2019/08/15

【読書メモ】もうすぐいなくなります

数学や物理学など、公理定理と論理演繹で解釈しうる(はずの)学術とは異なり、生物学は諸々の事象について「why / becauseの解釈そのもの」がかなり難解な分野ではないか?
いや、そんなことはないのかな、生物をとりまく現行の諸問題は政治も含め合わせて実にリアリスティックではないか…といったところを考えつつ、ふと手に取ってみたのが、此度紹介の本書である。
『もうすぐいなくなります ─ 絶滅の生物学 池田清彦  新潮社

ちらり、ちらりと立ち読みしてみれば、マンモスの再生とか、リョコウバトやトキの絶滅とか、ネアンデルタール人とホモサピエンスの混交とか、HIVウィルスやトキソプラズマなどなど ─ うむ、これは知っている、うむうむ、これも聞いたことがある、と安心して読み始めてみた。
だが、しかし……やっぱり難しい、とくに変異と形質変化と進化などは、人間ごときが因果の解釈をなしうる事象ではないのか、いや、そもそも生命とは何かという根元命題からして了察しきれた気がしない。
まして、サブタイトルにある「絶滅」の定義などは、本書末尾にもあるように解釈が一様で済むわけがないのである。
それでも、本書は第四章に「絶滅危惧種」を巡る状況が仔細にリスト化されており、寧ろこれらに直接の関心を抱いて本書を手に取る読者も多いのではと想像する。

ともかくも、此度の僕なりの「読書メモ」としては、たぶんこういったものであろうと理解しえた箇所につき、ぐっと掻い摘んで以下に雑記しおくことにした。


<生物の誕生と絶滅、超概略>

地球の全球凍結(スノーボールアース化)と生物
一回目は約24億5000万年前~22億年前。
少し前から興っていた光合成細菌(シアノバクテリアなど)による酸素の大量生成が、この地球全域の低温化を招いたため、との説あり。

二回目は約7億3000万年前~6億3500万年前。
この全球凍結期の地球でも、火山活動が続いており、二酸化炭素が大量に排出、この期間には海が無かったので大気中の二酸化炭素濃度は現在の400倍にまで増え、これによって巨大な氷床が溶けていき、地表が温暖化したとされる。

この過程にて、細胞ごとに機能分業を確立させた初期の多細胞生物が生まれたとされており、これらは構造上の対称性/非対称性に特色をもつもので特にエディアカラ動物群と称されている。
地質年代表では、原生代のヴェンド紀にあたる。

・生物の大量絶滅。
少なくともこれまでに6度起こったことになっている。
① 5億4000万年前、古生代のカンブリア紀に差し掛かるころ、マントルの巨大なプルーム(対流)が下降して巨大な力で諸大陸を引き寄せ、ゴンドワナなどの超大陸が形成と分裂を繰り返す中で、エディアカラ動物群は大量に絶滅してしまった。

カンブリア紀にては、生物「種」の爆発的な多様化が始まった。

② 4億4000万年前、古生代のオルドビス紀が終わるころ、地球の大規模な寒冷化が起こった。
当時、ほとんどの生物は海中に生存していたが、寒冷化によって海面が下がってしまったため浅い海の生物の約80%は絶滅。

なお、このころ太陽の近くにあった巨大な恒星が超新星爆発を起こし、高エネルギーのガンマ線がオゾン増を破壊して地球に注がれ、これこそが生物の大量絶滅の要因との説もある。

③ 3億6000万年前、古生代のデボン紀が終わるころ、プルームが高温化し上昇して火山の大爆発。
これによる大量の溶岩で、生物の多くが絶滅。
また火山大爆発は有毒ガスも大量発生させ、これによってスーパーアノキシア(超酸素不足)が引き起こされ、海中の多細胞生物のほとんどが絶滅した。

但し、このさいの大絶滅の要因としては巨大隕石の衝突説もある。

④ 2億5000万年前、古生代のペルム紀が終わるころ、また火山の大爆発とスーパーアノキシアによって生物の大量絶滅があり、この時の絶滅は生物史上の最大規模とされ、「科」の約60%、「種」の90%が絶滅した。

⑤ 2億年前、中生代の三畳紀のおわり、また生物の大量絶滅があった。

⑥ 6550万年前、中生代の白亜紀のおわり、また生物の大量絶滅があった。
巨大隕石が地球に落下し、マグニチュード11~12ほどの巨大地震が発生(東日本大震災の3万倍のエネルギー)、このさいに巨大津波や火山噴火がおこり、恐竜をはじめ体重25kg以下の陸上動物のほとんどが絶滅してしまったとされている。


・火山噴火と人類。
7万年前、スマトラ島のトバで大規模なカルデラ火山噴火、このさいの火山灰のため地球の平均気温が約5度も低下、この低温状態が最長で6千年も続いたとされる。
このため、植物の光合成量が減り、だから人間の食料も減り、当時は数十万人は居たはずの人類がわずか7千人程度にまで減少してしまった!
このさい、人類の遺伝上の多様性も極度に狭まったことになる。

阿蘇山は過去40万年の間に4度のカルデラ大噴火を起こしているが、日本列島に日本人が集住する以前のこと。
とはいえ、7000年ほど前、屋久島北方の鬼界でもカルデラ噴火があり、このため縄文時代先期の日本人は難を逃れて移住している。



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<主要な論題 - 生物の系統、個体数、遺伝多様性など>
・諸々の生物の系統/分類につき、下位から上位へ概略すると;
亜種<種<属<科<目<綱<門<界
(ヒトの系統分類は、ヒト種<ヒト属<ヒト科<霊長目<哺乳綱<脊索動物門<動物界<真核生物)

このうち、現存する生物は「種」「属」「科」の数においては生物史上最多である。
ただし、ヨリ上位の大分類たとえば「門」までで括ってみると、すでに絶滅してしまった生物「門」が極めて多いともいえる。

ただし、生物系統そのものが連続的に変化しており、異なった「種」の混交もあり、さらにミトコンドリア系列による個体分類などさまざまなレベルでの分類がありえる。
よってこれらの整理はけして容易ではない。


・あらゆる自然環境は必ず変わる、そして、生物はそれら環境に応じて変異する。
変異により興った新たな系統の生物は、DNA自身が変化しやすいのか、DNAのマネジメント能力が高いのか、ともかくも環境に応じて進化しやすいフレキシブルな形質をもっている。
感染症のウィルスでさえも、人体などの環境に応じて変異し、その環境と共存しやすい形質となって生きながらえるものがある。

変異によって系統の分離を繰り返し、新たな生命システムを体現し ─ この結果として現在のさまざまな系統の生物がある。
変異しなくなった生物は、環境の変化に応じることが出来ず、いつか絶滅してしまう。
こうして連続的にみると、あらゆる突然変異を偶然発生の事象として捉えるのはおかしい。

生物の形質や生活様式には、生命活動の上でスペシフィックなもののみならず、(少なくとも人間が観察するかぎりでは)無駄なものも含まれている。

必然とみえる遺伝子もまた形質も、その個体群が絶滅に瀕した時には有益とは限らず、むしろ無駄と見える遺伝子や形質が他の個体群(いわばメタ個体群)との混交にさいして有益となりうる。
これによってこそ、その生物は絶滅を回避しうる。

・あらゆる生物において、それぞれの個体数とそれぞれの遺伝上の多様性は比例的には増大しない。
ある生物種が何らかの理由でいったん隔離されるか、あるいは絶滅に瀕すると、生き残った個体は遺伝上の多様性がむしろ減少してしまうことになる。
生物が近親交配を嫌う理由もここにあるのではないか。

・ある生物「種」と別の生物「種」が拮抗する場合、古い種ほど絶滅しやすく、新たな種ほど生き残っていく。
しかし、最近のアプローチによれば、生物はじっさいには異なった種同士が混交しつつまた分岐してきたことも分かってきた。
さらに、単為生殖の生物はクローンともいえ、だからその種および個体が絶滅したか否かは判断しやすいが、有性生殖の生物ではどの段階でのどの種が絶滅したか(していないか)判断は難しい。

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※ なお、本書はあくまで一般向け書籍とはいえ、論旨展開が其処ここに重層的であるため、しばし主旨を捕捉し難いことは否めぬのではないか。
勝手に想像するに、口述筆記に多くを依っているためであろうか、或いは出版社の書籍編集上の意図によるものか…いずれにせよ具体的な苦言として呈しておきたい。
本著者である池田清彦氏の卓絶した学識から着想センスまで概ね存じ上げているだけに、なおさらのことである。

以上