2023/07/10

【読書メモ】 「スピン」とは何か

 或る物質や物体が「いかなるもの」であり「いかに実在し運動しているか」、その実在をギリギリ定量化して突き詰めてゆく思考方式が物理学であろう。

その物理学の考察対象としてとりわけスリリングなものが、原子(核)とは別個に電子が独自に有する角運動量つまり「スピン」量ではなかろうか。
おりしも僕なりに高校物理のサポートに協力していることもあり、ちょっとした物理ファン精神も図々しく頭をもたげつつある昨今ではあり、それで此度はやや背伸びをして本書に挑んでみることにした。
『「スピン」とは何か 村上洋一 編著 講談社Blue Backs
サブタイトルは「量子の世界をみる方法」とある。


本書は 第1章~第2章がおすすめであり、また量子力学の素養として必須コンテンツでもある

第1章「量子力学とスピンが生まれるまで」は、まさに量子力学の総括/略史と位置づけられようか。
光スペクトルの放射と吸収、電磁波、マクスウェル、リュードベリ、ローレンツ力、熱放射と吸収、プランク、放射線崩壊、エネルギー量子仮説、光量子仮説、基底と励起、ラザフォード、ボーア、異常ゼーマン効果、シュテルン=ゲルラッハ実験、磁気モーメント、行列力学、そして波動方程式…
これら学術上の重大タームをさまざま繋いできた先人たちのイマジネーションやインスピレーションの数々、それら絶妙の連関を軽妙に描いた文脈構成がなかなか楽しい。

そして、第2章「スピンの物理」は第1章コンテンツをヨリ学術的に(数理的に)解説深めた論旨展開から成っている。
ゆえに、たとえばモーメントや角運動量などの力学基礎までいったんは掘り返しつつも、P.97におけるエネルギーと量子数の総括箇所こそは本書の最初の集大成とも見做せよう、高校物理をやや超えた内容ながらも知的触発がいい。

とびっきりスリリングに映るのが第7章「スピンが拓く未来社会」であろう。
電流、超電導、もつれ、量子コンピュータなどなどは、どれもこれも次元超越的なイノヴェーションであり、むしろこれら成しうる物質や現象をさまざま想像してこその物理学最先端なのではなかろうか…


※ 但し、本書は文面そのものが総じて要約的であるため、読者としては量子力学まわりの基本知識が必須であろう
エネルギーと運動量はまだしも、これらと電子軌道と量子数などをどう関わらせて理解すればよいのか、とくにパウリの排他法則などあたりから思考次元がヨリ高くまた複合的になる。

本書を読みぬくためには高校教科書のみでは不十分かもしれぬが、しかし高校生諸君~大学生諸君向けに市販されている絶好の参考書類もある。
ひとつは『新・物理入門(駿台文庫)』、もうひとつは『理論物理への同齢(河合出版)』であり、これらにおける最終章(’前期量子論’以降)を基礎教養と弁えて理解しておけばよろしかろう ─ とくに後者のp.218あたりを見れば、電子には原子における「軌道角運動量」の他に別の独自の’スピン’運動量がある由が略記されている。


以上で、此度の僕なりの【読書メモ】は文字撮り簡易なメモにていったんは終わらせる。
しかし此処であらためて足を踏み入れかけた「量子〇〇」まわりの知識教養については、まだまだ読解チャレンジ途中の本も少なからずあり、それらもこんご徐々に紹介してゆきたい。