2022/11/12

リアリティ




先生こんにちは。あたしですよ」
「やぁ、君かね。元気そうだね」
「なんとかやってます…ところで、今日はちょっとご相談が」
「ふん、いったい何事かね?」
「あのぅ、実はですね、或る男性についてのことなんですけど」
「ほぅ?」
「あたし、しばらく以前から一人の男性とお付き合いしてきたんです。なんだか素敵な男性の気がして、だからあたしは真摯にデートを続けてきたつもり」
「へぇ、結構な話じゃないか」」
でもですね、どうも『彼』はあたしに対していつも’フィクション’ばかり演じているようで、’リアリティ’が感じられないんです。これって、あたし自身の’リアリティ’に対する不誠実でしょう。だからあたしは『彼』を避けるようになって」
「ほぅ?’フィクション’と’リアリティ’かね。それからどうした?」
「それが、そのぅ、なんとも不思議なことに気づいてしまって」
「なにを?どんなふうに?」
「あたしは『彼』の’フィクション’を避けてきたつもりだったのに…その一方でですね、あたし自身の’リアリティ’は本当は『彼』の’フィクション’を求めているんだってことに気づいてしまったんです。これっておかしなことではないですか?」
「はっはははは、何もおかしなことはないよ」
「そうでしょうか?」
「そうだよ ─ ちょっと例え話をしよう。迷信に科学が挑むように、因習に法理が挑むように、はたまた横領に会計が挑むように、あらゆる’フィクション’には相応の’リアリティ’が呼応しぶつかりあっていくんだ。分かるか?」
「ははぁ…?」
「したがって、『彼』の’フィクション’はどうしたって君なりの’リアリティ’を惹きつけてしまう。ほら、よく言うだろう、別れは出会いの始めなり、イヤよイヤよは好きのうち、恋愛のイオンとはこういうもの。そういうわけで、君は何ら不思議がることはないんだ」
「…なーるほど。なんだかバカみたいにも聞こえますが、一応は分かりました」
「分かればよろしい ─ それで、その『彼』は現在はどうしているのかな?」
「はぁ、つい先日、◎◎◎銀河系の××惑星に向かって飛び立って行ったようです。資源探査の仕事だとか言って」
「何だって?◎◎◎銀河系?いーや、そんな銀河団は聞いたことがないなあ」
「そこなんですよ、あたしなりの’リアリティ’が『彼』の’フィクション’にどんどん惹きつけられてしまうのは」
「ふふん。それで、いよいよ『彼』の’リアリティ’と対峙することになったら、君はどうするつもりだ?」
「どうするって?もちろん、あたしなりの’フィクション’をぶっつけ返してやりますよ。あたしは☆☆☆銀河星雲の△△△星人だとか言ってやるつもり」
「こらっ!冗談にもほどがあるぞ!俺こそが△△△星人だ!」
「ふふふっ、先生こそ冗談ばっかし。ふふふふふっ」



おわり

※ ちょっとひねくれたラノベのつもり。こういうの落語のネタにならないもんかな。