2020/06/21

【読書メモ】国際法

学生などは無意識のうちに、国際法が万民共通の法であると勘違いしがちであるようだが、これは世界が万民共通の家であるかのような生易しい先入観による。
そもそも世界が本当に万民共通の家であるのなら、国家なる主体は存在しておらず、だから’国際’という観念も無く、国際法も在り得ず、世界には統一法だの万民法だのが普遍されてきたはずだ。
しかし実際には世界がおのおの国家で区切られており、「だからこそ」特定の国家間で認め合った慣習があり条約もあり、それらの関係ひとつひとつを「いわゆる国際法」と呼んでいるのである。

さて、現下の新コロ災厄においてこそ、法学部生などはもとより一般社会人の皆さんにも「いわゆる国際法」の基本的な論拠/在り様をリマインドしておきたいと、僕なりに思い立った。
とりわけ、以下を大前提に据えた上で「いわゆる国際法」の理解が必要であろうと僕なりに想定している。
① 経済のグローバル化: そもそも物質文明に自然科学上の制限が在る以上は製品と市場の地域分立こそが常態であろうが、一方では国際金融資本による論理上の利益収奪と企業支配なども依然継続中であり、今後とも抗すべきである。
② 国家間の拮抗や対立: 国際連合や中国共産党などの左派思想勢力は依然として存続しており、これらによる諸国家や諸文明の圧殺に抗するためには少なくとも諸国間のバランスオブパワーを保持すべきである。
これらが中長期的に正論たりえるか否かは学習者の見識次第となろう。

ともあれ、ブログ上にて「いわゆる国際法なるもの」について語るならば、せめて概説書くらいは挙げておいた方が信用されよう、と思い立ち、これまでたびたび取り上げてきた有斐閣アルマ刊の初学者向けの(そして廉価版の)テキストから、一冊を選んでみた。
『国際法(第3版) 有斐閣アルマ
尤も、本書はあくまでコンパクトにしたためられた概説本であり、一方では上述のとおり国際法自体に独自完結性が乏しいため、文面と論旨がやや大味に見受けられてしまうもやむなしか。
ともかくも本書における第2章「国家と国際法」および第5章「国際法の存在形態」が国際法の超概説としてまとまっていると察し、これらにつき僕なりに以下にざっと概括してみた。


<大前提・法源>
国際法は実体法として完結することとされている。
しかしながら、これ自体は自律的/論理的に生成される法体系ではなく、あくまで各国の国内法があってこそ国際法が別途に生成される。

国際法は、その形式上の法源が「条約」及び「慣習法」に在るものと見なし、現代では「法の一般原則」も国際法の法源に含まれるとされている。
また、判例」や「学説」は、これら条約、慣習法、法の一般原則の内容を確定させるための補助的法源とされている。

・学説上、「共存の国際法」「協力の国際法」に定義分類出来る。
まず、共存の国際法は、国家相互間の権利/義務を画定する目的で規範を定める法とされる。
その規範は、「許容規範」「義務・禁止規範」、および「それらにおける欠缺(空白)」領域にわたる。
ここで許容規範とは、相手国に対して強制可能な対抗力と拘束力を行使するための規範。
また義務・禁止規範とは、相手国と法的義務を設定の上で違反の責任を発生させ拘束力を行使するための規範。

また、協力の国際法は、各「条約」の締結国が共同で国際的公共事務を設定し分担を義務付け、監視や制裁の権限も与えられうる法とされる。
欠缺が起こる場合には当事国が裁量判断。

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<慣習国際法>
「慣習国際法」とはさまざまな国際的な慣習のうち「法として認められた一般慣行を指す。
慣習国際法は不文法の形態を採りつつも、国際法の形式上の法源の一つと見なされている。
伝統的な国際法の重要原則、例えば公海の自由や外交使節などは慣習国際法に則ったものである。

ここでの「一般慣行」とは、客観的に見て反復・継続により一般性を有するに至った国家実行であり、その意義は国際社会における一定行動の法的安定性、および法としての実効性の保障
尤も、「許容規範」において一般慣行の妥当性認識に相違が生じた場合、或いは「義務・禁止規範」においてその認識の相違が生じた場合にて、一般慣行をどのように優先づけるかが異なってくる。

更に、慣習国際法の成立を補完している要件としては国際的な「法的確信」も認められている。
ここで法的確信を定義する趣旨は、国際的な礼譲や慣行との区別を図ること。
これもまた、「許容規範」におけるその妥当性認識に相違が生じた場合、或いは「義務・禁止規範」においてその認識の相違が生じた場合にて、どのように優先づけるかが異なってくる。

慣習国際法は、国際間の「規範」の法的安定性と予測可能性を確保しうる法であり、よって原則として全ての国家に適用されうる。
しかし実際には、慣習国際法は必ずしも全世界に適用範囲が及ぶわけではなく、地域的な慣習法や特定二国間の慣習法が優先されることも認められている。
更に、或る慣習国際法の成立以前からその適用に抗してきた国々は、とくに一貫した反対国として相応の便宜が認められている。

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<条約>
「条約」とは、慣習国際法にて不明確な点あるいは慣習国際法と異なる点を別段に規程する成文法である。
条約の当事国とは、それによる履行義務に同意しかつ自国にてその効力が発生する国「のみ」を指す。
さらに、条約は当事国間の相互主義を超える国際協力の手段として多数国間にても締結される。

条約の成立要件は、国家ないし国際組織間におけるものであること、文書あるいは口頭にて双方合意が認められること、そしてあくまでも国際法に則っていることである。

※ 条約はさまざまな名称を採りうる ─ 例えば、convention, protocol, declaration, pact, act, agreement, concordant など。

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<国際法における国家の成立要件>
「国家」と自称する主体が国際法上にて認められる要件は、住民、一定の領域、実効的な政府の3つであるが、これらに条約締結などの外交能力を加える見方もある。
尤も、これら要件を満たしたとして新たな国家の成立が主張される場合に、国連にも他の国際機関にもこの成立国家を統一的/有権的に承認する機能は無い。

ただし、その新成立国家がどこか他国から承認されれば、その国との間においては国際法上の主体たりえるとの見方があり、これが創設的効果説である。
一方では、その新成立国家がおのれの宣言時点で国際法上の主体として遍く承認されうるとの見方もあり、こちらは宣言的効果説と称される。
とくに国際連合憲章にて「人民の同権と自決の原則」が謳われて以降は、宣言的効果説が一般に採用されている。

新規国家の「権利の承継」は、常に国際法にかかる問題である。
或る新規独立国が先行国(旧宗主国)の国際法上の権利も義務もすべて承継しうるとの見方があり、これを「包括承継」と称す。
しかしながら一方では、第二次大戦後の新興国において、先行国(旧宗主国)の国際法上のあらゆる権利と義務から解放されるべきだとの主張もあり、これを「クリーン・スレート議論」と称す。

とりあえず国際法上の独立を承認された国家には、対外主権(独立権)と対内主権(領域主権)が認められ、だから国際間にては国内事項(国内管轄権)への不干渉も定式化されている。
それぞれの国家による主権の実践としては、国際法上の使節権や条約締結権のほかに、おのおのの自衛権も相互の主権平等権も認められている。
国家の管轄権としては、属地的管轄権、属人的管轄権、旗国管轄権などが認められている。

※ 本ブログ投稿の直後に、中国が香港に国家安全維持法を課したが、解釈次第では諸国の属地的あるいは属人的管轄権が侵害されかねないものとして、大いに論議を呼んでいること言うまでもない(7月2日に加筆)。

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<国際連合>
国際連合(国連)には国際法の立法権限は無い。
しかし国連は、付託された紛争について、国際法にかかる会議招集及び採決を実施出来、また下部組織であるILCは条約の草案を起草することもある。
国連による国際法の法源解釈として、ICJ(国際司法裁判所)の規程38条1項にて以下に定めている。
(a) 一般又は特別の国際条約で係争国が明らかに認めた規則を確立しているもの
(b) 法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習 (この国際慣習については上に記したとおり)
(c) 文明国が認めた法の一般原則
(d) 法則決定の補助手段としての裁判上の判例及び諸国の最も優秀な国際法学者の学説
※ 本箇所についてはwikipedia上の表記が整理されていたので引用した。)
このICJ規定にては、上に記した「国際慣習」、「国際的な法的確信」、「条約」も認められたことになっている。
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<国際法違反・補償など>
国際法を違反した国家には、原状回復や損害賠償や陳謝などの事後救済の責任が生じるが、そもそもこれらを強制執行させる枠組みそのものが国際的に確立しきっていない。
よって、被害国それぞれには自衛権や非軍事的復仇といった自力救済の権利が認められている。

・国際法は国家間の権利平等を実現しているわけでもない。GATTやWTOなど途上国に補償的な国際ルールは存在するが、国際法自体は万国平等の系として解釈も適用もされていない。
そもそも国家は、自らの国際法違反行為と責任を滅多に自認しないか、或いは逆にそれらを自認した上で国際法違反を犯す場合すらある。
さらに、国家間の事前の合意事項は事後の慣行によって改変されうる。
また、国連にてソ連の継承国としてロシアを安全保障理事国に任じたように、国際間における法的安定性を担保するため敢えて人工的な解釈を適用する場合もある。

国際司法裁判所は存在するが、裁判成立のためには係争当事国の合意管轄が必要。
じっさいに裁判に至った係争は少なく、外交交渉によって当事国間で解決に至る場合がほとんどである。
国際刑事裁判所もあり、刑事法上の罪を犯したとされる個人を裁きうるが…

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以上、あくまでも国際法にかかる根本基本を概括してみたつもりである。

さて、本書の第9章以降にては、 ─  陸の国際法、海の国際法、空と宇宙の国際法、人と国際法、国際刑事法、国際経済法、国際環境法、紛争の平和的解決、武力・経済力の行使と国際法、武力紛争・軍備管理の国際法、と実践的な国際法解釈と実践解釈などが続く。
そして本書末尾には、条約、決議、司法裁判所による判例が一覧されている。

とくに、法学部志望の受験生諸君へ。
君たちのうちには「国際法」への憧れもしばしば散見されるが、そうやすやすと憧ればかりで型がつくような生易しい思考系ではないよ。
曖昧ゆえにこそ複雑に入り組んでおり、それゆえにこそ善用のみには留まりえない、この「国際法なるもの」の厄介きわまる思考難度をちらりとでも察した上で、まずは法の何たるかを了解してからこそ未来への希望をもって挑むべきであろう。

以上