2018/10/27

【読書メモ】 3時間でわかる!図解 民法改正

昨年公布された民法のいわゆる大改正、その施行「期日」は2020年4月1日とのこと ─ まだまだ時間はあるとはいえ、これを期に民法について再認識を促す本はないものかと探していたところ、適当と察せられる1冊を見つけたので、今般ここに紹介と略記引用する。
3時間でわかる!図解 民法改正 熊谷則一 日本経済新聞出版社』

むろん学生など初学者にとっては、改正内容どころかこれまでの判例解釈も、いや基本的な概念や通念すらも3時間程度では理解出来ようもない。
それでも本書を薦めるのは、数多くの改正内容のうち特に根幹的なものを本著者が抽出されているため、かつ、改正内容を概括的な図解で一瞥出来うるためである。


なお、此度の大改正に際してあらかじめ留意すべき理念上の変化について、別ソースより指摘あり;

・大陸法型の民法によれば、「既に成約済の契約は本源的に売り手/買い手の申込み/承諾が論理的に一体のものとして成立しているはず」であり、わが国も従来はこの着想に則ってきた。
・しかし英米法式の発想では、大陸法型の論理整合のみには立脚してはならず、「動的に激変しうる社会関係性」を鑑み、成約から履行までに売り手/買い手にかかる諸要件それぞれを双務の約因設定→約款化として厳密に定義しなければならない。
・そして今回の民法大改正においては、最も根本的な債権法のレベルに至るまで英米方式の約款化が実務上義務付けられることになった。

特に法律分野に関わる学生諸君は、まず民法そのものにつき、「ひとたび意義について了解」進めるためにまず基本概念/通念を知り、その上で此度の改正内容について理解と意欲を高めることが望ましかろうと察する。
そこで、以下に僕なりにまとめた此度の読書メモにては、条文の改正あるいは削除そのものの引用までは踏み込まず、基本概念/通念に係るキーワード(ヒント)を引用するに留める




<改正民法95条1項2号、2項>
・表意者の意思がその意思表示に対応していない錯誤
表意者の認識が法律行為の基礎(動機)にて真実に反する錯誤
・詐欺による意思表示
・意思表示の有効性
・意思表示の取り消し ─ 誰が?


<現民法105条の削除>
・或る「本人」の権利の「代理人」への選任(委任)
・その「代理人」が更に「復代理人」を選任
・「本人」と「代理人」と「復代理人」間の権利履行における排他的な監督責任 ─ ここに係る条文の削除


<改正民法107条>
・代理権の濫用
・無権代理(人)行為


<改正民法424条3>
・財産の債務者 ※カネの債務者とは必ずしも一致しないこと要留意
・その債務者と特定の債権者にて債権/債務の調整
・別の(元の)債権者に対する詐害行為
・詐害行為の取り消し請求


<改正民法166条1項>
・債権者による権利行使の認識時点(主観的起算点)
・その権利行使期間の「時効」
・その時効の消滅
・職業別の「短期」消滅時効の規定 ─ の削除


<改正民法151条1項>
・債権者による権利行使期間の「時効」の完成
・その時効の更新
・その完成猶予のための協議
・債権者による権利不行使


<改正民法404条>
・法定利率の変更 5%→3%
・法定利率における変動利率制導入
・法務大臣告知による短期貸付金利の基準割合/3年あたり


<改正民法412条の2>
・債務履行不能の定義化と効果
・債務履行の原始的不能における損害賠償請求


<改正民法415条2項>
・債務履行不能に対する填補賠償


<改正民法422条の2>
・債務不履行における代償物の償還請求


<改正民法541条、542条>
・債権者/債務者間の双務契約における、当該物件の危険負担
・債務履行不能の帰責事由
・債務履行不能に対する契約解除権
債権者によるその物件の危険負担の原則 ─ の削除


<改正民法424条2>
・或る財産の債務者が、或る受益者との間で財産処分
・「その財産の債権者」への詐害行為の要件化
・詐害行為の取消請求
(破産法との兼ね合い)


<改正民法424条3>
・或る財産の債務者が、或る債権者との間で債権/債務を調整
・「その財産の別の債権者」への詐害行為の要件化
・詐害行為の取消請求


<改正民法441条>
・連帯債務者の一人について生じた事由の、他の連帯債務者に対する相対的効力と絶対的効力
・その相対的効力化の原則 - 債務履行請求、免除、および時効完成にて
・絶対的効力の要件も残存
(破産法との兼ね合い)


<改正民法458条>
・連帯保証人の一人について生じた事由の、主たる債務者への相対的効力と絶対的効力


<改正民法465条の2>
・個人が保証人となる根保証契約
・極度額の定め

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以上 ─ あくまで本書の前半部に記載の改正(ないし削除)内容につき、その基本概念にかかる主要タームのみを挙げてみた。

本書では更に; 債権譲渡、証券の譲渡、相殺制限特約における意思の明示化と共有化にかかる改正を解説され、さらに、ヨリ現代的な事情をふまえつつ定型取引契約と定型約款、目的物の瑕疵と契約不適合などなどを取り上げて解説を進めている。


さて、僕なりに法分野の素人として考えること。
民法は、「いかなる権利者が」「いかなる権利者と」「いつ」「どのように」「財産の」「当該物件の」「権利を有する」「権利行使する」「合意する」「協議する」「催告する」「猶予する」「錯誤する」「詐害する」 ─ などなど、人間の権利/義務行為を根本にまで緻密に還元した上での条件分けと考証が必要な領域であろう。
しかも can/must のオプショナルな設定を熟慮しなければならぬ、よって、民法は次元やマトリクスの設定次第で明瞭ともなれば煩雑ともなりえようか。
今般紹介した本書が呈する図解について言えば、しばしば簡便に過ぎるきらいもあるが、民法の緻密さを了解の上で一瞥すれば優れたクイックリファレンスたりえよう。