2017/09/06

製鉄の基本

或る本をきっかけとして、製鉄についてごく大雑把にまとめてみたくなった。
高校化学の選択者なら誰もが一度は意識したであろう、鉄と酸素と炭素と温度のかかわり ─ しかしながら、鉄は極めて「業際的」な工業素材である。
よって、製鉄の工程について概ね理解することは、ひとえに化学に留まらぬ意義深い基礎教養たりえよう。
以下にごく簡単にサマライズしてみた。


<酸化鉄>
・約46億年前に地球が生成してから永い間、地球の大気は炭酸ガス、そこでマグマに含まれた鉄はイオンとして水に溶け、海に混じり出した。
鉄イオンは海中の酸素と結び付いて、酸化鉄として海底の岩石を成し、これがそのごに隆起して大陸となったので、酸化鉄である赤鉄鉱(ヘマタイト、Fe2O3の鉱脈をつくった。
赤鉄鉱は現在、露天掘りで大規模に採掘が出来る。

なお、日本列島は火山造成なので、赤鉄鉱はほとんど無いが、火山から噴き出したマグマが風化して、とくに磁性の強い酸化鉄、つまり砂鉄≒磁鉄鉱(マグネタイト、Fe3O4) を成した。
砂鉄鉱は、花崗岩や安山岩として河川に流れ込んできた。

============================

<融点低下・還元>
酸化鉄の鉱石から酸素を分離(還元)するため、炭素を用いる。
炭素を用いるメリットは、燃焼過程で鉄鉱石から酸素を引き離すこと、かつ、鉄鉱石の融点(凝固点)を下げ融解分離を促すこと。
ここまでの工程が、溶鉱炉(高炉)にてなされる銑鉄の摘出つまり製銑である。

溶鉱炉にて、鉄鉱石に炭材(コークスや木炭)と石灰石を混ぜ、約1200℃の高圧熱風を吹き込むと、炭材が燃焼して二酸化炭素を発生、さらに炭材と反応して一酸化炭素となり(ブードワー反応)、鉄鉱石から酸素を奪い還元する。
このブードワー反応は鉄の本来の融点以下で進み、鉄は固体のままでも還元が始まる。
しかも、固体としての鉄は炭素を吸収しやすい構造であり、炭素吸収によって鉄の融点は下がり続ける。
こうして、還元された鉄を溶鉱炉中で液滴として得られ、これが銑鉄である。
銑鉄中の炭素の多くは冷却すれば黒鉛として析出され、銑鉄は鋳型に流し込んで鋳物に出来る。

なお、赤鉄鉱の結晶は、鉄と酸素の原子配列がやや粗いコランダム構造を成し、一方で、磁鉄鉱の結晶はこれらの配列が密なスピネル構造を成す。
よって、赤鉄鉱の方が還元しやすい結晶構造であり、ヨリ低温から還元が始まる。
これら鉄鉱石にはもともとシリカやアルミナなどの脈石が混在しており、上のプロセスで還元中にもこれら脈石は残留し、石灰成分と反応してスラグを成し分離する。

鉄は炭素濃度を4.2%まで増やせば融点が1154℃まで下がる、尤も、これ以上に炭素濃度を増やしても融点は下がらない。

================================

<炭素濃度低減・精錬(製鋼)>
銑鉄や鋳鉄は2~4.5%の炭素と不純物(ケイ素やリンや硫黄など)を含んでおり、このままでは展性や延性に乏しい。
これら銑鉄を加熱し、炭素分離すれば、軟らかくて粘り気あり加工性に優れる「粗鋼」を獲得出来る。
この脱炭による粗鋼獲得の工程プロセスを精錬(製鋼)といい、転炉でなされる。

融解した銑鉄を転炉に入れて生石灰などと混ぜ、高圧で酸素を吹き込んで急速に酸化熱を発生させると、銑鉄から炭素や不純物が分離し、粗鋼が出来る。
炭素が分離されるので、粗鋼は融点が高くなり、鋼塊としても溶鋼としても得られる。

こうした得られた粗鋼が、圧延や外延の加工プロセス以降に回される。
ここで分離された不純物もスラグとして固定化される。

※ 転炉における粗鋼の精錬の基本工程は、ベッセマー方式の確立後、根本的には現代まで変わっていない。

=============================

<以上までの、還元~脱炭の反応内訳>

炭材による、酸化鉄鉱石の還元
3Fe2O3 (酸化鉄III) + CO (一酸化炭素) → 2Fe3O4 (酸化鉄III鉄II)+ CO2 (二酸化炭素)
Fe3O4 (酸化鉄III鉄II)+ CO (一酸化炭素) → 3FeO (酸化鉄II) + CO2 (二酸化炭素)
FeO (酸化鉄II) + CO (一酸化炭素) → Fe (鉄) + CO2 (二酸化炭素)

銑鉄の酸化と脱炭による、粗鋼の精錬
Fe (鉄) + 1/2O2 (酸素) → FeO (酸化鉄)
C (銑鉄中の炭素) + FeO (酸化鉄) → Fe (鉄) + CO (一酸化炭素)

以上は鉄鉱石の還元~銑鉄の脱炭反応を段階的に成すフローだが、一気に直接成す反応と工程もある。

============================

<熱間加工・含有炭素量の調整>
そもそも鉄元素は(粗鋼も)、温度によって結晶粒子構造の異なる同素体であり、結晶構造に応じて含有炭素量が以下のように変化する。
912℃以下…α鉄、体心立方格子、粒子間が小さく、炭素は0.02%までしか溶けない。
912~1394℃…γ鉄、面心立方格子、粒子間が大きく、炭素が1.7%まで結合する。
1394℃以上…δ鉄、体心立方格子、粒子間が小さく、炭素は0.1%しか溶けない。

そこで、粗鋼をたとえば以下のように「熱間加工(鍛造)」して、炭素含有量を調整する。
「焼き鈍し」…γ鉄をゆっくり800℃以下まで冷却し、フェライトとセメンタイト(炭化鉄)の交互分離したパーライト層構造とする。
この結果、α鉄は全体としてフェライトの軟らかく粘り強い性質を有す。
「焼き入れ」…γ鉄を水で急速に冷却し、フェライトとセメンタイトのパーライト分離をさせず、炭素が過飽和で粒子の動きにくいマルテンサイト組織状態に導く。
この結果、α鉄は硬いがやや脆い性質を有する。
「焼き戻し」…急冷したγ鉄を、また600℃くらいに熱し、マルテンサイト組織からセメンタイトの小粒子を分離する。
この結果、硬さをやや軟化させつつ粘り気を出すことが出来る。

工業用途としての粗鋼は、実際には以下の炭素含有量にて精錬/製鋼されている。
最硬鋼: 炭素残留量が0.80%以下、硬いが脆い
硬鋼: 炭素残留量が0.50%以下
軟鋼: 炭素残留量が0.35%以下
   特に0.3%以下のものをいわゆる普通鋼と称す
極軟鋼: 炭素残留量が0.12%以下、極めて軟らかく粘り気がある
   特に0.02%以下のものがいわゆる工業用純鉄である

なお、炭素以外の元素を加えた鋼は合金鋼と称す。
たとえば、鋼にクロムとニッケルを混ぜると、これら物質が不動態の酸化被膜をつくり、ステンレス鋼となる。
特殊な性能用途を企図して合成されたものは、特殊鋼と称す。

=============================

※ ところで、銅の融点は1084℃、これは木炭でも十分に実現可能な温度、よって古来から青銅器をつくる際には木炭を用いていたとされる。
この木炭による熱と炭素の古典的技術が、ある時に鉄鉱石の還元へ応用されたことは、想像に難くない。

※※ 粗鋼の精錬(製鋼)には、電気炉による方式もあり、これはスクラップ鉄を素材として、電気放電熱によってそれらから酸素ほか不純物を一気に融解分解するもの。
この電気炉での粗鋼精錬は、高炉による鉄鉱石還元からのプロセスに比べ、概して投入エネルギー量も排出ガスも少なく、粗鋼の炭素量と融点に応じて、高炉方式との使い分けがなされている。

※※※ なお、日本古来の「たたら製鉄」は、たたら炉に砂鉄と木炭を交互に積み上げ、空気で砂鉄を還元させて鉄を取り出すシステム。
ここで得られた鉄が「玉鋼(たまはがね)」であり、炭素は0.9~1.8%以下で、不純物はほとんど含まない高純度の鋼である。

===============================

受験生しょくん、ここまでまとめてやったんだから、あとはてめぇで勉強しろ、興味意欲を高められれば幸いだ。