2024/07/31

【読書メモ】 さぁ、化学に目覚めよう

IT'S ELEMENTAL  さぁ、化学に目覚めよう ケイト・ビバードーフ 山と渓谷社』

此度の読書メモにて本書をとりあげた理由は、一般向けの化学本ではありつつも記載コンテンツ豊富で分量が多いこと、かつ、原文が女性化学者の執筆によるものであること、この2点である。

まず本書の「第I部 - ひと味違う科学の授業」は、あくまでも高校までの化学の総復習(あるいは総予習)水準の平易なコンテンツに抑えられており、一方ではたとえば物質と(熱)エネルギーにかかる物理学などには踏み込んでいない。
だから、この「第I部」はひと味違うどころか確実に咀嚼したいところである。

本書の真骨頂はむしろ「第II部 - 化学はそこにも、ここにも、どこにでも」であろう。
本書の大半を占めるこの「第II部」は、化学技術のさまざまな学術案内から実用商材アプリケーションに至るまで、じつに300頁近くにもわたって綴られており、対象分野は人体や衛生、美容と料理、化粧品や医薬品、インテリア、洗剤、プラスティック、家電製品、次から次へと。
かつ、、女性著者ならではの(?)いわば思考の’サーフィン’のような奔放自在な論旨展開高低もあれば深浅もあり、さぁ次はどんな主題が、どんな商品事例が…と、読者の読書意欲を心地よく揺すってやまない。

さて、此度の【読書メモ】にてはこの「第II部」のうち「第8章」と「第10章」のほんの一端を選び、僕なりに略記要約し、以下にざっと記す。




<ポリマー
ポリマーは分子の重合構造の意。
綿のような天然物さらに生物の細胞DNAなどもポリマー構造の分子と言えるが、とくに人工的な合成樹脂類/プラスティックがポリマーと呼称される。

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炭化水素であるエチレンの分子構造は <H2C = CH2>で、無極性分子。
これを極度の高圧のもとにおくと、分子同士が重合反応を起こす。
一方ではもとの炭素原子同士における二重結合が崩れ、バラけた炭素原子おのおのが別個に共有結合。
この過程を経て巨大なエチレン環を形成、こうして「ポリ」エチレンが出来る。

「ポリ」エチレンはやはり無極性で、繊維を成しつつ分散力も働き、成形自在である。
かつ分子量は1万~10万g/molと多く、だから水に溶けない。
よって、クーラーボックスなどに積極採用されている。

「ポリ」エチレンのうち、低密度の構造をとくにLDPEと称し、一方で高密度のものはHDPEと称す。
LDPEは生成過程にて低密度(0.917~0.930g/cm3)の分岐炭化水素鎖を成し、これは構造上の伸縮性は高いが分散力は弱い。
一方で、HDPEは高密度(0.930~0.970g/cm3)の長い直線形の分子結合を成し、LDPEよりも分散力が高い。
HDPEの生成は、チタンを活かした’ツィーグラー・ナッタ(助)触媒の採用がきっかけとなった。
HDPEの生成によってこそ、「ポリ」エチレン製品の一般化が著しく進み、現在我々はいたるところでこの製品を活用している。

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炭化水素であるスチレンの分子構造は <H2C = CHC6H5> で、6員環がそれぞれ炭素原子から突き出た巨大な構造を成し、分子間力も強い。
これが重合結合して、巨大なポリ」スチレンが出来る。

「ポリ」スチレンのうち、全てのベンゼン環が同じ側に並んでいるポリマーを成している構造をアイソタクチック構造と称し、これが最も強い。
なお、ベンゼン環が左右交互につながっている構造はシンジオタクチック構造と称し、またベンゼン環の並び方に規則性の無い構造はアタクチック構造と称す。

「ポリ」スチレンの形態には、「結晶性」「ポリ」スチレンと、「発泡」「ポリ」スチレンがある。
「結晶性」のものは食品ラップ(サランラップ)やプラスティック製フォークなど。
「発泡」のものは構造上ほとんど空気が詰まったごく軽量の材料(発泡スチロール)。

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エチレン系の分子を元に生成されるポリマーのうち、とりわけ安価に大量に生成されるもののひとつが、「ポリ」エチレンレレブタレートで、略称がPET、紛らわしいが通称は「ポリ」エステル

炭素と窒素によるアミド結合から成るポリマーとしては、「ポリ」アミドがあり、このアミド結合はとてつもなく強力なので光ファイバーケーブルや防弾チョッキなどに起用されている。

「ポリ」エステル、「ポリ」アミド、スパンデックスはいずれも無極性のポリマーである。
だから極性分子である水分子を弾きやすい。
よって水着類にひろく採用されている。

一方で、ポリマーのうちでもセルロース(綿)は極性が高いため、水分子とすぐに水素結合してしまう。
だから水着類には採用されない。

なお、ポリマーは環境行政上、紫外線によって(自然に晒された状態で)分子結合が'壊れなければならない'ことになっている。

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<酸 - 塩基、洗剤など>

キッチンのシンクにおけるなんらかの汚れ分子に酢酸をかけると、酢酸がこの汚れ分子に陽子H+1個を供し、ここで酸-塩基反応を起こすので、この汚れ分子はシンクから分離する(汚れが取れる)。
なお、三塩基酸であるクエン酸はもっと強力で、クエン酸から供される陽子H+3個がミネラルなどの汚れ分子と酸-塩基反応を起こし、これによって汚れ分子を分離する。

漂白剤には、塩基である次亜塩素酸ナトリウムとともに、やはり塩基である水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)も混じっている。
この水酸化ナトリウムは塩素ガスとすぐに反応し、これをただちに次亜塩素酸ナトリウムに戻す。
だから、この反応の連続にて次亜塩素酸ナトリウムが果てることはない。

ひとつの塩基分子が対象物を乖離する能力を、水素イオン指数で表現出来、これがpH指数。
或る溶液中の、ヒドロニウムイオン <H3O+> と水酸化物イオン <OH-> の濃度比を、pHプローブにて測定、ここで水酸化物イオン <OH->の比率が高い場合に pH指数が7より大きいとし、この傾向をアルカリ性と称す。
例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)のpH指数は9、アンモニアのpH指数は11くらい、そして水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)は13以上にもなる。


炭酸水素ナトリウム <NaHCO3> +  酢酸 <CH3COOH> 
→ 酢酸ナトリウム <CH3COONa> + CO2 + H2O
この変化前と変化後の分子式では陽子 <H+>1個の移動のみが起こっているが、酢酸 <CH3COOH> が酸として働き、また酢酸ナトリウム <CH3COONa> は’共役'塩基として働いている。
この酸-塩基の機能関係が '共役’酸塩基対の典型例。

弱塩基とその’共役’酸の混合、または、弱酸と'共役'塩基の混合によって、’共役'酸塩基対の分子構造を成す「緩衝液」を人工的に生成可能。

この「緩衝液」は生物の体内にももともと存在している。
呼吸のさいの'共役’酸塩基対をみると、
CO2 + H2O  ⇔  炭酸 <H2CO3>
炭酸 <H2CO3> から 陽子 <H+>1個が放出され、
炭酸 <H2CO3> ⇔  陽子 <H+> + 重炭酸イオン <HCO3->
この酸-塩基反応にて血液のpHを7.4に保っている。

一方、我々が運動中に血液中のヒドロニウムイオン <H3O+> の濃度を高めてしまうと、
炭酸 <H2CO3> ⇔  CO2 + H2O
ここで血液のpH指数が下がるが、
重炭酸イオン <HCO3-> を分解して体外に排出すると、あらためて血液のpHが7.4に戻る。


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以上、「第8章」「第10章」について、ほんの一端ながら掻い摘んで要約略記してみた。

あらためてまとめおくが、本書は化学の学術的な淵源よりも実用性につき、大ぐくりながらも自由な発想を膨らませつつ描かれた(であろう)化学ガイダンス本であろう。
だから読者の見識や学識によってはごく基礎的な教養範囲もありえようが、一方では新鮮な発見も随所に楽しめよう。


おわり