2017/05/27

【読書メモ】 新・単位がわかると物理がわかる

『新・単位がわかると物理がわかる 和田純夫・大上雅史・根本和昭 共著 ベレ出版』
本書は、国際度量衡総会による国際(SI)基本単位系の2018年の大改定を見据えた、2014年の刷新版である。
むろん、物理/化学の基本単位系とそれらの組立単位については、高校教科書ないし参考書類にも記載あり、様々に想定/確認してきた学生諸君も多かろう。
そこで、とりわけ学生諸君にはあらためて考えて欲しいのだが ─ 
物理現象(エネルギー)の実測技術が精度を増すにつれて、単位そのものに論理上のほころびや非効率が顕れるもやむなし…、これは厄介な拮抗であるとともに、いわば物理学と数学の理想的な競合ではないだろうか。
本書の存在意義のひとつは、まさにこの「普遍のうちに在る新しさ」のリマインドにあろう。
じっさい、根元単位の再定義; 新たな1キログラム、クーロン量、アヴォガドロ定数やボルツマン定数の定量化など…は、極めて卑近な単位尺度でありつつも極めて高精度な物理学でもあるのだ。

本書引用のエネルギー式や状態方程式などなどは、いずれも比例/反比例関係にて観念捕捉しやすいレベルに留められており、複雑な数学操作はほとんど提示されていないので、物理学や化学や数学に精通しておらずとも了察しやすいもの。
※ なお、本書記載の物理定数表現は全て2014年時点でのものあり、最新の定義についてはこちらを参照方 ⇒ 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84SI%E3%81%AE%E5%AE%9A%E7%BE%A9 

とまれ、以下に僕なりにざーっと読書メモを記す



<単位系の概括
物理単位には、個別独立した単位と、それらによる組み立て単位がある。
たとえば、ニュートン以来の「運動方程式」 にて、力つまりニュートン N 質量(加速されにくさ) と移動距離 と時間 それぞれ別個の基本単位 m, kg, s による組み立て単位であり、1N = 1kgm/s2 である。
これをもとにした「位置エネルギー」も、力 N と移動距離 と質量 と 速さ(加速度x時間) の比例/反比例による組み立て単位として、まとめて J(ジュール)単位で表し、1J = 1Nm = 1kgm2/s2
 となり、やはり基本単位 m, kg, s の組み立て単位。
万有引力もクーロン力も分子間力も核力も、位置エネルギーとして、Jで表現出来、さらに「運動エネルギー」がこれに比例し、1/2 x 質量 x 速さとしてやはり m, kg, s の組み立て単位で表現。

ここで電流アンペア(A)をどう扱うか。
別個に独立した m, kg, s の各基本単位から(上の N のように) A を組み立てる方式が3元単位系であり、A も別個の独立単位として MKSA の4つそれぞれを基本単位とみなすのが4元単位系である。
普及している SI 単位系は4元単位系である。

とくに、自然単位系という着想もあり、これは上の基本単位同士でさえもが直接の換算関係にある、というもの。
これは量子力学以降に考慮されてきた単位解釈である、が、それではあらゆる単位そのものがたった1つの絶対尺度に収斂するか、となると、様々な物理現象や実測値を鑑みるかぎりそんなことはありえない。

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<キログラム、アヴォガドロ定数>
地上の「キログラム原器」に 1kg重 の重力がはたらきつつ、ちょうど 1m/s2 の加速度で運動しているとする。
質量は力 / 加速度であるから、この「キログラム原器」の質量は、重力 / 加速度から (1kg重)/(1m/s2) = 1kg重・s2/m の単位で表現出来る。
じっさいに、この「キログラム原器」の、地上の重力加速度 g 9.8m/s2 における質量を換算すると、1kg重 / (9.8m/s2) = 0.102・・・(kg重・s2/m) とみなせる。
とはいえ、そもそも地上の重力は場所によって0.5%くらい誤差がある。

一方で、アヴォガドロ定数(NA)の実数が分かってきた。
完全なシリコン結晶とX線による密度と体積の測定によるもので、このシリコン結晶の原子1つあたりの平均体積と、1モル量あたりの体積を実測。
これにより、1モル中のアヴォガドロ定数 NA = (6.02214129±0.00000027) x 1023 個 / モル。
とはいえ、これとて 「キログラム原器」 と同様に、精度は1億分の5ほどの誤差を残す。

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<プランク定数と 「新」キログラム>
そこで今後は、「新たな」キログラム質量単位をアヴォガドロ定数と別個におき、また現行のアヴォガドロ定数/現行のモル量の定義は放棄する、と既に方針が定まっている。
そこで起用されるのが、量子論の「プランク定数」を用いる質量定義方法である。

エネルギーと(電子などの)粒子振動数の関係は、エネルギー = プランク定数(h) x 振動数(振動回数 / 時間)
エネルギー単位ジュール(J) を、従来の長さと時間と「キログラム原器」で表現すると、J は kgm2/s2  の組み立て単位である。
だから、両辺に時間を掛けて、プランク定数(h)単位は J・s = kgm2/s で表現出来る。
このプランク定数の実測は、これまでワットバランス法(磁場と電流と電磁波をもとに電磁波の振動数と起電力と電流の相関をはかるもの)によってなされてきた。
それによるプランク定数の最新の実測値は、h = (6.62606957±0.00000029) x 10-23 kgm2/s

ところが、プランク定数とアヴォガドロ定数をあわせて、もっと精度の高い実測が既になされている。
それは、プランク定数とアヴォガドロ定数の積を、光速度と電子1モル質量と電気力とリュードベリ定数の積/商を以て比較精査する方法で、すでにワットバランス法同様の誤差範囲に至っている。
これにより、アヴォガドロ定数の厳密な実測値が出る、それによってプランク定数の実測値もヨリ精密になる、だから「新たな」キログラムの実測値も出ることになり、これが2018年に見込まれている。

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<電磁方程式、クーロン(C)、アンペア(A)>
電磁力の法則は、電流の大きさと電流間の距離とその導線の長さを関係づけるもの。
導線長Δに働く電磁力 = 2 x 或る比例定数´ x 電流2 / 電流間の距離 x 導線長Δ
ここで、電流間の距離を 1m 、導線長 1m として、働く電磁力とその電流の関係を定義しており、電磁力が 2 x 10-7 N となる電流を 1アンペア(A) としている。

電気量クーロン(C) は電流とx 時間(秒)の積、つまり 1C = 1A x 1s の関係から、電子の負電荷(および陽子の正電荷)の電気素量 (e) が定められてきた。
しかし現在、電子の電気素量 (e) そのものが精密に計測されており、
 e = 1.602176565 x 10-19 C
これに合うように電気量クーロンを再定義しよう、そしてさらに電流アンペアを再定義へ、というのが2018年に向けての動向である。

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<絶対温度、ボルツマン定数>
ボイルの法則とシャルルの法則から、「理想気体」にては、温度が一定なら圧力に反比例して体積が縮み、圧力が一定なら絶対温度(Kケルビン)がゼロの時に体積がゼロになる。
この理想気体の状態方程式は、圧力 x 体積 = 気体の物質量(nモル数) x 或る気体定数 R x 絶対温度 K という比例/反比例関係である。
気体定数 R はエネルギー単位で、従来は、氷→水蒸気に一気に昇華する気圧611Pa と絶対温度 273.16K のそれぞれの上限値(いわゆる三重点)から演繹し、実測値から気体定数 R のエネルギーを 8.3144・・・J/(mol・K) としてきた。

状態方程式から、絶対温度 = (圧力 x 体積) / (気体の物質量nモル x 気体定数R となる。
しかしここで、エネルギー単位である気体定数Rを人為的にあらかじめ決めてしまおう ─ というのが現在の動向。
そのためにまず物質量nを、モル数ではなく、気体分子の個数N / アヴォガドロ定数NA とし、気体定数 R / アヴォガドロ定数NA であるいわゆるボルツマン定数 KB をエネルギー単位として定義する。
そうするとこの式は、分母の(気体の物質量nモル x 気体定数R) を書き替えて、絶対温度 = (圧力 x 体積) / ボルツマン定数KB x 気体分子個数N と再定義出来る。
これでボルツマン定数KB = 1.380・・・x 10-23 J(ジュール) / K(絶対温度) と定量的におくことが、2018年から想定されている。

実際の 圧力 x 体積は、(2・分子個数N / 3) x 分子温度であり、(ここでは分子間力は無視するとして)、これは (N/m2) x m3  = N・m = Jジュール となってエネルギー単位になる。
さらに 2・N / 3 x 分子温度は分子1つあたりの平均エネルギーで、これも単位は Jジュール となる。

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<量子論、自然単位系>
相対性理論では、空間と時間を一体としてみなすが、これがいわゆる自然単位系の概念と通じている。
たとえば - 距離の組み立て次元として時間を単位化し、これを 「時間距離」 とする。
時間距離 = 光速(c) x 時間 となるが、ここで光速(c) は速度であるから、これも距離と時間の組み立て次元単位である。
光速の実測値は c = 299,792,458 m/s だが、これをズバリ1単位とすると、1s = 299,792,458 m とも表現出来る。
こうして、相対性理論に則れば、基本単位である sm の間でさえもが直接換算が出来るようになった。
これが自然単位系の発想である。

では、量子レベルでの粒子のエネルギーと振動数の関係も、自然単位系として直接換算し合えるだろうか?
量子論では、粒子の運動プロセスが起こる可能性を 「作用」 と称し、エネルギーと時間(s)で表現出来る。
この 「作用」 と プランク定数(h)実測値 と時間(s) と質量(kg) の関係につき、自然単位の発想でそれぞれの単位を基本1単位とおいてみる。
するとなんと、1kg = 1.054… x 10-34kgm2 、また、1kg = 9.482… x 1033s / m2 となり、3つの基本単位 m kgs 間にて直接換算可能になる。
さらに上の光速における基本単位 sm 間の直接換算での値を代入すると、1kg = 2.482…1042m-1 となり、2つの基本単位 kg m が直接換算可能になる。

それではあらゆる単位そのものがたった1つの絶対尺度に収斂するか、となると、様々な物理現象や実測値を鑑みるかぎりそんなことはありえない。

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… 以上、p.214まで、僕なりに拙い知識を動員しつつ(最後は半ば意地になって)まとめてみたが、もう限界だ、ここらで僕は降参。

本書はまだまだ、電気力と電気量にかかる原子単位系と『微細構造定数』や、万有引力についての『重力定数』、プランク定数にかかる長さと時間と質量などなど…自然単位系での表現はありうるかなどについて論が進んでゆく。

なお、高校レベルまでの物理の教科書に(あまり)記載されていない電磁波としての光エネルギー単位と、音圧と周波などについて、さらに放射線についても、本書では各単位表現の意義につき概括がなされている。

※ とりわけ、光エネルギーのヒト側での比視感度=光束(ルーメン)、その光束と立体角(ステラジアン)から導かれる光度(カンデラ)、また光束と半径距離と照射面積から算出される照度(ルクス) については、とくにこんご光学関係のイノヴェーションが一層進むことも勘案し、ぜひ学生諸君には一読をすすめたい。