2021/06/19

慶應 環境情報学部の英語

まずあらかじめ念押ししておく。
早慶学部の入試英文解釈は、ちょっとばかし頭を使わせるとはいえ、高校生諸君が常日頃から挑んでいる本格的な現代文論説に比べれば「へっ?」と拍子抜けするほどに易しいんだぜ、日本語訳を読んでみなさいって。
たかが大学入試において、英文解釈が数学や現代文より難解なわけがねぇんだ。

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あらためて、早慶大学入試の英文の特色をざっとまとめると;
 理科や社会科に準じてややテクニカルな単語が頻出されるが、それらの単語の組み合わせが文脈真意をかなり類推出来、よって文脈真意の特定も可能
 名詞と動詞においてとくに抽象的な用法が多いため、各文面において抽象と具体および主体と客体を判然とし難く、よって文脈真意の特定どころか類推すらも難しい

とくに早稲田のほとんどの出題英文にあたっては、のみ克服すれば力技で文脈を捕捉出来る。
テクニカルな単語で占められている人間科学部の英文でも読みぬける。
しかし理工学部の場合ははむろんのことも克服が必要。
まして慶應SFCや文ともなるとのウェイトがともにかなり大きいので、テクニカルな単語のみならず抽象的な議論にもかなり慣れておく必要がある。
(京大の英語などが、分量は少ないとはいえ適当な練習台になるかもしれない。)

ここで逆説的に聞こえるかもしれないが、においてどれだけ抽象度が高い英文であっても、実は文面が長ければ長いほど(しつこければしつこいほど)のテクニカルな単語も多く顔を出すので、文脈の真意についてあれこれと類推しやすく特定もしやすい。
しかし実際には、試験時間の都合上、かつ大学入試におけるボキャブラリの制限上(せいぜい6000語程度)、むしろ文面は短くまた大雑把過ぎるといえ、ゆえに真意を捉え難いものである。

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さて、今回は慶應SFCのうち環境情報学部の出題英文について、上述に則りつつ、やや読解難度の高い箇所における単語に絞ってピンポイント的に指摘してみることとする。
※ 本当はもうこんなこと続けたくなかったのだが、ろくすっぽ考えもせず考える頭も無いくせに薄っぺらのぺらっぺらな解説したり顔の英語教育関係者を散見したので、どうにも腹が立ってきて、僕なりの良心を発動させつつ以下に記す。

【2021-I】
  • 全文にて: 'businesses' と 'educations' 、'tax (cuts)' と'funding' の関係、誰による誰のためのいかなる損得を語っているのか。
  • 第4段落: 'Recent tax cuts did not cause the state teacher strikes.' の意味。
  • 'state and local governments' は誰を指すのか
  • 第5段落: 'families in the lowest quartile of the socio-economic spectrum'
  • 第8段落: '... the quest for education is itself leading to rising inequality and a $1.3 trillion student debt pile.'
  • '...unskilled, low-paid workers cannot drive growth in an economy dominated by consumer spending ...' (本箇所の意味が分かれば本テキストの論旨もほぼ掴めたといっていい。
【2021-II】
  • 第1段落:'... corporate leaders are recognising a growing crisis of trust with the public that requires more aggressive self regulation.' ここでの'trust'は誰の誰に対するものか。
  • 第2段落:These (corporate) executives are working ... ,  the ways to drive cultural changes within organisations that pride themselves on their willingness to "move fast and break things.'  この文にて 'cultural changes'と'pride'のかかわりは?さらっと読めば名詞や時制からすぐに分かるが、ブツ切りにするとしばし戸惑う。慶應SFCらしい英文。
  • 第3段落:'accountabiity for harmful products often happens at the (corporate) executive level ...' この'accountability'の主旨。
  • 第8段落:'sensitiity toward unintended impacts (by their products)' , 'contextual intelligence and credibility'  この両者の近似的意味。
  • 第10段落:'celebrate a new product or feature launch'
  • 'Employees have a keen sense of what is valued in an organisation.' ここでの'value'の意味が分かれば、本段落で'hard incentives'に対比して呈されている'soft incentives'の真意も掴めよう。
【2021-III】
  • 全文通じて : 'attention' の真意を類推→特定させるもの。とくに冒頭では'attention economy'とあり、この'attention'が人間の主体的行為を指すのかそれとも何らかの特性を指しているのか、さらに、特定の効用を意図した機能属性かそれとも人間の自然的能力か…などなど、最初の2段落まではちょっと惑わせる。文学部の出題文にも似ている。
  • 第3段落:'However, conceiving of attention as a resource misses the fact that attention is not Just useful.' ここでまず'resource'でピンとこないと。
  • 更に、'"Instrumentally" attending is important, sure. But we also have the capacity to attend in a more "exploratory" way ... without any particular agenda.' ハイここでの対比が理解出来れば本テキストは大半が分かったも同然。
  • 第6段落:'As well as attention-as-resource, it's important that we retain a clear sense of attention-as-experience.' ここまでで'attention'として何と何を峻別しているのかがほぼ分かるだろう。
以降、本テキストは早稲田理工の英文のように退屈な分析や例示がしばらく続くが、ともかくも如何なる'attention --- 'の対比がなされているか分かっただろ。我慢して読み抜くことだね。


(2020年版につづく)

2021/06/12

ドリームトリッパー


高校時代のことである。
僕は或る女性数学教師にほのかな恋心を抱いていた。
もともと、我が校はとびっきりの美人女性ばかりを採用することで都内はむろん全国的にも広く名を馳せており、だから数学担当の彼女でさえも容貌の偏差値は超一級。
容貌のみならず、知的な所作と端正な佇まい、季節に応じた上品かつ甘美なフレグランス、彼女とすれ違うたびに僕はため息ばかり…。

一方でこの僕はといえば、有能でも有望でもないつまらない高校生に過ぎなかったのである。

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さて或る日のこと、僕はなんとも不思議な夢を見た。
この僕が自身の夢において、あろうことか「彼女の夢世界」に跳び込んで行ったのである。
いわゆる「夢跳び」現象が起こったのだ!

この「夢跳び」についてはうまく定義しきれるものではない。
だがあえて例示的にいえば ─ 仮に彼女を絵具のパレットに例えれば僕はほんの微かな色の雫であり、彼女を楽譜とすれば僕は一介の音符のごときであり、彼女が磁界を成すならば僕は一欠片の電荷電子とも言えようか…
まあ、そんなようなもので。

うむ、そうだ、ここはあくまでも夢の夢だ ─ 夢の、夢による、夢のための夢なのだ、だから何をしたっていいんだ。
よーし、それなら思いっきり大胆に。
夢世界ゆえにこそ、文字通りの傍若無人、影も日向も縦横無尽、彼方此方の追跡劇、バカな真似はやめなさいと金切り声を発する彼女、ダメだダメだバカな僕を静止することは出来ないのだと大声で威圧、やめさないっ、いーややめない、もうやめてよっ、やめないよ、そして、そして、うむ、そうだ、僕はいまや彼女の眼前にぐんぐんと迫り…。

ざっと、こんなふうな夢の夢。
さあ今回はこのくらいで勘弁してあげる、でも次は結婚することになるんだ、覚悟を決めておくんだよ先生、ざっとそんなふうに言いおきて、僕は彼女の夢世界をあとにした……

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ふっと、目覚めた。
おやと僕は顔を挙げ、そこが学校の教室であり、眼前の机の上にものすごい点数の数学の答案が置かれているのを見とめていた。
僕自身の答案用紙。
「どうしたの?ぼやーっとして」
そこに彼女が立っていた。
僕は心底から仰天してしまった 「あのぅ ─ ぼ、ぼ、僕はいま何をしているのでしょうか?」
「何を言っているの?!」と彼女の厳しい語調が教室内に響いた。
「いったいどういうつもりなの、そんな点数で!」
「…ハイ、すいません」
「反省しているのなら、すぐに復習にとりかかりなさい」


バカ丸出しの我が答案を何とか修正し、やっと仕上げて提出した。
そして彼女は無言で教室を立ち去りかけた。
追いすがるような気持ちに駆られつつ、僕は声をかけていた。
「あのう、先生、ひとつ質問があるのですが」
「何かしら?」
「えーとですね、夢についてのことなんですけど」
「…?」
「夢には意味があるのでしょうか?それとも、意味など無いのでしょうか?」
彼女がすっと立ち止まり、こちらに振り返った。
「面白い質問ね。さぁ、君はどっちだと思う?」
僕はドキッとしたが、それでも虚勢を張って続けていた。
「じつは、僕はさっき、ほんの一瞬だけすっごくヘンな夢を見たんですよ」
「…」
「だけど、夢というものはあくまでもほんの一瞬の出来事に過ぎず、何も記録のしようがないので、さっきの夢にもなんら意味は無いのだと」
「それは違うわよ」
びしっと言い放つと、彼女はこちらに正対してキッと僕を凝視した。
あっ!
僕はやにわに喉がカラッカラになった。
「夢というものは、物理的にはほんの一瞬の現象ではあっても、数学としては確かに時間経過を定義出来るの。だから君にとって意味が有るのよ。そしてあたしにとっても」
「……!!」

そうか!分かったぞ、と僕は懸命に自己に言い聞かせていた。
いまこの時この処も『彼女の夢世界』だ!夢の続きなんだ!いくら彼女が思念操作をしようとも、僕が思念において怯えようとも、そんなものは人間ごとでしかないんだ。現象としては一瞬なんだ、一瞬だ一瞬だ、さぁ早く終われ今すぐに終われ!
「いいえ終わらないわ、終わらせてたまるかっ、あんたはガキの分際であたしに対して罪を犯したのよっ、数多くの罪をっ。しかも全く反省の念が無いっ」
とつぜん、僕は身体が動かなくなった ─ 僕は微分方程式に閉じ込められてしまったんだ!
「ごめんなさい!反省しています!ここから出して下さい!逃がして下さい!」
僕は泣き声をあげていた。
「ダメよ。これからしばらくの間、あんたには『ここで』罪を償ってもらわないと」
「しばらくの間って、ど、ど、どのくらいの時間ですか…?」
「それはあたしの思念が決めることよ」

品の良い初夏の芳香がちょっと感じられ、それは確かに彼女の香水の匂いであったのでほんの一瞬だけ気休めにはなったが、そのうちに何の匂いなのか分からなくなっていった…。



※ もっと描写を膨らませて、なんとかラノベの題材に出来ないものかな。