2016/11/13

嘘つき娘

「ねぇ、先生~」
「んーー?なんだ?」
「あたし、先週くらいから眼の前がぼやけてきたような気がするんです。視力が急激に弱まることって、あるんですか~?」
「そうだなぁ、とりあえずは、その前髪をなんとかしろ ─ ねえ、君もそろそろ大人になりかけてきたんだから、人間の意識のいい加減さというものについて理解した方がいいよ」
「はぁ、どういうことですか~?」

「いいかね、人間の意識は、じつは『感覚』 と、『思考』 と、『表現』 から成り立っているんだよ」
「ふぅーん……」
「たとえば、『感覚』 と 『思考』 は、普通はまっすぐつながっている、と思うだろう。しかし、これが食い違っていることがある」
「はぁ~、まあ、そんな気もしますけど~」
「それから、『思考』『表現』 が食い違っていることもあるよね ─ つまり、『感覚』 『思考』『表現』 というこの3者のうち、どれかが食い違っている場合がありうる」
「はぁ~~、なんだか、ややこしいですね~。でも~、先生、そんなふうに分けなくなって、本当の自分と表現する自分という2つで比較すれば十分じゃないんですか~~?
「いや、ある命題が正しいか間違っているかを判断するには、少なくても要素が3つ必要となるってこと」
「ふーーーーん!本当かな~~」
「いいから聞け。要するに、『感覚』 と 『思考』 と 『表現』、この3者のどれか1つが他の2つと異なる場合を、"勘違い"という。どうだ、人間の意識というものは案外いい加減なものだろう」
「そうかも、しれないですねーー」
「さらに、"勘違い" ではなく、意図的な "嘘"という場合もある ─ ねえ、君。さっき僕がちょっと外に出ていた間に、このワインボトル、明らかにワインが減っているんだが…」
「それがどうかしたんですかーーー?」
「おいっ!正直に答えろよ。君!ちょっと飲んだだろう!?」
「はぁーー?あたしが飲むわけ、無いじゃないですかーー!」
「ふん!あんまり甘く見るんじゃないぞ、いいかね、今の君はワインでほんわかとした『感覚』 に包まれている、しかし、バレるわけがないとタカをくくって『思考』 している、でも君はろれつが回らず、『感覚』 のままにぼやっと『表現』 している。つまり、君は 『思考』 だけが食い違っている、だから『嘘』をついているんだよ!」

「なーんだ、あはははは~、嘘なんか、ついてないですよ。あたしは何もかもハッキリしてるんだから!。ね~~先生~~、あたしからもひとつ質問があるんですけど~」
「ほぅ、言ってみろ」
「もしも、『感覚』 と、『思考』 と、『表現』 が、みーーんな食い違っていたら、どういうことになるんですかーーーー?」
「それを 『酔っ払い』 というんだ、ばか、困ったやつだ!」
「あ~~っ、ばかって言った!ばかって言ったら、自分もばか」
「はいはい、分かった分かった」


おわり