そこでも繰り返し記してきたことだが、英文は - つまり文章というものは、個々の知識とそれらの組み合わせによってこそ意味を成しており、逆に、文章の構成論理のみからそれら知識を帰納することは難しい(出来ない)。
ゆえに数式や化学式とは根本的に違う。
とはいっても、どう違うのか分からぬと未だに質問の声やまぬので、まことシンドいのだがさらに説明してみたい。
たとえば、分子式を思い出そう。
こっちはイオン結合式で、そっちは共有結合式、この場合はとくに配位結合式で、ああそれは金属結合式だね…と理解する。
ここで、元素の属性が分子式全体の特性を成し、かつ、分子式全体の特性を元素属性に還元も出来るわけ、つまり記号システムとして完結している。
個々の知識の組み合わせが全体の知識を成し、これらがそのまま構成論理となっている。
さて、これと同じ着想で英文読解に挑んだらどうなるのか。
確かに英文でも、個々の単語の品詞属性が文全体の文法上の特性を成し、たとえば "I" は名詞、 "could" は助動詞、 "see" は動詞、 "you" はまた名詞、かつ、"I could see you." は SVO式の特性の文章だ ─ とおくことは出来る。
ここまでは化学式と同じ発想と見てよい。
がしかし。
ここでの文がSVO特性だと分かったからといって、それぞれの単語 "I", "you", "see" そのものの 「意味」 まで決定することなど出来ない。
"You see ? I could !" と書いてあったら、どうすんの?
またしても、これは名詞だの動詞だのSVO式がウンタラカンタラ、などと文法分析するか、でもそんなものむだむだ、この文章の「意味」を理解したことにはならぬ。
言語においては、個々の知識(意味)と全体の知識(意味)は一致せず、構成論理から知識(意味)を演繹も帰納も出来ない。
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② では、「文章の意味」はどこから来るのか。
さぁ、ここがポイント。
文章の意味は、その文章を書いたり喋ったりする人間が「単語の意味」を自分なりに想定して、その組み合わせで決めている。
よって、英文読解とは、文中の単語の意味から「筆者の主旨を想定する」こと。
それじゃ、毎回単語の意味をたくさん組み合わせつつ、あれはこれはと思案しなければならないのか…と心配するかもしれないが、いーや、そこが最大の勘違い。
入試英語のための数多くの参考書類をみれば判然とするように、そもそも入試英単語の量と意味などたかが知れている、よって、それらによる文例の数だってたかが知れておるわ。
だから、もう勉強方法は決まったようなもの。
リーダ教科書や参考書に出てくる英単語を覚えろ、但し、必ずその文例をノートに書き写し、それをいつでも和訳出来るようにしておくに尽きる。
SVOCだの、名詞句だの、副詞的用法だのと、グダグダ付いている文法解析はむだむだ、簡単な分子式すら分からぬ連中がベラベラやかましいだけだ、目障りなだけだ、そんなもん修正液で全部消しておけ。
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③ 以下、文法分析においては間違っていないが、意味全体としてはどうも奇妙に感じられる、そんな英文を幾つか挙げてみる。
あくまで僕なりの指摘に過ぎず、つまり文意の理解とはどこまでも主観的なものではあるが、何らかの参考として頂ければ幸い。
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③-① Those identical twins look so similar to each other that even their grandparents often fail in recognising them.
この英文、どうも論理的に釈然としない
─ と指摘してやると、たとえば小面憎い英語教師などは、いやいや文法的には正しいですよエェ、などと答えたりする。
じつは、本当に気づいて欲しいところは文法ではなく、ここでの similar(=似ている) のインパクトの弱さ。
何がどう similar なのか?
じっさい、 similar in physical built-up, similar in emotional responses, similar in the manner they talk などなどという具合に、どういう点で similar なのかと定義すればこそ、やっと意味が具体的になるのではないか。
※ なお、この similar の設問は、或る欧米企業との売買契約書にて突き当たった主題がもと、それを学生向けに崩したものである。
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③-② Japanese people apologize too much.
この文例はある大手予備校筋の単語帳でたまたま目にしたもの、どうも珍妙な気がしたので指摘しおく。
なんといっても "much" に違和感あり。
"much" は物理的な「仕事量」ないし「インパクト」の大きさを表すもの、だがその一方で apologize (謝罪する)は量的なコマンドではないのでは?
頻度として apologize "too often" や、態度として apologize gently ならばニュアンスは分かる。
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③ー③ I found this book easy.
むろん文法的には正しいが、あまりに子供っぽい表記に吹き出してしまった。
"easy な book" とは何のことか?
読むのが容易なのか、コンテンツが安易なのか、売買が容易なのか、持ち運びに容易なのか。
確かに、"easy money" とか、"easy going dinner" などという表現はあり、これは労せずに楽しめるといった趣のもの。
同じ趣旨によっているのなら、たとえば "easy skipping" とでもしたらよいのではないか?
それでも、敢えて "easy book" で語義検索してみれば、簡単な予約システムといった類の観念のようで、そうかこの "book" はホテルなどの予約のことか、と納得は出来る。
それなら "I found out this booking system easy to charge on. " などとしたらどうか。
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③ー④ I think you are a hard negotiator.
やはり文法的には間違っていないが、これもまた珍妙な表現ではなかろうか。
もちろん、"think" が曖昧過ぎるためで、"think" は「とりあえず頭を使う」という意味に過ぎず、文脈パワーが極めて弱い。
実際にどう考えるのか、想定なのか確認なのか断定なのか、などなど論理的文脈に応じて、相応の具体的な動詞を用いるべきではないだろうか。
なるほど "think of~" は確かによく聞くし、"think positively", "think in geographical ways" などのように具体性をもたせたものも多い、だが "think" 単体コマンドとしては滅多に使わない。
この "think" こそ、入試英語の例文集で確かめてみればよい、大学入試の英文でチェックしてみればよい、いや英米のニュース英語でも企業との交渉でも確かめてみればよい。
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③-⑤ We discussed about the promotion for the new product.
はい、この英文では "discuss about" が変ですね、discuss は他動詞ですから…という話はどんな文法書にも載っており、確かにマレー系や華僑系の英語ならばこれでオッケーかもしれないが、理知的な英語教材とはいえない。
ここでの重大なポイント ─ "the promotion" のみでは、何を促進するのか概念定義が出来ず だから"for…"と続けても真意がハッキリしない。
"for"ではなく"on"にすれば、そのproductに則った活動だといえるか、いや、その目的も手段もやはり分からない。
本項については、"sales/business/technical promotion" などのように目的と手段を定義すれば、"for"でも"on"でも大意は変わらない由、或るネイティヴより指摘頂いた。
予備校も塾も、ここまで実践面を考慮してテキストを作成すべきだ。
大学入試英語ではここまでは問われないだろう、という先入観が間違いで、こんごはこういう実践上の英語表現が間違いなく問われるようになる。
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ついでに。
文法分析ごときで括れない巨大な観念として、とびきり起用の難しい単語は "the" でもなく、"it" でもなくて、"of" だと僕なりに睨んでいる。
以前にどこかでも書いたが、"of" は日本語の助詞 「の」 と同様、何かが何かを包摂しているの意か、何かと何かが同質であるとの意か、まさに文意全体によって大きく意味が変わってくる。
以上