『予測学 大平徹・著 新潮選書』
本書はサブタイトルにて「未来はどこまで読めるのか」とあるように'どこまで論’、つまり数学の概説本。
本書にて念押しされている根幹的な主題のひとつを察するに;
「或る対象において現在までに確認されたさまざまな発生事象」と「諸々の動的要因/経過時間」のかかわりを精査した上で、これらを「同程度に発生しえた確度(等重率)」ごとに峻別して「根元事象」にまで落とし込み、これら全てを偏りも重複も無きよう一般化するために方程式にまとめ、ここから「諸要因ごとの根元事象の発生件数を予測」する ─ ということではなかろうか。
なるほど、本書を読み進めてみれば大半は平易な論旨ではあり、マルサス人口論やロジスティックモデル、また慶應SFCや早稲田理工の入試英文でも見られる囚人のジレンマや最後通牒ゲームなどなど、数学ド素人の僕でさえもほぼ直観的に腑に落ちる事例引用に留まっている。
しかしながら、本書随所における【深く知ろう】コラムにては、此度の新コロ災厄にて巷間あまねく引用された感染症動態SIRモデルのほか、最適速度理論、ベイズ数論、ローレンツ方程式とカオス解、はてはナビエ・ストークス問題などの未解決論題などなど、学術的に難度の高いであろう主題の引用にも事欠いていない。
(※ とりわけ第3章「科学や技術における予測」以降は論旨そのものの思考難度がぐっと上がるように見受けられる ─ 尤も暗号数学や機械学習など僕なりに食指をそそられる論題もあり、ここから先はまた気が向いたら読むこととする。)
ともあれ、第1章と第2章から、僕なりに気に入った箇所を引っ括って、以下雑記しおく。
個体数とそれらの必要資源量を関数化した典型的な方程式。
或る環境にて、個体数をxとし、経過時間をtとする。
この環境にて、なんらかの物質量の変化係数を正の定数rとし、この個体の収容上限数を正の定数Kとする。
ここで以下の方程式をつくる。
dx/dt = rx{1-(x/K)}
この方程式によれば、個体数xの時間ごとの増加分はなんらかの物質量の変化rに応じて増大していく、が、どこかで収容数上限Kを超えると今度は減少していくことになる(はずである)。
このように非常に単純な方程式とはなっているが、食料との相関による人口増減などを「予測」する上で広く用いられるものでもある。
(なお、類似発展させたモデルとして、被食者と捕食者の個体数変動を表現したロトカ・ボルテラ方程式も紹介されている。)
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・感染症の動態における基本数学-SIRモデル
或る固定数の人口数をNとし、「免疫無しの未感染グループS(Susceptible)」と「感染グループI(Infected)」と「感染後回復あるいは致死のグループR(Recovered/Removed)」に分類する。
N=S+I+R
また、感染率をκとし、回復或いは致死の率をιとし、どちらも正の定数。
ここで、SとIとRが「接触回数に応じて、かつκやιに拠って、経過時間ごとにどう変化するか」を以下の連立方程式で表す。
(1) 未感染グループSの数は、感染者との接触により感染するので減少する。
dS/dt = -κSI
(2) 感染グループIの数は、未感染者Sとの接触割合によって増え、一定の割合で回復ないし死亡するので減少していく。
dI/dt = κSI-ιI
(3) 感染後グループRの数は、感染者の数に比例して一定割合で増加する。
dR/dt = ιI
以上の連立方程式から、経過時間ごとにS,I,Rそれぞれの人数推移を「予測」しつつ曲線表現したものが、此度の新コロ災厄をきっかけに広く知られることになったSIR曲線モデル。
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・最適速度モデル
一車線にて、1台~N台の自動車が走っているとする。
それぞれの車両は前の車両との車間距離を測りながら、それぞれ加速あるいは減速をしつつ走行しているとする。
ここで「それぞれの車両」の最適速度を方程式として表現する。
或るi番目の車両の位置をxiとし、この速度をviとする。
また、その何らかの反応実数をαとし、何らかの最適速度関数をVとする。
ここで以下の連立方程式をつくる。
dxi /dt = vi
dvi /dt = α{V(xi+1-xi)-vi}
それぞれの車両の加速度は、何らかの最適速度関数Vとそれぞれの車間の積からおのれの速度を引いたものでありつつ、それに何らかの反応実数αを掛け合わせたものとして表現出来る。
ざっとこのように簡単な方程式に集約しうるが、それぞれの車両が車間に応じて加速するか或いは減速するかを表現しており、さまざまな変動ファクターを加味し拡張させつつも成立する現象数理モデルとなっている。
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…以上 あくまでざっと書き留めてみた。
更に紹介してゆきたい内容が目白押しの本書ではあるのだが、このあたりでとりあえず留め置くこととする。
また、第3章以降はとくに読み応えがありそうだが、そこはそれ、あらためて読み進めていこうと考えている。
(おわり)