2013/03/16

【読書メモ】 シェールガス革命で世界は激変する(?)

『石油からガスへ ─ シェールガス革命で世界は激変する というのが本書の正式タイトルで、昨年の 『素材は国家なり』 と同じ長谷川慶太郎氏と泉谷渉氏の共著として、つい先ごろ東洋経済新報から発刊されました。
( 『素材は国家なり』 の読書メモはこちら→ http://timefetcher.blogspot.jp/2012/09/blog-post.html )

もちろん、我々の多くはシェールガスの存在を暫らく以前から聞かされており、主要なメディアでもたびたび取り上げられるテーマではありました。
従来の諸々の情報から察するに、シェールガスは近未来の可能性のオプションに留まっている資源に過ぎず…そのためか本書においても、一次エネルギー源ないしは工業製品素材としての世界的なシェールガス導入マイルストンは具体的には詳らかにはされておりません。 
さらに足元のシェールガス採掘技術スキルについても、クリティカルな採掘用機材や掘削放水用水源の確保など含め実証事例にはあまり触れられておりません。 
それゆえ ─ 多岐多様に亘る工業テクノロジーを百花繚乱のごとく紹介した 『素材は国家なり』 と比べ、今般の 『シェールガス革命』 は諸産業のコスト低減ストーリーの想定に留めおいた控え目で冗長な構成となっている所以、やむなしでしょうか。 

さはさりとて。
シェールガスこそは200年に1度の世界経済(及び政治)のコスト構造の大転換をもたらし、次代の在り様を激変させ得るものゆえ、従前の我々の産業センスを根本から突き崩しかねない、とする本書のサプライジングメッセージ。
ここに予感される近未来の仰天のパラダイムシフトは、我々の未来像模索における諸々のヒントたり得るのではと考えます。

よって、『素材は…』 同様に読書メモとしてここにブロっておく次第です。
以下、抜粋要約を箇条書きします。
(なお本書内に引用されている具体的な法人名は極力差し置きます。)



・シェールガスは、地下2000~2500メートル深く、頁岩(シェール)による固い岩盤層に付着残留した天然ガス、つまり炭化水素であるが、この生成過程については学術的に見解が一致していない。
有機生成説(石油や多くの天然ガス同様、有機物のうち炭化水素だけが残った化石燃料であるとする)と、無機生成説(地球誕生時の地殻の炭素と水素が反応して炭化水素が出来たとする)がある。

・ここで、もし後者の説をとれば ─ 生成もその採掘も「地域差はほとんど無い」こととなる。
本書では概ね後者の前提に則って大胆に論旨が展開されている(ようである)。

・2000年代からアメリカで、この地下深くに高圧力水を当てて岩を砕きつつ、そこからシェールガスを採掘するという高度な技術が確立、ここに低コストでのシェールガス入手が確実となった。 
2010年に、アメリカのこうした安価なシェールガス生産量は約1380億立方メートルとなり、アメリカの天然ガス全体の生産量の23%に至る。

・アメリカは現時点で全世界のシェールガスの40~50%を保有しており、これを加えた天然ガス全体の総生産量としてはロシアを抜いて世界一となった。 

・アメリカでシェールガス採掘事業をこれまで率先してきたのは超大手石油会社であり、安価なシェールガスへのシフトによって、(少なくとも現時点の採算性を鑑みる限り)高価な外国石油に依存せず、また従来の天然ガスよりも安価なガスエネルギーを確保出来ること目算しての投資である。 

・アメリカは従来、貿易赤字の半分は石油輸入代金であったが、安価なシェールガスによってそれも解消出来ることになる。
なお、オバマ政権はアメリカの石油輸入量を2025年までに1/3に削減の方針、天然ガスやバイオ燃料の使用拡大と自動車の燃費改善を呼びかけている。

・ロシアや中東を含まない世界の公表値合算によると、地下のシェールガス「原資埋蔵量」は717兆立方メートル、。
現時点での「技術的な回収可能資源量」でも約188兆立方メートルと推定される(100年~200年分?)。
一方で、たとえば現在(2008年)の世界の天然ガス年間消費量はわずか3兆立方メートルに過ぎない。

・従来より石油への過度の依存を回避するため、天然ガス資源へのインフラ投資は、エネルギー基地の建設からガスパイプライン敷設まで全世界で積極的であった。
このように拡大してきたガスインフラを活用しつつ、シェールガスは世界規模で導入活用が可能。
かつ、シェールガスが全世界いたるところで採掘されるようになれば、特定の資本や産業が価格や量をコントロールすることは不可能であり、独占産業は興りえない。

・10年以内に、全世界のエネルギー「需要」の30%をシェールガスがまかなうようになる。

・現時点では、アメリカは天然ガスの輸出を原則禁止としているが、経常収支改善を目指すアメリカはシェールガスに至るまで輸出解禁となるだろう。

・一方、現時点で判明している限り、日本におけるシェールガス埋蔵量は少ない。
しかし、日本の一次エネルギー源、輸送エネルギーほか、素材産業に至るまで、シェールガスは多岐多様なメリットをもたらす。
ここで、これまでの天然ガス同様にシェールガスまでも「海外から高値で買わされ続ける」愚に陥ることなく、日本は官民一体となってシェールガスを日本産業の「メリットの源泉」として全方位に活用すべきである



 ☆   ☆   ☆

・一次エネルギー源として、天然ガスは既に多くの国々で石油を上回る。

・ガス発電の未来を先取り、アメリカは安価なシェールガスを発電に積極的に活用しつつある。
大規模なガス火力発電所(ガス火力による蒸気でタービンを回して発電するプラント設備)を建設し、一方では設備投資力の強化のため小規模な電力会社の統合も進んでいる。

・これら大型のシェールガス火力発電所が動き出せば、電力料金はヨリ安価となるので、アメリカで製造業を復活させることも可能?
またそのためのガス移送インフラ投資(パイプラインなど)も併せて拡大する。

・一次エネルギー別の、「1kW/hあたり発電コスト」比較(日本円換算)
 石油火力…10円
 石炭火力…6~7円
 (天然ガス、原子力…概ね6~7円 - 他から引用)
 シェールガス火力…6円→いずれ2円以下になる!?

ここで、もしCO2排出が環境問題たりうるのであれば、シェールガス火力による発電は石炭火力よりも導入メリットが遥かに大きい、とされる。 
ましてや、風力、地熱、太陽光などは技術的にも事業採算上も太刀打ち出来なくなる。

・もしシェールガス火力発電により、本当に1kWあたり発電コストが2円ともなれば、電力料金の相場が急落するであろうから、たいていの小規模電力会社は立ち行かなくなり、それらの経営統合はなおさら進むと想定される。 

・火力発電のタービンのシャフトと羽根は日本製が発電効率において世界最高であり、こんごガス火力発電所が増えればこれらの日本メーカ受注も増え続ける。
またアメリカのガス火力発電所において設置される発電機も、日本の重電メーカの系列下にある。


☆   ☆   ☆

・シェールガスは気体であるため、これを動力燃料として活用するためには「液化」が必要。
液化技術はまだ途上である。 

・これまで「次世代環境車」とされたハイブリッド車、プラグインハイブリッド、電気自動車へという流れを抑え、シェールガス自動車の到来によって、(ガソリンではなくて、今度はガスにより)再びエンジン車が主流となることも大いに考えられる。
米連邦議会では、現行のガソリンディーゼルトラックを、次世代環境車ではなくガス自動車へ代替していくという法律が 

・ともあれ、ふんだんなシェールガスを燃料とすれば、ここまでの「次世代環境車」を念頭においた厳しい燃費規制も緩和され得るし、アメリカでは重厚長大デザインのアメリカ車製造が復活する。

・なお、「ガス自動車」としてこれまで実運用されているものとしては、アメリカで主流となりうるCNG(圧縮天然ガス)自動車と、日本のタクシーで既に実用化のLPG(液化石油ガス)自動車がある。
このうち、高燃費を追求するCNG自動車の主要燃料は、いずれ安価なシェールガスとなろう。
一方、現時点で日本のLPGの製造は全て日本メーカであり、これを(シェールガスの)CNG自動車に技術適用することは可能である。
ゆえに、このまま従来のガソリン自動車から燃費の良いシェールガス自動車への移行が進めば、日本の自動車メーカ技術もあわせて求められる、かもしれない。

・既に世界の旅客空輸サービスでは、小型機を活用したLCC(格安航空)が主流となりつつある。
このLCC採用の小型機が燃料を安価なシェールガスに切り替えれば、長短あらゆる空輸路線が従来のバスや鉄道とは比較にならぬほどに安値となり、世界中を人々が飛び回るようになる。
地方も活性化するし、産業のサービス化が一層進むから、インフラ投資も増え続ける時代となる。

・この流れにあわせて、従来から世界一信頼性が高かった日本製の航空機部材も一層発注が増え、また世界の旅客機を日本に一時帰着させての「航空機メンテナンス/オーバーホール」も増えるだろう。

・シェールガス化により、自動車の軽量化が不要となると、そのための炭素繊維は需要鈍化もありうる、が炭素繊維は航空機素材としてなおも応用され続けることが予想され、その技術は日本が世界最高である。
マグネシウム合金も、自動車軽量化の需要は鈍化しうるが、これまた航空機における需要は増え続ける。



☆   ☆   ☆


・アメリカのシェールガス生産の活発化とは逆に、国際的な原油価格やロシア天然ガス価格は下落し続けている。
とくに、これまでヨーロッパ経済の一次エネルギー需給を支配的に動かしてきた大量なロシア天然ガスが価格下落を続ければ、ヨーロッパはロシアの圧力から離脱し、電力はじめ諸産業ひいては地政学まで大きく変わり得る。

・安価なシェールガスの普及が進めば、中東の石油価格も下がらざるを得ず、石油利権が無くなるので諸国間の介入や対立も無くなり、中東は平和になる。
一方、中東のオイルマネー運用で潤ってきたイギリスのシティは今後は運用資産の転向が求められる。 

・これまでの高値の石油価格により、多くのトウモロコシがバイオエタノール生産に振り向けられてきた。
しかし、安価なシェールガスに押されて石油価格も下落していけば、バイオエタノール産業も消え、トウモロコシも他の穀物も不足することはなくなる。 

・中国にもシェールガスはふんだんに有るが、概して採掘技術も人材も不足している。
中国で最も有望な採掘地は、内陸の新疆地方であるが、そこに人材を集めるだけの政治・経済運用力が中国には無い。
さらに、新疆は砂漠に近いため、水圧破砕用の水確保が困難である。

・しかしそれでも、中国でシェールガス化が進展すれば中国経済は大きなデフレに至る。 
かつ、シェールガスによる安価なエネルギーの恩恵で世界各国が自国生産を活発化させ、対中国投資の必要が無くなる。 


☆   ☆   ☆

シェールガス採掘現場は巨大な工事現場となり、そこで使用される重機や超大型ダンプなどの多くは日本の建設機械メーカー製である。 

・シェールガスからはエタン、ブタンなどの成分を採取出来、またエチレンやトリニトルなどプラスチック原料の採取も可能。
従い、プラスチック材料費も安価で済むことになる。
実際、アメリカの大手化学メーカがシェールガスを原料としたエチレン・プラントを動かす予定。 

・シェールガスはメタン純度が高く、精製分離すれば良質な水素エネルギーが得られることが分かってきた。
これは現行で開発ベースである水素燃料電池(活物質として水素と酸素を反応させて発電・蓄電する)の実用化を、一気に拍車させる技術たりうるかもしれない。

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以上、あくまで大枠をざっとまとめました。
この他、本書では多種の産業にて予測される派生効果や、(実現性は別として)メタンハイドレートがもたらす効用についても若干並走記述あり、さらに欧米諸国の政治経済の動向解説もふんだんに盛り込まれております。
時事総論としても存分に楽しめるものではないでしょうか。