算書) の対照性および連関性を直感的に明示。
かつ両者の内訳、つまりB/Sにおける「資産」と「負債」と「純資産」の対置、またP/Lにおける「費用」と「収益」の対置を記す。
さらに、B/SにおけるC/F(キャッシュフロー計算書)とS/S(株主資本等変動計算書)の意義付けも略記。
※ 一応、僕なりに基本用語を付記しおく。
企業会計には、外部報告を目的とする財務会計と、企業内部の経営管理や報告のための管理会計があり、本書の対象範囲はあくまで財務会計である。
※※ たいていの複式簿記の参考書類は、おおむね、上記の「資産」「負債」「純資産」「費用」「収益」を別個の勘定として複式にエントリー…と概説されている、が、本書の方が全体における意義付けを理解しやすい。
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図表番号「05」 二つの利益の計算法
決算における会計方法に、「財産法」と「損益法」があり、これらが連関している由を本箇所にて明記。
財産法とは、B/S(貸借対照表)は企業の決算日におけるストックからアプローチし、資産-負債の計算にて当期純利益を算出するもの。
一方、損益法とは、P/L(損益計算書)にて企業の通年経営フローにおける期間損益としてアプローチし、収益-費用から当期純利益を出す。
この両アプローチによる当期純利益が同じ額面となること、明示的にわかる。
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図表番号「07」 損益計算書P/L
この箇所では、P/Lにおける期間損益計算の論拠として、売上時の「発生主義」をとる由、また(パチオリ図のとおりに)「勘定式」として表すケースと、各売上アカウントの収益ごとに費用を縦下に列記する「報告式」での表現ケースがある旨を概説。
※ ここにて概説のとおり、実際のP/Lでは「報告式」をとるものが多く、損益計算書づくりや分析において意外に悩ましいものである。
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図表番号「13」 会社の活動と経理の業務
本箇所は経理部門の担当者であれば暗記必須。
B/Sにおける資産、負債、純資産それぞれ、そしてP/Lにおける費用と収益それぞれの管理業務につき、総覧明示している。
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図表番号「16」 ダブル・エントリー・システム
図表番号「17」 ダブル・エントリー(仕分)の基本パターン
この2箇所の図表こそは、パチオリに始まったアカウントごとの増加/減少の二面的記録=すなわち複式簿記の表現エッセンスそのもの。
これらこそが観念理解において最も重要な図表である。
B/Sにおける資産とP/Lにおける費用では、左側がプラスとしてのエントリーで右側がマイナスとしてのエントリー。
その一方で、B/Sにおける負債と純資産、およびP/Lにおける収益においては、逆に左側がマイナス、右側がプラスとしてのエントリーとなる。
実際に図表「17」にては ─ 資産の増加ないし減少のパターン、借金のパターン、出資のパターン、売上のパターン、負債交換のパターン、借金返済のパターン、費用発生のパターン、掛仕入のパターンのそれぞれを、B/SとP/Lの総覧図におけるプラスとマイナスのエントリーにて表現。
これほどわかりやすい総覧図は他に目にしたことがない。
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図表番号「22」 売上原価
図表番号「23」 製造業の原価計算
この2箇所はB/SとP/Lの連関を理解する上でとくに重要である。
商品の売上原価つまり費用の計算方式として、とくに「期首繰越」、「今期仕入高」、「期末繰越(在庫)」ごとに充当される売上原価を分けて計算する由。
ここで繰越商品はあくまでB/Sにおける資産計上されているが、実際の仕入→売上の分はP/Lにおける売上原価となる由を理解必須、この期末の資産/売上原価の調整が事業者の誰しもが関わる棚卸である。
とくに製造業の場合、材料、仕掛品、製品とさらに分けてB/Sにて資産計上しおく。
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図表番号「28」 減価償却とは
本箇所にて、減価償却もB/Sにおける資産とP/Lにおける費用を連関させる、経理上の手続きである由を概説。
複数年使用が見込まれる設備などの固定資産を、P/Lにおける費用として最初から過大に計上すると、P/Lの収益が減ること必定、そうなると株主への適正配当も出来なくなる、との見方。
よってその固定資産の取得減価、耐用年数、最終使用時の残存価値までを定義し、B/Sにおける資産から徐々にP/Lにおける費用(と累計額)で提示する由。
※ 減価償却の基本概念については。社会科(とくに政経科)にて国民所得計算の一環として学ぶ、が、そもそも会計上の意義については意外に了察されていない節がある。
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図表「31」 税金
ここでは、法人税申告における課税所得計上のテクニックを記している。
要は、P/Lの左側において期末時点での損金が如何に大きく、右側における収益が如何に少ないか、よって課税所得がどれだけ少ない「はず」かを記す方法論外説。
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図表「38」 利益の動きをパチオリ利益図で分析する
図表「39」 パチオリ利益図で見る黒字と赤字の分岐点
図表「40」 利益計画に必要な利益の逆算思考
図表「41」 利益ツリーでみる単価のインパクト
この4つの図表にては、P/Lにおいて固定費をにらみつつ限界利幅率、そして損益分岐点上の売上目標額をまず定義し、さらに商品単価と数量の最適分析へと進む。
パッと見ると幾つもの数式が列記されているが、実際は中学生でも解るほどの単純な数学計算であること一目瞭然。
<注記>
もちろん、こんな程度の内向きの計算で、企業の新規開発能力や未来の財貨や市場関係がわかるわけがない。
本書はあくまで会計の概説書として了察すべきであり、さらに中盤部から後半部にかけて記された戦略分析論にしても同じことである。
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※ 念のため、財務会計について制度上の一般論を「僕なりに」付記しおく。
・金融証券取引法にて、証券市場における資金提供者(=投資者)の意思決定便宜つまり証券市場効率向上のため、上場企業に対して有価証券報告書の毎期開示を要求。
ここに財務諸表が含まれなければならない。
財務諸表は「財務諸表規則」と略称される内閣府令、「企業会計原則」、「企業会計基準」に従って作成必須。
そして公認会計士または監査法人の監査証明を受けねばならない。
・会社法(2005年に商法から独立分離)では、倒産時の財産剰余金が(有限責任制度に守られる)株主へ過大配当されないよう、株主への分配可能額を規定し、会社の財産にのみ頼るしかない債権者の権利を守っている。
かつ会社法は経営者に対し、株主より受託の資金の運用能力を明示させるため、「会社計算規則」に則った貸借対照表や損益計算書など計算書類の会計報告責任(アカウンタビリティ)を課している。
これによって、株主は経営者に対する業務委託継続の是非判断が可能。
・法人税法では、株主総会によって確定された会社の損益計算書における当期利益をおおむね基礎として、課税所得を算定(確定決算主義)。
このため会社の財務会計もむしろこの算定を意識してなされている。
さらに、法規制枠外としても海外向け英文財務諸表や環境・社会的貢献(CSR)を明示する財務会計もある。
以上