「んー?…ああ、本当だ」
「あたし、あの南の方角にね、人魚姫の星座を作ってみたよ!」
「ははははは、それはおもしろいな」
「でも……」
「ん?どうした?」
「ねえ先生、星の光は、はるか遠い彼方から届いているんでしょう?」
「そうだよ」
「それじゃあ、あたしたちが見ている星座は、すでに過去の輝きなんですね」
「まあ、そういうことになるね」
「あたしの人魚姫の星座も、本当はもう存在していないのかも ─ ああ、王子さまに巡り合うこともなく消え去ってしまったのね…」
「おい、ちょっと待て。そんなふうに考えたら、星座の物語なんかみんな遠い過去の哀愁に過ぎないってことになるよ。ねえ、もっと大きな視野で楽しく捉えてみよう」
「どんなふうに?」
「たとえば、僕たちがね、遥か数万年もの未来世界の人間であると想像するんだよ」
「それで?」
「そうしたら、ぜんぜん違う角度から、ぜんぜん違う星座を眺めていることになるじゃないか」
「ふーーん。そういえば、そうかも」
「うむ。そこでは、もっと綺麗な人魚姫の星座が天上に輝き、そのすぐ傍らには、王子さまの星座が寄り添って微笑んでいる、かもしれないよ」
「へぇー、先生って意外にオシャレなこと言うんですねー…。あぁ、あたしも、そんな遠い未来の世界に行ってみたい」
「ははははは、そうだな……。さぁ!君はもう自分の部屋に帰れ。明日からいよいよ地球への帰路に就く。出発時間に遅れたら一大事だぞ」
「分かってます。でも、どうせまたロケットの中で500年も人工冬眠するんだから、せめていまのうちに星空をたくさん眺めておきたいなぁ……」
おわり