2015/01/19

2015年センター試験について所感

さあ、今年もやってまいりました、大学入試センター試験。
つい先ほど終了した数学は、IIBがかなり難化したとのこと、旧課程/新過程の端境期問題を超えたエキサイティングな得点動因たりうるか、真冬の寒空をぽっと火照らす若者たちの興奮と憤懣とため息が瑞瑞しい。
全般的には、細かく点差をつけるための凸凹出題難度はむろんのこと、とりわけ、一元的な正誤判定問題に留まらず正答への「アプローチの深さ」を見極めんとする良問も社会科では見受けられ、この点鑑みれば、どうせあと数年継続するのならもっと立体思考プロセスを問うていけと感心させされた。

数学も現代文もあとでちょっと遊ばせてもらうが(大半は遊びだからね)、それらはともかくとして、社会科と英語について僕なりにささやかに留め置きたいところ有るので、さらりと以下に記す。

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<政治・経済>
第1問
問4、公権力による出版物の事前検閲行為は、言論・出版の自由を保持するため思想上の特別な事由を除いて憲法上禁止されている、が、「教科書の検定審査」は検閲行為にはあたらない、検閲でないのだから教科書検定は違憲行為ではない ─ と、ここまで理解が必要なもの。

問5、地方分権推進法の制定は1995年、そしてここで出題の地方分権一括法は2000年施行、とまず惑わせつつ、はて、日本で初めての消費税導入はいつだったっけか?とさらに惑わせるもので、1989年(平成元年)である。

問7、これは図抜けた難問。
社会保障の「財源」において事業主の自己負担率と公費負担率がともに高いのがイギリスで、「給付」の対GDP比において年金比率が高いのが日本だ ─ というところまでは見極めがきくとしても、ここにさらにドイツが混じっているために、日本とドイツの峻別がかなり困難だったろうと察する。
本問は、ドイツではなくアメリカの財源比率と給付比率を引用しておいた方が、イギリスとの共通点と差異を考えさせる良問となっただろうに。

問8は最高の出題の部類か。
受益者負担の間接税である消費税について、その負担者と納税者の違いについてリマインドさせるワクワクするほど楽しい問題で、絵表のフローは恐ろしく単純化されているとはいえ冷静な分析力を諮るもの、こういう課題こそ社会科の理想形といえまいか。

第2問
問6、これは先ほどの第1問-問7の続編のような出題で、こちらはイギリスとともにアメリカとスウェーデンのデータ引用しつつ、社会保障給付と貧困率の相関を問いかけており、知識と分析眼をともに試す良問となっている。

第3問
問1は典型的なヒッカケだ。
外国人の人権がどうこうとテキストが展開しつつ、非嫡出子(婚外子)に対する相続権がと出題箇所に入るが、ここでうっかり外国人の非嫡出子の相続権が、ととり違えるとひっかかる。
本出題はあくまで、嫡出子の半分であるとされていた相続権が「民法判断から」03年に最高裁で違憲であるとされた由指摘しているに過ぎず、親の国籍や外国人の人権など安直な連想から国籍法にこだわってはならない。

第4問
問2、これは毎度お馴染みの国際収支についての出題、尤も今回は軽く経常収支の内訳を再確認させるものにとどまっている。
要するに会計バランスシートにおける資産と同じ着想で ─ 既に売買しちゃったか或いは売買が決まっちゃった貿易・サービスの金額、また既に投資済の財貨からリターンされることになっちゃった利益、さらに無償であげちゃったカネ、これらが経常収支の額面の基本だ。
だから対外的な雇用者報酬も無償援助も含まれる(そして直接投資そのものは含まれない)。

問4はなかなかの良問、これまた国家間の経済比較で、特に「成長率」に注意。
90年代前半から経済成長「率」の鈍化が続きマイナス成長にも経験した日本、80年代に高い成長「率」を示したが90年代後半の通貨危機で激しい停滞が始まった韓国、その韓国より経済成長「率」が低く停滞フェーズは似通っているブラジル、一方では2000年代後半以降の世界経済停滞においても成長率だけは高い中国
─ とまあ、世界経済を「ストック(=国富の量)」と「フロー(=増加量およびその率)」とで切り分けて捉える上では、よく出来たトレーニング素材とはいえまいか。

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<世界史A>
第1問
問8 世界史Aにふさわしい統合型の良問。
ベルリン夏期オリンピックについて、ナチスドイツが積極的に開催したことは知られているが、その開催時期は意外に抑えにくい。
ナチスドイツは軍備が認められぬことに抗議して国際連盟を脱退(1933)したのち、独自の再軍備宣言に基づいて1936年にロカルノ条約を破棄しラインラント進駐、同年のスペイン内戦直後に、ドイツの国力と枢軸力を国内外に知らしめる効果をも狙ってベルリンオリンピック開催、さらにこの年末までには日独防共協定が締結された。
ただし、これら政治史の時系列を詳らかに覚えずとも、ベルリンオリンピックに際してドイツ国内インフラを急速に整備したこと想起すれば、粗鋼生産高が紡績生産高を抜きかつ4で割り切れる西暦年度から1936年と導くことは可能。

第2問
問2のクローン生命技術についての出題も、文明論を多元的に問いかける旨からみて世界史Aに絶好のものといえようか。
クローン羊ドリーの誕生は意外にも?1996年で、直接の関係は無いがちょうど国連が包括的核実験禁止条約(CTBT)を採択した時期である。
(ドリーとCTBT、これらは生と死の無言の交錯と言えなくもないし、両者ともに技術倫理面での世界的合意まだ途上にあるというところ、妙に暗示的に連想出来ないだろうか。)

第3問
問2、メキシコ革命は親米ディアス政権打倒に始まる一連の土地革命で、マデロやサパタが展開し、ディアスはドル外交で知られるタフト政権のアメリカに亡命、ここまでは第一次大戦前に起こっている。
意外にも盲点となりやすいが、アメリカ史とのつながりで覚えれば混乱することもなかろう。

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<世界史B>
第1問
問7、英連邦における白人5自治領はカナダが最初に成立(1867)、次いでオーストラリア連邦(1901)、さらにニューファンドランド(1907)とニュージーランド(1907)、そして南アフリカ連邦(1910)である。
ちなみに、ブリテン島に直近のアイルランドはさらに遅れて自治領としての自由国となり(1922)、エールを経て、第二次大戦後に英連邦から分離独立した共和国となった。

第2問
問7、江南地方の農業拡大のうち、稲作に不向きな土地では綿花の農地開拓も進んだが、これは木綿の衣類が普及した明代以降に拡大していった。
なお、ジョン=ケイの選択肢はちょっと戸惑わせるが、ケイが発明したのは飛び杼、つまり織り機であって、紡績機ではない。
紡績機の改良で知られるのはクロンプトンによるミュール型など。

第3問
問6
アッティラ大帝国と突厥の前後関係は意外な盲点。
アッティラが率いたフン人はもとは匈奴ともいわれ、その匈奴についで強勢となった柔然と争いつつ、ヨーロッパ侵入のアヴァール人などにつらなっていく。
一方で、柔然のあとからトルキスタンで強力になったのが突厥で、ササン朝ペルシアと組んでエフタルを滅ぼした。

なお、同じ問6には、第一次大戦時の日本における捕虜収容所の地図が掲載されており、ドイツやオーストリア=ハンガリーの将兵を収容、そこでソーセージやバウムクーヘンが
…とあるが、この地図をわざわざ掲載している意図が全く分からない。
日本の地理条件とドイツ産業の技術的な相乗効果云々を問うのならいざ知らず、そうでないのならこの地図は無用である。

問8のハンガリー現代史は盲点。
ハンガリーは第一次大戦後に社会主義革命が起こりソヴィエト共和国となるが、すぐに軍人ホルティらに打倒されている。
ソ連の衛星国としてハンガリーが人民民主主義(共産主義)を採用し人民共和国となった(1949)のは、コミンフォルムによるユーゴスラヴィア除名と入れ替わりのチェコの共産化クーデタよりもあとのこと。
ハンガリーは同年発足のCOMECONにて当初からメンバー国である。
また、ボスニア=ヘルツェゴビナが独立したのは、第二次大戦直後、ユーゴスラヴィア連邦の中の一つの人民共和国として。

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<英語>
毎年そうだが、英語の出題文の知的程度は(一部を除いて)小学校4年生の「こくご」と同等か、とまれ英単語が厄介だから読み通すのに往生されられるに過ぎぬ。
こんなものでは、学生の秘められた知力を見い出せるわけがない…いや、知力を見出すためではなく、はたまた能力適正を峻別するためでもなく、あくまで総体的な得点差を点けるために英語センター試験を実施しているとしたら、どうにもせつない。
それでも(別投稿したように)、主として女子のオモテナシスキルとしてこのような外国語の試験をおくのであれば、せめて希望者の自由選択科目にして欲しいもの。

尤も、ごく僅かながら18歳の基本的な思考力を質す良問だってある。
たとえば、第3問の問3における、テレビ局同士の営業上の競合について論じた小問は大人志向の良問だが、"Because of competition ... "以降に続く文面から最初の選択文だけが主旨逸脱していることは分かってしまい、あまり凝ったものとはいえない。

第6問の、いわゆる「民間(市民)科学者」についての稿もなかなか良い、こういうのだけ出題すれば18歳なりの常識力を見極める効用もあろう。
だが、"Following a strict traditional procedure" や "Using a procedure designed by professionals to be more relaxed and enjoyable for volunteers,  a second group spent the same amount of time ...  のくだりは、どうも語法として違和感が残る。
まず、"strict" と "traditional" は概念的に親和性があるだろうか? "tradition"とは文化的な伝統を指し、人工的に強制さるべき規範を指すわけではなかろう、だが"strict"は人工的な強制観念だ。
また、"using a procedure" とはどういう行為だろうか?"under a procedure" とすべきではないのか?
なによりも。
本文では "citizen science projects" が "win-win situations" に在る、としているが、何が"win-win" といえるのか?
確かに、「市民科学者」たちから「プロの科学者」へは、低コストでの幅広いデータ収集と提供がなされ、これが「プロ科学者」たちにとっての効用となっている、が、逆に「プロ科学者」たちから「市民科学者」たちに何がもたらされているというのか?
「市民科学者」たちがデータ収集能力や自然界への知識意欲を向上させるのは自らの努力研鑽によるところであって、「プロ科学者」側から特別な教養を得るわけではない。
出題そのものを左右する疑義ではないものの、どうもおかしな文面との違和感が残る。

以上