大学入試シーズンゆえ、却って暇になる。
暇なので電機メーカ時代の旧知の連中とちらほら話すこともある。
いわゆる総合電機メーカーゆえ、製品の事業を大別すれば いわゆる'BtoB'型の事業と'BtoC'型の事業が同じ屋号のもと併存しており、同時にまた対立もしているところ、ちょっとした合衆国のごとき在りようではあった。
僕が主だって従事していたのは 'BtoB型事業の拡販活動。
発電システムから半導体まで、いわばそれらの複合システム製品を製造し販売していた。
いわゆる生産財というものだ。
顧客はといえば、水道・建設・電力・ガスそしてICTといった社会基幹インフラの事業者、さらにさまざまな管轄省庁である。
だから、電機メーカとしてはしぜん彼らの世界観/市場観に準じるようになる。
それすなわち ─ いかなる生産財であれ何らかのエネルギーと部材素材から成っており、それらがお客様によって運用され償却されてゆくにともない、さまざま新たな需要と供給を生み出し、新たな製品をも生み出し、かくて、或る生産財のエネルギーや部材は姿かたちを変えつつさまざまな世界と市場をずーっと巡ってゆくことになる…といったものだ。
ざっと、これが’BtoB’事業における世界観/市場観、ヨリ総括的にいえば「マテリアルシステム」としての世界観とでもなろうか。
(もうちょっと気取ってヨリ学術的に本源を突けば、化学反応におけるイオン化や酸化還元のイメージにそっくり、もっと大胆に物理学風にいえばエネルギー保存則の典型例ともとれよう。)
'BtoB'事業の従事者であれば、製品開発担当や技術設計担当や製造(部材調達)担当から財務や法務まで、そして営業担当もがこういう「マテリアルシステム」を大前提に抱きつつ諸々業務をこなす。
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電機メーカでいえば、パソコンはじめホームエレクトロニクス、つまり一般消費者向けの家電製品や生活メディア製品や関連ソフトウェアが典型的なBtoC製品であり、それらの量産的な販売がBtoC型の事業である。
ハハン、たかが一過性の嗜好品にすぎないじゃないか、そんなものバカでも担当出来ると、BtoBチームの僕たちはしばしば嘲笑したものだが、とんでもない!
そもそも、複合や循環が偉くて一過性は偉くないという決めつけこそが浅薄なのである。
人間の活動そのものを微分的に捉えてみれば、すべての人間はその生活そのもにおいて常になんらかの一過的な消費者である。
そして、そういう消費者向けの量産品こそは’たかが嗜好品’どころか「生活上の需要を満たすための必需品」なのである。
電機メーカの製品に絞ることなく、衣食住そのものの一瞬いっしゅんを鑑みてみれば、食材も衣類も一般消費者向けの量産品であり、我々人間のなんらかの需要を一瞬一瞬ごとに満たし続けている。
これら製品(産品)の製造や拡販をバカが仕切れるか?仕切れるわけがないんだ。
※ いまはBtoCどころかネット経由でのCtoCが興隆しており…といった事業形態分類はなんぼでも出来ようが、些末はともかくも本質的には一般消費者の需要に則った事業論である。
BtoB事業の担当者は世界と市場をマテリアルシステムとしてとらえ、あらゆるエネルギーや部材が循環していると見る ─ と上に記した。
一方で、BtoC事業担当者たちはシステム論や循環論にはあまり拘泥されないようで、むしろ人間そのものの消費需要を充足させていくことに大いなる関心意欲が掻き立てられるようである。
世界や市場は人間の需要/供給の絶え間なきダイナミズムから成り、これはなんぼでも拡大させ連結させていくことも出来よう、ゆえに、製品を大量にしかも速く普及させ、おのれも大いに儲かっててこそ、事業には存在意義があるのだという。
だからこその値下げ競争でもあり納期競争でもあり、株式でありカネまわしであると。
この開拓者型の精神、これこそ'BtoC'、まさに起業者としてのそれであり、功成っていけば社長ともなり、大成功すれば業界のリーダー型企業たりえよう。
この開拓者型の精神、これこそ'BtoC'、まさに起業者としてのそれであり、功成っていけば社長ともなり、大成功すれば業界のリーダー型企業たりえよう。
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さて、以上のようにつらつらと記したのには一応は訳がある。
学生諸君らのうち少なからずは『マーケティング』について聞いたことがあるだろう。
そして社会人の多くが ─ というより農林水産業から観光業にいたるまで ─ ほとんどの職業人が多かれ少なかれ従事しているのが、まさに『マーケティング』なのである。
マーケティングといえば、お客様の需要を探り、お客様の具体的な嗜好を見極め、お客様の意欲関心を自社優位に誘導してゆく、こうして自社製品(産品)の販売量の最大化はかる、といったところまでを含むようではある。
じっさい、或る製品(産品)の対象市場は既に特定の事業者によって寡占されているのか、まだまだ参入の余地があるのか、そしておのれ自身の製品(産品)はどうなのか、もっと投資すべきかいやいや撤退すべきか、新製品はいつぶちこむか。
これら、市場分析や競合分析そして事業分析までひっくるめてこそ真のマーケティングである。
どさくさ紛れイチかバチかのたたき売りノウハウではなく、そうならぬよう従前に緻密な市場捕捉を進めておき、同時に経営判断も為すわけだ。
上にBtoC事業について概説したように、人間は本質的になんらかの需要を有する消費者でるので、マーケティングはBtoC型の事業に適した戦略技法であるともいえる。
しかしまた、あらゆる製品(産品)の製造過程においても人間はなんらかの部材を常に欲しており、それら部材だってやはり需要なのであるから、つまりBtoB型の事業においてもマーケティング技法は大いに有用である。
だから、事業者にとってはあらゆる工程のあらゆる従業員も、あらゆる製品(産品)もが、マーケティングに多かれ少なかれ関与していることになる。
マーケティング論は、法や経済にかかる学術論と比べるとさして抽象度は高くないし、自然科学のような完結型ないし循環型のシステム観をあてこむわけでもない。
だから、ちょっとかじってみれば易しい分野と映ることは否めない。
しかし、繰り返すがこれはあらゆる職能のあらゆる人間の需要分析を進めていく学問分野であるので、実践的なデータ収集力も分析スキルも大いに求められよう。
それだけの覚悟を持って挑んでみたい。
(え?僕はどうするのかって?さぁそのうちに。)