2016/08/09

【読書メモ】 海の教科書

『海の教科書 講談社Blue Backs  柏野祐二・著
本書はこの6月付で出たばかりの新刊、僕が購入したのは奇しくも?先月の海の日であった。
我が国にとっても世界にとっても最大公約数のコンサーンのひとつ、それがまさに海洋であり、その理科としての解釈本のひとつが本書であろうと察し、ほぅどれどれとパラリパラリ立ち読みしてみれば、なんとか食らいついていけそうな、そんな気がしたので購入した経緯あり。
さて内容を総括するならば、おおむね高校履修範囲の「地学」のうち、海水に係る数多くの自然現象に巨視的に着目、それらの諸元につき物理学/化学の初歩を以て再分析を図ったものといえよう。
のみならず、社会科の一環としての「地理学」への立体的な理解も深めうる、なかなか学際的なコンテンツづくり。
ただ、教科書と銘打った割には、因果・段階的に分かりにくい箇所も散見、とりわけ重要タームである海水の「温度」と「塩分濃度」と「圧力」、これらのすべてに係る「密度」の位置づけは、単線的に一読したのみではやや了察に戸惑いうる。
ゆえに読者はむしろコンパクトな参考書として本書をおきつつ、それこそ広く深く見識を拡大させること念頭におき、理科の総復習の一環として徐々に読み進めては如何だろうか?

さて今回の僕なりの読書メモとして、とりわけ三章「海水の性質」、第五章「海洋大循環はなぜ起こるか」 につき、以下に拙いながらも概括列記を試みた。
なお、第二章における海洋探検史と観測テクノロジー紹介事例は、遍く多くの読者の関心触発を図ったものと察するが、寧ろ本書ひととおり理解しえた上で最終章として読み進めた方が実践的センスをもって楽しめるものではなかろうか?


・水は水分子の水素結合によって成り、これが化学的かつ物理的な諸属性の根元である。

・水は電気的に正負の極をもつ性分子の構造をとっており、これでさまざまな物質を電気的に分離させ、それぞれと結合する ─ つまり溶かす。
水と塩化ナトリウムの関係でみると、塩化物イオンは水分子の水素側と結合、ナトリウムイオンは水分子の酸素側と結合し、こうして両者とも水に溶けこみ、海水と成っている
海水1kgあたり平均で約34.7gの塩分が溶け込んでおり、この塩分量は地域によって(淡水量によって)ややバラついている、が、塩化物イオンとナトリウムイオンの存在比率など物質の「組成比」は、世界どこの海水でもほぼ変わらない
ほか、海水に溶けているイオンとしては、硫酸、マグネシウム、カルシウム、カリウム、重炭素、臭素、ホウ素、ストロンチウム、フッ素などで、極めて微量ながら金銀やレアメタルも。

海水は地球上の二酸化炭素の約1/3を水素イオンと炭酸イオンに分け(=溶かし)、現時点での海水はおおむね弱アルカリでphは8.1程度。
ここで海水が二酸化炭素の吸収量を増やすと、海水中の水素イオン濃度が上がり(=phが下がり)、炭酸イオンが中和されてカルシウムイオンとの反応量が減り、よって海水中の生命体が殻や骨格を生成し難くなる。

・水の融点と沸点は、分子量あたりで比較した場合に他の物質より極めて高い ─ 地球上の常温にては水は液体に留まっており、これが生命誕生と循環にまで重大な効用あり。

・海洋物理学における水圧の単位としては、水深とほぼ値が一致する「デシバール(decibar)」=10,000 N/㎡ がよく用いられ、たとえば水深10mの水圧は10デシバールであり、これが大気一気圧とだいたい等しい
海洋生物学ではメガパスカル(1万ヘクトパスカル)が用いられる。

(純)水は4℃で単位体積あたりの質量=密度」が最大になるが、それ以下の温度となるとむしろ密度が小さく、よって軽くなる。
さらに氷になると水よりも隙間大きな分子構造であるため水に浮き、ゆえに湖水などは表面が結氷しつつも下の側の方が逆に温度が高い状態になる。
ところが海水の場合、温度が下がるとともに密度が増して沈み込んでいく一方なので、下側ほど海水温は低く、また結氷温度も低いため、総じて海水は凍りにくい。

・海水の密度最大となる温度も、また結氷する温度も共に、「塩分濃度」の増加に応じて低くなっていく一方である。
海水の塩分濃度が海水1kgあたり約24.7g以上となると、密度最大となる温度の方が結氷温度より低くなり、通常の海水は塩分が32~36グラムなのでこのケースにあたる。

一方で、海水はたとえば3000メートルの深海部ともなると圧縮のために若干水温が上がる。

以上のように、海水はその密度も温度も、鉛直的にみて必ずしも安定した構造ではない。
そこで、特定箇所/深度の海水温や密度の精査にては、これら物理変化を考慮したポテンシャル温度やポテンシャル密度の尺度が用いられている。

・海面に氷が張ると、海水中から大気への熱「放出」を妨げ、よって大気気温が下がる。

また海水による光の「反射」率(アルベド)は10%だが、海氷では40~60%であり、上に雪がつもるとさらに反射率が高くなり、よって海氷は海水の太陽光「吸収」を妨げる。

・水の「比熱」は4.2ジュール毎グラム毎度(=1カロリー)で、他の物質に比べかなり大きく、陸土の比熱の倍以上、空気の4倍にあたる。
(海水の場合は塩分のためにやや比熱が小さく、4.0ジュール。)
これが海陸間での空気温度変化をもたらし、それが気圧変化と対流風を起こす。
地球上の海水の質量は大気の約250倍、よって海洋全体の「熱容量」は大気全体の1000倍にもなり、海水温度の変化が地球の気象にもたらす影響は極めて大きい。

・水は分子の融解と蒸発およびその逆に要する熱エネルギー=「潜熱」も極めて大きく、たとえば台風は熱帯の海洋で発生した大量の水蒸気の潜熱が大気放出されることによって起こる。
(中緯度にいたると海面温度が低いため潜熱が小さくなる。)

・海中では、高温あるいは高圧ほど音波を伝えやすくまた減衰しにくく、とくに或る層にて音速が最大となる。
クジラなど生物による遠距離の音波通信能力もこの層を活かしたもの、また潜水艦など工業技術上でもこの層が考慮されている。

・流体の運動は、さまざまにかかる圧力勾配(差)から生じる「圧力傾度力」によって大きく依っており、じっさい、高温ゆえに高圧膨張する海面と、低温ゆえ低圧に留まる海面が、海面の圧力傾度力を決め、等温線と等圧線を成している。
一方、地球スケールで海流を捉えるならば、高緯度ほど強く働く「コリオリ力=正方向の惑星渦度」も考慮要。
これら圧力傾度力とコリオリ力が正対してつり合いつつ、「地衡流」として海流の強さと方向を決定、これらから海流をとらえる。

なお、海水の摩擦粘性は、水分子によるそれよりも海洋中の乱流=渦粘性に依る方が、かつ鉛直スケールより水平スケールの方が、はるかに大きい…。

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ふーーー。
ほんの基礎素養まわりだけをまとめてみたものの、とりあえずここらで僕の限界だ!
本書コンテンツは第五章後半からとくに学術複合的になり、吹風と海流の関係、地学でお馴染みの海流コンベアベルト図、ヨリ現実的な地球海流の子午面循環構造(南極オーバーターン)のコンセプト案内へと。
そして、第六章「海の波の不思議」、第七章「潮汐とそのメカニズム」 にいたっては、波長と位相速度と水深の関係、起潮力と遠心力…と続き、さらに最終章ではエルニーニョ現象と北/南極の凍る海へ。
どれもこれも、断片的には数学や地学知識で理解しえる事項ではあるものの、やはり物理学の基礎素養ある人たちにおススメしたい ─ が、だからといって僕がここで本書を諦めたわけではないのだ、簡単に諦めてたまるか、近々また引っ張り出して挑んでみたい。

以上