どーれ、どんな感じかしら。
ああ…、やっぱり、よーく確かめてみると、ところどころ編み目にムラがある。
これはダメね、ダメだわこんなのは。
彼女はふぅとため息をついた。
それから、別のマフラーを手に取り上げる。
こちらはあらかじめ買っておいた、つまらない安物。
こっちでいいわね、あの人にはこんな程度で十分、と彼女はひとりごちた。
それは、そうだけど、でも、でも。
レストランに着くと、彼女は入口からそっといつものテーブルを見やる。
居た ─ やっぱり来てくれたんだ、あの人。
俺なんかと話をしても、つまらんだろう、でも俺にとっては気晴らしになるから、まぁ付き合ってやってもいいぞ。
そんなふうな突き放したような言い方ばっかり、でも一度だって私との約束をすっぽかしたことはないあの人が、真面目なだけのつまらないあの人が、いつものテーブルで待っている。
さぁ、そうなると。
それでも ─ やっと彼女は顔をあげて、彼をまっすぐに見つめた。
あっ!
彼もまっすぐに彼女を見つめていた。
ああ、もしかしたら。
それから、別のマフラーを手に取り上げる。
こちらはあらかじめ買っておいた、つまらない安物。
こっちでいいわね、あの人にはこんな程度で十分、と彼女はひとりごちた。
それは、そうだけど、でも、でも。
せっかくのクリスマスだし、このままではあまりに芸がないし、なんだか、かなしい。
その時だ。
ああ、そうだわ、こうしよう ─ と、彼女には閃いたことがあって…それでそのまま約束のレストランに向かうのだった。
レストランに着くと、彼女は入口からそっといつものテーブルを見やる。
居た ─ やっぱり来てくれたんだ、あの人。
俺なんかと話をしても、つまらんだろう、でも俺にとっては気晴らしになるから、まぁ付き合ってやってもいいぞ。
そんなふうな突き放したような言い方ばっかり、でも一度だって私との約束をすっぽかしたことはないあの人が、真面目なだけのつまらないあの人が、いつものテーブルで待っている。
さぁ、そうなると。
隣接する喫茶店に彼女は素早く駆け込むと、持ってきた安物マフラーを手際よく折りたたみ、それに結構な値札を巧みに取り付けて、さらに一流百貨店の包装紙で包み、丁寧に封じて…。
はい、これで一丁前の高級ブランド品が出来上がり。
ごめんなさい、ごめんなさい。
誰に、ごめんなさい?
私に、こんな卑怯な私に、と早口でつぶやきながらも、もう一度包装の具合を確かめる。
そして、注文した紅茶が来る前にさっと立ち上がって勘定だけ済ませ、それからあらためてレストランに入っていく。
こんばんは。
やあ、メリー・クリスマスだね。
お変わりなく?
全然。
ねえ、プレゼントがあるの。
ごめんなさい、ごめんなさい。
誰に、ごめんなさい?
私に、こんな卑怯な私に、と早口でつぶやきながらも、もう一度包装の具合を確かめる。
そして、注文した紅茶が来る前にさっと立ち上がって勘定だけ済ませ、それからあらためてレストランに入っていく。
こんばんは。
やあ、メリー・クリスマスだね。
お変わりなく?
全然。
ねえ、プレゼントがあるの。
彼女はバッグの中から、さっきの包装を取り出して、テーブルに置く。
ねえ、これ、上等な毛糸で編んでいるマフラーなのよ、ちょっと捲いてみてよ。
ふーん、どーれ。
彼がぱさぱさと包装紙を開き、値札をちらりと一瞥しつつそのマフラーを首に捲くさまを、彼女はじっと見届ける。
大丈夫だ、分かりはしない、バレやしない、この人がいちいち細かいこと詮索するはずがない。
首にふわっと捲きつけた彼が、顔をすこし火照らせながら、わぁと高い声をあげた。
これは暖かいなぁ、それに、高級な肌触りだ。
そうでしょうね … あなたはそんな程度…そして私もどうせそんな程度に決まっている…!
ねえ、これ、上等な毛糸で編んでいるマフラーなのよ、ちょっと捲いてみてよ。
ふーん、どーれ。
彼がぱさぱさと包装紙を開き、値札をちらりと一瞥しつつそのマフラーを首に捲くさまを、彼女はじっと見届ける。
大丈夫だ、分かりはしない、バレやしない、この人がいちいち細かいこと詮索するはずがない。
首にふわっと捲きつけた彼が、顔をすこし火照らせながら、わぁと高い声をあげた。
これは暖かいなぁ、それに、高級な肌触りだ。
そうでしょうね … あなたはそんな程度…そして私もどうせそんな程度に決まっている…!
彼女は胸のうちでうわーんと泣き声をあげて、それでも平静をつとめながら、もうちょっと大人っぽいデザインの方がよかったかしら、とか、だけど人気商品のようで、だからあまり洒落たものは残っていなかったのよ、などと口ごもっていた。
す、と彼が制した。
なあ、俺の方もプレゼントがあるんだよ、と、今度は彼が少しだけ口ごもった。
そして。
あのね、毛糸の手袋なんだけどね、これ。
す、と彼が制した。
なあ、俺の方もプレゼントがあるんだよ、と、今度は彼が少しだけ口ごもった。
そして。
あのね、毛糸の手袋なんだけどね、これ。
彼は自身の鞄の中からプレゼントの包みを取り出し、無造作にテーブルの上に置いた。
その包装の具合を目ざとく見とめて、彼女は思わず高い声を挙げそうになっていた ─ ああ、これは、これは、なんというデタラメな包装だろう。
これはいったいなんという展開だろう!
彼のしどろもどろの早口が飛び込んでくる。
あ、あのさ、店員曰くだね、これはなかなか凝った編み方なんだってさ…ほらこれからもっと寒くなるかもしれないだろ、だからね、そりゃあまあ多少は高かったんだけど、でもせっかくのプレゼントだと思って、思いきって買ったんだよ!。
そう、そうなの、ふーん、そうかもしれないわね、きっとそうね、うん、うん、と彼女もいまや上ずった声を押し隠そうともせず、その包装紙を開け、半分ちぎれた値札が不器用にくっつけられた手袋を取り出した。
これはいったいなんという展開だろう!
彼のしどろもどろの早口が飛び込んでくる。
あ、あのさ、店員曰くだね、これはなかなか凝った編み方なんだってさ…ほらこれからもっと寒くなるかもしれないだろ、だからね、そりゃあまあ多少は高かったんだけど、でもせっかくのプレゼントだと思って、思いきって買ったんだよ!。
そう、そうなの、ふーん、そうかもしれないわね、きっとそうね、うん、うん、と彼女もいまや上ずった声を押し隠そうともせず、その包装紙を開け、半分ちぎれた値札が不器用にくっつけられた手袋を取り出した。
指先から、奥までぐっと差し入れる。
あぁ、本当だ、本当に暖かい。
彼女はしばしうつむいたまま、泣かないぞ、泣くもんかと心中懸命に叫び続けていた。
私のためじゃない、彼のために…だからこそ泣かない、泣いちゃいけないんだ!
あぁ、本当だ、本当に暖かい。
彼女はしばしうつむいたまま、泣かないぞ、泣くもんかと心中懸命に叫び続けていた。
私のためじゃない、彼のために…だからこそ泣かない、泣いちゃいけないんだ!
それでも ─ やっと彼女は顔をあげて、彼をまっすぐに見つめた。
あっ!
彼もまっすぐに彼女を見つめていた。
ああ、もしかしたら。
もしかしたら、あらゆる理屈や論理は、すべて作為と虚構に過ぎないのではないか、そして、そして、本当の真実は論理と虚構の外側に、いや、むしろ見えない内側の核にこそ込められているのではないか。
そのことを、お互いに今のいままで判らなかったのかもしれない、いいえ、いいえ、本当は分かり過ぎていたのかもしれない ─ ということを彼にも分かっていたのかもしれない
だから、だから、もしかしたらこういうのが。
だから、だから、もしかしたらこういうのが。
こういうのが無償のまごころかもしれないなぁ ─ と呟いたのは彼の方で、それからさらに、なんでもないよ、今の言葉は無意味だ、だから忘れろよ、といつもの彼に戻った。
突然、店長が現れて、びっくりするほどの大声で挨拶を始めた。
皆様!今宵は私ども特製メニューを数多く取り揃えております、そして、どの品も通常の半額料金で結構でございます!
半額じゃぁ、おたくらも本気にはなれないだろう、と誰かが冷やかし声をあげた。
いいえ!いいえ!と店長がいよいよ高らかに続けた ─ 今宵はとびきりの料理を皆様に食していただきます!私どもがそう決めたのですから、これ以上の真実はございません!皆様にとってもご同様のこと!さぁ、これからただちにとりかかります!ご期待あれ!
おわり
突然、店長が現れて、びっくりするほどの大声で挨拶を始めた。
皆様!今宵は私ども特製メニューを数多く取り揃えております、そして、どの品も通常の半額料金で結構でございます!
半額じゃぁ、おたくらも本気にはなれないだろう、と誰かが冷やかし声をあげた。
いいえ!いいえ!と店長がいよいよ高らかに続けた ─ 今宵はとびきりの料理を皆様に食していただきます!私どもがそう決めたのですから、これ以上の真実はございません!皆様にとってもご同様のこと!さぁ、これからただちにとりかかります!ご期待あれ!
おわり
