本書は物質文明論。
随所に指摘するところ、ざっと概括すれば ─
・人類は科学技術~ICT技術とそれら産業化を通じて、さまざま物質のサイズ極大化から極小化まで実現してきた。
・国家サイズや人口密度などいわゆる規模の経済も、さまざま物質~製品のサイズを大いに策定しかつ貢献してきた。
・ヨリ源泉的には、我々人間自身の認識センスもサイズ感の重大な本性たりえる。
・これらさまざまな物質のサイズを物理的に解きほぐせば、形状規模と集積度合いと有限性といった属性に回帰可能、それらの相乗ないし相反についての分析も可能であろう。
…といったところではなかろうか。
なるほど著者自が吐露されているとおり、本書は物質文明についてかなり幅広く論考を進めているため大雑把な論旨に留まってはいるものの、それでも本書のスケール感や果敢さはなかなかのものだ。
『世界の真実は「大きさ」で分かる』とのサブタイトルもけして名前負けしてはいない。
なお、本書前段部にてはハッキリと読み取れぬサイズファクターについても、僕なりにちょっと思いついた。
例えば、さまざま物質の位置エネルギーと、一定の仕事ごとのエントロピー、循環と散逸、これらはサイズとどう関わってくるのか。
そして、工業製品における物質間の「バラつき」や構造上の「冗長性」などとはどう関わってくるのか。
さらに、宇宙全般を遠大にふまえての物質「超連結性」まで論考を無遠慮に拡張するとどうなるだろうか。
一方では、さまざまな’情報’データとそれらの量をどう捉えればよいのか。
野心的な読者としてここいらもそっと留意しつつ本書を読み進めてみるのも一興か。
さて本書ではとくに前半の第1章と第4章にとりあえず着目してみた。
上に僕なりに概括した、さまざまな物質の形状規模・集積度合い・有限性における相乗ないし相反(とくに工業化)につき、これら第1章と第4章こそが端的に指摘していると察せられるためである。
よって、此度の【読書メモ】としては、これら第1章と第4章のコンテンツを総攫いし、以下に要約する。
・物理上の基本的な用語定義としては、物質の長さ、面積、体積、質量、エネルギーなどを(’ベクトル量’ではなく)あくまで’スカラー量’次元で客観表現すべく、さまざまなサイズ表現が起用されている。
・海岸線や国境長など巨大かつ複雑に入り組んだフラクタル構造は、尺度の精度によってサイズがかなり異なってしまう。
・自然界におけるさまざまな生物種は、サイズと形質が左右対称の正規分布(ベルカーブ)をとる。
・さまざまな生命種は身体サイズを大型化することで捕食者への防御力を高めつつ、また自身の食糧の種類も増やしてきた。
大型化は進化であったともいえる。
・しかしながら自然界全体を見渡せば、微生物あってこそ、極めて多様な共生系が成立していることにもなる。
・工業社会にては、我々は製品の精密な画一サイズを予想すればこそ、それら製品の需要と供給が精密かつ高速に一致出来、これが経済成長を進めてきた。
経済成長によって市場サイズが大規模になればこそ、人口が集中し、職種が著しく細分化され、だから多様かつ多大な経路を経ていよいよ大規模に経済発展する ─ はずである。
・利用可能な’エネルギー’サイズこそが、人間の’余力’を大いに高めてきた。
18世紀末、ひとつの水車あたりの出力は16馬力≒12.5kW程度、19世紀なかばにようやく5倍以上になった。
第一次大戦後、内燃機関、蒸気タービン、ガスタービンなど原動機が大型化し、エネルギー出力量が増大。
現在の小型乗用車に搭載されているガソリンエンジンは130馬力≒100kW以上、これがSUVやピックアップトラックだと200~250kW。
大型外洋船タンカーの2ストローク型ディーゼルエンジン出力はとてつもなく巨大で80~90MW。
ボーイング747のジェットエンジンにおけるガスタービン出力も90MW。
現在の発電所における蒸気タービンの最大出力はもっと巨大で1000MW以上。
・自動車や船舶やタービンなど原動機は、むしろ半導体素子の超小型化と相まってこそ、巨大化と製造が可能になってきた。
(コンピュータ~ソフトウェアによる貢献は多大である。)
・1800年時点での高炉と比べ、現在のそれは内容積が60倍に巨大化し、1日あたり鉄鋼生産量は3000倍となった。
※ここでいう鉄鋼は高炉抽出の銑鉄の意か。
・1900年時点での最大の水力発電所と比べ、現在のそれは設備容量≒電力量が600倍以上になっている。
・1900年頃と比べ、現在のアンモニア合成量は1000倍以上に増えた。
このアンモニアによって製造された化学肥料こそが、農産物の収穫量を増やし、また飼料作物の栽培に多大な土地を充てられるようになり、我々は動物性タンパク質を多く摂取可能になってきた。。
※ なおハーバーボッシュ法による空中窒素の捕捉により、生物間を循環する窒素も2倍になっている。
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・実体経済において、工業設備や工業製品が無限大に巨大化(微細化)することはない。
理由は経済効率もさることながら、物理上の制約によるところが大きい。
大型外洋船タンカーのうち、原油タンカーのDWT(載貨重量トン数)は第二次大戦後には2万DWT程度、1959年に10万DWTを超え、70年代初頭に30万DWTを超えたが、1975年に進水のシーワイズジャイアント号56万4763DWTが現在までの最大スケールである。
タンカーの更なる大規模化が放棄されてきた理由は、巨大な重量によって喫水が深くなり過ぎ、パナマ運河やスエズ運河やマラッカ海峡を航行出来なくなってしまうため。
風力発電の大規模化が進まぬ理由も、物理上の制約に大いに因っている。
風力タービンのブレードの素材と形状と厚さを維持しつつ、これらサイズの大型化を図ると、総重量はその3乗に比例して巨大になってしまう。
なんとか技術開発にて素材自体の軽量化を図ってはきたが、全長107mで重量が55tのGE製のタービンブレードがこれまでの最大サイズであり、これ以上のものは製品化されていない。
現在のトランジスタ/マイクロチップの集積度と速度性能は、超微細化の限界にさしかかっている。
CPUの動作周波数は、1994年には100MHz、2004年には3GHzとなったが、消費電力(熱)の微小化が呼応しきれなくなり、そのご5GHzが上限となっている。
フォトリソググラフィ技術による回路図転写により、2020年時点でのトランジスタの線幅はわずか5nmにまで微細化されており、さらに2nmのトランジスタ開発製図も図られてはいるが…
※ 本箇所はとりわけ大雑把な描写に留められておるため、やや真意を捕捉し難くもあるが、マイクロチップ集積化と微細化と電力と熱量の絡みなどは学生諸君には大いに関心を払ってもらいたいところではある。
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以上、僕なりに要約的にまとめてみた。
なお、第2章から第3章では人間工学と入出力情報の相関および建造物の対称性などを論考されているが、ここいらはまたあらためて読み進めていくつもり。
おわり