2020/01/20

2020年 センター試験についての所感

大学入試センター試験は此度が最終回となったようで。
何にせよ高校生や浪人生の大半にとっては定例の通過儀礼ともいえよう。

まずは、これまでさまざまな議論を喚起してやまなかった英語科の出題について、ちょっとお別れの念も込めてチラりチラリと一読してみた。
そこで、第6問における「自販機の意義」についての読解文につき、どうも立体的/多次元的な表現技法に欠けているのではと察したので、敢えて論っておく。
例えばだが、第2段落における以下の箇所
It is generally believed that the first one (vending machine) was constructed by a Greek math teacher about 2000 years ago.
→ ほわんと読み飛ばせば何となく意味は分かるが、'generally'に信じられているとの記載はちょっと奇妙だ。ここで論じられているのは一般則か例外則かではなく「特定の定説」であるはず、だから、その定説の強度ないし程度を表す'persistently'や'broadly'などがふさわしいのでは?
さらに、'construct'は複合的な機構を「合目的に組み上げる」の意で往々にして用いられる語であり、史上初の(たかが)自販機が'construct'されたというのは不自然、「いろいろやってみたら出来ちゃった」の意として'assemble'や'make up from scratch'の方が判然とするのでは?

This machine sold special water (that was) used in prayers at temples. People who wanted to purchase the water put in a coin  ... 
ここの一連の段にては、まず、祈祷用の水が有償で「売られた」との表現はでは自販機がおのれ自身の判断で売ったわけではなく、事業上の目的から然るべき権威筋が販売したのであろうからserved for fees'の方が主旨が明瞭になる。また、その水が祈祷用つまり特定用途であれば'special'ではなく'specific'かと。さらに'used'にも違和感あり、祈祷に用いられたとはつまり捧げられたの意であろうから、'devoted'などが論理明瞭なのでは?そして、祈祷に訪れた人たちがおのれの意思でこの水を'want"したというのも不自然であり…

もうこのあたりでやめておくが、ともあれこの第6問の英文における動詞や副詞の表現は、少なくとも「機械と機能」「目的」「事業」といった立体的な次元分類が曖昧に過ぎ、悪く言えば平坦であるように見受けられてならない。
僕自身、現在は高校生向けに英文テキストの執筆を随時手掛けており、かつ英米人からの添削指導も数多く受けてきたので、例えば)日本人や中国人など非ヨーロピアンが起こした平面的な英語表現などなどについてやや鋭敏になっている。本旨、イジワルに響かないことを祈る(笑)

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英語は、もういい。
それよりも、僕なりにセンター試験にてここ数年ずっと注目してきた社会科について論考してみようと思う。
社会科を注視してきた理由は、そもそも論でいえば、社会科こそが人間世界の理想論の礎であり、一方ではさまざまな欺瞞の温床でもあるからだ!
それゆえ、社会科の思考/知識がどれほどまでにシステムとして完成されているか、逆から問えばどれだけ言葉遊びに留まっているかを、一大イベントであるセンター試験の出題において見極めたかったのである。
きっと来年度以降の新たな形式での一斉試験でも同じスリルをもたらしてくれようと期待している。
ともあれ、今回出題された政治経済と世界史について、以下に所感を簡単にまとめおく。

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【政治・経済】
① 経済や政治制度上のさまざまな基礎理論に則った思考実験タイプの出題こそが、政治・経済の出題上の醍醐味であったはず ─ この点を鑑みると、本年出題は大幅に易化したのではないか?
② その一方では、相変わらずというべきか、<第1問>や<第3問>のリード文に見られるように経済活動やその責任負担のグローバル化が文明の必然プロセスであるかのごとく呈されている。しかし、それぞれの国地域におけるそれぞれの人間による需要量も供給量も不定形かつ随時に変化しつづけているのに、何故グローバルな貿易と産品一体化と人的混交が大前提たりうるのか、どうにも腑に落ちない。
グローバリズムに対する疑義は、Breixtやトランプ政権や中国の膨張さらに国際法や国連の存在意義などを考察する上でも極めて重大な切り口たりえよう、ここのところ突くに至らなかった今回の出題のつくりには不満が残る。

さはさりとて、此度の出題も幾つかは良問あり、こんごの学生諸君の勉強を触発しうる重大事項もあり、以下に列記しおく。


<第1問>
問4.逆資産効果とは、資産価値が(額面にて)下落し続ける局面にて、それらに則った新規投資や投機も減少していく過程をいう。なお、問題文にある生産コスト減少と売価「維持」は、消費者に対して優位に立ち続ける事業者の戦略の一環であり、かつまた同業者間での供給量と利潤におけるサバイバル戦略でもある。

問7.法律に基づく「最低賃金」は地域別かつ産業別におかれている。

問8.お馴染みの需給曲線であり、或る国における特定品目が需要超過の場合にその品目を輸入によって補完する、との前提。極めてベーシックな設定ゆえに理解は易しいが、但し本問は設問文の表記が杜撰過ぎるのではないか。国際価格、国内産業、そして関税のどの語にも全て「当該製品の」と厳密に冠すべきであろう。さもないと関連製品との細かい売買プロセスや代替品などを想起させ、思考を拡散させてしまいかねない。

問10.第三国定住とのタームに要注意。「第三国」や「難民を定住させる」の表現は論理上どうも了察し難いが、制度上は世界レベルで確立しつつあり、意義と効果を考察することは極めて重大である。


<第2問>

問4.「永住資格」を有する「在日外国人」にまず混乱させられる学生が多い。「永住権」と「国籍」と「参政権」のそれぞれにおける権利を段階的に分けて理解必須。本問のように、政治分野において引用されるさまざまなタームは権利の分類こそが最も本質的かつ明瞭である。

問6.国民所得の三面等価などを想起し、国内総生産(GDP)のうちの間接税と減価償却費は…と早合点してしまった受験生も多いのではないか。しかし、本問では初めから国民総支出(GNE)の総覧だと書いている。そもそも国内外の最終生産物のカネベースの合算が国民総生産(GNP)で、そのカネが使われた対象物のカネベースでの合算が国民総支出(GNE)だ。この大前提にて、海外との財貨・サービスおよび所得の±を調整計算すれば、トータルな額面はぴったり同じになる。


<第3問>
問3. 貿易における船積書類と(荷)為替手形の決済フロー図である。大雑把にいえば、複数の国々の間において商品貨物と代金を確実に交換するため、輸出側と輸入側のそれぞれが自国で信用出来る銀行を活かす方式。
ここで必要となる書類は大別すれば2つ、うち1つは商品貨物の権利書類としての「船積書類」、もう1つは代金請求書類としての「(荷)為替手形」であり、この両者による支払い手続きを了解した輸入側銀行から発行されるいわば'要領指示書'が信用状(L/C)である。
この信用状の指示通りに、輸出国の当該業者は商品貨物を実際に船積し、これは数日~数週間かけて輸入国の指定場所に物理的に届けられる。一方で、その「船積書類」と「(荷)為替手形」は輸入側の銀行に発送される。輸入側の当該事業者は、これら書類の記載と現物の商品貨物が一致することを確かめてから、銀行に代金を支払う。
…以上のフローにて、信用状(L/C)は「船積書類」とも「(荷)為替手形とも同道しないことが分かるだろう。

※ 僕なりに思いきって簡素にまとめてみた。これでもなお決済関係が複雑にも映ろうが、図案で再確認すれば存外易しいもの。ちなみに、これは大手銀行や大手商社や輸出入指定業者において入社初日に学ぶ国際標準の貿易実務フローである。


問8.グラント・エレメント(grant element)は政府開発援助(ODA)における資金協力の金利および貸付要件の複合指標であり、これらが借り入れ国側に有利であればグラント・エレメント率が高く評定される。もし贈与としての資金供与であれば受け入れ側にとっては論理上最高の要件となるため、グラント・エレメントは100%となる。


<第4問>
問1および問6.ワイマール共和国の理想(生存権の徹底)と現実(ナチスの台頭)については、高校社会科どころか一般社会においてさえも総論的に定義することが極めて難しい。当時のドイツ国民の職能と経済状況とカネの所在に対する我々の了解が一枚岩ではゆかぬため。だからこそこんごとも拘って欲しい事項ともいえる。

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【世界史A】
いつも楽しみにしている科目であり、その理由は世界史を地理と産業という横軸で紡ぎあげていく楽しさが見いだせたため。しかしながら本年の出題にてはそれらの横断的な見識がほとんど問われなかったのが残念。とりわけ、東西世界をつないできたトルキスタンがらみこそは世界史Aの大テーマであろうが、此度は主題として呈されなかったのは妙でさえある。
救いはむしろそれぞれのリード文であり、教養テキストの一環として挑む上では面白かった。
ともあれ、こんごの学生諸君の勉強に大いに繋がりうる良問について以下に分析や注記を成す。

<第1問>
リード文Aにては、イングランド史上にて最後に戦死した国王であるリチャード3世を巡るエピソードが歴史/文芸ロマンを掻き立てる。なお問2に引用されている大英雄サラディンと十字軍時代に対峙したのは、猛将と讃えられたリチャード1世である。
一方で、リード文Bは朝鮮(ソウル近郊)における『大清皇帝功徳碑』を巡る一節であり、朝鮮独立時には否定されたこの功徳碑が現在は韓国政府によって文化財に指定されている旨、こちらも含蓄のある事実記事といえる。

問3.『最後の審判』の画そのものを見せた上で、これを描いたのは誰かと問うている。ここまでやるなら画のタイトルも隠した出題とすればもっとエキサイティングだった。


<第2問>
問5.チャーチスト運動は、19世紀半ばから普通選挙や選挙区の公正化などをうたう人民憲章を掲げて、中産市民の選挙権拡大を訴え続けたが次第に弱小化した。なお、この運動が起こったのは第一回選挙法改正が為された直後のことである。
因みに、チャーチスト運動よりさらに後に第1インターナショナルが組織されたが、こちらはプロイセン=フランス戦争~パリ=コミューン弾圧などを経て勢力が内部分裂して潰えた。
更にこの後に、今度は国際的な反戦活動を謳う第2インターナショナルが組織され、こちらは日本も参加したが、第一次世界大戦によって論理上の意義を失い瓦解した。

問9.出題意図の分かり難いもの。ここでの「中国人の死亡率」の算出方式が呈されていない。しかもこのグラフでは、第1次5か年計画より以前であっても、(大躍進の時期同様に)死亡率が高かったと読み取れてしまう。こうなると、むしろ中国人の死亡率が何故高かったのかを考察することに意義があるような気もしてくる。


<第3問>
この大問ではリード文Bがやや不明瞭ではないか。第二次大戦時のフランスが植民地拠点のレジスタンスによって再度独立を勝ち取った、までは分かるとしても、なぜ戦後のフランスが植民地の民族自決を抑え込み続けたのか納得できるだろうか?

問4.現在まで、商業活動における印紙貼付には様々な課税用途があるが、ここでの印紙法における印紙とはアメリカ植民地における出版物や法的証書においてイギリス政府により貼付を課せられたもの。
この印紙法自体はアメリカ植民地人たちによる強硬な反対運動によって撤回されたものの、一方でイギリス政府はアメリカ植民地への直接的な統制を強化したため、結果としては寧ろアメリカの独立志向を煽ることになってしまった。

問7.チャーチルの政治キャリアはよく論じられるテーマである。イギリスの対ナチスドイツ宥和政策を批判したためにいったんは中央政界から失脚しつつも、じっさいに第二次大戦が始まってみれば中央から呼び戻されて首相となり、イギリスの防衛、アメリカとの連携、国際的な勢力均衡を図り、第二次大戦後にはソ連の脅威にも対抗した。


<第4問>
問2.よく知られるフランス共和制の標語は自由・平等・博愛の三拍子だが、これは第三共和政の時代に冠せられた観念上のトリコロールであり、もともとフランス人権宣言においては本問にあるように自由・平等・国民主権が主たる根本理念であった。

問4.千夜一夜物語(アラビアン=ナイト)はアラビア語で残されている説話群だが、逸話によればこれらはササン朝ペルシアの王妃シェヘラザードが著した数々の掌編が元になっている。

問6.国際法の観念とバランス=オブ=パワー。なるほど出題そのものはアッサリ易しいとはいえ、本問こそは政治史としてとりわけ深淵かつ巨大な主題のものといえ、更にいえば世界史Bの出題にもふさわしいともいえよう。

さて、スケール感バツグンの本問について、バックグラウンドをちょっと俯瞰すると;
中世~近代のヨーロッパにおける大名門のハプスブルク家は、古くスイス地方から興りオーストリアに進出して神聖ローマ帝国の皇位をはじめ諸国の王を継承。
そして、ルターに始まる宗教戦争の時代においてはスペイン国王カルロス1世=神聖ローマ皇帝カール5世を輩出して世俗権力の頂点に君臨していた。
宗教戦争を一段落させたアウグスブルクの和議は有力諸侯の領邦における宗派選択権を認めたもの。
そして本問の肝である三十年戦争は、神聖ローマ帝国とフランスの対立を軸にもはや宗派を超えた世俗レベルでの大戦争となり、ここでグロチウスが著した「戦争と平和の法」がきっかけで国際法/バランス=オブ=パワーによる平和維持の通念が生まれた。
以上の大雑把な流れこそがヨーロッパの近代以降の在り様を決定づけており、更に時代が下るとイギリスやロシアをも巻き込んでの列強間の勢力均衡を形成、じつに第一次世界大戦まで続くことになった。

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【世界史B】
今回の一連の出題は雑文が多すぎたのではなかろうか。用語こそふんだんとはいえ、出題文が論理的にウヤムヤに過ぎるものが散見されガッカリした。
その一方では、「論理上ありうること(あたりまえのこと)」を極端にクローズアップしたリード文も散見され、これらは引用の意図がさっぱり分からず辟易させられてしまう。
(たとえば第2問のリード文Cにては、「鄧小平が中国人のプライドを傷つけないように…日本の技術を称賛」云々とあり、また第3問のリード文Bにては、「マルクスがアジアの村落共同体について考察し…植民地となったアジアからの情報がヨーロッパの思想潮流に大きく影響を与え…」とある。うむ、確かにそれらはそういう言い方も出来よう、だから一体なんだってんだ?)

そんな訳で、世界史Bについては良問の評価や分析をここにしたためる気が失せてしまった。よって本稿はここで終えることとする。


以上

謝辞

ここに提示の記事は、いずれも私自身の判断責任のもと編集・投稿したものです。

大半の投稿は学生など若年層向けを意図してやや平易な表現にて、一方では通俗性を極力回避しつつ、論旨の明示性を意図して書き綴りました。

あわせてまた、社会人の皆様にお読み頂くことも想定しつつ、汎用性高い観念知識を相応に動員しながら記した積もりです。

私なりの思考着想によるささやかな閃きが、皆様の諸活動にて何らかの光源たり得れば、望外の喜びであります。

山本