コンコンコン ─ ドアをノック。
「ねえ、僕だよ。居るんだろう?ちょっとドアを開けてくれよ」
「…何の用なの?」
「ドアを開けてくれ」
「いやよ。貴方って不真面目なんだもん。どうせ、またふざけているんでしょう?」
「ふざけてなんか、いないよ。ねえ、聞いてくれよ、もしも僕が人生を5回まで繰り返せるのなら、そのうち1回くらいは、君と一緒に生きていきたいんだ…」
「ほら、やっぱりふざけてるじゃないの!もう帰ってよ」
「あはは、そうだ、今のはちょっと悪かった……じゃあ言いなおそう。いいかい、もしも僕が人生を3度まで繰り返せるのなら、そのうち1度くらいは君と一緒に…」
「もう!いい加減にしたら!?」
「お願いだ、ドアを開けて」
「ばっかみたい!ずーーっとそうしてなさいよ!」
「頼むよ、ドアを開けてよ、お願いだから!……そうか、よしわかった。あのね、もしも僕が人生を2度繰り返せるとしたら、そのうち1度は君とともに人生を歩んで」
「……」
「おい、聞いているのか?おーーい、ドアを開けてくれよー」
「……」
「おーーい」
鏡よ、鏡よ、鏡さん。
いったい、あたしはどうすればよいのでしょう?
あらあら、随分とお困りのようね。
ここが勝負どころ、焦っちゃいけないわ。
さぁ、もう一声、もう一息。
次のセリフを待ちましょう…!
「もういいよ、このドアを開けてくれなくてもいい」
「……」
「こうしてドア越しに話しかけてみて、やっと分かったよ。僕は本当に君が好きだったんだ。ずっと誤魔化してきたけど、でも君のことが大好きだった」
「……」
「今になってそのことに気づいただけでも、僕にとっては生涯最高の大発見だ!だから、だからね、僕は、もう人生なんか終わってしまってもいい、本気でそう思っているんだよ!」
「……」
「じゃあ、さようなら。きっともう会うことも」
「待って!行かないで!」
ガチャリ ─ ドアは開け放たれた。
鏡よ、鏡よ、鏡さん。
これで、よかったのかしら?
さぁ ─ あたしには分からないわ。
それより、彼の瞳の中を覗き込んでごらんなさい。
そこに映っているものこそ、きっと、たったひとつの、そして永遠の真実。
おわり