2023/03/10

Reason To Believe


「先生こんにちは!あたしですよ。覚えていますか?」
「やあ、もちろん覚えているよ。季節がら、毎年まいとし同じように君たちが卒業と進学の挨拶に来るからね。とくに女子がね」
「ふーん、そんなもんですかね」
「そんなもんだ。なるほど君たちは容姿こそ凛として物言いは決然とはしているが、体型と仕草はアホゥドリみたいにヒョッコヒョッコのモッコモコ、そこのところが面白くもあり、楽しみでもあって、だから女子については一人ひとり覚えているんだよ。うむ、うむうむ」
「へ~ぇ、そうですか……ところで今日は『とっておきの質問』があるんですけど」
「ほぅ?どんな?」
「私たち人類は、AIロボットから逃げ切ることが出来るでしょうか?」
「あ?なんだって?我々人類が、AIから逃げ切れるかって??あっははは、我々人類はもともとAIやロボットとは競争なんかしていないし、競争するものでもない。だから愚問だ、あはははは」
「はあ??愚問でしょうか?私たち人類とAIロボットは共通点が極めて多いですよね?だからいずれ人間が不要になっちゃうんじゃないですか~?
「共通点は多いが、しかし厳然たる相違もある。そしてその相違点こそが肝要なんだ……よし、それじゃあ人間を人間たらしめている3つの重大な特性について、ざっと挙げてみよう」
「人間の3つの特性?なんですかそれは?三位一体説みたいなやつですか?」
「まあな。そんなふうに聞こえるかもしれないな。ともかくもざーっと説明しよう。まず1つめの特性は、'what'だ」
「へぇ?'what'ですか?」
「そうだ。'what' つまり、自然界のさまざまな『実体』だ。物理運動や化学反応を為し続けるモノと運動だ。万物がそうであるように、俺たち自身の肉体や脳神経もモノと運動の『実体』から成っている。だからここには'who'も含まれる。そうだろう?」
「それはまあ、そうですけど、でも、AIロボットだってモノと運動の『実体』から成っていますよね。すると、whatやwhoの『実体』としては人間もAIロボットも峻別できないってことになりますよね~」
「いいから続きを聞け。人間の2つめの特性は'how'だ」
「'how'とは?」
'how' とはすなわち、『数理』だ『論理』だ『論法』だ。要するに、数学とかアルゴリズムとか暗号とか法律とか多数決とかカネまわしなどを考案したり組み換えたりだ。ここには"when'や'where'による条件づけも含まれる。そうだろう?」
「はーん、なーるほど。でも、AIロボットだってやはりそれらの'how'を精密に論理操作できますよね。むしろAIロボットの方が数学や論理思考に優れていたり…」
「ふふん、慌てるな。いよいよ次が3つめの特性だ、これこそが人間のみの特性だ。whatでもwhoでもhowでもwhenでもwhereでも説明しきれないものだ」
「……それは、いったいなんですか…?」
『霊魂』を認識する能力だ!」
「はぁ?霊魂ですか?!」
「そうだ。そももそAIにもロボットにも『霊魂』を認識することはできない。たとえ絵画や音楽に接しても、夜空のさまざまな星座群を眺めても、AIやロボットはなんら『霊魂』を見出すことはない。だからストーリーを紡ぎ上げることが出来ず、あくまで電磁波の振動や面積速度などとしてしか感知できないんだよ。これが人間との決定的な相違点だ!」
「それじゃあ、人間が織りなすさまざまなストーリーにおける'why’は、霊魂によってこそ生じる問いかけであると…?」
「まあ、そういうことだ」
「ああ、ああ、分かりました!『霊魂』を認識出来るあたしたち人間が、『霊魂』を認識できないAIロボットに追いつかれたり追い抜かれたりすることはないと、そういうことなんですね!」
「そうだ、そのとおり。よーし君は秀才だ」
「ああ ─ そういうことなのね、はるかな過去から未来へと、あたしは『霊魂』を追いかけて、さらに担って継ぎ足していく、そうやって人生を駆け抜けていくことになるのね!」
「そうだよ ─ さあ目を凝らせ、耳を澄ませ、髪を濡らして頬を打て、朝陽の波動を横切って、光彩の内に旋風を聴け、大地の鼓動は太古のリズム、樹木の息吹は未来の譜面、しっかりやれよ!モソモソしているとモッコモコの尻を蹴り飛ばすぞ!わっははははは!」
「ひゃーーーっ、それではこれで失礼しまーーす!あっ、そうだ先生、最後のさいごに訊き忘れたんですけど、先生が言う『霊魂』とあたしが想定している『霊魂』は同じものでしょうか?」
「なんだとっ?!同じとか違うとか、君は本当に『霊魂』が分かってんのか?」
「分かったような、分からないような……ねえ先生、もしもですよ、本当はあたしが人間じゃなくてAIロボットであるとシタラ、’レイコン' ノ 'ニンシキ' ハ デキナイハズ デスヨネ、ソレデモ ’ニンシキシテイルフリ’ ヲ ツヅケルコトハ デキチャウンデスヨ……あっはははは、冗談です、そんな心配そうな顔しないでくださいよ。それではさようならっ!」



(おわり)

※ SF落語のつもり。人間寄りに拠って書いてみた。