「太陽の温度は、どのくらいかしら?」
「なんでそんなこと、訊くの?地球人の尺度をはるかに越えた問いだと思うんだけどな」
「でも、いつでも、どこでも私たちを暖めてくれる、すごい火の玉のエネルギーよねぇ」
「そうかね。でも、温度が分かったところで、大した意味はないさ」
「どうして?」
「太陽は核融合で燃えている。そのエネルギー生成過程に注目すべきだろうな」
「あっはははは、見たようなこと言うのね、聞いた風なことばっかり言うのね、あなたって」
「だって、それは君がつまらない思いつきで質問するから、こっちもつまらない返事しか出来ないわけだ」
「ふーん、じゃあ、核融合って、何よ?原子力の核分裂とどう違うの?」
「それは、説明がとっても難しい」
「分からないんでしょう?」
「ん?」
「太陽についての話なんて、みんな観測可能な光エネルギーに基づいた憶測、推定、類推のたぐいだって、理科の先生が言ってたっけなー」
「そりゃあ、まあ…今のところはそうだ」
「ふん、分からないなら、分からないなりに、もっと面白い話をしてくれればいいのに」
「面白いって、たとえば?」
「たとえば、じゃないのよ、面白いものに 『たとえば』 もなにもないの。太陽の温度はどのくらいかって訊いてるんだから、何か面白いこと言ってよ、ねぇ」
「じゃあ、摂氏35.8度くらい」
「へー、どうして分かるのよ?」
「こうやって…ほーら、おでこと、おでこをくっつければ」
「あ…ばーか、ね」
「ああ、太陽はレモンの匂いがする」
「もぅ、なーに言ってんのよ、ふふっ」
「手ーのひらを、太陽にー」
「あはっ、やめて…あっ!もぅ、いやっ」
「いやっ、いやっ、と言いつつも、太陽はいよいよクネクネとまとわりついてくるのであった」
「あぁっ、もう、ちょっと…いやっ!」
「太陽は核融合を」
「いやっ、やめてっ」
「お?こんなところに黒点が」
「ばっかじゃないの!あっ!…」
★ ★ ★
とつぜん、2人は動作を停止した、かと思うと、一瞬にして燃え尽きてしまった。
★ ★ ★
「ほら、また止まった。どうしてもここで焼き切れてしまうんだよ」
「おかしいな、分からん」
「もう数えきれないほどプログラムを修正してきたのに、どうしてここで誤動作を起こすんだろう?」
「もしかしたら、こいつらにとっては誤動作でもなんでもなくて、知性の設定が贅沢過ぎるのかもしれないな」
「だけど知力をこれ以下に設定すると、人間らしさが無くなってしまうぞ」
「かといって、逆にこれ以上に設定すると、やっぱり人間らしさが消えてしまうだろうし」
「……やっぱり、人間を創造するということは、そもそも不可能なのだろうか」
「まあ、そうとばかりも言ってられない、我々にも時間的な余裕は無いのだから」
「じゃあ、今度はレモンの匂いじゃなくて、薔薇の匂いっていう設定でやってみるか」
★ ★ ★
「ねえ、知ってる?太陽にはもう時間的な余裕が無いんですって」
「くだらないこと言うな、そんなこと分かったところで、どうってことはない」
「なにが、くだらないのよ?」
「あのな、太陽の時間、じゃないんだ、厳密には、太陽が地球上の生命を維持する時間がもう半分を過ぎた、って言うべきなんだ」
「まーた、聞いたようなことばっかり言って、あなたっていっつもそうなんだから」
「だって、それは君がね、つまらない思いつきばかり言うから、こっちもつまらない返答しか出来ないんだよ」
「ふーん、じゃあ、生命って何よ?」
「さあ」
「あのね、理科の先生が言ってたんだけど…」
「まあ、有限性といったところだろうな」
「つまんなーい。もっと面白い話をしてよ」
「面白いって、どんな?」
「 『どんな』 じゃないのよ、あなたの思いつきで、何か楽しいこと話してみてよ、ってこと」
「そうか、じゃあ、君の生命は…お?なんだか薔薇の匂いがしないか?」
「そう?」
「確かに、薔薇の匂いがする、ちょっと手を見せて」
「あっ…いやん、何するのよ、もう」
「手ーのひらを、太陽にー」
「あんっ、もう、いやっ」
「いや、いやと悶えつつも、碧の髪の木漏れ日は、薔薇の香りで男を惑わす」
「あっ…あっ!いやっ、やめて、いやっ!」
おわり