2026/01/21

2026年 大学入試共通テストについての所感

これまでどおり、センター試験でも共通テストにても社会科に注目してみる。
とりわけ、政治経済と世界史である。

(A) もとより理科であれば、主題は物質であり作用反作用であり次元であって、これらが’要素’と’全体系’として精密に編み込まれている。
しかし一方で、社会科の主題はたとえば「効用」であり「価値」であり「生産」であり「富」であり「権利」であり「責任」であり「カネ」であり「税」であり、さらに「民族」や「国民」などなど…、どれもこれもあくまで観念として学ぶため、何となにが’要素’でありどういう’系’を成しておるのかを総括できない。
それでいて、社会科では組織論や手続き論がおそろしく多いのである。

だから社会科にては、難易度は情報のバラツキと情報量に大いに拠ってしまう。


(B) じっさい、此度は例年以上に設問上の情報量の多さが非難されているようだが、ここのところ僕なりに敢えて評してみる。
①まず全体像としての図案や資料を呈した上で、②各論を演繹させる ─ この①→②の設問構成ならば、制限時間内の選抜試験としてやむなしか。
(或いは穿った見方をすれば、受験者にあらかじめ全体像を提示しておき、これを存分に読み込ませた上でこの試験に挑ませたらどうか。功罪はさておき。)

しかし ②→①として各論の検証から全体像を帰納させるものは、さまざま全体像をいちいち想定しつつ再検証が必要ゆえ、制限時間内での正答は未成年には酷だろう。
こうなると試験よりもむしろ自由研究課題に適しているような気もするし、そうであれば未成年たちも喜んで挑みうるであろうし、社会科の探偵や探検家を自称する教師たちも微笑むかもしれない。


(C) なお此度の出題にては、全体像と各論の精密な(過不足の無い)整合を質すタイプの設問も少なからず見られたが、この論理力のチャレンジにとくに限ってみれば、むしろ凡庸な知識正誤問題よりもずっと思考純度が問われ、よって此度の設問量の多さは却って好ましい傾向とはいえまいか。
こんな論理思考パズルの類が社会科のテストといえるのか ─ そういう批判もありえようが、社会科における主題そのものがどうしても観念に留まってしまうのだから、論理パズル大いに結構ではないかな。

(文系あがりの僕なりに体験談に則っていえば、文系職はどうしたって物質やエネルギーなどに拘束されぬ論理パズルだらけになってしまうのだ。政党や議会や為替相場や株式を見てりゃ分かるだろははははは。)


僕なりの総括的な講評はざっと以上のとおり。

ともあれ、僕なりに注目した出題について以下にちらっと注記してみた。


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【公共、 政治・経済】

第1問
問2
GDPも付加価値も生産性もすべてカネ勘定の表現であること(だから現実そのものとは限らないこと)、言わずもがな。

第3問
問1
輸入関税/数量制限の政策にて、選択肢アとイおよび選択肢ウとエのどれもが正論ではあり、論理力と連想力をともに問うちょっとした良問である。

問2
最恵国待遇について。選択肢4は真意が不明瞭だが、植民地の国内経済のようにも映る。

問3
生産とサービスの峻別を問うている。カネ換算のみでは捉えられない産業の本質論。

問5
紛争に際しての付託機関と、そこでのネガティヴコンセンサス ━ これら論理上の近似を質しているのだろうが、しかし同一とは見做せず、逆にいえば論理上の不一致も指摘出来るわけで、これは設問としておかしい。


第4問
問2
持株会社解禁とデフレ(とその脱却)、これらの因/果の有無を総括的に理解出来るだろうかと質しているのか。尤もこれらが現在まで何をもたらしているのか、引用メモなどで触れるべきではないか。
なお、独禁法の基本概念については社会科の最重要テーマになると、僕なりに数年前から指摘してきたが、やっぱり問われているね。

問6
選択肢ア、イ、ウ、エのどれもが違憲審査の積極論ないし慎重論を述べており、一応は正論 ─ とすれば良問ではある。尤も選択肢イにおける多数派/少数派の議論が本問の論題に完全に合致しているかどうか疑問は残る。


第5問
問2
水道事業の広域化による維持管理費用の逓減を、スケールメリットの典型例として論じているが、これらが中山間地にては有効と見なされない理由も論じるべきであろう。
※ あらゆる事象の効用は必ず比較対象を伴って論じられなければならぬ。

問5
誰の如何なる損得かをまず判別させた上で、応益負担と応能負担について質し、しかも(対数量の)価格弾力性も突いている。これぞ経済学の典型的な大良問だ。こういう学術的な出題をどかどか増やすべきだ。


第6問
問4
いわゆるSDGsにて、いわゆるジェンダー平等が何をどう関わっているのか。全く意味不明。ダメだこんな設問は。


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【歴史総合・世界史探求】

第1問
問5
農業国インドネシア「が」工業国オランダ「から」輸入した「農産品」を、特定できるだろうか。難問だ。

問7
もともと中継貿易港だった香港が、朝鮮戦争きっかけに対中貿易が途絶えたため、労働集約型の工業に移行した由、かなり良い歴史資料である。


第2問
設問B
ここは中世ヨーロッパの三圃性輪作を主題に据えており、「誰が」「どこに」居住し「何を」耕作し「誰が」支配し「誰が」貢納していたのか、総括理解を質すちょっとした良問だ。
農具進歩と貨幣普及と十字軍と自由都市まで連関させ、大問として出題すれば面白かったろう。

設問C
ここに呈されたパネルはイスラーム法学の一端といえ、刑法のみならず民法にてもアッラーの見識が大前提に据えられていること読みとれる。断片的な引用に留まっているのが惜しい。


第3問
設問A
本箇所は家父長制に触れている ─ が、ヨリ広範に捉えれば民法上の直系血族と婚姻の論題にも行き着く論題でありうる。直系血族の優先は古典民法典からナポレオン法典でまで変わらない人類共通の鉄則であったが、ただしナポレオン法典にては婚姻は夫婦間の契約とも見なされた。
(とはいえ嫡出子と非嫡出子には差別が残り、これが一応解決したとされるのは1970年代に入ってから。)


第4問
問6
社会科における最大の難題だ。そもそも民族とは?国家とは?ナショナリズムとは?これらは人類普遍でありつつも、概念であって実体ではない。だから構造としても要素としても定義しようがない。極論すれば古代人でもナショナリズムのたぐいは抱いていたといえよう。


第5問
問3
国家(領邦)間の分立が相互の保護関税を正当化しているのか、あるいは相互の保護関税あってこその国家分立なのか、誰もが利益を得うるのかあるいは損失を被ろのか…政治経済にもフィットする実践的な論題であり、だから良問といえる。小問に留まっているのが実に惜しい。

問4
イギリス植民地帝国の瓦解、ブレトンウッズ体制と米ドル支配、IMF、GATT、まとめて理解すれば本問はたやすい。

問5
選択肢1,2,3,4も引用元メモも、すべて税制による商取引の損得を語っているはず。たとえ関税でもだ。よってこれらは正誤判別しようがない。