2012/12/02

生物科のヒント? ─ 海を渡る鷹


たまたま、放送大学講座をテレビで眺めていた。
放送大学の講座の大半は、放送時間枠の都合からか、あくまで一般教養のレベルで既存の学術のフォーマットを概説するに留まり、さほどアカデミックな分析も飛躍もなされぬため概して退屈。
が、中には想像力を存分に刺激してくれるものもある。
そのひとつが、鷹の飛行ルートの研究についての講座。 

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そもそも渡り鳥は、鷹のような大型の猛禽類もふくめて、驚くほどの距離を飛行し(数万キロにも及ぶ)、しかも季節に応じて一定のルートで往復している。
この飛行ルートを研究している分野があり、実践的なスタディが進んでいるという。
さて、ここで、ある鷹に「電子タグ」をつけて、人工衛星経由でその飛行ルートを追跡してみる。
いやぁ、この追跡データは本当に面白い、下手なゲームよりもよっぽど面白い鷹のグレートジャーニーである。

ハチなどを捕食するこの鷹は、飛騨山中から西へ、西へと数日かけて徐々に移動し、やがて九州最西端に到着する。
そして、どういうわけか?この鷹は東シナ海をノンストップで一気に飛行して横切り、中国に入るとまた数日かけて徐々に、徐々にと陸伝い、そうやってミャンマーに入る。
そこでまたまたどうしたわけか、1ヵ月以上そこで滞留しほとんど移動しないらしい。
それでもやがて、鷹は何かを思い立ったのか、タイ、マレーシアと半島伝いに数日かけて南下し、インドネシアまで到達する。

さて、季節が変わる。
この鷹は今度は逆ルートで帰ってくるのだが、(いや、帰ってくるというよりむしろ日本にやってくる、というべきかもしれないが)、このリターンジャーニーのさいにはまた陸地を数日かけて徐々に飛行し、なんとこんどは朝鮮半島北部まで辿りつく。
そこから、また海をノンストップで渡り、九州西端を経て飛騨山中まで飛んでくる。 

もちろん、ここで最大の「謎」は、東シナ海のノンストップの飛行である。
餌場の無い海の上を、いったい何故に超えていくのかということ。

たかが鷹に、どうしてそこまで拘るのか、と思われるかもしれない。
しかし、何しろ人間をはるか超越したその行動距離、その特定の行動パターンであって、これに着目しないほうがどうかしている。
だったら他の渡り鳥でもいいじゃないか、と言われるかもしれないが、でもとりわけ鷹に注目したくなる理由は、鷹が鳥類の中でも図抜けて能力が高い(つまい賢くて強い)から、かつ、群れではなくたった一羽だけでも飛んでいくからである。

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で、ここからが科学的な?想像力の出番である。
いや、むしろ科学というものは実は想像力と実証の連続であろう ─ かもしれないが、科学的な素養などほとんど無い僕であるから、ここでは好き勝手な想像力だけを発揮して記しておく(笑)
ゆえに、この想像力が科学的な触発たりうるかどうかは判らない。
ともあれ、想像力を刺激する疑問点を収斂すると; 

(1) 鷹は何を認識しながら長距離を飛行するのか
(2) 鷹は何を遺伝的に記憶し、それは何を意味しているのか
(3) なぜ、強い個体なのに遠距離を移動する必要があるのか


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(1)については、鷹の体内に磁場のセンサーがあって、きっと太陽や星座の位置を把握し、それで方位が判るのでしょう、とか。
まあいろいろ仮説ないし実証はあるようだが、それは方位認識の説明ではあっても、「なぜわざわざ海を超えて飛行するのか」についての説明にはなっていない。
ハチを捕食する鷹が、なぜ?海を超えて?
なんというか、人間には客観的に捕捉しにくい要素、たとえば餌のハチの微妙なにおい、周波数、などなどを、鷹ははるか海の向こう数百キロ以上も離れて感受し、それで一気に海を超えていくのかな、とも想像可能。
いや、遠距離を直接ではなくとも、他の生物種から間接的にハチの状況を感受していることも想像してみたくなる。
しかし、基本的に一羽だけで行動する鷹が、他の個体や他種の生物からどれだけ影響を受けるのか?
   
なるほど、たかが野良猫でさえも、時間感覚や嗅覚においては人間をはるかに凌ぐ。
ミャオーゥしか喋れないくせに一丁前に縄張りがあって迷子にはならないし、メシの時間を覚えているし、「やさしいお姉さん」と「いやなやつ」の区別が出来ている。
まあ、人間には判らないが、動物は独特の電磁波(脳波も含めて)などを感受しているのは確かなようで。
鷹ほどの生物ともなれば、 気候や気温や磁場に影響されているのかもわからないし、CO2の微妙な濃度差を感受しているのかもしれないし、太陽の黒点の位置などに関係しているのかもしれない。
しかし、だ。
それにしても、一体何故この鷹はインドネシアから更にオーストラリアやインド方面までは飛んでいかないのか。
ヒマラヤ山脈などが、捕食するハチの種の断層となっているのだろうか。
と、なると、むしろハチや他の昆虫種の分布を分析したらどうなるか、と想像力はさらに飛躍する。 


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…という具合に、(1)について実証もなしに本投稿は次に進めちゃうわけだが、ともかく(2)については、もっと多元的に想像力を触発される。 
なにしろ鳥類は恐竜の生き残りだとされるほどの、古いふるい種族なのである。
その「古さ」に着目する。
すると、たとえば日本と大陸がまだ地続きだったころに餌を求めて飛行したその記憶が、この鷹の遺伝子に残っているんじゃないか、と想像が出来る。

いわば、飛ぶ化石のごとし、否、化石どころではない、現に今も生きているんだからね。
事実、化石は放射性同位体の半減期の電子数変化から?その年代記を推定しているらしいが、実際にこの鷹の遺伝子に基づく行動を精密に峻別し、分析し、そこからかつての在り様を逆算出来たらどうなるか。
能ある鷹は爪を隠す、というが、爪や嘴や眼や羽毛が古代から現代までの多くを語ってくれそうな気がする。
そうなると、もう化石の年代記どころではない。

むしろ地球史の宅急便というべきか。
この鷹がはるか遠い祖先から受け継いだ遺伝的な長距離飛行パターンによって、はるか太古の地表の条件、大陸の分布、CO2の量、植生や昆虫の分布や、気候変動の実相や地磁気の変化すらも分かる、かもしれない。
と、いうことは。
これからの地球がどうなるか、磁場がどうなるか、環境や気候がどうなるか、それら将来像もあわせて判るかもしれない、ってことじゃないか。

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…と、ここまでは何だか当たり前っちゃあ当たり前のことばかり書いていて、大した想像力も動員していないのが申し訳ない。
だが (3)についての疑問も、やっぱりありきたりの疑問でまとめてしまうところが、素人というか門外漢の限界なのであって、まあ許して下さいな。

とりあえず、鷹の鷹たるゆえんは、おのおのの個体がとにかく強いので、群れる必要がない、というところ。
であれば、長距離を移動する必要もない、と、とりあえず考えてしまう。 
また、群れないから他の個体と共鳴しあったりする機会も少なく、だからリョコウバトのように群れて長距離を飛んでいくことはないのだろうな、とも思い当たる。

ここですぐに連想してしまうが、人類の祖先であったネアンデルタール人は個体としての腕力があまりに強かったので群れることがほとんど無く、それで環境変化に対応するだけの知性を醸成出来なかった、という。
と、なると。
群れない強者というのは進化における発展形なのか、それとも退化のステージにあるというべきなのか、むしろ判らなくなってくる。
また、強者はすぐに地元のボスに居座れるから、なおさらのこと、遠距離を移動する必要などなかろう、とも考えられる。
が ─ 或いは強いからこそグルメであって、だから海を超えてまで美味しいハチを捕食しに出かけるということはないのだろうか?  
さらに。
鷹は群れない、という観察にしても根本的に間違いで、実は鷹同士の地球規模のチームやネットワークがあるのだが、それがあまりにも広域過ぎるので我々にわからないのかもしれないぞ。 

鷹が適者生存によって、その個体の在り様を太古から変えてないとするのなら、上の(2)も大いにスタディの意味があろうけどね。
でも、もし逆に適者生存ゆえにその行動や姿形を著しく変容させてきたのであれば、鷹といえども所詮は自然界の気まぐれの落とし子でしかなかったということか?
そして絶滅から逃れるために、必死になって試行錯誤を繰り返し、その結果として東シナ海を渡ってまで餌場を探し当てた、と?
そうであれば、鷹の遺伝子は古代の地球史をほとんど何も引き継いでいないことになり、(2)についての検証の優先度は低くなってしまう。

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と、いうわけで、興味関心のある人は(1)、(2)、(3)などなど、いろんな観点尺度にのっとって、どんどんスタディしてみては如何?
僕はいろいろ想像空想してみたので、もう満足です、あとは知りません。
 

以上