2022/12/03

【読書メモ】 宇宙人と出会う前に読む本

宇宙人と出会う前に読む本 高木祐一・著   講談社Blue Backs

本書を手にしたきっかけは、高校生向けに’やや背伸びしたレベル’の科学新書本を探していた矢先のこと。
たまたま前段部における天体の「質量」とその「重力」とその構成物質との因果にかかる概説箇所を見やれば、「質量が大きな天体ほど重力も大きいため速く燃焼しきって死んでしまう」と概説されており、まずはここに惹きつけられた。
なるほど、かかる根元まで着想レベルを落とし込みつつの運動力学とエネルギー論か、これこそ物理学コンセプトへのトータルアプローチたりえよう、と僕なりに少なからず感じ入り…それで本書を買っちゃったわけ。

質量「論」はさておくとしても、とりあえず本書の第4章をサッと一瞥すれば「宇宙を構成する4つの力…」とあり、それではこのあたりからと見当をつけて読み進めてみた。
尤も新書本ゆえの構成上の制限からか、第4章にせよ続く第5章にせよ要約的な文面が続いており、図説はむしろ控え目に留められているように見受けられる。
もちろん、物理学に通じた読者であれば図説抜きでも本書は速読了察しえよう。
しかしながら僕のような一般読者としては、例えば素粒子(実在)と力(体現)とエネルギー(仕事)についての次元了解、'理論' と 'アイデア' の具象度合い、とりわけ ’~~に対応する’ と ’~~で出来ている' などにおける表意上の差異と物理上の同義性(?)につき、丁寧に洞察しつつ本書を読み進めたい。
同じ理由から、一般の高校生などにとってはけして生易しい本とは言えないが、それでも文面そのものは平易なのだから想像力をもフル動員しつつチャレンジさせてみたい一冊である。

なお本書一流の着想として、「宇宙の万物が互いに相対かつ客体である以上は、我ら地球人類のみの認知や知性に絶対の視座を据えるべきではない」 との念からであろうか、我々自身の実在の’相対化’に敢えて準じた上で異星人たちと物理論を交信しあう由の論旨文脈が徹底して貫かれており、この野心的なほどの思考設定がじつに面白い。
そして本書のサブタイトルはズバリ、『全宇宙で共通の教養である。
(なお、その教養チェックテストも巻末に呈されており、これは高校理科の再復習から発展学習まで楽しめよう。)

とりあえず、本書の第4章~第5章について僕なりに要約した読書メモを以下のとおり記す。



<4つの力、量子重力理論>

人類が現時点で認識可能なあらゆる物理現象は「4つの’力'」のいずれかの作用によるものと解釈出来る。
それら4つの力とは(高校物理の教科書にもあるように)、電子や光子の素粒子同士において働く「電磁気力」、物質の最小素粒子の間にて働く「強い力」、原子核崩壊のさいに素粒子同士にて働く「弱い力」、そして「重力」
それぞれ、総括的に表現しきった数式が在る(本書p.101に列記あり)

これら「電磁気力」、「強い力」、および「弱い力」のそれぞれにて、おのおの力が働く物質を’作る'『フェルミオン』型の粒子と、それら力を'伝える'『ボソン』型の粒子が定義されており、数式として明瞭に記されている。
「電磁気力」においては、電荷をもつフェルミオン粒子と、光子のボソン粒子。
「強い力」においては、クォークのフェルミオン粒子と、グルーオンのボソン粒子。
「弱い力」においては、クォークやニュートリノや電子などのフェルミオン粒子と、それらに対応したボソン粒子。

しかし「重力」は、いまだに人類が正体を定義しきっておらず、『フェルミオン』粒子と『ボソン』粒子の定義も無い。

「3つの力」と「重力」を統一すべき力の理論が「量子重力理論」。
量子重力理論を確立するためには、最低でも以下を明らかにしなければならない。
(1) 重力の大きさが他の力と比べて極小である理由。
(2) 量子力学における重力の働き(他の力と同様にフェルミオン粒子とボソン粒子に分けて記す)

電磁気力はボソン粒子に質量が無いので光速度で伝わるが、じつは重力も同様にボソン粒子すなわち『重力子』に質量が無いからこそ(アインシュタインの通り)光速度で伝わる…と見做され、「量子重力理論」の確立とされた ─ こともある。
尤も、電磁気力のボソン粒子は大きさゼロの量子性(離散性)が数学的に説明され、だから光速度であると了解されている一方で、『重力子』は同等の説明にはいまだ至っておらず、よって「量子重力理論」の確立には不十分である。


「量子重力理論」を確立させうる有力な候補理論としては、「超弦理論」と「ループ量子重力理論」がある。

「超弦理論」にては、すべての粒子は大きさの有る「開いた弦」と「閉じた弦」から成っているとし、このうち「開いた弦」には重力以外の3つの力が対応し、「閉じた弦」に『重力子』が対応している ─ ことになっている。
そして「超弦」として、さまざまなフェルミオン粒子とボソン粒子が交換可能な’超対称性'を成していると。
この超対称性を実証すべく陽子の衝突実験などが図られてはいるが、ヨリ実際的には少なくとも100TeVのエネルギーを加える必要があるとされ、とてもここまでは実践に至っていない。

一方の「ループ量子重力理論」にては、あくまでも重力の量子(離散)表現のみを目指し、重力の実体は「時空」という離散的な粒子で出来ている、とする。


「量子力学理論」の確立のために
(1) 他の力と比べて重力が遥かに小さな理由として、「超弦理論」は弦と粒子の大小を以て説明しているともいえるが、一方で「ループ量子重力理論」はこの力の大小について説明していない。
(2) 量子力学としての重力の働きを明らかにすることは、重力の塊でありかつ量子の塊とも見なせる「ブラックホール」の理解そのものでもある。
とくに「ブラックホール」の「中心特異点におけるエネルギーの無限大発散」まで説明してこそ、はじめて「量子重力理論」のひとつの確立ということになろう。


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<ダークエネルギー、状態方程式、宇宙定数Λ>

我々人類が現時点までこの宇宙にて観察可能なすべての物質は、いわゆるバリオン元素物質と定義されている。
これらバリオン物質はあまねく’フェルミオン粒子によって’作られている’が、しかしながら宇宙全体のスケールで捉えれば、このフェルミオン粒子によって作られている物質はわずかでしかない。
宇宙全体での構成物質内訳は;
(光と反応しない)ダークエネルギーが 約69%
(光と反応しない)ダークマターが 約26%
フェルミオン粒子で’作られている’バリオン元素が 約4.8%
光が 約0.0055%

これら物質の属性判別に用いられるが、それぞれ圧力P/密度ρの比(w)で表現する「状態方程式」
これによると、光は w=1/3、ダークマターは w=0、バリオン元素も w=0 だが、ダークエネルギーは w=-1である。
この状態方程式と含め合わせて論拠に据えられる数値が、アインシュタイン考案の「宇宙定数Λ」である。
この「宇宙定数Λ」によってこそ、宇宙を成すさまざま物質間のエネルギーにも拘わらず、むしろ超新星爆発が確認されつつ宇宙が加速膨張続けている由が説明される。

状態方程式に則れば、宇宙の膨張と体積拡大にともなってダークマターもバリオン元素も光も密度ρは小さくなっていくが、ークエネルギーだけは宇宙定数Λに応じて密度不変を保っている ─ ことになっている。
よって、このまま時間が経過し続ければいずれは全宇宙物質がダークエネルギーに占められてしまうことに


あらためて宇宙の歴史を想定すれば;
まず光ばかりの年月が約5万年、この量が宇宙の加速膨張にあわせてどんどん希少になってゆき、続いてバリオン元素とダークマターが占めた年月が約100憶年。
さらに宇宙の加速膨張が進んで、今から約40憶年前ごろからダークエネルギーの量が圧倒的に増えてきたことになる。

とはいえ、ダークエネルギーとダークマターとバリオン元素のエネルギー密度を全宇宙スケールにて計算した「宇宙臨界密度」はとてつもなく小さくなってしまう。
ゆえにダークエネルギーは膨大に蓄積された真空エネルギー(?)である ─ とする見方もある。

あらためて「量子重力理論」に則りつつ、想定された真空エネルギーにおける「4つの力」を計算すると、それらの力の合算は現在確認されているダークエネルギー総量の10120倍にもなってしまう。
ダークエネルギーと真空エネルギーにおいて力の合算がこれほど不一致になってしまうのは、宇宙定数Λによる真空エネルギーの想定が巨大すぎるためではないか、との見方もあるが、完全な説明理論はいまだ呈されていない。


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以上までが本書の第4章~第5章についての簡易な要約のつもりである。
ほかにも、同箇所にてはたとえばアインシュタインの一般相対性理論における「重力方程式」、宇宙あまねく時空の歪み運動を’暫定的に設定した物理量’「R」 ─ などなど、広範かつ立体的な学説紹介がふんだん。

ともかくもこれほどの巨視的な宇宙論、コンパクトな新書本ながらもギッシリと高密度な主題の数々となると、本当に学際的でエキサイティングな宇宙人との知的邂逅(?)の下準備はむしろ本書中盤以降から始まるのではと期待させるほど。
社会人はむろん、大学生さらに小生意気な高校生にもチャレンジ薦めたい一冊ではある。

以上