2025/02/17

物理で学ぶエネルギーについて大なり小なり

物理の楽しさは、さまざまな物質(物体)の運動や仕事/エネルギーの繋ぎ合わせ、そしてそれらの作用/反作用や保存則、さらにはエントロピーと生命論であろう ─ なんてことはたいていの高校生が学校でさんざんぱら聞かされてきたところであろう。
そうはいっても、学校や予備校ではどうしても単元のブツ切りとバラ売りが率先されてしまい、だから超微小世界から超巨大宇宙までバーーンと貫くでっかい思考スケールはなかなか育まれないもの。
そこんところ、一介の教育関係者なりに、ちょっと挑んでみようかと思い立った。

もとより僕は電機メーカ在籍時より物理ファンではあっても、物理分野における職歴は無く、それどころか理系キャリアに一歩たりとて足を踏み入れたことのないド素人ではある。
でもね、いわゆる文系職あがりではあってもね、高校物理くらい大半は分かってんの!
(大人とはそういうもんだ。ついでに言っとけば英語だって大学時代まではバカレベルだったが、海外営業や技術提案書にて英語を使っているうちに大抵のものは読めるようになっちゃったのだ。)

さて、今回は「高校物理に則ったエネルギー論」をひとつの大系とし、過去数年にちらっとしたためてきた数件の読書メモに則って以下にざーっと引用紹介しておく。


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『人類の未来を変える核融合エネルギー 核融合エネルギーフォーラム・編 C&R研究所』 より

水素1gを「化学的に」燃やして得られるエネルギー(水から水素1gを得るための最小エネルギーに等しい)は約1.43x105Jである。
一方で、同じ水素1gを「核融合」させて得られるエネルギーは3.38x1011Jにもなる。

核融合炉における核融合燃料として、水素同位体の実用化が図られ続けている。
とくに地球上では、重水素(D)と三重水素トリチウム(T)によってヘリウム(HE)同位体と中性子(n)が生成される核融合が最も反応しやすいため、最有望視され続けている。
(とくにDT核融合反応と称す。)

この1核子あたりの反応式は  1D2 + 1T3  →  2HE4+ 0n1 
核融合反応前も反応後も、陽子の総数は2であり、中性子の総数(質量数-陽子数)は3である。
さて、これを原子量(アボガドロ数あたり総質量)でみると、反応前の重水素(D)のは2.141g、三重水素(T)の原子量は3.0160g、合わせると5.0301gとなる、が、反応後のヘリウム(HE)は4.0026g、中性子(n)が1.0086gであり、合わせると5.0112gにしかならず、反応後の質量は反応前より0.4%ほど軽くなったことになる。
※ アボガドロ数約6.3x1023 あたりの原子量としては約0.02g 軽くなったことになる。

この「質量欠損分」が、ここでの核融合反応によって運動(速度)エネルギーに変換されたことになり、1.7x1012J に相当。
これを電位差1Voltあたりの電子の運動エネルギー(つまり電子ボルト)1.6x10-19J≒1eV で換算すると1.06x1025MeV となり、あらためてアボガドロ数で割れば1回あたり17.6MeVがここでの核融合反応で運動エネルギーに変換されたことになる。
(さらに内訳として、ヘリウム(HE)では3.5MeV, 中性子(n)では14.1MeVとなる。)

※ なお同社・同編集部による本年初版の『世界が驚く技術革命 フュージョンエネルギー』にては、ここでの核融合反応によって変換された運動(速度)エネルギーは 1.8x1012J と記されている。


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『人類、宇宙に住む ミチオ・カク 著 NHK出版』より。
カルダシェフによる文明段階尺度など。

60年代にソ連の天文学者カルダシェフは、エネルギー消費量をもとに文明の段階を評価する尺度を考案した。
まず「タイプI」は、惑星に降り注ぐ恒星の光エネルギーを全て利用可能な文明で、平均的なエネルギー利用可能量は約7x1017W (J/s) となる。
これは今日の地球における我々のエネルギー出力の10万倍に相当、逆にいえば我々は未だタイプ0.7程度の段階に留まっていることになる。

次に「タイプII」は、恒星が生み出すエネルギーを全て利用可能な文明であり、じっさい我々の太陽の全エネルギー出力が約4x1026Wである。
そして「タイプIII」は、銀河全体のエネルギーを利用可能な段階の文明であり、上の太陽の全エネルギーと銀河の恒星の数から、この段階でのエネルギー利用可能量は約4x1037W となる。

現時点での我々の地球におけるエネルギー出力(そしてGDP)が年々2~3%ずつ上昇するならば、我々はまず「タイプI」の段階に到達するまでに更に1~2世紀かかり、そして「タイプII」段階に至るまでには数千年かかると考えられる。
なお、我々人類が「タイプIII」段階に到達するためには最低でも恒星間の旅行能力が必須となる ─ が、ここまでテクノロジーが到達するなど我々人類は100万年かかっても不可能との見方すらある。


仮に、我々人類が「タイプI」の文明段階に到達したとする。
その場合、化石燃料の使用可能量を問わず核融合エネルギーを活用しているはずであり、また宇宙空間にての太陽エネルギーも大いに活用していると想定出来る。
そして仮に、我々人類が「タイプII」の文明段階に到達するならば、それは「タイプI」段階での我が地球のエネルギーを全て使い果たした時ではないか。

「タイプII」段階であれば、我々人類は集団で地球から脱出することはむろん、地球自身をもまた接近する小惑星の進路をも曲げられるだけのエネルギーを既に手にしているであろう。
恒星からエネルギーを効率よく得るために「ダイソン球」をも活用しているだろう。
また我々自身が他の惑星に移住するにあたり、ナノテクノロジーによる資材および建造物の超軽量化が有益である。
それでも、これら機械類が放射する赤外線の熱放射は避けられないので、その惑星における長期的なエントロピー増大を回避するには更に他の天体に機械設備を分散設置してゆくことになる。

以上の推定が正しいとして ─ じっさい既に「タイプII」段階に入っている異星人がエネルギー出力を(熱量を)増大させているさまを、我々人類は未だ確認していない。
尤も、そんな異星人たちは既に反重力や重力波を既に大いに活用し、時空すら超えているかもしれない。


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『宇宙の始まりに何が起きたのか 杉山直・著 講談社Blue Backs より

・宇宙全体の構成元素のほとんどは水素とヘリウムであり、たとえば天の川銀河では質量比で98%が(原子数換算で99.5%が)水素とヘリウム。

恒星は、水素が核融合反応を起こしヘリウムが作られることによっておこり、水素を使い果たすと、さらにヘリウムが核融合反応を起こして炭素や酸素などが作られ、太陽のように「軽い」恒星においては、ここで核融合反応が終わる。

さらに「重い」恒星においては、中心核にて炭素が核融合反応してケイ素やマグネシウムなどが生成され、さらなる核融合反応によって最終的には鉄までが生成される。

よって、ヘリウムよりも原子番号の大きな(陽子数の多い)元素の核融合反応→生成は「どこかの恒星の中」でなされていることになる。

・だが、鉄よりも原子番号の大きな金などなどの元素の生成にては、核融合反応のためのエネルギーが超巨大でなければならない。
それらの超巨大なエネルギーは、超新星爆発から生じたであろう中性子の原子核そのもののごとき重い天体(いわゆる中性子星)が起源であり、それらの衝突によってもたらされてきたのでは、と想定されてきた。

2017年の重力波の検出分析をきっかけに、この中性子星による超巨大エネルギー起源説が検証されたことにはなり、これがあらゆる元素生成の核融合反応を完全に解明したとまではいかぬにせよ、更なるスタディが期待されている。


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『爆発する宇宙 138億年の宇宙進化 戸谷友則・著 講談社Blue Backs』より

「化学的燃焼(結合)」と「核燃焼(融合)」と「静止質量エネルギー」にてエネルギー大小を比較; 
スケール関係を明瞭にするため荷電粒子/電位ごとの電子ボルト[eV]ベースで表現。
(※なお6.3 x 1018[eV]≒1.00[J]である。)

或る物質にて、電子の化学的燃焼(結合)エネルギーは1[eV]程度。
一方で、これら物質の原子核の陽子と中性子の核燃焼(融合)エネルギーは1メガ[eV]であり、電子の化学的結合エネルギーの1,000,000倍もある。
ところが、これら物質にて(電子の質量はほとんどゼロとして)陽子と中性子の静止質量エネルギーを計算すると1ギガ[eV]、つまり陽子と中性子の核燃焼(結合)エネルギーのさらに1000倍にあたる。
この比較から、それぞれのエネルギー間におけるケタ外れの大小差も分かる。

太陽がその一生のうちに放出するエネルギーなど、超巨大スケールの検証となると、さらに別の科学的論拠も起用され、それが「静止質量エネルギー」。

静止質量エネルギーは相対性理論(E=mc2)によって導かれるもの ─ 或る質量を有する物体につき、その運動エネルギーが0であっても、一方で光速はいつでもどこでも不変であり、ここからこの’質量そのものが有するエネルギー’を定義している。
(わずか質量1kgの物体であっても、その静止質量エネルギーは約 1017 [J] にもなる。)

太陽内部のプラズマによって’毎秒'おこる核融合の出力エネルギー: 4 x 1026 [J] /s
ここで核融合による「核燃焼の効率」、太陽の「質量」、これらによる「静止質量エネルギー」の演繹、それに恒星としての「推定寿命時間」も勘案すると ─
太陽が寿命(100億年)の間に燃焼放出するエネルギー: 1044 [J]


以上