<事象描写と命題(定理)>
英語でも日本語でもそうだが、言語表現を大別すると2つに分けられる。
ひとつは A.「事象の描写」であり、こちらは「時制」を細かく分離設定して表現する。
現代の英語表現では、ひとつひとつの発生事象が個々別々におこること念頭においているようである。
だからこそ、何らかの発生事象を描写するさいに、主体と客体をいちいち別個に定義するし、時制もいちいち区分しなければならないようである。
(ホントかどうか知らんよ、なんとなくそんな気がするだけだ。)
もうひとつは B「命題(定理)、つまり個々の発生事象を超えた永遠不変の真理命題。
端的にいえば数学などであり、「時制」が無い ─ つまり現在形のみで表現する。
もしかしたら、前近代の英米人(欧米人)は万物を宿命的に約束された必然事象として捉え、必然だからこそB.のとおり時制区分が無かったのでは?
しかし時代が下るとともに客観的思考がすすみ、それで大抵の事象をA.のように時制区分するようになったのではないかしら。
(ホントかどうか知ったことではありませんよ。)
さてそれでは C.「時制の一致」はどうなるのか…そんな一致ルールはねぇんだ!
以下、ひとつずつ記していこう。
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A. 事象の描写 ─ 時制の区分
発生事象についての描写技法ゆえ、若干は具体的な方が通じやすいだろう。
だから具体的にいえば、事象描写の時制は、いわば作家と本の関係に似ている。
現在の普通形は、いわば眼前にパッと見開いている本のページであり、常日頃の動作と状態を表す。
She writes stories. 彼女は物語を書く (つまり彼女は作家である)。
She writes stories. 彼女は物語を書く (つまり彼女は作家である)。
また、現在の完了形は、現在までに書いてきたページの厚み、つまり現在までの経験量をあらわす。
She has written stories. 彼女はこれまで物語を書いてきた。
さらに、これら現在の普通形と完了形のそれぞれにおいて進行形があり、これはいわば本のページが捲れている'途中’。
現在の普通系の進行形は、いわば或るページがパラっと捲れているその途中を表す。
She is writing stories. 彼女はこれまで物語を書いている途中である。
そして、現在の完了形の進行形、こちらは現在までに書いてきたページの厚みの一番上がパラっと捲れている途中。
She has been writing stories. 彼女は物語をこれまで書いてきており、その途中である。
以上から、現在形の時制は普通形と完了形の2通り、そのそれぞれにて普通形と進行形の2通りがあり、よって22通りつまり4段活用である。
She is writing stories. 彼女はこれまで物語を書いている途中である。
そして、現在の完了形の進行形、こちらは現在までに書いてきたページの厚みの一番上がパラっと捲れている途中。
She has been writing stories. 彼女は物語をこれまで書いてきており、その途中である。
以上から、現在形の時制は普通形と完了形の2通り、そのそれぞれにて普通形と進行形の2通りがあり、よって22通りつまり4段活用である。
簡単だろ。
同様に、過去形にも普通形と完了形がある。
過去の普通形は、いわばパタッと捲り終わったページ、今や終わってしまった事象を表す。
She wrote stories. 彼女は物語を書いた (今は書いていない)。
過去の完了形は、既に捲り終わった或るページ以前のページの厚みを表す。
She had written stories. 彼女は或る時以前に、物語を書いてきた。
さらに、これらそれぞれに普通形と進行形がある。
過去の普通形の進行形は、いわば或るページがパラっと捲れているその途中を表す。
She was writing stories. 彼女は物語を書いていて、そのページがパラっと捲れている途中であった。
そして過去の完了形の進行形は、既に捲り終わったページの厚みにおける一番上のページがパラっと捲れている途中。
She had been writing stories. 彼女は或る時以前、物語を書いていた途中であった。
以上から、過去形の時制も普通形と完了形の2つがあり、そのそれぞれに普通形と進行形があるので22通り、つまり4段活用である。
ねえ、簡単でしょう。
She had been writing stories. 彼女は或る時以前、物語を書いていた途中であった。
以上から、過去形の時制も普通形と完了形の2つがあり、そのそれぞれに普通形と進行形があるので22通り、つまり4段活用である。
ねえ、簡単でしょう。
ここまでで、現在形と過去形の時制を全部並べてみれば、4+4でつまり8段活用となる。
以上で一般動詞の時制変化形はおわり。
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では、be動詞はどうか。
これはもっと簡単で、まず現在の普通形と完了形がある。
She is a writer. 彼女は常日頃から作家である。
She has been a writer. 彼女はこれまで作家であった。
これらそれぞれには進行形が無く、だからbe動詞の現在形は2通りしかない。
さらに過去形においても
She was a writer. 彼女は作家であった。
She had been a writer. 彼女は或る時点までにずっと作家であった。
これも2通りしかない。
よって be動詞では現在形と過去形を合わせた時制は2+2=4段活用となる。
これにて be動詞の時制変化もおわり。
おわりなの!
こういうふうに総覧的にたららららーーっと記せば、一般動詞およびbe動詞における時制区分はアホゥみたいに易しいのである。
これを徐々に徐々にと、しかも部分的に部分的にと数年に亘って説き続けるカリキュラムになっているから(そういう教師たちが多いから)、おそろしく不明瞭に映ってしまうにすぎない。
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B. 命題(定理) ─ 時制ナシ
数学、物理、化学などは、教科書を見れば明らかなとおり、ああすればこうなるという条件と因果の命題(定理)のみをワンサカと記してあり、それら命題(定理)には時制の分岐はいっさい無い。
例えば、水の位置エネルギーは電力を生む、とか、磁場は電流に力を及ぼす、とか、3x4x5は60である、などなど。
また、経済原則や会計ルールや国の法令などなども、要件と因果の命題(定理)ゆえ、時制の分岐は無い。
時制の分岐が無いからこそ、すべて現在の普通形で貫かれている。
※ 理科や社会科においては、あくまでも具体的な実験と発生事象について前後関係をハッキリ記す場合のみに時制区分がなされていること、もうお分かりのとおりだ。
さて、この命題(定理)表現について、ちょっと考えてみたいこと。
或る自然科学関連の英語本があり、(おそらくは)英語の原文で以下のように書かれていた。
"The more our technologies advance, the more our tomorrow returns to ourselves."
"The more our technologies advance, the more our tomorrow returns to ourselves."
「技術進歩が進むならば、我々自身への利益還元も増えるだろう」の意であり、これはあくまでも不変の命題(定理)である ─ ように見受けられる。
だからこそ、現在形で一貫しているのであろうと。
ところが、この日本語訳においては、「我々の科学技術はいよいよ進歩する『ので』我々の未来は一層多くの利益をもたらすだろう」と記してある。
この日訳に則るならば、或る特定の科学技術が呈する希望的な事象を個別に綴っているようにも見受けられてしまう。
助動詞でいう 'will' あるいは 'shall" のニュアンスが込められているようでもある。
お分かりだろうか?
そもそもある英文の表現が特定の事象の描写なのか、はたまた不変の命題定理であるのかは、その文面を記す人間の世界観にも少なからず依存しているということだ。
(上述にては、欧米人があらゆる発生事象を個々別々の時制で記す云々とも書いたが、必ずしもそうではないようで。)
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C.「時制の一致」 ─ という統一ルールがありうるか?
ちょっとやっかいな「時制の一致」についてだ。
そもそも人間の思念そして言語表現にては、上に挙げてきたA. 事象の描写 と B. 命題(定理)、そしてこれらの混交がなされるのが普通であろう。
そこで、まずはA. 事象の描写 における混交の例を記してみよう。
She means (彼女は言う…) という事象をおき、これに続けて上の例文を(大文字小文字は無視して)そのまんまくっつけると ─
She says She writes stories.
She says She has written stories.
She says She is writing stories.
She says She has been writing stories.
さらに
She says She wrote stories.
She says She had written stories.
She says She was writing stories.
She says She had been writing stories.
これだけある。
さらに be動詞のやつもくっつけれみれば ─
She says She is a writer.
She says She has been a writer.
She says She was a writer.
She says She had been a writer.
このように、たったひとつ 'She says' との事象表現に、ぶっ続きで12種類の時制区分における事象表現をくっつけることができる。
ならば通常の会話文にてはどうなるかと考える人も多いだろうが、やはり事象表現としては時制の単一統一はない。
今度は B. 命題(定理) を混ぜた例を挙げてみよう。
例えば 'Energy is an object's ability to do Work.' (エネルギーとは或る物体が仕事を成す能力である) という命題定理をおく。
これ自体は不変の物理なので時制が無い→現在形で記す。
ここに、上の事象表現 She writes のさまざま時制を繋げると、こうなる。
She writes 'Energy is an object's ability to do Work.'
She has written 'Energy is an object's ability to do Work.'
She is writing 'Energy is an object's ability to do Work.'
She has been writing 'Energy is an object's ability to do Work.'
She wrote 'Energy is an object's ability to do Work.'
She had written 'Energy is an object's ability to do Work.'
She was writing 'Energy is an object's ability to do Work.'
She had been writing 'Energy is an object's ability to do Work.'
このとおり、'Energy is ....' は不変の定理ゆえ現在形一本であるが、彼女が成す事象の時制は8通りありうる。
このようにさまざま検証して、たちまち再確認できること。
同一文章における「時制の一致」の統一ルールなどはありえず、あくまでもA. 事象の描写 ではどうか、B. 命題(定理) ではどうか、これら組み合わせではどうなるのか、常識と実践に則るのみ。
実際の大学入試の英文解釈を読み進めてみれば、確かにさまざまな組み合わせの英文に出っくわす。
とりわけ早稲田の入試英語は英文論理よりも単語の常識と実践こそが文意を画定する例が多く、あるいは論理的にズボラともいえようが、ともあれ「時制の一致」のルールなど超越すればこそ読解勘が強化される。
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すっかり面倒になってきたので、このへんでやめておこう。
なお、助動詞はどうなのか、仮定法はどうなるのか、さらに不定詞による接続は…と続けてゆきたい気もするが、また気が向いたら。
以上