2018/05/28

英語は理科で出来ている? その2

理科で引用される英単語を眺めていると、ときおり考えてしまうこと。
そもそも、単語概念の中に、本源的に科学的思考が宿っている(いた)だろうか?
いや、科学的思考や実践を通じてこそ、多くの英単語が現代的な単語概念を有するに至ったのではないか ─ とりわけ英語やフランス語やドイツ語はそうではないしら。

もちろん、こんな程度のことは、ちょっとした製品技術の提案活動に従事してみれば気づいてしまうもの、だから(学生以外の)読者もふむふむと同意してくれるものと思う。

さて今回は、科学的思考の主幹を成す語、とくに、'power(力)' , 'work(仕事)' , 'energy(エネルギー)' について。
以下、おおむね電気分野における観点から、これらの単語概念について整理してみた。

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まず物理学上の「力」は'force'から考えた方が釈然とする ─ 力学の基本式F=maにおけるfである。
'force'つまり「力」とは何らかの実体の「数量」であり、物理学一般には、なんらかの物体の運動状態を変える大きさと向きとして、ベクトルで表す。

電気における「力」の実体を、数理表現する。
まず、帯電体における電荷(charge)の「電気(素)量」がわかっており、それらがもつ「(静)電気力」を、それらの距離と素材属性の相関から、クーロン「力」として定義。
とりあえずはこれを計数可能な「力」の最小スケールとしておこう。

導線の中を通過していく「電荷」の「電気量」を、時間あたりで「電流(electric current)」と数理表現する。
もちろん電流は速さを変えることが出来、それ自身の強度(intensityないしstrength)も変わり、これつまり、一定時間あたりの「電荷」の「電気量」による「力」が変わるということ。
この速度変化は、何らかのもの(消費抵抗resistanceなど)に働きかけ、仕事(work)を為すので、力学上の「変位」の概念(知ってんだろ)に則り、或る「電位(potential)から別の電位へと距離/位置で仕事を為すこの電位の格差を数理上とくに電圧(voltage)という。

ある回路を通電させるには電位差克服のための電圧が必要となるが、この電圧をとくに起電力(electromotive force)という。

一方で、対外的に仕事'work'を成すにあたり行使されうる「力」を、とくに'power'と称し、電荷電流による力を電力(electric power) ともいう。
数理上は「力(force)」 x 「移動距離」 / 時間で表現し、電気の単位系としてはWワットを使っている。
'power'を有している物体の属性そのものが'strength'あるいは'intensity'「強み」である。

「仕事'work'」の源泉となるものを、'energy' つまりエネルギーと称す。
'energy' の存在形態はさまざまで、どの程度まで 'work'に投入できるかが仕事効率として定義される。


さて、如何であろうか?
ここから更に飛躍的に察すると、どうも、英米人の思念というものは、さまざまな根元思念の乗除や微積によって組み上げられているような。
それは原子論に始まり…と割りきるつもりはないが、ともかくもさまざまな英単語が複合的に組み上げられてきたものであれば、単語1つ1つについて単純な品詞ラベリングなど出来そうもない。

※ なお、ここまでの雑記では、電荷の斥力や引力(±)も電磁力うんぬんも全部すっとばしているが、物理の教科書にちゃんと載ってるから勉強するがよろし。
なお、電気量(素量)や電流値や熱量などの間にて、どの単位を実測値とし、どの単位を論理表現とするか、テクニカルな精査が続いている ─ 新単位系の問題。
http://timefetcher.blogspot.jp/2017/05/blog-post_27.html 


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なお、高校物理の教科書にワンサカと提示されている英単語につき、上に要約した「力」と「仕事」と「エネルギー」さらに「時間や方位」などの精密な分類は意図せず、また品詞分類も意識せず、とりあえず以下にずらーーっと抜粋してみた。
  • body : 物体
  • rigid body : 剛体
  • fluid : 流体
  • particle : 粒子 elementary particleは素粒子の意
  • quantum : 量子
  • solid : 個体
  • liquid : 液体
  • gas : 気体
  • mass : 質量
  • point mass : 質点
  • volume 体積
  • acceleration : 加速度
  • inertia : 慣性
  • weight : 質量と重力加速度の積による「力」、つまり「重量」。
  • action / reaction : 力の作用と反作用
  • balance : 力のつりあい
  • equilibrium : 力の均衡
  • composition : 力の合成。対語が'decomposition'つまり力の分解
  • gravity : 物体間の「引力」のこと。遠心力を合わせた「重力」もgravityである。
  • (※ なお遠心力はcentrifugal force, また向心力はcentripetal forceだが、これらは大学入試レベルではほとんど引用されないのではないかな。)
  • centre of gravity : 重心
  • resilience : 「斥力、反発力」のこと。とくに電荷の斥力はrepulsive forceともいう。
  • tension : 張力
  • elasticity : 弾性力
  • load : 物体に負荷をかけること。
  • stress : 物体に圧力をかけること。
  • friction : 物体同士の摩擦のこと。
  • ground : 力や運動の「基底」
  • efficiency : 力の効率のこと。
  • velocity : 物体がベクトル移動する「速度」
  • angular velocity : 角速度
  • speed : 物体の或る瞬間における速さ
  • frequency : 物体の振動数
  • motion : 物体の「運動(振動)」のこと。'linear motion'が直線運動。
  • impulse : 力積
  • momentum : 運動量のこと。東大の入試英文に出た難語だなどと騒いでいたバカ講師がいるが、もちろん汎用概念だ。
  • displacement : 変位
  • mechanical energy : 力学エネルギー
  • potential energy : 位置エネルギー
  • kinetic energy : 運動エネルギー
  • capacity : 物質やエネルギーの「容量」をさす。
  • conservation : エネルギーの「保全」のこと(日本語では保存という。)
  • charge : エネルギーを課すこと、負荷をかけること、電荷。
  • discharge : エネルギーを力として放出すること、放電。
  • conduct : 電気や熱を「伝導」すること。
  • carrier : 電荷を伝導する荷電粒子(電子など)のこと。
  • magnitude : 巨大さ
  • induction : 「電磁誘導」のこと。なお論理学や数学では特に帰納を指し、演繹(deduction)の一部にして逆概念でもある。
  • field : 「電界、磁界」などの「場」をさす。(工場の工程にては電場ともいう。)
  • generate : 外部で電流を起こすこと(発電)。一般に、何かを生み出すこと。
  • circuit : 回路、循環のこと。経済学やビジネスでも同旨。
  • convert : AC→DCに変換(整流)すること。一般に方式や用途の変換を指す。
  • invert : DC→ACに変換すること。パワーエレクトロニクスと相まって発展してきた技術である。
  • excite : 電子を高エネルギー状態に励起すること。
  • cycle : 物体の運動周期のこと、'period'も同義で使われる。
  • condense : 力の合成による濃縮のこと。電気回路におけるデバイスが'condenser'だ。
  • impede : 力を妨げること。電気でいう'impedance'だ。
  • coherence : 波(位相)による干渉縞の完成、つまり「一貫性」の概念。対語はバラつきを表す'incoherence'
  • constant : 定数のこと
  • index : 或る入力に対する出力偏向率のこと
  • defect : 物体における物理的欠損のこと
これらの基本概念および次元の複合を理解すれば、起用すべき動詞として例えば 'turn', 'drive', 'act', 'gain', 'lose', 'feed', 'run', 'raise' などなどを閃くのではないかな。
前置詞もだ。

以上
(こんなものをまとめているうちに、なんというか、大抵の理系分野の論文などを僕なりにスラスラと英訳出来るような気がしてきた。)

つづく
https://timefetcher.blogspot.com/2018/06/blog-post_17.html

2018/05/19

【読書メモ】身のまわりの すごい技術 大百科

『身のまわりのすごい技術大百科 涌井良幸/貞美・著 
(株)KADOKAWA刊』
本書は様々な工業製品技術の導入案内本。
挙げられたテーマはじつに100件近くにものぼり、まこと分厚いヴォリューム感 ─ とはいえ、コンテンツの多くは高校理科をやや超えた物理/化学理論に抑えられ、それぞれ最先端技術や応用事例をささやかに留め置いた、コンパクトリファレンスの体裁である。
大百科と冠されつつも意外なほどの廉価版(400頁近くの構成ながら1300円は安い!)、また、黄色い装丁は爽やかな軽量感バツグンだ、理系/文系問わず特に学生諸君の基礎教養の増強に是非ともお薦めの一冊。

尤も、本書は明朗な文面ゆえにこそ、読者としてはむしろ概説図を注視しつつ理論エッセンスの分析と理解を進めたいところである。
その良い例が、本書巻頭部にて紹介される「(三菱電機が実用化の)変速エスカレーター」である。
ひとつひとつの踏段がどれも同じサイズ、同じ角度で連結し、同じ補助レールと同期しつつ同じ速度で連動している「はず」なのに、なぜ乗/降の箇所のみ踏段の搬送速度が変わるのか ─ これは「踏段同士をつなぐ金具の角度'のみ'が可変する」という機構上のイノヴェーションによるのだが、本箇所につき、文面のみで完全に了察出来る読者はおそらく絶無だろう。
(※ なお類書としては、別著者/出版社による「眠れなくなるほど面白い図解物理の本」…などなどが挙げられよう。)

さてそれでは、本書のうちから、とりわけ僕なりの嗜好に則って電気まわりについてのコンテンツを幾つか概略し、以下に列記する


<電力量計>
家庭などの積算電力量計にて回転しているのはアルミの円盤で、回転させている力は装置内で起こっているいわゆる「アラゴの円盤」と呼ばれる電磁誘導現象の応用である。
アラゴの円盤とは、上から吊るされた金属円盤が下部の磁石の回転につられて自身も磁力を増やし、反発減殺するように自らが渦状の電流を発生させて電磁石となり(つまり電磁誘導を起こし)回転するというもの。

実際の電力量計には回転する磁石は無いが、アルミの円盤を上下からコイルが挟み、これらコイルのうち上側は電源側と並列につながる電圧コイル、下側は屋内配線と直列につながる電流コイルで、電流と電圧がほぼ1/4周期ずれることを利用して、アラゴの円盤の回転磁石と同様に電磁誘導を生み出している。
ここで、下側の電流コイルこそが、屋内での実際の電気使用量に応じて電流が変わり電磁石効果を変えて、アルミの円盤を回転させているのである。
かつ、このアルミ円盤は、勝手に空転しないように永久磁石によっても挟まれており(制動磁石と称される)、この仕組みもアラゴの円盤の電磁誘導現象を活かしたものである。


<体脂肪計>
体脂肪計は、身体内に微量な電流を通して電気抵抗を測定する、いわゆる生体インピーダンス測定法(BIA法)によって、体脂肪率を表示している。
筋肉は水分が多いため電気抵抗が小さいが、脂肪は電気抵抗が大きく、この抵抗値の差を元にして体脂肪率を表現している。
もっとも、電気抵抗値と体脂肪率の相関は、あくまで累積データに則って公式化(仮算)されているに過ぎず、絶対指標があるわけではない。
なお、生体の電気抵抗は就寝中には概して高く、活動中には低いし、もちろん水分摂取量によっても変動する。


<電子レンジ・IH調理器>
電子レンジ(microwave oven)は、マグネトロンによって波長12cm程度のマイクロ波を発生させ、食品に照射する仕組み。
このマイクロ波が食品内の水分子を共鳴回転させ、その水分子同士の摩擦熱を以て、食品加熱の機能としている。
IH調理器(induction heating)は、電磁誘導と電流熱を活用したもので、鍋の下に敷かれたプレート内コイルに20~30キロヘルツの高周波電流を通す→高周波変動の磁力を発生させると、この磁力が鍋の誘導電流を生み出し、この電流が鍋自身の鉄分子と衝突して発熱する。


<光ディスク>
CDもDVDもBlu-rayも、データがディスクのピット(くぼみ)に刻まれており、ピットにレーザー光を当てたさいの反射の差異を検知し、それらを(数理的に)映像と音声の情報として解釈する仕組み。
CDはピットが粗いので赤色レーザー(波長780nm)によって反射を識別出来るが、Blu-rayはピットが極めて細かいため青紫レーザー(波長405nm)でなければ反射を識別出来ない。
また、CDのピット記録層つまり読み取り面はディスクの奥中に在るが、Blu-rayではディスクのギリギリ表面部にあり、これはディスクがちょっとでも反ってしまったさいのピット検知誤差を最小限に抑えるため (ピットがディスクの奥中にあると検知誤差も大きくなる。)


<フラッシュメモリ>
フラッシュメモリのセル構造はCMOS型であり、他の多くのLSI素子と同様、1セルずつがソース、ドレイン、ゲートの3電極から成っている。
ソース/ドレイン/ゲートの各電極に電圧がかかる/かからない、つまり電子が在る/無いによって、ビット0/1を読んだり書いたり、と、この基本構造は通常のLSIと変わらない。
ただし、フラッシュメモリにてはゲート電極がいわゆる「浮遊ゲート」構造となっており、この浮遊ゲート極に電圧をかけると「電子を一時的に貯め込む」ことが出来る。
この浮遊ゲート極の電子の活用によって、高速演算処理およびデータ不揮発性において、通常のLSI素子やデータ保存媒体を超えた媒体と成りえている。
※ ここのところ、本書p.105における電極フロー図を是非参照されたし。なおフラッシュメモリの発明者は東芝の舛岡富士男である。


<デジカメ>
デジカメの撮像素子は、格子状に微細に分けられた大量の画素から成り、各画素の遮光マスク上にてマイクロレンズとカラーフィルターがあり、それぞれ光センサー(フォトダイオード)が対応している。
それぞれの画素にて、カラーフィルターが受光を三原色に分解し、光センサーが受光を電子に量的変換。
これらの画素の電子量を電気信号(データ)化するにあたり、方式が2つあり、1つはCCD型の方式で、装備されている全ての画素における電子量を順次に確認しつつ電気信号化するもの、もう1つはCMOS型で、電子の有る画素のみその電子量を電気信号化するもの。
電気信号化の過程ではCCD型の方が誤動作はヨリ少ないが、機構上はCMOS型の方が単純であるため、現在生産のデジカメの9割以上はCMOS型のものである。


<クォーツ時計>
クォーツつまり水晶は、力を加えると電圧を生じ(圧電効果・ピエゾ効果)、また逆に電圧を加えると固有のリズムで振動する性質を有する。
じっさい、水晶の細片に交流電圧を加えると1秒間に約3万回の固有リズムで振動するので、「水晶振動子」を用いてこの振動を1ヘルツの周波数の電気信号に変換し、これを受けて超小型のステッピングモーターが1ヘルツ周期で回転、これが時計の機能を為す。
なお「水晶振動子」は現代の電子機器において不可欠であり、コンピュータや動作検知センサーにて重要なデバイスである。
※ 因みに、セシウム原子時計はクォーツ時計よりも遥かに正確で、誤差は3000万年で1秒以下!であり、標準時の電波時計にて活用されている。

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以上、ほんのごく僅かながら、僕なりに概略してみた。

ともかく本書は技術/工業化の実例紹介がふんだん、表面科学など理論性の高い学術から日用品レベルでの軽妙な種明かしまで、次から次へと、出てくる出てくる…いつでもどこでもそして誰もが小理屈抜きに楽しめる理科の宝箱。

2018/05/09

エネルギー保存則

※ エントロピーへの挑戦

「ねえ、せんせー!」

「んー、なんだ?」
「あたし、最近、なんだか退屈でしょうがないんです!」
「ははぁ、それは君が成長したってことだ」
「でもー、以前は何もかもがもっと新鮮だったような気が…」
「それはそうだろう。たとえば、まだ君がちっちゃかったころは、太陽はいつも眩しく、木漏れ日は楽しく、水面が羽ばたき疾風が響いていたはずだ」
「ふーん。そういえば、そんな気も…」
「人間はね、初めは何もかもを一瞬一瞬の新鮮な偶然だと捉えるものなんだよ。それがね、時間の経過とともに、あらゆる偶然を回帰的に連続させて、たったひとつの必然の方程式にしてしまうんだ」
「へーーー」
「これはつまり、その人間が秩序だった『仕事』を成し、その代わりにおのれ自身はエントロピーが増大して、おわりに向かうということで」
「なんだか、分かったような分からないような…」
「そうかね。それじゃあ ─ ほら、沢山のカードがテーブルの上にあるとするだろう。子供のころは、どのカードもみんな裏返し、つまり、どれもこれも偶然に散らばっている。それを一枚いちまいひっくり返しては、記号や数字を確かめていたわけさ」
「ふーむふむ」
「でも、成長するに従って、表向きにひっくり返したカードがどんどん増えてくるんだろう。もう分かりきってしまったカードだ。確定済みのカードだ。これが、必然が増えるということだ」
「ふーーーーん。なんだか、眠たくなってきちゃった」
「いいから聞け。全てのカードが表向きに捲られた時、何もかもが必然の秩序として並ぶことになり、その人間自身は為すべき仕事を終わらせたことになる。まあそういうこった」
「なーるほどねぇ…はぁーー、眠い、あーー……」
「もうちょっと聞け。いいか、俺たち人間はね、これでおしまいってわけじゃないんだ。いつも新たなカードを新たなテーブルの上に並べ続けているんだよ。まだ捲っていない、ドキドキ目くるめくような、新たな偶然のカードをね。ざーーっとね」
「……はっ!うっかり眠ってしまった!あたしは、いったい……?あのぅ、すいません、あなた、どなたですか?」
「なんだとぅ?君はふざけてんのか?!」
「はぁ?いったい誰なんですかあなたは?」
「俺だよ!俺、俺」
「あたしは、あたしは、あたしは!ああ!太陽が眩しく、木漏れ日が鮮やかで、風が水面を波立たせるような、新たな偶然の予感、新たな出会いのときめき感、それが今日なのね!それが今なのね!こんなところで寝ている場合じゃないんだわ。さぁ、どいてっ!」



(※ 最近、こんなふうに理科や数学をヒントにして掌編を作ってはみるのだが、いやぁ、小さくまとめるのは本当に難しい。)