一方で、税というもの、この世で最も片務的で固定的な賦課制度である。
だから、税についてはおそらく誰もが控除や転嫁ばかり考えているんじゃないか、これじゃ国民にとって最善の税制などおけそうにない、まして国際間の経済利害が絡めば、なおさら込み入ってくるばかり……いや、違う、そこで留っていたら我々と税制はいよいよ乖離していくばかり、本来は税制は自由競争の補正システムたるべきであり、だから政治(富の再分配)の根本機能たるべき、そして我々による参政権の実践形態たるべきだ。
そんな、こんな ─ と考えながら読み進めたのが本書である。
『日本の税金 (新版) 三木義一・著 岩波新書』
此度読んだものは2014年6月の発行版。
なるほど、税にかかる最新事情のアップデートは、我々一人ひとりが多くのソースから収集可能 ─ しかしながら、税制における争点とその本源を立体的に把握するに際しては、本書などは実に概括的かつ明瞭なアブストラクトといえよう。
さらに横断的にみれば、本書は税秩序の不完全性を突きつつ、一貫してフェアネスへの探究やまぬ真摯な文脈づくりが、読者の正義意識を掻き立てる。
敢えて難を言えば、そもそも税の問題はかなり複合的なもの多く、だからこそ、例えば税制の法源と合理性、必然性、各経済主体のメリットとデメリット、とヨリ明瞭に場合分け記されていれば、一層読み進め易かった。
ともあれ、税制の問題そして争点は常に事欠かず、直近のニュースでも消費税率据え置き、法人税率引き下げ、社会保障、雇用問題、所得税や法人税回避のタックスヘイヴン、いわゆるパナマ文書、租税条約、さらに輸出優位まで踏まえればTPPまで ─
経済システムの無節操化と無国籍化に伴って、税負担の不平等感は募るばかり。
しかし、まさにそれゆえにこそ、我々はこんご一層 「税感覚」 を磨き上げ、さらなる自由と公正を模索続けたいものである。
さて、今般の読書メモにては、あえて概説紹介の意から、本書の「所得税」「法人税」「消費税」の箇所に絞り、以下に僕なりに要約してみた。
これらに則りつつ、さらに本書にて続く相続税、地方税そして国際税についても読み進めてみたい。
<所得税>
所得税は、収入の多寡を問わず、所得を得た個人に対して、その個人の負担能力を考慮して課税する ─ つまり応能負担原則。
所有資産に課税する法制度ではない。
<所得控除>
・「事業所得」は、収入金額-必要経費(実費)で算出。
事業所得者が実際に支出した必要経費(実費)はすべて控除、が原則。
この必要経費には、従業員に支払った給与も含まれる。
しかし、納税の義務者と生計を一にする親族が事業にて受ける対価は、この納税義務者自身にとっては必要経費ではなく所得とされ、課税対象となる。
一方で、この親族は自己の給与所得が無きものとみなされ、課税対象とされない。
この原則をおいたままでは課税対象者と所得が非対応なので、修正も進んでいる。
(納税義務者の親族が事業専従の青色申告者となれば、納税義務者自身の給与所得控除がみとめられる、など)
概して、所得税の課税対象(単位)は統一的な定義が難しい。
たとえば、家族における課税対象は、欧米では夫婦単位で選択性、フランスでは家族単位、だが欧米よりも個人主義意識が希薄なはずの日本にては、徹底した個人課税主義がとられている。
また、民法上の夫婦間財産契約との優先順位はどうなるのか、さらに、専業主婦は無所得か(だから基礎控除も無いのか)、など。
・次に、サラリーマンなどの「給与所得」は、収入金額-給与所得控除額で算出。
ここでの控除額は、収入金額に応じた法定概算額とされている。
サラリーマン=給与所得者とその家族だけに限って、所得税負担を国際比較した場合、日本のサラリーマンは優遇されている 「ように見えてしまう」。
他国では給与所得者への給与所得控除額をほとんど設定せずに経費(実費)だけを控除、これに比べると日本の給与所得控除額が多いため。
よって日本では、給与所得控除額の上限をもっと引き下げろ(もっと課税せよ)という議論がなされ続け、また措置も講じられている。
※ ちなみに来年度からまた引き下げられる。
・しかし、ヨリ根本としては、憲法25条にて保障の生存権、かつ所得税の根本である応能負担原則の実現として、課税対象所得の最低限額を、基礎控除としてすべての納税者に保障 (この額に満たない所得は課税しない旨)。
この基礎控除額は、日本では現在わずか38万円であり、生活扶助基準額の50%にすぎない。
所得税負担の国際比較をまともに行うならば、基礎控除まで含め合わせての検証がなされるべきである。
そうすると、日本の所得税における控除額は総じてアメリカと並んで「少ない」、つまり国際比較でみれば優遇されているどころかヨリ多く課税されているのである。
一方では、給与所得控除額を現行の法定概算額と経費(実費)との選択制にすべき、との議論もあるが、経費(実費)を明確化し難いとの理由からまだ決着していない。
そもそも、給与所得者の所得額は源泉徴収で捕捉し易いが、他の事業所得者の場合は所得額が申告制であり捕捉し難い。
<課税所得>
・総所得から、上記のさまざまな所得控除を差し引いた残りが、課税所得である。
この課税所得の多さに準じて累進税率が適用されており、この累進税率が過度に大きいと高所得者の勤労意欲を損なうとして、累進度は時代が下るごとに弱まっている。
しかし今でも、課税所得の最高税率は、住民税の課税分まで加えると50%にもなっている。
累進課税に則って課税所得を鑑みた場合、所得控除が多くなればなるほど高所得者に対して有利ではある。
なお、課税所得への税率計算にては、一般には「超過累進税率」方式が適用されている。
これは、同一人の課税所得にて「金額レンジ帯ごとに別々の累進する所得税率」が掛けられ、それら「おのおのが合算されて」課税されるもの。
一方、累進課税と聞いて勘違いしやすいが、課税所得の「総額のみに一括で」所得税率を掛ける課税計算が別にある。
これは「単純累進課税」方式といい、この場合には納税者が税率に応じて課税所得を操作しうるなどの欠陥が明らかである。
<税額控除>
・ここまでの所得税額から、さらに税額控除がなされる。
税額控除としては、配当控除、外国税額控除、住宅借入金(取得)等特別控除…など。
概して低所得者ほど、所得控除よりも税額控除の方が効果は大きい。
<手当て金>
・課税対象「以下」の低所得者まで皆平等に扱うべく、控除ではなく「手当て」制度の充実が図られてきた。
その一環が、民主党政権時代に進められた「子ども手当て」であり、これは所得控除のひとつであり高所得者ほど優遇される「扶養控除」を廃止し、それによって増えた財源を割り当てようとの構想。
しかしながらこの制度は、財源があいまいなまま所得制限を設けずにばら撒きを行うものと非難され、廃止に向かうこととなった。
子ども手当を不平等感なく実践進めるのならば、財源と手当て対象を出来るだけ一元化することが望ましい。
たとえば ─ 対象の所得多寡を問わずこの手当て金を供し、これを課税所得に加えてトータルの税収を増やし、その上で高額所得者の納税分を充当すれば、手当て金システムとしては簡便である。
<公正な所得税の追求>
・所得税は、国民が得る経済的利益の大部分を課税対象としている ─ はずだが、利子・配当・不動産・譲渡といった「資産性」の所得をどう扱うべきなのか。
どれも総合課税ではなく、課税方法や率や所得区分が個別設定のままである。
・所得税の公正さを追求する上でのひとつの試案として、「支出税」構想もあった。
これは所得そのものを課税対象とするのではなく、収入から必要経費と貯蓄額を控除した「支出額」に課税せんとするもの。
尤もこれは所得額と貯蓄額と支出額がどれも個々人によって大きく異なり、応能負担の原則におよそ沿ったものではないとして、採用されるにはいたっていない。
・北欧などでは、「資本所得」と「勤労所得」を別個の税率適用とすることで、所得税負担の平等を追求する試みもある、がこれでも資本取得の分は低税率を適用するなど、やはり完全には機能していない。
・なにより、経済のグローバル化にともない、所得者とその国籍が一致しない事態が進行の一途。
富裕な個人が国外に移動しその地元に企業設立、そこを拠点に日本で事業活動を行うなど。
ここまで踏まえれば、民主主義の大目的である「所得再分配」と応分コストの負担共有が、実現どころか逆行していることになる。
日本では所得税の多くをサラリーマンが負担している、そして国際競争に晒されてもいる。
だからこそ、サラリーマンの自覚が多く求められ続けている。
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<法人税>
・法人税は、会社の活動がすべて営利目的に基づくとの前提をおいている。
そして、(所得税同様に) 所得を課税対象としている。
ただし、法人税法上の課税所得は、商法上の企業会計の確定決算利益とは一致しない。
たとえば、企業再編、融資元と融資先、役員報酬、その親族の報酬、受取配当、交際費、寄付…の行為にて、これらが会社の所得なのか或いは経費なのかと論理峻別するに際しては、企業会計の確定決算利益のみからでは不可能である。
<課税所得>
そこで企業会計とは別個に、課税所得計算プロセスを経て会社の事業年度毎の所得を算出する。
このプロセスにて、法人税法上の益金算入額を加算、かつ益金不算入額を減算、こうして「益金」を算出する。
更に、やはり企業会計ベースに、今度は法人税法上の損金算入額を加算、かつ損金不算入額を減算、こうして「損金」を算出する。
こうして個別に算出した「益金」から「損金」を控除し、課税所得が確定される。
※ なお本2016年度時点で、課税所得に対する法人税率は23.4%であり、これに法人住民税率や地方法人税率まで加味した法定実効税率は29.97%である。
こんご更に法人税率が切り下げられていくことが予想されている。
・特に、日本の全会社の95%を占める同族会社の場合、その活動が会社としての営利目的であるのか、支配的個人のみによる行為であるのか。
ここのところ、同族会社自身に任せておいても判別し難いとの理由から、税務署がいわゆる「行為計算否認規定」を随時発動し、独自に判断し得ることになっている。
<擬制説と実在説>
・法人擬制説とは、会社の所得は結局のところ個人株主の所得であると見做し、ゆえに本当はその個人株主に対して事業所得税として課税すべきとする見方。
仮に法人税として一時的に法人に課税しても、これは個人株主の所得税との二重課税となるため、別段にて調整すべきであるとする。
日本はこの法人擬制説を採っており、徴税時点にて個人株主が課税調整を不要とするならば確定申告不要もしくは申告分離課税を選択、また株式配当への控除を求めるならば総合課税を選択することが出来る。
一方で、日本の法人間の配当は課税所得計算にて「益金不算入」が原則 (持株比率に準じてこの不算入率が異なる。)
・法人擬制説に則った国として。
たとえばイギリスでは(部分的)インピュテーション方式を採用、これはまずその株主個人の配当に事業所得税が課され、そこから配当における法人税分を別途控除する課税システム、一方で法人間の配当は全額が「益金不算入」。
またドイツでも法人擬制説を採り、個人株主への配当などについて一律25%を法人税分とみなし、これを申告不要で控除、そして法人間の配当は95%が「益金不算入」。
フランスも法人擬制説で、個人株主への配当は法人税と所得税の分離課税か或いは総合課税かを選択可、また法人間の配当はすべて「益金不算入」。
・一方、アメリカなどが採っているのが法人実在説。
これは法人と個人事業者が別個独立とみなし、それぞれ課税対象とみなすもので、したがい個人株主へは法人税と事業所得税が別個に課され、控除調整はナシ。
<軽減税率>
本書発行の時点で ─
日本の資本金1億円以下の中小企業の場合、課税所得のうち800万円以下の部分には18%の軽減税率を適用、それ以上の課税所得分については通常の法人税率が適用されている。
なお、公益法人、協同組合、特定医療法人に対しては、その事業目的が公益であると見做されれば、課税所得の多寡にかかわらず軽減税率18%が適用されている (公益法人の7割は宗教法人)。
さらに、公益法人による出版や旅館の課税所得も、やはり軽減税率が適用される。
一方では、NPOによる収益事業の課税所得に対しては、軽減税率は適用されていない。
<法人税課税の実態>
・日本にて、法人税を負担している(=所得のある)企業は、過半に満たない。
そして資本金1億円以上の企業、数にして全法人のわずか0.1%が、その半分は赤字にありつつも、日本の法人税収の6割以上を負担している (H14年データによる)
むろんこの税収額の偏差は、各法人の自由意思のはずがなく、所得格差そのものを表わすと捉えるべきである。
・なお、日本は法人数が多く(本書データの時点で)約260万社、特に中小・零細の法人数が極めて多い。
そして、個人が税制上の利便を図って「法人成り」しているケースが多い。
なお、ドイツやイギリスでは法人数が63万社、フランスが94万社、人口が日本の3倍近いアメリカでさえも225万社である。
<法人税への批判>
・法人税の負担額をおしなべて見れば、会社の株主か、労働者の賃金か、或いは消費者の購入価格に転嫁されていることになり、よって本当の法人税(分)の負担者が誰かは極めて峻別し難い。
この判り難さから、どの経済主体も自己の負担分の控除ばかり狙うことになり、この無責任意識の蔓延ゆえにこそ無節操な増税手段ともなりうる。
また法人には参政権が無いため、法人への課税は政治システムにおいて歯止めがかからない。
・だが一方では、法人企業の経済社会におけるプレゼンスの大きさこそを危惧すべきとの見方も根強い。
会社法の改正に応じてただちに法人税法も改正され、政府の各種委員会には法人企業の代表者が多く入り込み、法人企業による政党への政治献金は継続されている。
このように法人企業は個人以上に社会的影響力を行使し、担税力も巨大なはずであるが、法人税負担は法人擬制説に則って個人株主に押しつけうる。
・じっさい、日本の法人税率は90年代以降下がり続けている。
また、税収全体における法人税の比率も下がっている。
それでも、地方税における事業(所得)税まで合わせると、日本の実質的な法人税率はアメリカと並んで高いことになる。
しかも、国際比較はけして単純ではなく、利益計算や所得算出方式が国ごとに異なっている。
法人税引き下げ競争はいまや世界各国のトレンドであり、論理的には限りなくゼロに近づくことになる。
同時にまた各国は、大企業向けの税制優遇措置をとりつづける。このトレンドは、税制の公正化とは真逆の不公正・不明瞭な事態をさらに世界経済にもたらしうる。
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<消費税>
・消費税法によれば、事業者が対価を得て行うすべての資産譲渡等において、消費税が課税対象となる。
この普遍性の高さから、こんご更に税率引き上げが続きうる。
1%の消費増税は国と地方税収の3%分に相当、かつ、現時点での日本の消費税率は国際比でみて極めて低い。
(なお、対価を得ない資産移動、たとえば給料、寄付金、祝金、試供品提供、資産滅失、保険金、損害賠償金などは、消費税が不課税である。)
・消費税納付額を算出するにさいし、関係事業者すべての仕入と販売売上にかかる税込額を累積計算すると複雑に重複してしまう。
しかし、すべての事業者が中間財の仕入にて消費税額を一括控除するものと見做せば、重複ナシに計算出来る。
そこで事業者の消費税額を (課税売上額-課税仕入額) x 消費税率 と一律化。
この売上-仕入は経済額用語でいう付加価値に相当、よってこの消費税課税は付加価値税(VAT)とも略称され、フランスに始まって欧米へ広まっていった。
・消費税導入以前は、各品目について個別に課税率を定める物品税が採用されていた、が、これでは遍く全ての商品や新たな商品の課税率を個別に定めることが不可能とされていた。
ゆえに、全商品品目に対する一律課税を前提とする消費税が採用された次第。
<間接税ゆえの逆進性>
・そもそも消費税は、納税義務者と税負担者の一致しない、間接税の典型である。
そして納税義務はあくまで事業者に在るとされている。
それゆえ、事業者が中間財の仕入れにて一時負担の消費税額を販売価格に転嫁すること随意である。
・こうして捉えれば、消費税課税品目がどのような取引経緯を経ても、結局は税負担分がひろく消費者に転嫁されることとなりうる。
したがい、税制の基本たる応能負担原則には合致しにくく、購買力の弱い低所得層ほど不利な逆進的課税システムともいえる。
とりわけ、資産と所得の格差大きい高齢者が人口比で増えていくならば、全国民通しての経済力格差も拡大することになるため、消費税の逆進性が高まっていくことになる。
理念的には、最低生活水準維持の消費支出にかかる消費税分を、所得税額から控除する、という方式が考えられる。
<益税の問題>
・いわゆる中小企業特例にては、事業者ではあっても前々年度の課税対象売上高が1000万円以下の場合、確定申告不要で免税事業者となる - この金額の一線を免税点と称す。
この免税事業者は自身の販売価格にて消費税分を上乗せしうる、しかしながら実際にどれだけの金額を上乗せしているかは消費者には判らず、この免税事業者だけが利益膨らませうる…これが益税の問題。
・この免税点の条件は年々厳しくなり、免税事業者の数も減りつつあるが、いまだ個人/法人事業者の4割近くが課税売上額にて免税点に達していないとされている。
また国際比では、日本の事業者への1000万円以下という免税点は条件が緩すぎるとし、EU並みに(日本円相当で)100万円前後にまで引き下げるべきとも指摘されている。
日本の免税点がいまだ緩すぎるのは、もともと消費税導入時に、自身の負担増を危惧した中小零細事業者と段階的な妥協を図ったため。
・また、簡易課税制度も益税問題をもたらしている。
事業者が中間財の仕入れ額と商品売上額ともに正確な消費税納付分を精査せず、課税額が一定割合にあると「みなす」 ─ これを認めて、消費税納付額の算出便宜を図るもの。
実際の商取引にてはさまざまな業種や事業形態が輻輳しているため、この簡易な納税額計算が採用されてきた。
事業者が前々年度の課税売上5000万円以下の場合、この簡易課税制度の自由選択が可能。
ここで、たとえば仕入れ額における消費税「みなし」額が、事業者の雑益たりうる場合もある。
・販売商品における(消費税含みの)総額表示方式がとられてから、その販売価格の妥当性についての消費者意識が高められてはきた。
<消費税の控除>
・事業者が中間財仕入における消費税額を控除するにあたり、欧米の付加価値税(VAT)システムではいわゆるインボイス方式を採用。
これは各事業者が、それぞれの仕入取引における商品送り状や請求書にて、消費税額を分離・明記し、これによって最終的に事業者が消費税の控除申請するもの。
ただしこのインボイス方式にては、免税事業者は事業間取引外にあるとされ、控除請求は出来ない。
一方、日本ではいわゆる帳簿方式を採っており、たとえ免税事業者であっても仕入れ額の帳簿を提示すれば消費税額を控除請求可能。
とはいえ、この帳簿内容は所得税(および法人税)の課税計算と合致しているはずであり、別途提示の必要性が不明瞭ではある。
・法人税と消費税の違いが、事業者による雇用契約判断をも変えてきた。
法人税に則った課税所得計算では、事業者による給与支払い分は損金となり、法人税の控除が出来る。
一方で消費税では、事業者は仕入れ行為の多くを控除図りつつ、自社の給与支払いは仕入れ行為とは見做されないため、その消費税負担の控除請求が出来ない。
だがここで派遣会社を使えば、労働力は確保しつつも、ここで支払う派遣料は仕入れ行為と見做されるので、その消費税分を控除請求が出来るのである。
こうしてみれば、消費税率を引き上げることが派遣労働を増やすことにもつながりかねない(労働法もあわせて改正の必要あり)。
<非課税取引の矛盾>
・消費税採用後も、現在に至るまで、消費税の課税例外となる「非課税取引」が別表にて税率定義されている。
たとえば ─ 土地の譲渡、住宅貸付、有価証券の譲渡、貸付金等の利子、保険料、切手類や印紙の譲渡、行政手数料、外為、医療、社会福祉事業、授業料、入学検定料、入学金、助産、埋葬や火葬…
これら行為区分が仔細に亘るため、業者は仕入れ時点にて選択的な節税策も可能となる。
・事業者が販売する或る商品への消費税を非課税としつつ、その一方で仕入れの際の品目は課税対象である、とする。
この場合、事業者は仕入れの際に発生した消費税分を控除請求出来ない。
仕方がないのでその事業者は、その仕入れ分の消費税額を販売価格に転嫁するしかない。
…という具合にして、どの事業者も販売価格に仕入れ分消費税をオンしていけば、あらゆる商品の売価が上がっていくことになる。
とりわけ、必需品が非課税となりつつも仕入れ分は課税対象のままとなったら、必需品の売価がどんどん上昇していくことになり、これを「非課税の矛盾」と称す。
<ゼロ税率、軽減税率>
・上に挙げた非課税の矛盾を拡大させないよう、消費税にてゼロ税率や軽減税率の制度をもって、事業者の税負担を回避している。
たとえばゼロ税率とは、「事業者が販売する消費税非課税の品目にもゼロ%の消費税が賦課されている」と見做し、仕入れ時の税負担分の控除を認める(還付がなされる)制度。
消費税率は国によって異なる場合もあり、その場合には消費税率の低い国々が販売価格競争で有利となる。
この輸出競争力維持のためにこそ、日本はじめ先進国の税制では、輸出(類似)取引に消費税免税を認め、輸出価格競争力を維持しつつ、あわせて販売事業者の負担回避を図っている。
・しかしながら、消費税率の掛け方とその対象品目は国ごとにかなり異なっており、また各国間での商品仕入れ(輸入)と輸出はかなり入り組んだものである。
よって、輸出品目へのゼロ税率適用のみが自国の輸出優位と事業者保護を必ずしも約束するとは限らない。
ちなみに、2011年時点にての主要国別の消費税負担 ─
軽減税率の対象品目: 日本はナシ、フランスとドイツとスウェーデンでは食料品と水道水と肥料と書籍と旅客輸送と宿泊施設利用と医薬品などに軽減税率適用、イギリスは家庭用燃料と電力に軽減税率適用。
ゼロ税率の対象品目: 日本はナシ、フランスもナシ、ドイツもナシ、スウェーデンでは医薬品はゼロ税率適用、イギリスでは食料品と水道水と書籍と旅客輸送と医薬品と建物建築などがゼロ税率適用。
輸出(類似取引)免税: これら各国が適用。
非課税品目は、これら各国につき、おしなべて上述のとおり。
なにより、消費税への軽減税率ないしゼロ税率適用が進行していけば、各国にとって確実に税収減少につながってしまう。
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※ ところで。
税について語るにあたっては日本語はあまり向いていない気もする。
たとえば、課税するのか/されるのか、既に課税されたのか/これからされるのか、制度を指すのか対象品目を指すのかはたまた金額を指すのか、といった論理峻別は、ちょっと物理学や化学にも似て日本語ではやや難しく、英文の方が理解し易いような気もする。
そしてこの日本語表現の不明瞭さが、実社会にて世代間の意思疎通を滞らせる遠因ともなっている。
尤も、本書の文面はかなり理知的である。
以上