「ねえ、先生。ちょっとお願いがあるんですけど」
「んー?なんだ?」
「千里眼の手品をやって見せて。出来るんでしょう、先生」
「うーん…いいよ、じゃあ、ほんのちょっとだけ。そら、そこに一組のトランプカードがあるね。それを適当にくってごらん」
「はい……、えーと、こんなもんでいいですか?」
「ああ、それでいい。じゃあ、それらのカードを俺に見せないまま、君のお気に入りを1枚だけ取り出して、そのまま伏せておけ」
「…ハイ」
「よし、そのカードを当ててみせよう。ハートのQだ」
「あっ!当たり!へぇーーー、どうやって当てたんですか?」
「透視したんだよ。どうだ、驚いただろう」
「…ねえ、もう1回やって見せて」
「よーし、じゃあ今度は3枚でやってみよう。さあ、カードをくって」
「ハイ」
「そこからお気に入りのカードを3枚取り出し、伏せてそこに並べてごらん…よーし、全部当てるぞ、スペードの7、ダイヤの4、ハートのA」
「わーーっ、全部当たり!先生、また透視したんですね。ふーーーん」
「このとおり、百発百中だ。見えないはずのものが、見えてしまう」
「ふーーーーーん」
「あははは、どうだ、面白いだろう。もちろんトリックだ、種は明かせないけどね」
「いーえ、トリックなんかじゃないわ。あたし、分かったんです!先生は本当に千里眼を使ったんですね。だからカードの数字を見抜けるんですね。百万回でも、百億回でも!」
「なんだとっ?どうしてそんなことが君に言えるんだ?」
「どうしても」
「あっ!やっぱり、君は!」
「そうよ、そのとおり。ふふっ、とっくに分かっていたくせに」
「おいっ!君はその能力で、何をしでかすつもりだ?!」
「ふふふっ、それも分かってるくせに~ ♪」
おわり
『図解・眠れなくなるほど面白い物理の話 長澤光晴・著 日本文芸社』
本書については、一種の科学ミニ知識本の類と評することも出来よう、わずか100頁あまりの薄手のつくりにて、実例として呈される物理現象や製品技術も50例程度に留められている。
しかしながら、本書はなんといっても図解がいい ─ そもそも理科(と数学)は右脳的な学術、ゆえにまずは図解=視覚的な直観と全体観ありき、その全体観あってこその記号表現、記号表現あってこその言語表現であり、一方で言語表現のシーケンシャルな連続のみでは全体観は導けぬもの。
本書記載のコンテンツにしても、たとえば飛行機やドローンやロケットについては熱学、力学、流体の複合センス、またカメラや顕微鏡や虹においては光学や波動の縦横無尽な図形センスなどを求めている。
これらをはじめ様々なコンセプト図解や基本数式は、けして初歩的なレベルのものばかりではないが、それでもこれらへの直観的なチャレンジこそが、物理学に対する全体観も触発しえよう。
むしろここから高校教科書などの段階的な分析計算に降り立ってゆけば、洞察力も格段に深まるのでは ─ と、素人たる僕なりに察する次第。
※ じっさい、本書は初版の時点では文面記述に重きをおいていたが、此度紹介の2016年版にては図案を大幅に起用した由である。
さて、以下に僕なりの『読書メモ」としてまとめおくが、とくに電磁気学の関係に絞ってごく一部を引用紹介することにした (恥ずかしながら力学、流体、波動や三角関数などについては僕は直観がどうも起動しない、だからといって僕が馬鹿なのではなく、まあ知的相性というものだろう、それらはまた別途)。
<誘導加熱>
そもそも電磁誘導は、外部からの磁束に対して金属が逆向き渦電流の磁束を作って抗する現象、ここで電気抵抗の大きな金属ほど発熱も大きくなる。
(本書ではいちいち注記していないが、むろんこれは電流の2乗と電気抵抗による電力=ジュール熱の関係。)
この発熱方式が誘導加熱で、この誘導加熱型(inductive heating = IH) の電磁調理器ではプレート下の電磁石に交流電流を流し、磁力線の向きをN/S極に周期的に反転させている。
熱エネルギー変換効率は、誘導加熱型の調理器の方が通常の電熱器より高く、また、一般の商用周波数を起用する低周波方式型よりも、20~60 kHz 交流電流を使う高周波方式のタイプがさらに高い。
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<熱サイクルと冷蔵庫>
家庭用に普及している冷蔵庫は、冷媒物質を内部で熱循環させ、機構内部の温度を下げている。
この熱循環は、常温気体である冷媒物質(かつてはフロン、現在はイソブタンなど)を圧縮して沸点を上昇させ=液化させて、その液体を放熱させ、また圧力を下げその液体の沸点を下げ=気化させ、この気化のさいに周辺から吸熱して機構を冷やす、というプロセス循環である。
なお、冷蔵庫の一般使用にては、この冷媒循環タイプにおける冷媒気体の圧縮コンプレッサの振動や音が永らく課題であったが、これに代わって、冷媒を用いずに、ペルティエ効果の熱移動特性を有する電子素子を活用した冷蔵庫が、開発され商品化も進んでいる。
ペルティエ効果の電子素子とは、半導体の接合点に電流が流れると一方の接合点における吸熱を他方の接合点で放出するという特性構造のもので、これによる熱移動と熱サイクルの効率向上が更に追求され続けている。
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<赤外線>
電化製品のリモコンは、0.5 ~ 1.2 mm/秒長の赤外線による、on/off デジタル信号の送受信システムである。
ただし、この信号そのものが記号コードや文字コードを成すのではなく、on/off の長短タイミングの組み合わせで 0/1 を2進法ビット送受信している (モールス信号のように)。
赤外線を活用したセンサーは、自動ドアや洗面台の蛇口などで、人間や物質の接近や移動の検知にも応用されている。
この対人および対物検知システムとしては、赤外線センサーには大別して2つの活用方式がある。
1つはパッシヴ型の赤外線センサーで、人体が常時発している赤外線の変化量を常に検出するもの。
もう1つはアクティヴ型で、センサー自身が特定方向に赤外線を発信し、その反射や遮り具合を検出するもの、こちらは赤外線をほとんど発しない冷たい物質であっても検出可能となっている。
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<レイリー散乱>
光がその波長の1/10より小さな粒子と衝突すると、光は散乱するが、この現象をレイリー散乱と称す。
太陽光は様々な波長光(電磁波)の合成であるが、それらが地球大気の主成分である窒素や酸素と衝突し、それでさまざまな波長光のさまざまなレイリー散乱がおこる。
或る光のレイリー散乱の発生角度は、その波長の4乗に反比例し、たとえば波長が長い赤色光よりも波長の短い青色光の方が8倍以上も散乱しやすい。
我々が地上から確認出来る空の色は、太陽光のさまざまな光成分のレイリー散乱、大気の組成物質、その地上との距離、および角度によって決まってくる。
大気の物質(窒素や酸素など)の90%以上は、地上から20km高度の内に高密度で存在しており、したがい太陽光のレイリー散乱もこの高度圏内にて頻度が極めて高い。
しかも青色光ほど散乱しやすいため、地上にいる我々からみれば、空のどの方面も一様に青く見えたりする。
なお、日の出や日没時における地上から見れば、太陽光は高度低いまま長い距離を経て地上に届き、その過程では青色光のみならず緑色光も黄色光も散乱してしまう。
よって、波長の長い(散乱頻度の小さい)赤色光が、一定方向から特に多く我々の目に入ってくる。
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<プラズマとオーロラ>
太陽から来るイオン荷電粒子(プラズマ)は、通常は地磁気のはたらきにより地球からかわされている。
だが、このイオン荷電粒子は磁場の向きによっては一部が地球の磁気圏に入ってしまう。
地球に引き寄せされたそのイオン荷電粒子は、ローレンツ力によって地球の磁力線の周りをぐるぐるらせん軌道を描きつつ落下、そうして高高度の酸素や窒素とぶつかる。
ぶつけられたその酸素や窒素は、エネルギー励起状態から基底状態に戻る過程で固有のスペクトル光を放出、これがオーロラ光と考えられている。
とくに窒素は赤と紫の光を放出、また酸素は赤と緑の光を放出する。
オーロラの発生は、高度100~500km、とくに極地地方に多い。
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<リニアモーターカー>
いわゆるマグレブ(磁気浮上)方式のリニアモーターカーは、車体に超伝導の磁石が搭載されており、いわばこの車体自身が超伝導磁石として駆動走行するシステムとなっている。
なお、この超伝導磁石はN/Sが互い違いに車体に並んでおり、どれも電気極性が一定のままで、N/Sの反転はない。
一方、地上の走行ガイドライン(車体をはさむ構造壁)両サイドには、電磁石が隙間なく連続してコイル状に埋め込まれており、リニアモーターカー車体の(超伝導磁石の)進行にあわせてこのコイル自身が電気極性をN/Sに反転し続け、これがリニアモーターカーの推進力を生みだしている。
さらに、この推進力コイルの上面に、上下一対ずつの浮上・案内コイルが付けられていて、こちらは走行中のリニアモーターカー車体の(超伝導磁石の)誘電によってN極とS極が交互にon/offを繰り返す。
ここで、リニアモーターカーは上側の浮上コイルに引かれつつ、下側の案内コイルによって反発し、浮上状態を保ちながら走行し続ける、とともに、これは左右の走行ガイドラインで常に逆の電気極性をとるため、リニアモーターカーの走行は左右の位置バランスも取られている。
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以上、本書における題材テーマのほんの一端だけを紹介してみた。
むろん、あくまで図解が主の本書であって、たとえばリニアモーターカーなどのダイナミックな技術製品は文面だけで概括することは困難であり、またそうすべきでもない。
むしろ、一般社会人はもとより大学生でも(さらに中高生でも)おのれの物理勘を大いに発動しうるであろう、本書はそのくらい簡素でありつつも、そのくらいフレッシュでスリリングな物理学入門編の一冊たりうるはずだ。