2015/12/08

英文解釈のための理科と社会科

高校における英語科の担当と理科・社会科の担当は、お互いに遠慮しあってか、厳格な職掌によるものか、複数教科の指導コンテンツに干渉し難いのかもしれぬ。
理科の教科書欄外には英単語がわんさかと載っているね、でも、これらに則った理科や英語の授業については、一部のスゴイ高校を除けばあまり聞いたことがない。
もともと高校までの教育コンテンツ自体は本源的な自己目的が無い、かつ一方では、実体と価値における自由な市場性も無い。
だから学際的な融合もフィードバックもおこりにくく

そんな高校教育が望ましいかどうかはともかくとして、だ。
じっさいの大学入試の英文解釈では、理科や社会科についてのコンテンツが平然と出題され続けている。

だから、大学入試において英文解釈を余儀なくされている受験生たちに伝えたことを、為念記しおく。

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理科系学部の受験希望者なら、選択の有無にかかわらず物理の教科書内容くらいは理解しておきなさい。
同様に、社会科系の学部を狙うのなら、選択科目はともかくとして、政経科ないし地理科の教科書くらいは理解しておきなさい。

ここでの 「理解しておきなさい」 の意味が、なかなか分かってもらえないんだよなぁ。
コンテンツそのものを頭から尻尾まで覚えろという主旨ではないし、コマい英単語まで全部覚えろともいってない。
そうじゃなくて、英文解釈のためにこそ、社会科ないしは理科というのが「どんな常識・論理」で成立しているかぐらい、知っておけってこと。

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いいかね?
英文読解においては、「わけのわからぬ単語」 に出っくわすことが往々にしてある。
それも2つ、3つ…と立て続けに、だ。
そんな時にこそ、基礎的な論理・常識のパワーがものをいう。
たとえば。
「おー!この文章は権力分立についての論説だ、しかも法自体の合憲性や違憲性についてだ、ならば立法府が自分で判断するはずがない、議院内閣制なら行政府でも判断しえない、だから…あーわかった!これはきっと違憲立法審査権のことだな!じゃあ裁判所、これはおそらく最高裁のことだ…」
といった具合に、連想がパタパタパタッと進む。
いまや、「わけがわかった」了解のもとに読み進めることが出来るだろう。
どんだけ複雑な構文だろうが、どんだけ微妙な表現の選択肢であろうが、どんなにイジワルな反語表現だろうが、全貌を見誤ることはなくなる。

もちろん、違憲立法審査権を逐語訳が出来なくともよい。
汎用的には "juridical review (rights)" という英単語が充てられており、この語彙からして司法による権利であることは確かに分かる。
しかし、この圧縮された単語から違憲審査権という日訳を導きだす能力など不要、たかが大学入試のたかが英文読解なんだから。
あくまで、何について論じているのか「わけがわかる」ようになっとけってこった。

こういうのを勉強のセンスという。

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理系学部狙いだって同じ。
先に記したが、たしかに英単語そのものには理科も社会科も芸術もない。
それでも、理数系学部の出題する英文コンテンツそのものは、それなりに理科の論理・常識が問われ続けている。
たとえば、昨年度の早慶一般入試における英文読解では、発電、給電、電池システムについての軽い論説文が複数学部にわたって出題された。
むしろ、これこそが理系学部の英文解釈にふさわしい。
国公立だって同じ。
高校の理科のセンセは依然として黙っている、かもしれないが、大学入試の英文解釈に挑むのなら物理学の教科書に描かれている論理と常識くらい知っておきたい。

もっと言えば ─ これは僕の勘にすぎないが、そのうちに理系学部の入試英文からは文面そのものが減っていき、工業製品のコンセプト図案や科学実験のデータ(の英語版)などがどんどん増えていくような気もする。

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おまけ。
かつて僕が大学に入って、ほとんど最初の政治学講義だったと記憶している。
或る古参の教授がニヤッと意地悪そうに、開口一番。
「おい、きみらはマキャベリズムを知っているか?」
そら知ってますがな、高校の社会科で勉強しましたがな、と僕たちはムッとした。
そうしたら、教授の方が驚きつつも、欣喜雀躍として。
「へー!君たちは英文法とか歴史ばかりじゃなくて、『ちゃんとした勉強』もしてたんだね!うちの大学だって『ちゃんとした学生』を採ってるんだな!うむ、東大みたいな縦割りのバカは要らんのだ」

以上