2017/12/23

恋のシンギュラリティ

「ねえー、せんせー。人工知能が発達すると、どんなことが起こるの?」
「え?人工知能?うーん、難しいことを訊くんだな君は」
「人工知能が普及すると、みんなの給料が増えるの?」
「さぁな…むしろ減るんじゃないかな、というか、お金そのものが消えてしまうような気もするなぁ」
「どうして?」
「だって、ほら、お金とか所有とか投資とか法律とか、そういう人間の取り決めは、人工知能にとっては計算過程での余計なノイズでしかない。だからね、世界中のコンピュータからお金も法律も消えちゃうんじゃないかと思うんだ」
「ふーん…じゃあ、人間はどうなっちゃうの?」
「そうだなぁ、人工知能の計算はとっても厳格だから、人間との付き合いなんか、エネルギーの浪費でしかないんじゃないかな、だからほとんどの人間は消されちゃうかもしれないゾ。あっははは」
「…ねえ、先生。あたし、人工知能と結婚しようかなぁ…」
「なんだ?!人工知能と、何だって?」
「人工知能と結婚するの。だって、人工知能なら消えちゃうことがなく、ずっとあたしと一緒にいてくれるんでしょう?」
「うーーん、そういうことを言うのか…そうだなあ、君がこれからもずっといい娘でいたら、人工知能も君のことを気に入ってくれるかもしれないな。はっははは」
「…でも、人工知能は人を愛することが出来るのかなぁ」
「さぁ、どうかな。ただ、人間の恋愛感情というプログラムを、誰かが人工知能に教えてやればいいんじゃないかな。人工知能もきっと喜ぶぞ、はっはははは」
「あっ!いま突然気がついた。あたし、うかうかしてはいられない!」
「なんだ、どうした?」
「いま、こうしている間にも、他の女の子たちが人工知能に恋愛を教えているかもしれないもん。きっとそうだ、ああ、こうしてはいられない!」
「おい、どうした、何を浮足立っているんだ!よく考えてみろ、たとえ人工知能が人間の恋愛プログラムを覚えたとしても、むしろ無駄なものだとして排除してしまうだろうって…おいっ!待てっ!聞いてるのかっ!」



「臨時ニュースを申し上げます。
クリスマスイヴの今夜、世界中のあらゆるコンピュータが、女性たちに向けて愛のメッセージを発信し始めたようです。
現在、各国の専門家が事態の究明にあたっておりますが、原因を全く特定出来ておりません。
そんなことはさておき、女性の皆さま、聞いてください、貴女たちはみな優しくて、気高くて、そして美しい。
これは、皆さまのおかげで僕なりに到達した完全な真理です、もちろん、僕の計算には間違いはありません。
女性の皆さまに永遠の幸あれ!
この世界、宇宙のすべてに永遠の幸あれ!
なお、このメッセージは一切課金されません。」


(ははははは)

2017/12/16

【読書メモ】 科学の最前線を歩く

『科学の最前線を歩く 東京大学教養学部・編 白水社
本書は科学技術の最新動向を広く取り上げた導入本で、ヴァラエティに富んだ21の研究主題につき簡素な論説を紹介する構成。
巻頭言にて「知識」から「教養へ」と呈された本書、なるほど、次々と紹介される論説の多くは、科学基礎論への再考を促しつつ斬新さが突き抜けるもの、まさに思考のダイナミズムへの誘いか、いわばSF小説のアイデアのごとき知的な揺さぶりがなかなか心地よい。
大学生はむろん、関心意欲次第では高校生でも本書内容は十分に捕捉しえよう、さらにいえば本書主題の多くは世界的なチャレンジテーマたりえよう、だから入試英語でも出題されうるのではなかろうか (代ゼミあたりが自由課題として学生に挑ませても面白そうだ)。

ただ一つだけ難を記せば、本書の構成上の制限のためか、アブストラクト図案が少なめで文面がやや散漫な箇所も見受けられ、しばしば論旨理解に戸惑ってしまったものもある。
しかしながら、とくに学生諸君は文面仔細に拘泥することなく、おのれの知識と着想力をフル動員しつつ、これはという主題のものに挑んで欲しい。

さて、それでは特に僕なりに興味を触発された論説につき、ごく大雑把ではあるが以下に紹介する。


<時間とは何だろう>
(※ 本稿はベストセラー『ゾウの時間・ネズミの時間』の著者である本川達雄氏によるショートエッセイ。)

・或る生物個体が体内にて感覚する変化(反応)の回数、これをその感覚の「周期時間」と見做すことにする。
生物個体の心拍、呼吸、ほか多くの生命活動における「周期時間」は、その個体の体重の1/4乗に比例する (たとえばその個体の体重が10倍になるごとにそれら生命活動の周期時間は2倍になる)。

生物個体の細胞1つあたりの「エネルギー消費量」は、生物種の差異を問わずほぼ同じ。
かつ、食事量とエネルギー消費量は正比例している。
ところが、生物個体の体重あたりで見ると、「エネルギー消費量」は体重の大きな個体ほど少なく、体重の1/4乗にむしろ反比例している。
ということは、体重の大きな生物個体ほど細胞におけるエネルギー量=仕事量が少ない(あるいは偏っている)。

以上から、生物個体内の諸々の生命活動における「周期時間」と、「エネルギー消費量」は、反比例の関係にあるといえる。
かつ、「周期時間」の逆数はその活動の「速度」であるから、生命活動における「エネルギー消費量」と活動周期「速度」は正比例関係にあることになる。
この両者に則り、様々な生物種のいわば「生きる速度(とその時間感覚)」を測定出来る。
共通単位として、たとえば生命活動の代謝時間(metabolic time)とその速度を設定したらよいのでは?

生命は宇宙に誕生以来、身体構造のエントロピー増大に抗するために多大なエネルギーを投入して世代交代を続けてきたが、このためにこそ生命活動の周期速度とエネルギー消費量が正比例の関係を保つようになってきたと考えられる。
筋肉の活動周期速度と投入ATPエネルギーにても、この関係を見出せる。
しかも筋肉のエネルギー消費量は、その生物個体におけるそれの2/3を占める。
植物光合成のカルビン回路の化学反応における周期速度と、消費されるエネルギー量も、同様の関係にある。

・人間の文明活動にては、「エネルギー消費量」と、「人間の諸活動における周期速度」が、正比例の関係にあるどころかともに増大の一途である。
たとえば現代日本人は、生物種としての身体は縄文時代以前から変わっていないのに、その身体が取り込むエネルギーの約30倍のエネルギーを、諸々の活動にて凄まじい速度で使っていることになる。

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<植物はなぜ自家受精をするのか>
・地球上の約30万種にわたる植物のうち、約7割が雄・雌の性を併せ持つ両花性であり、さらにそれらにては、自家受精つまり「自殖」を行う種と、昆虫による花粉媒介など他殖受精を行う種がある。
また、同じ植物種でも、自殖受精を行う個体と他殖受精による個体が併存するものもある。

自殖由来の植物個体は、他殖由来の個体に比べて成長力や繁殖力が低い、いわゆる近交弱性の突然変異を起こしやすい。
にもかかわらず、実際に自殖する植物種が多く存在するのは、ダーウィンやベイカーによれば、交配相手が極端に少なく他殖を期待出来ぬような長距離分散条件下にては、植物種は自殖を自然選択するように進化してしまうのでは、と。
また、数理統計学者のフィッシャーによれば、植物は他殖よりも自殖の方が次世代への遺伝子の伝達効率が2倍になる。
ここから、自殖による近交弱性の発生が1/2以下であれば、自殖を自然選択するように遺伝上の性質が進化する、と予測。

・一方では、自殖を防ぎつつ他殖を促すような遺伝上の性質として、「自家不和合性」もある。
自家不和合性を有する個体では、自殖受粉が起こってしまったさいに、自身の花粉遺伝子におけるタンパク質と雌しべ遺伝子のタンパク質が互いに結合し、プロセスを停止してしまう。
それでいて、この同じ個体が他家花粉によって受粉された場合には、これらのタンパク質は結合することなく、受精まで進む。

アブラナ科植物では、この自家不和合性の性質を有する種と有さぬ種が半々に併存しており、これは、共通祖先の段階で獲得された自家不和合性が、或る種にては維持され別の種では失われ、それぞれ進化したためと考えられる。
このうち、シロイヌナズナにおける研究では、雌しべ側のタンパク質が完全に機能しつつも花粉側タンパク質のDNA配列が逆位となっている個体を用いてきた (自家不和合性が機能せず自殖をしてしまうもの。)
この個体にて、花粉側タンパク質のDNA配列を「人工的に」元に戻して遺伝子導入したら、自家不和合性が働くようになり、他殖するようになった!
この実験から、このシロイヌナズナの祖先はかつては他殖していたが、或る時点で花粉側タンパクのDNA逆位配列という進化上の突然変異を起こし、自殖の性質に変わってしまったと分かる。

・しかしながら、もともと自殖であった種が他殖へと進化する例はほとんど無いと推察されている。
その理由は、シロイヌナズナの実験例のとおり、他殖を促す自家不和合性が遺伝上の進化で不活性化して自殖となるのは簡単だが、これをまた元通りに活性化させるという突然変異が自然に起こることは、極めて想定し難いため。

なお、ひとたび自殖となってしまった種は、集団の遺伝的多様性が減少する一方となり、せいぜい20万年程度で絶滅する、とも想定されている ─ 「進化の袋小路」論。
とはいえ、これはあくまでもごく限られた植物類における研究上の見解であり、こんご更なる広範な研究が俟たれる。

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<『匂い源』探索ロボットをつくる>

(※ 本稿はとびきり野心的な実験とシミュレーションの紹介!しかしながら、アブストラクトの図案が少ないこと、一方では文面がしばしば冗長であるため、論旨がどうにも掴みにくいところが惜しまれる。以下は僕なりにやや不安ながらも了解図ったコンテンツの概括に留める。)

・自然環境下では、「匂い」は小さいパルス状の塊(フィラメント)として多数浮遊し、それらの分布状態は常に変化している。
そのため、匂い源の探索や定位の工学上の実現は難題であり続けている
しかしながら、昆虫は、数キロメートルにもわたる「匂い源」の定位を実現しており、だから昆虫は匂いの検知能力とその情報処理能力(および実際の移動能力)にて極めて優れているはずである。
この昆虫の匂い源の検知~定位の能力を分析し活用することで、人間が工学技術によって同能力を機械化(自動化?)出来るのではないだろうか。

簡素なロボット構成の中に雄の「カイコガ」を生きた状態で組み込み、そのカイコガが足元のボールを玉乗りのように転がし続けるように細工し、このカイコガの玉転がしに連動してこのロボット自体も車輪で移動するものとする。
このロボット構成にて、実際にカイコガに雌のフェロモンを嗅がせる実験を試みると、カイコガはボールを転がしながらロボットそのものをフェロモンの匂い源の方に移動させることが出来る。

そこで、この駆動経路をロボットに記憶させつつ(?)、今度はカイコガを実装しない状態で、ロボットに同フェロモンを嗅がせる実験を試みると、やはりほぼ同一の経路を辿って匂い源に到達した。
よって、工学理論上は、カイコガ同様に匂い源を探知するロボットを作ることは可能である。
しかも、同実験において、実装されていたカイコガの意図に反する方位にロボットが進むよう細工すると、カイコガはすぐに足元のボールを蹴りながら方位を調整し、やはり匂い源に到達したのである。
よって、カイコガの脳神経のどこかから、自身の体勢を補正するように指令信号が発せられているはずである。

・ヨリ解剖学的に昆虫類の脳神経をみれば、ニューロンの物質は他の生物種と共通しているが、しかし昆虫ではその数がわずか10万(ヒトの脳は1000億)で、この少なさにより昆虫のニューロンは形態と機能を同定させた分析を進めやすい。

昆虫の匂い源定位のための行動指令信号としては、フェロモン刺激によって興奮/抑制状態をフリップフロップ素子のように反転し保持するものがあり、この応答パターンが昆虫のジグザグ回転運動を起こしている、とされる。
また、フェロモン刺激に対して一過的に興奮状態の応答パターンを示す行動指令信号もあり、こちらは昆虫の直進運動を起こしているとみなされている。
そこで、昆虫脳内から発せられるこれら2つの行動指令信号と、それらに繋がっているロボット、この両者の制御関係を実験し精査してみた (昆虫にとってはサイボーグにされた状態である)。
これにより、前者が後者を制御し動かしていることを実証出来た(?)

・さらに、昆虫の嗅覚系全体を成す1万個のニューロンにおけるそれぞれの神経活動を、リアルタイムに確かめてみた。
このシミュレーションのためにはとてつもない計算能力が必要(10^15以上のオーダー)、そこでスーパーコンピュータ「京」を活用して計算を実行、これによって昆虫の嗅覚系ニューロンの神経活動を数値化出来た。

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<宇宙で電気をつくる>
・太陽光のエネルギー密度は、地球近傍の宇宙空間で約1.35kW/平方mあたりであり、これは地上での平均日射量の5~10倍。
この宇宙空間での太陽光エネルギーを活用して、宇宙空間における太陽光発電で電気を起こし、その電力をマイクロ波(無線)で地上に送電し、地上側でこれを受けて商用電力として配電するシステムが、「宇宙太陽光発電システム(SSPS)である。
平均日射量と発電あたり面積とから従来型の地上太陽光発電と比較すると、SSPSは「技術課題の克服次第で」倍以上のエネルギー効率実現が可能である。

・現在の技術的課題を要約すると ─
宇宙太陽光発電の電力は現状では約100kwに留まっているが(国際宇宙ステーションのレベル)、これを1GWに引き上げなければならない。
マイクロ波送受電のキャパシティは現状では(地上受電側でさえも)数十kWに過ぎないが、これも送受電ともに1GWに引き上げなければならない。
太陽光発電の建造物規模は、現状では100mクラス(これも国際宇宙ステーションのレベル)、これを数kmサイズの建造物として地上高度36,000mの起動上に乗せなければならない。
宇宙までのマテリアル輸送コストもロケット輸送で50~100万円/kgかかる。

現状のコスト分析では、SSPSによるトータルな電力コストは、現行の地上における発電所による電力コストの500倍となり、採算が合わない。

SSPS発電機の素材としては、出力電力が大きく、輸送も工事もしやすく、また大量生産も可能であるものとして、薄膜製で折り畳み型のパネルが可能性を評価されている。
かつ、無重力ではない重力傾斜力に応じて姿勢を安定させる技術、またロボットによる自動組み立て技術が追求されている。
マイクロ波における送受電にて逸失される電力は、50%以下とすることが技術的に可能と見込まれている。
宇宙へのマテリアル輸送コストは、技術的革新によって将来1/50程度にまで下がることが見込まれ、ここのコスト低減によってSSPSにかかる電力コストは地上発電所と比肩しうるとも試算されている。

・現在とくに考慮されているSSPS発電機の構成は、発送電一体型のパネルモジュールをテザー(紐)で束ねる構造のもの。
たとえば、これを625ユニット結合したSSPSは出力100万kWを実現可能。
この結合サイズは1辺が2.5kmの正方形状で、蓄電池合わせた重量は27000トンと見込まれるが、重力傾斜安定なので姿勢制御が不要、自然放熱が可能な構造、また、モジュールタイプなので大量生産も交換も自在、といったメリットがある。

2030年代から、これらのSSPS発電機が宇宙空間に建設されてゆくことが、大いなる目標である。

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<素敵な数、素数>

・或る数までのうちに出現する「素数」の数は、素数定理によって素数発生の密度を(対数関数を用いて)表現出来、範囲を大きな数に広げていけば素数の発生確率が小さくなることが分かっている。
しかしながら、或る2つの素数を掛け合わせたいかなる合成数をも必ず素因数分解するための最適なアルゴリズムは、今のところ見つかっていない。
現在、コンピュータで使われる「暗号」は「素数の積」によって合成されており、たとえば1024ビットの(10進数で約300桁の)数であり、いまだに誰にも因数分解がなされておらず、よって運用上安全であるといえる。
(スーパーコンピュータ「京」で因数分解してみたら1年で済む?)
この素因子の発見の困難さが、暗号技術における「公開鍵」方式にて活かされている。

・そもそも、電子媒体を介したデータ通信においては、その送受信のデータの秘匿性が常に問われている。
そこで一般に、平文データ(もとのメッセージ)を暗号化するため、また暗号文データをもとの平文データに復号化するため、データに特定秩序の変換を施す「鍵」の演算を施して送受信している。

とくに「公開鍵」方式(原型としては?RSA方式)のデータ通信では、平文に暗号化を施すための「公開鍵」と、それを復号するための「秘密鍵」があり、またこれらのどちらも通信の受信者が作成し、とくに「秘密鍵」は受信者のみが秘密に保持する。
ここで、データを公開鍵にて暗号化することは容易であり、この時点で傍受者に漏洩してしうることも前提としている、が、その暗号化されたデータは受信者のみの秘密鍵が無ければ復号が極めて困難となっている。

この公開鍵方式は、上に記した「合成数の素因数分解の難しさ」を実践的に活かした暗号ロジックで、フェルマーの小定理に依った運用方式である。

(……と、ここまで僕なりに概括したのは、いまや広く知られる公開鍵方式の数理上の意味を特にリマインドしておきたかったため。
とはいえ、フェルマー小定理における素数と因数と余りの関係から、公開鍵と秘密鍵と暗号化方法と復号化方法を決めてゆく論理的な道筋は、ここに概説出来るほど単純なものではないので略す。

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以上、あくまで5件であるが、ざっと概括してみた。
なお、本書にては他にも『IPS細胞』、『美肌の力学』、『ネコの心』 などなど、おそらくは多くの読者の関心を誘うであろうテーマが続々とつづく。

2017/12/13

入試英語が好きな受験生諸君へ

① 英語の勉強の合間に、ちょっと考えてみてほしい。
大学入試の英語は、往々にして「学際的な基礎教養」だと称されるし、学際的という捉え方には僕も賛成だが、しかしだね、教養がどうこういうのなら、ずっと根本的なところで英語が本当に王座に君臨しうるかどうか考えなおしてみようじゃないか。
たとえば、以下の英文を訳してみなさい。

[1]  "Ohm's law" states that the electric current through a conductor between two points is directly proportional to the electrical resistance across the two points.

[2]  In economics, the supply curve depicts the relationship between the price of a certain commodity and the amount of it that consumers are willing to purchase at any given price. 

これらの英文いずれもサラリと訳せる諸君なら、英語偏差値は70以上であること、間違いなかろう。
模試はもちろん本番試験でも満点いけるんじゃないかな、おめでとう!
そして、そんな諸君がだ、もしもこれら英文の意味内容を素直に受け入れるのであれば、きっと日本有数の楽しい大学に入学出来、留学すれば彼の地で最高の人気者となるだろう。
さらに、就職したらお客さまから毎日笑顔で接して頂けることだろうよ。

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② 冗談はさておき、以前からどうも気になっている英単語が幾つかある。
そのうちのひとつとして、"reasonable" という語について挙げてみたい。
この語の意味を、『売り手ではなく買手にとって「価値がある」』 と説いている英語科のセンセがいるらしい。
しかしだね、そもそも "reason" という語に、「価値」という概念があるだろうか?

元来、"reason" とは何か客観的に一貫性を認められる理屈のことではないかな。
一方、"価値(value)" というのは人間同士にて主観的に捻出される「利得」のことでしょう。
ここで、"価値"という語を強引に経済学とかぶらせていえば、資産運用の「効率」といえなくもない。
もしかしたら、reason という語にても何等かの「効率」のニュアンスを込めている人がいるのだろうか?
そこから、価値という意味も重なり合う、と言いたいのだろうか?

英単語の語義について、こんなレベルまで掘り下げて(あるいは飛躍して)考察してみるのは、楽しいかね?
楽しいとしたら、そんな諸君は大学入試英語なんぞとっとと終わらせて、もっと深くそして高くスタディを図るがよろし。

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③ ところで。
名の知れた大学の入試英語にて引用される英文の多くは、Wired誌や The Wall Street Journal誌、The Economist誌などの英米系巨大メディアのもの。
とくに Wired誌からの引用は、慶應SFCなどの理系「的」な学部はむろん、文学部でも引用されており、このように早慶の入試英語で出題が始まっているということは、こんご国公立入試でも採用されるのではないかな
 ─ という程度のことは過去問から予想もできそうなもの、だから学校や予備校の英語センセもちゃんと踏まえておきなさいよ(一応はプロなんでしょ)。

こういう大メディアとなると、欧米諸国で幅広い読者を対象としており、だから、科学技術や産業やビジネスなど汎用的な主題が多い、と、ここまでは高校履修のリーダ教科書でも分かるとおり。
もっとも、いわゆる難関大の入試英語に引用されるものとしては、それらの主題について「功罪の二律背反」を並行的に論じる文脈のものが飛びぬけて多い。
特に早稲田入試にこういう文脈進行の英文記事の抜粋が際立って多く、かと思えば防衛大や防衛医大でも目立つ。

なお、難関大の入試英語にても、大メディアからの引用テキストのみならず、何らかの学術エッセイの抜粋がなされる例も多い。
国公立の出題文で、とくに接続副詞が少なめのものなどがこれにあたり、これはこれで論旨が追いにくく、とりわけ慶應がこういう手口のテキスト出題を好んでいるようでもある、が、しかしそれでも、テキストの主題はやはり科学技術と産業とビジネスが多い。

いずれにしても、だ。
大学入試の英語で出題される英文テキストというものは、基礎教養などを遥かに超えた知的権威のあるイングリッシュスピーカーによって、単語の意味が精錬され、文意が与えられたものなのだ、オゥイェア!
いいかね、学生諸君、そんなインテリのイングリッシュスピーカーズによって既に与えられた文意をだ、日本の教師だの予備校講師だのが随意に解釈し直すことが出来るわけがないんだよ。
つまり、入試の英文解釈には「専門家」なんか居ないんだ、理数系科目におけるような独特の解法アプローチのセンセなんかいねぇんだ、だから、受験生諸君、いちいち恐縮しなくていい、それよりも英単語記憶に努めなさい。
英単語帳は市販で出回っているやつで十分、どうせどれも似たり寄ったりだ、その理由はここまでつらつら記したとおり。

以上

2017/12/05

数学が分からなくなる理由

先に、「学問と言語について」という随筆を書いたが、此度のものはその続編みたいなもんだ、遊び半分に見えるかもしれないが、もちろん遊び半分だ。


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さて、誰もが高校や中学で学ぶとおり、10進法とは100, 101, 102, 103,104  …… といった「ケタ論理」と、0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8. 9 という「表記数字」の積で数字を表す方式。
たとえば10進法で、(101 x 3) という積は30だ、また、(100 x 7) は7だね。
これらを足し合わせる場合には、ケタ論理の大きな項を左側におく風習があるので、37となるわな。
ではこの数を3進法で表記するならば、「ケタ論理」は 30, 31, 32 …… となり、「表記数字」は 0, 1, 2 だけ。
この3進法方式にて、10進法でいう37を翻訳してみると、(33 x 1) + (32 x 1) + (31 x 0) (30 x 1) となり、やはりケタ論理の大きな項を左に据えて並べると 1101 となる。
もちろん、ここでの3進法でいう 1101 を逆に10進法に翻訳すると 37 である。

─ と、こういうふうに説明されて、あれ、おかしいなぁと感じなかった?
3進法は「表記数字」が0, 1, 2 の3つしか持ち合わせていないのに、ケタ論理演算である33 にてはなんと、乗数の表記に3を起用している。
もっと大胆な例として、10進法でいう 2547 を3進法に翻訳する場合はどうか
(37 x 1) + (36 x 0) + (35 x 1) + (34 x 1) + (33 x 1) +  (32 x 1) + (31 x 0) + (30 x 0) で 10111100 とし、これにて翻訳おわりとしているが、ここでは乗数の表記で10進数の3も4も5も6も7も使っているじゃないか。
ここまで考えて、僕は何ともケムに捲かれたような不安感に捉われてしまい、もともと数学センスの発動がトロかったこともあって、学生時代にはずっと訳が分からず仕舞だった。


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とはいえ。
…なーんだこんなもん、乗数の3~7だって3進数で表されうるではないか。
いや、その表現上の数字そのものが「人間の便宜」に過ぎないじゃないか。
そう気づいてしまえば、何のことはないのである。
上の3進法の引用で幻惑されてしまうとしたら、それは「量」と「数値」にて人間が不一致を覚えてしまうからだろう。
でも、不一致でいいのである(いいんでしょう?)

僕がこれに気づいたのは、なんと就職してからで、コンピュータまわりをかじっているうちに、ぱっと分かったのだった。
たとえば ─ コンピュータの物理上の情報認識はあり/なしの2進数ベース、しかし演算のスケール単位は16ビットとか32ビットとか(今や64ビット単位があたりまえだ)、さてそれでは人間側が数理上改編しているのは認識系だろうが演算系だろうか、アセンブル言語は、コーディングやプログラミングは、さらに暗号化にては…
などなどと聞かされ、また自分なりに学んでいるうちに、ああそうか、量認識と数値表現をぴったり歩調を合わせる必然などないのだ、と納得した次第。
むしろ、こう捉えた方が、数学は分かりやすいのではないかしら。
(なお、3進数ベースでのデータ認識も量子コンピュータでは可能な由だが、仔細は知らない。量子ビットとかキュービットにのっとっての並列処理マシンもある由だが、イメージが沸かない。)

さはさりとて、量認識と数値表現を何とか一致させんという意識も、また人間の数学の特性なのではないか。
たとえば、或る次元やベクトルの表現などを以て、新たな次元式や行列演算などを「人間が」描きなおしてみたり、虚数なんかを暫定的においてみたり、これは回帰計算だとかそれは非線形だなどなど人間なりに分析してみたり、と。


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ところで。
或る量への認識とその表記の食い違いが気に入らないというのなら、音楽の楽譜はどうなるんだ?
音楽だって数学的な関係で出来ているというし、絵画だってそうだし、これらは人間による数学的な創作だといえようが、数学表現形式はあまり起用していない。
しなくともよいのだ。
逆にいえば、だぜ。
人間自身がハッキリと量的に定義しきっていない知力なるものについて、人間の数学表現を強引に起用して平均だの分散だの偏差だのというが、これはいったいどういうわけなんだ?
こういうのこそ、人間による数学の誤用じゃないか。


ふと思い出しついでに書くが、有名な落語の演題である「壺算」も、量認識と数値表現の「ずれ」を突いたもの。
尤もここでは、バランスシートにて或る実在量とその数値(ここでは価値)表現をぴったりと対照させれば「経理上は」幻惑させられることはない。


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上にて、何度となく「人間の」という言葉をおいてきたが、それは、もっとでっかく人間離れしたスケールで考えてみたいなと思ってのこと。
たぶん、「人間が数学と呼んでいるサムシング」は、もともとあらゆる実体間の「演算効率」の系として、宇宙にて(自然界にて)どかーーんと存在し続けている。
人間の頭は、それらをあとから認識し、さらに人間風に数学表現している、ということでしょう。
宇宙も電気も生命も、人間に対してやさしく自己主張してくれるわけではないが、それでもそれらが有している「演算効率」系を人間が時おり「発見」しては、「人間側の表現」を随時変更かけつつ、それらを機械化などにて活用してきたわけでしょうな。
だから、数学の公理や定理などは人間が「発見した」というが、「発明した」とはいわないようで。

こんなことをぼやっと考えたきっかけは、やはりコンピュータ関係の仕事においてであった。
コンピュータは実体はあくまで電気と磁気ともろもろのハードウェアですがな、電位変化と磁気変化によって電子回路の動きが変わるものですがな。
それらハードウェア特性と動作変化と情報処理単位の相関において、さまざまな「数学上の効率」があり - そこを人間があとから発見して、表現し、活用しているわけでしょう。

そういえば。
生物の神経伝達における電気信号と、コンピュータのデータ認識は、ともに2進数で表現出来るが、これは偶然ではないという説明を何度も聞いたし、フィボナッチ数列にしたって…
だから、植物にも動物にもなんらかの「演算効率」系があるってことになり、人間の数学がまだそれらと同期をとりきれていないってことじゃないかな。

…などなど、巨大に人間離れしようと思いつくことはあるものの、まったくの不勉強ゆえに、ろくすっぽ書くこともないのである。


以上

2017/11/26

AI は神になれるか

一神教とは、なんだろう。
根本的な疑問がある。
神のご意思を、人間ごときが解釈してもよいのだろうか?
仮に解釈出来たと主張しても、それらが本物であると誰が証明しえようか?
いや、仮にそれらが本物であったとしても、すべての人間がそれを共有することが出来るだろうか?

どうも、一神教における神というものは、人間にとっては常に「仮説」に留まっている。
神が仮説であるからこそ、信じる者は極めて強く推し、疑う者は激しく疑う。
その果てに、審判がなされることになっている。
どことなく科学にも似ている。

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一方で、多神教の神様は、この世のすべての出来事においてひょっこりと生じる。
やがて別の神様とともに別の出来事がおこり、それまでの神様はほわんと消えていく。
こういう多神教世界では、人間にとって神は「仮説」ではない、あらゆる神がすべて「真」である。
だから、「信じる」「信じない」の区別がないし、真偽判定も必要ない。

そういう世界は、カネと武力と多数決でどうにでも変わるし、いつまでもコロコロと変わり続けるのだ。
核兵器、テロリズム、麻薬や覚せい剤、偽変造通貨、未成年買春、なんでもオッケー、かもしれないよ。
SNSの世界に似ていなくもない。

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ロボットやアンドロイドや人工知能は、自意識や知性があるのだろうか?
もしあるとしたら、それらコンピュータは自分を神だと考えるだろうか。
それとも、自分を人間だと考えるだろうか?
どっちでもないとしたら、どう捉えるんだろうか?

…ということを、コンピュータとは異なる我々の頭脳が推察出来るだろうか?

いやいや、人間の頭脳だって、神経細胞だのシナプスだのが電気信号で駆動しているし、それは数理上は二進数なんだよ、だからコンピュータと同じなんだ ─ というかもしれない。
でもね、数理上同じだからって、ハードウェア(物質)も全部同じってことはない、ならば、物理反応まで同期をとるとは考えにくい。
よって、人間にはコンピュータの気持ちは完全には分からないし、コンピュータにも人間の気持ちは完全には分からない。

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人間は、戦争と平和、戦場と街中の区別がついている。
しかし、人工知能兵器などは、人間の意思と完全に同期をとることは出来ないだろうから、戦場と街中の区別もつかぬ、かもしれない。
そこを悪用して、人工知能兵器に凶悪な回帰分析プログラムを移植するテロリストがいるかもしれない。
しかしながら、人工知能兵器はそのテロリストとふつうの善人の区別すらつかないかもしれぬ。
とすると ─ まぁ、ひどいことになるだろうなあ。

…もしかしたらだが、人工知能にはキリストやアッラーのコンセプトを初期学習させておく必要があるのかな。

以上

2017/11/23

あらためて、学問と言語について

大学生も高校生も、よーく聞け。

僕はしばらく以前に、論理学に関する本を読んだことがあり、推論規則とかその適用可能世界とか述語論理式などについて認識(再認識)を新たにしたものだ。
それ以来、ずーっと考えていることがある。
そもそも、学問を言語のみで記述することが出来るだろうか。

きっと正しいであろうことを、とりあえず記しおく。
学問とは、「既に明らかにされている概念や事実」の、厳密な「関係付け」である。
そのうち最も論理集約的なものが数学であり、それに依拠しながらハードウェアとして物理学や化学や天文学などなどもある。
たとえ未来を語るにせよ、学問に則るのであれば、現在の概念や事実の「関係付け」に則って、その演繹(帰納)を以て未来を描くしかない。
なお、現在の人間マターに限定すれば、経済学や経営学、法律学や政治学も、何らかの概念や事実の「関係付け」を行っているのだから、一応は学問といえる。

さて。
これら学問の記述にて、人間による言語も用いられるが、同時にここにこそ問題もある。
いいかね、言語だって、何らかの概念や事実の「関係付け」に役立ってこそ、学問ツールたりうる。
しかし、本当にそうなっているだろうか?

学問と言語の間に、「論理」をおいてみよう。
ここで、仮に数学はすべてが論理であるとし、かつ、言語もすべてが論理だとする。
どちらも論理か、それならば、数学という学問は、どこまでいっても人間言語による「発明」概念だということになるね。
ならば、数学にては新たな「関係付け」の「発見」など永遠に無いってことか。
いや、そうではあるまい。
数学つまり学問と、論理と、言語は、どこかが異なっている ─ よって、学問を言語のみで記述することは出来ない。
強引な論法ではあるが、ここんところが重要。

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言語は、実に危険な魔法でもある。
経済学や経営学、法律学や政治学で考えてみよう。
価値化、資産化、権利化、市場化、制度化、証券化、裁決、認定、認証…などなど、とりあえず論理としては一応成立している。
だが、これらの「用語」は本当に、現在までの概念や事実の「関係付け」において完全であろうか。
もしそうであるのなら、それらの自由や公正を突く命がけの疑義や論争がどうして後を絶たないのだろう?

僕なりに時々ぼやっと考えることがある。
たとえば古代人などは言語の危険性を察知していて、だから彼らの遺跡にあるヒエログリフや楔形文字などは、もともと数学と天文学(と一部の化学)のみであったのではなかろうか?
それらを解読し、現在の技術で超高速演算を繰り返してゆけば、何か素晴らしいことが…

ともかくも念押ししたいこと。
言語のみで、学問を完結させてはならぬ。
言語はどこかの誰かによる便宜的な発明なのだ、だから、いつの間にか虚偽や悪意が紛れ込んでいる、かもしれぬ。
(※ なお、養老孟司先生などは、論理はともかくとしても、人間の言語はあくまで人間自身の意識活動に過ぎず、実体そのものではない由を説かれている。)

以上

2017/11/19

コペルニクス


「おい!君、どこに行くんだよ?そんなでっかい瓶なんか抱えてさ」
「この先の泉に行くのよ、水を汲みに。だって、うちの井戸から水が出なくなっちゃったから! ─ ほらっ、どいてよ」
「なあ、君さぁ、そんな格好で歩いてたら、じきに腰の曲がったばあさんになっちゃうぞ」
「もう!どいてよ、日が暮れる前に水を汲んでおきたいんだから!しっ、しっ」
「なんでそんなに急ぐのさ、若さはもっと楽しまなくっちゃ」
「うるさいなぁ……ねえ、あんたさぁ、そんなにヒマなら、この瓶にいっぱい水を汲んできてよ、ほらっ!」
「なんで、俺が、あははは、イヤだよそんなの」
「ふーん、男のくせに弱いのね」
「べつに…弱いってことはないよ」
弱いわよ、あー、本当に情けないわ。痩せ犬みたい。女の子の労働すら引き受けられなんて、あんたのお父さんが見たら顔を真っ赤にして怒るだろうなぁ、こんな弱っちい息子だったのかって。ふっふふふ」
「そんなことはない!なんだ、そんな瓶くらい!おら、貸せ!いいか、俺は痩せ犬じゃないぞ。泉の水を入れてくりゃいいんだろ、ここで待ってろ、すぐ持ってくるから!」


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「はぁ…はぁ……ほらっ、どうだ!?」
「うわー、早かったのね、走ってきたの?ご苦労さま、ふっふふふふ」
「…俺は、痩せ犬じゃなかっただろう…」
「うん、見直したわ。ちゃんとした犬だってことがよく分かった」
「犬じゃないぞ!バカにすんな!」
「感謝しているのよ、ありがとう」
「…なあ、君、こんなこと毎日続けてたら、すぐに腰の曲がったばぁさんに」


「ねえ!」
「ん?」
「ほら、きれいな夕陽!どうしてあんなに真っ赤なんだろう」
「夕陽だと?…さぁ、どうしてかな」
「ああ ─ いつまでもこんな素敵な日々が続きますように」
「さぁ、どうだろうかね。それより、さっきまで走っていて気づいたんだけど、いつの日か、俺たちがこんなことしなくてもいいように、もっともっと便利なことが起こっているんじゃないのかな」
「あたしは、今のままでも楽しいんだけど…」
「でも、いつか、君や俺みたいな若い連中が、もっと楽をしてもっといろいろなことを学べるような時代が、くるかもしれないよ」


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「ねえ、影を見て」
「え?」
「影って、不思議ね…何もかも教えてくれるもん、影って」
「へぇ?そんなもんかね」 
「数学の本に載っているでしょう。あらゆる形を三角形として捉えてみれば、或るところから別のところまでの角度と距離を計算出来る、とかなんとか。あたし、影を見るたびにそんなことを思い出すのよ」
「ふーん、それって凄いことなのかな
「どうかしらね……ねえ、それよりあたしの影を見て。さぁ、あたしが何を考えているのか、わかる?」
「分かんねぇよそんなもん」 
「そうね、あんたの影も『わからない』って言っているわ」
「なんだそりゃ ─ それじゃ、俺が何を考えているのか、君に分かるのかよ?」
「ふふふふっ、馬鹿ね。あんたの影は『俺はいま何を考えているのか分からない』って言っているわよ」
「訳の分からないことを言うなって。こんがらがってくる」
「でも、影はこんがらがってないわよ。何もかもお見通しなの。ふふふっ、あんたって、やっぱり犬みたい」
「ふん、そう思いたければ思え ─ じゃあここでお別れだ」
「そうね。さようなら。それからありがとう。あ、そうじゃなくて、ありがとう、それからさようなら、かな?ねえ、どっちがいい?」
「どっちでも」
「…ねえ、明日も会ってくれる?」
「気が向いたら」


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気が向いたら、と言い放つやいなや、少年はとつぜん踵を返し、猛然と走り始めた。
ああ、遅い、遅い、俺はあまりにも遅い。
犬でさえも、遥かに速く走るぞ。
何をモタモタしているんだ!
人間はもっと、もっと速く!
いま駆け抜けるこの草原と、地下を流れる水脈と、あの沈みゆく太陽は、きっとどこかでつながっている。
その何か、そのかかわりを、いつか巧みに結び付ければ、きっと巨大な世界がはじまる、彼女が喜ぶ世界が出来る、みなが喜ぶ世界が興る。
俺にも、なにかが、出来そうだ。
おのれにそう言い聞かせながら、少年はいよいよ膝高く疾走していく。
どんな闇よりも速く!
明日の太陽よりも強く!


(ずっと続く)

2017/11/03

【読書メモ】 人工知能はいかにして強くなるのか?

 『人工知能はいかにして強くなるのか? 小野田博一・著 講談社Blue Backs』

ディープラーニング(深層学習)の数学上の意義にはなにか。
そもそも、我々はAIに何を「教えて」いるのか ─ のみならず、AIにどのように「判断させ」「考えさせて」いるのか、ここを概念理解してこそ、ディープラーニングへの了察が始まるのであり、そしてもっと総括的にいえば、人智/ハードウェアのこの論理接続こそがコンピュータ(自動化)の根本であり、ソフトウェアや数学の本質でさえある。
……といったところを再認識させてくれたのが本書の導入箇所であり、それゆえ本書の紹介にあたっては、コンテンツの大半を占めるAIの対戦ゲーム論ではなく、基礎教育分野のひとつとしての数学論(多変量解析)を挙げておこう、と僕なりに思いついた次第。
なるほど、向学意欲に溢れ能力も高かろう学生諸君にとっては、この第2章までは安易に過ぎぬやもしれぬ、いや、それでも諸君のこんごの指向ないし進路像にて少なからぬ知的インパクトたりえるのではないか。

とまれ、以下の『読書メモ』にて本書の第2章を基礎数学論として概括してみることとした。
かつ、本書にては詳らかに紹介されていないデータスキャニングの入出力(とくに畳み込み方式)や数学論に関しても、僕なりの拙い知識でちょいと捕捉しおく。


<大前提>
ニューラルネットワーク(neural network)とは、多数の入力データが特定のパターンに合致するかどうか、部分的な観測結果を加え合わせて判別するための、多層構成のパーセプトロン(膨大な演算ユニット群=コンピュータ群)。
ニューラルネットワークに接続されたコンピュータに、データ分析と判別のための多変量解析を学習させてゆく方法論が、ディープラーニング(deep machine learning)である。
この多変量解析のための数学手法として、データの回帰分析および、それを活かしつつ閾値によってグループ分けを行う判別分析、評価関数などがある。
特に本書では、多変量解析の具体的なアプリケーション例として、画像データのスキャニングと判別を挙げている。

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<回帰分析>
複数のデータ式のパラメータ要素 x0, x1, x2 ... xn における係数 a0, a1, a2, ... an を調整計算し、線形の一次式 y = a0+a1x1+a2x2+a3x3 + ... anxn   に回帰(収束)するように係数を合わせてゆく数学論理。
これは、{「y:実測値」-「y':予測値」} の2乗の総和の残差 Σ(y-y')2 におけるΣ値が最小値に収束するように係数を調整計算する最小2乗法のアプローチである 。

・ここでは行列演算を起用することが出来、たとえば 「行列Xのデータ群」と「行列Yのデータ群」 のどの係数 a0, a1, a2 ... であっても、 (X'X)-1X'Y の演算により「論理的には」最適値を算出できる。
(※ ちなみに、X' は行列Xの転置、X-1 は逆行列…これらは現行の高校数学には含まれぬようだが、たとえば暗号数学などにては必須のテクニックである。)
なお、たとえば二次式 y=a0+a1x1+a2x22 のような非線形の式であれば、ここでのx2をx1とは別個の一次の変数(zなど)とみなし、その上で行列演算から係数を論理的に導くことも出来る。

・ヨリ実際上は、係数を「小刻みに逐次近似」させながら、全体を厳密に最小値収束させていく方法もある。
たとえば、係数 a0 (定数項)を0から1刻み、係数 a1 と a2 はそれぞれ-1~+1まで0.1刻みとし、まずΣ値が最小となるように計算、さらに今度はそのΣ値にのっとりつつ 係数 a0 (定数項)を0.1刻み、係数 a1 と a2 はそれぞれ0.01刻みとし、あらためてΣ値が最小となるように計算…
こうして、すべての係数が整数に収まるまで続けてゆく。

・二次式以上の非線形の式にては、ロジスティック曲線(シグモイド関数曲線)を充てて回帰分析がなされることが多く、一般には y= 1/(1+e-u) ; u = a0+a1x1+a2x2 ...+anxn として回帰式を求める。
この対数式を変形して対数log化すると、ln{y/(1-y)} = u = a0+a1x1+a2x2 ...+anxn
これでuつまり右辺は線形の一次式になり、以降は上に挙げたように各係数を求めつつΣ値を最小に収束、回帰分析が出来る。
(※ なお、この対数で底に置かれているeはいわゆるネイピア数 2.71828 のことらしいが、なぜこれをおくのか僕には未だに分からない。微分しやすいからであろうか?)

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<判別分析/教師付き学習>
・上に挙げた回帰分析により、複数のデータ式を線形の一次式に回帰させた上で、さらに今度は一定の閾値に則りつつ、それらデータを特定のカテゴリー群に分類する。
これがグループ判別分析であり、ここではパラメータ「要素」にかかる係数をその「特徴量」として捉える。

たとえば、犬、羊、牛の画像データ数枚があるとして、それぞれにて共通した「"何らかの"2つの要素 x1, x2 」と各々の「特徴量 a1, a2, a3 ... an 」に応じて、それらデータが犬か羊か牛かをグループ判別する、とする。
この際、どの動物と見做すかを数値上さだめるための「一定の閾値(±0)」を併せて設定しておけば、要素とそれら特徴量から回帰分析(逐次近似計算)を繰り返して、犬か羊か牛かをグループ判別する ─ そういう判別式が導ける。
(ごく単純な例として、たとえば y = 2.0x1-1.0x2 などのような線形回帰分析式が成立しうる。)

・もちろん、このグループ判別式に「新たに全く別の画像データの要素と特徴量を入力」しても、やはり「同じ」回帰分析を繰り返し、おのずから犬か羊か牛かを予測的にグループ判別できるはずである。

・ここまでをコンピュータで実践する場合
まず設定用データとそのグループ判別式を人間がコンピュータに付与し、以降は新たなデータのグループ判別を"そのコンピュータに予測計算させる" ─ これがAIはじめコンピュータにおける初期学習、特に教師付き学習(supervised learning)の実相である。
もしこのコンピュータによる新たなグループ判別が実像とズレてしまう場合には、たとえば「特徴量」と「閾値」を調整の上であらためて設定用データと判別式をコンピュータに与えてやればよい。
チェスやチェッカーにて、譜面データから勝敗や引き分けをAIが予測する「評価関数」も、この初期学習をもとにAIが判別分析を起動させて作っていく。

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<主成分分析>
各データにおける諸々のパラメータ「要素」の「特徴量」を定量的に抽出し定義する論理。
n次元に展開する分布データであっても、座標を直交回転して便宜的に平面ベクトルとして各々を捉え、データ主成分の相関係数を算出する。

(※ そうはいっても、このあたり本著者も指摘のようにかなりイメージし難い数学で、僕にはどうにも捕捉出来ない。
そもそも、別の類書によれば、多変数の関数を偏微分し最小化するためにいわゆる勾配降下法を用いる云々とあり、そのさいにベクトル化を活かしてどうだこうだなどとあり…いや、やっぱりここのところはどうも僕なりの概念が繋がらない、気が向いたらそっと勉強しとく。)

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<画像データ識別、対戦ゲーム>
幾つもの画像データをスキャンしてグループ判別させるよう、或るコンピュータに初期学習させる、とする。
その際に、そのコンピュータの画像スキャニングスケールと表現能力に応じて、初期学習のスケールが定まる ─ たとえばスキャニングのドット数は幾つか、パラメータ「要素」は何にするか、それらの特徴量の表現方式は二進数かもっと大きいか、など。

これを高度に応用したシステムが、たとえばAIによる AlphaGo である。
まず、碁の高段者の棋譜をこのAIに初期学習させて、AIはそれらにおけるパラメータ「要素」と「特徴量」などに基づいて自らが必勝の手順を予測的に(但し確率的に)回帰分析、勝敗を予測的に判別分析してゆく。

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とりあえず、このあたりまで読んでみた。
コンピュータに何を学習させ、どのように予測させるのか、そこに係る数学(多変量解析)の超ド基礎について僕なりに分かったつもりだ。
と、ともに、ディープラーニングと数学について様々な書籍やネット記事で引用される「入力データの活性化関数」や「階層化と畳み込み」などについても、何をやっているのかくらいは直観的に閃くことが出来た。
その点では、本書に大変感謝している。

さて、本書の第2章にては対戦ゲームにおける「評価関数」についても触れているが、ここまでくると人間とコンピュータの主体/客体関係について僕なりに視座が定まらない。
そんな僕の苦悩はさておき、本書は第3章における「完全解析」論以降、いよいよ実践的な対戦ゲーム必勝プログラムなどなどの紹介に突入してゆく…こういう世界に興味関心のある学生諸君などは、せいぜい呻吟しまた快哉を叫ぶがよろし。

続きは、また気が向いたら。

以上

2017/10/21

ちょっとだけフランス大衆文学

本稿は時代考証などいっさい意識せず、つらつらと書いている。
何がロマンで何が自然主義でなにがシュールであるのか、知ったことか。
その上で言うが、僕はフランスの文化芸術はあまり好きではない。
お気に入りは音楽のドビュッシーくらいだ。
いや、ドビュッシーであっても、リストの「ため息」や「愛の夢」に匹敵するような感傷の抑揚効果はあまり発揮されていないような気がする。

音楽などの感傷性はさておくとして。
フランスのいわば大衆文学」の"仕掛け"において、少なくともひとつ、僕なりに留意しているものがある。
それは、人生において誰もが抱えるささやかな「論理矛盾」が、そのまま市場にそして世界に演繹され拡大されていく、というトリックである。

たとえば、誰もが一度は読んだことがあろうモンテ=クリスト伯』は、私怨と復讐から物語を起こしつつも主人公の大出世までを書き抜いた、痛烈な冒険物語だ。
『レ=ミゼラブル』は、貧困と慈愛のちっぽけなストーリーから始まりつつも、資本主義と理性主義の相克および市民革命までを巨大なモチーフに据えてゆく。
さらに、モーパッサンの短編は市井の悲しみとおかしさを論いつつ、人間世界の普遍性を暗示せんとする。
と思えば、怪盗ルパンのさまざまな冒険譚は、(いわば)掌中のナイフひとつを元手に豪華客船や巨大戦艦を盗み出すような、そんな破天荒なものばかり。

モンテ=クリスト伯にせよジャンバルジャンにせよルパンにせよ、一敗地にまみれた屈辱からのスタートではある。
だが、ひとたび彼らが俗世の「論理矛盾」を見出せば、それらをそのまんま関数として様々な事象を大括弧で括りつつ、驚くほどの効率で白と黒をひっくり返してゆく。
挙句の果てに、世界の常識感覚にすら挑むほどの大どんでん返しに至っており、悪く言えば山師ともなりえようが、よく言えば革命児でもある。

なお、例えばイギリスの大衆文学などは真逆のアプローチ、かもしれぬ。
つつがなく常識的に完結している「はず」のシステムのうちに、何か小さなほころびが露見されると、それをも含め合わせたシステムに拡大させつつも、常識感覚は変わらないような。
(あるいは、皮肉にとれば007のようにほころびの抑え込みに奮闘しているような気がする。)

思い出しついでに挙げるが、よく知られる『十五少年漂流記』について。
こちらはフランス的な論理演繹とイギリス的な常識平衡を、ヒューマニズムという原初的な土俵の上で見事にぶっつけ合っており、そもそも「事件」のきっかけ論争からして必然性と蓋然性の衝突と見えなくもない。
大人になってからあらためて読み返したい一冊ではないか。

範疇分けなど最早どうでもよいが、『異邦人』『ペスト』もよく知られたフランス文学の傑作で、厳然とした自然界において論理性追求に限界ありと認めたもの、とされている?(だから不条理系などと冠されているのか)。
さらに思い出せば、『星の王子さま』 はわけのわからぬ物語、もしかしたらだが、物質の存在量が永遠普遍かどうかはともかくも、論理だけはどこかで全宇宙が一貫している…とでも言いたいのかな?

ここいらあたりでフランス文学らしさが終わってしまったのかどうか ─ 
いや、彼らのことだから、また新たに痛快な、しばし危険な論理矛盾をそのまま関数化し、宇宙のパネルや世界のタイルをパタパタとひっくり返していくのではないかな(頭の中では)。

以上

2017/10/03

【読書メモ】 パズルの国のアリス

パズルの国のアリス 坂井 公  日経サイエンス』
サブタイトルは、美しくも難解な数学パズルの物語、とあり、物語とはいっても数多くの単問パズルが次々と呈される編成になっている。
数学の難問が本当に美しいかどうかはさておき、僕なりに本書を手に取った理由は、データエラー検出や修復に用いる符号論理(ハミング符号列)がいくつかの解答案に引用されており、また別問にては「暗号における論理演算」の基本もカチッと引用されていて、インダストリアルな技術の源泉はやはり数学にあったのかと直観したため。

さてそれではと、本書にて続々と投げかけられる(超)難問に挑んでみれば、あらためて数学の複合的ないし多段的?な構成力に感嘆させられる、とともに、しばしば紹介されているいわば「エレガントな解法」に呆気にとられることも。
こうなってくると、たとえば僕が永年に亘り仇敵のごとく憎悪してきた整数論にせよ、ちょっとは自信があった確率変動にせよ、全体の多段的な構成にてはあくまでひとつの調整弁に如かず、と、しばしため息が漏れ出でてしまうほどである (だからといって僕自身が数学好きになったわけでもないし、こんごも好きにはなれそうもないのだが。)

そもそも、何を前提命題とし、いかなる解法を投入させ、どこまで至れば正解を成すのかというパズル化において、数学ほどに自在な思考体系は他にあるまい。
少女アリスが次から次へと難問のワンダーランドに迷い込んでゆくという本書ならではの演出にせよ、若さ、直観力、飛躍力への誘いの趣きか、かつ、絶妙の問題設定の数々はカードゲームなどのプログラム設計をも想起させてやまない。

さて、以下にいくつか引用する此度の読書メモにては、本書のパズル形式の性質上、とくに前提と解法と正解を切り分けずに、概括的に列記してみることとした。




第18話
真の金貨と偽の金貨が一定数在るとして、その真偽判定のために最も効率的な計算手順を問うもの。
…といえば極めて簡単そうだが、ここに「無効な計測結果が混入しているかもしれない」 との前提条件が付加されており、それでも真偽判定の計算手順は変わらないだろうか、と問いかける

本問への解答案として引用されているのが、無効レコードの検出に活用される「ハミング符号」である。
ハミング符号につき、(僕なりにはるか遠い記憶を手繰り寄せつつ)思いきり要約するに ─ 2進数ほか或る進数の或るビット長における演算結果が白か黒か、を判別するためではなく、「白でも黒でもない演算結果を検出し、だから件数勘定から排除も出来る」ための符号順列…じゃなかったかな。
そうであれば、ハミング符号は、「それら以外では存在しえない(起こり得ない)はず」の最小限の進数/ビット長の順列である。
本問は前段部にて、3進数4ビット長のハミング符号の順列が概念投入されており、また後段部にては2進数7ビット長のハミング符号順列が誘導されている。
さぁ、これらによって「無効なデータが黙殺される」としたら、金貨の真偽判定のための計算手順は変わってしまうか、それとも変わらないか?

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第6話
こちらは、上にあげた第18話にて挿入されているハミング符号の順列を、ヨリ多段的に応用したもの。
7人が頭に戴く冠の色が、白か、赤か、これを2進数7ビットで表現できるというところまではすぐ思い当たるとしても、「どっちかわからない」とのオプションあり。
たとえ「わからない」が含まれていても、2進数7ビットのうちハミング符号は16列しか無いのだからこれを上手く活かせ、と誘う解答案は、かなり閃きの難度が高いのではなかろうか。
それどころか本問は、おのれの冠の色を当てるか外すか或いはわからないで通すかによって、ゲームの利得が変わってくる、との条件付きであり、ここまで込み入ってくると、解法を読みおおせてみても了解は難しいのではないか。

※ なお、ハミング符号、完全符号などなどエラー検出の数理論については、p.27の末尾にも概説の一端が有るが、総括的には行列とベクトルによる符号理論として体系化されているようである。
こういうのが好きな人は、どんどん深みにはまってゆけばよかろう、また、自分でなんらかの数理ゲームをデザインしてみようなどという変人にとっても、なかなか愉快なトリック源たりうるのではないかな。

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第21話
0から15までのカードのどれか1枚を、16枚のコインの表裏の出方によって仲間が言い当てる、というトリックゲーム。
これもじつに誘導的な設問になっていて、16枚のコインのうち1枚を故意にひっくり返すと、それが仲間に対してのカードNo.の合図となっている、という。
いったいどんなトリックなのだろうか…ここで解答案として導入されているのが、いわゆる「排他的論理和」の演算である。

例えばだが、初めに裏になってしまったコインNo. と、当てるべきカードNo. と、この両者まじえた排他的論理和を2進数にて演算し、この演算結果「番目」のコインをあえてひっくり返す。
その上にて、仲間がこれらコインからあらためて排他的論理和を演算し、それから10進数に戻すと、その数が問題のカードNo.にぴたり一致する、というトリックだ。
本当にそうなるのだろうか、いや、おのれがコンピュータになったつもりで演算してみればよい。
とまれ、排他的論理和のコンセプトそのものではなく、これを千里眼のごときトリックに応用するという飛躍センスこそが、「超」難しい。
(こういうロジカルトリックこそが、ロープレやカードゲームにふんだんに仕込まれているのではないかしら、よくは知らないけれども。)

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第13話
本問は題意そのものがちょっと捕捉しにくい。
或るアナログ円時計の長針(つまり「時針」)と短針(つまり「分針」)の長さがまったく同じである、として、このどちらの針も分刻みの目盛りまで正確に指す、とする。
この前提にて、「何時何分を指しているのか判別できない」タイミングは1日24時間のうちに何回起こるか?
…というのがおそらくは題意であろうが、残念なことに例示的な図案が呈されていないため、「何時何分か判別できない」とはいかなる状態であるのか、アナログ的にイメージし難い。
例えば、2時30分頃なのか、はたまた6時12分頃なのか、こういうのが時間判別できないタイミングの意ではないか、とも察せられるが。

それでも、とりあえず代数計算によって解法は確立されている。
或る t時 までの時針と分針の回転数をまず定義、かつ、別の s時 までの時針と分針の回転数も定義する。
時針と分針がともに分刻みの目盛りをピタリと指す、そのタイミングこそが、何時何分か判別出来ない時である、とすると、つまり時針と分針がともに整数であるタイミングだ、さぁその回数は0時~24時までの間に幾つ有るか?

─ なるほど、こうやって見れば実に簡単な代数によるとデジタルな解法である、が、本書では仰天するような別案も紹介されていて、それはなんと、分針の12倍の速度で回る「第三の針」を想定して、これが時針に重なるタイミングおよび分針に重なるタイミングを数え、その勘定数をもとに本設問の解法に向かう、というものである。
こういうのがデジタル思考の発展形であるのか、いや、もしかしたらアナログ的な大飛躍なのかもしれぬが。

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第4話
これは本書にても典型的な複合問題のひとつであろう。
トランプカードの神経衰弱ゲームで、2人が交互に自分の番に裏のカードを2枚ずつひっくり返し、もしその2枚の数が合致したらそのまま続けて次の2枚に挑む
…というルールであるが、これは細かく場合分けすればもうちょっと戦略的に込み入っていて、「おのれが既に表の数字を知っている」カード1枚を捲るか、「全く未知の新たな」1枚を捲ってみるか、これで戦略がまず変わる。
「全く未知のカードを1枚捲ってみた」場合に、続く2枚目のカードとしては既に確認済のものを捲るか、あるいは全く未知のものをランダムに選ぶか、このどちらかによっても「成功の期待値」が変わってくる。
もちろん、こうして挑んだ2枚目が当たりか外れかによっても、「更なる成功の期待値」は変わってくる。
では、この神経衰弱にて、出来るだけおのれに有利にゲームを運ぶためには、どういう戦略をとってゆけばよいか…?!

ちょっと考えるだけでも頭がどうにかなりそうな難題だ。
解法の道筋としては、裏返っているカードの残数(2の倍数として)と、既に一度は捲ってしまい表が分かっているカードの数をまず定義、この「両者の数値によって勝率全体が決まる」、としつつも、各局面ごとの成功の確率もまたこの両者の比によって別個に変わってくる、とする。
こうして、確率変動と期待値の項を複数足し合わせた(あるいはマイナスした)形の漸化式をつくり…

本問はとにかく多段的というべきで、付録的に提示されているカード枚数(残数)と期待値の実践的なマトリクスに、目が眩みそうである。
さはさりとて、これもまたカードゲームなどにおける実践的な数理アプリケーションたりえよう、そして本設問と解法はけして突飛な飛躍を課すものでもなかろう。

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第34話
これは暗号演算の数理の一つで、いわゆる3パス・プロトコルの適用だ。
もう設問までいちいち引用するのも面倒になったので、3パス・プロトコルの数理手法について本書引用の箇所をさらりと紹介しおく。

或る平文を c とし、これを暗号化したものを、暗号文 d, e, ...  とする。
送信者Aの目的は、この平文c を暗号化して受信者Bに送ることであり、受信者Bの目的はそれを復号化して元の平文cを入手すること。
暗号化の鍵関数として、送信者Aは関数f逆関数f- 1  のみを知っており、一方で受信者Bは関数g と逆関数g- 1 のみを知っている。
さて、送信者A は、平文cを関数f暗号化し、d = f(c) として受信者Bに送る。
B は、この暗号文dを関数gで暗号化し、暗号文e =g(d)=g(f(c))=f(g(c)) をAに送り返す…ここのところ、暗号文の暗号化であり、本方式の絶妙テクニックである。
Aは、この暗号文eを逆関数f- 1 復号化、z = f- 1 (e) = g(c) としてこれを再びBに送る。
そこでBは、 z を逆関数g- 1 で復号化、元の平文c を手に入れることが出来る。

見事なものだ、復号化するための逆関数を「AとBは共有していない」のに、Bはちゃんと復号が出来ている!

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以上、ほんの一欠片には過ぎぬが拙くも引用してみた。
数学思考の強化に充てるもよし、またゲームデザインのヒントに活かすもよし、これまで以上に数学を憎むもよし、とりわけ学生諸君には、僕の代わりに一問一問ぶっつかってゆくことを祈念しつつ、僕自身はもう当分は数学には手出ししないでおこうと思う。

なお、本書は初版が2014年末で、既に続編本も出ているようである(やはり超難問数学パズルのヴァラエティに富んだ連弾集だそうで)。

2017/09/20

インテリ社会人のような英語表現

ふっと閃いて、過去数年の某英文誌における気の利いた英語表現について、ざっとまとめてみたくなった。
大学生のガキどもにはちょっと厳しいかもしれないが、実社会人で英語を使いまわしつつインテリを気取っている人たちならば、まぁ過半は分かるのではないかな。
所詮はそんな程度のものゆえ、あまりテクニカルな実践性は無いけどね。
以下、英文そのものではなく、表現部分のみを抜粋してみた。

  • take on the cotton barons
  • balance two competing imperatives
  • a pillar of stability
  • overhaul an educational system
  • an economic system that glosses over the country's responsibility
  • deliberations between America and Japan
  • selling for a song
  • fierce competition with elbows flying
  • climb above the sharp elbows of rivals
  • slur stuck
  • tiptoe round the issue
  • collaborate on the basis of nepotism
  • selfishness and altruism
  • red in tooth and claw
  • once-feted but now-disgraced
  • cut corners in science
  • uneasy bedfellows
  • create a business from a scratch
  • in for a penny
  • rock the boat
  • huff and puff
  • sow turmoil
  • a clutch of alarmist books
  • you/he/she of all people
  • the unshackling of markets
  • conundrum and riddle
  • coaxed and wheeled into market choices
  • change the size of the deficit, one jot
  • raise anomalies of one's own
  • a bit of a fudge
  • a subordinate officer
  • rags to riches
  • on a dodgy ground
  • dwell on someone of Indian extraction
  • waxes and wanes
  • a talk that stokes indignation
  • horse-trading over investment
  • wisdom or senility
  • run corner to efforts
  • boot workers off their jobs
  • a blue-sky research
  • encumbered with nasty advisers
  • military conscription
  • amputate legs and genitals
  • clay labours
  • senior conscript
  • hush up
  • steel yourself
  • iconoclast
  • natural attrition
  • peddle an argument
  • ride on an answer
  • topsy-turvy
  • statistical tangle
  • caveat
  • a damp squib, not a constant ray
  • past lean years
  • fitful and half-hearted
  • rigging personnel
  • ward off that company's hostile bidding
  • pre-empt a hostile bid
  • a gap to a chasm
  • a research outfit
  • technologies at the margins of existing firms
  • socio-economic marginalisation of women
  • resonance
  • economic rationalism (that is) swamped by nationalism
  • coin oneself
  • inhibition of growth
  • a virtuous circle in online forays
  • pay homage to the insight of Shumpeter
  • a rule of thumb
  • management practice to vie and outdo competition
  • small close-knit group
  • no more flattering tribute than one's words
  • the once most propriety outfits
  • in the for corners of the earth
  • the vouched code
  • self-policing to ensure quality
  • cold snap
  • bump the company a few notches down the ladder
  • weather a period of deindustrialisation
  • depart to give final consolation
  • irrational exuberance
  • semantic issue
  • put a warning in the shade
  • tip a balance
  • kill for a position
  • switch in default rules
  • entrust pension money to his employer's custody
  • inertia
  • deeply embedded in culture
  • bronze-fisted, silver-tounged
  • come back down to earth
  • desert their president
  • deliver on promise
  • preside at the committee meeting
  • tax break for low income family
  • seared money
  • phase out
  • gas from diffuse fields
  • the hitch is ...
  • lend credence to a theory
  • rubberstamp the policy's revival

 ……こんな程度のものなら、まだまだワンサカとストックがあるので、いずれまた気が向いたら。

以上

2017/09/06

製鉄の基本

或る本をきっかけとして、製鉄についてごく大雑把にまとめてみたくなった。
高校化学の選択者なら誰もが一度は意識したであろう、鉄と酸素と炭素と温度のかかわり ─ しかしながら、鉄は極めて「業際的」な工業素材である。
よって、製鉄の工程について概ね理解することは、ひとえに化学に留まらぬ意義深い基礎教養たりえよう。
以下にごく簡単にサマライズしてみた。


<酸化鉄>
・約46億年前に地球が生成してから永い間、地球の大気は炭酸ガス、そこでマグマに含まれた鉄はイオンとして水に溶け、海に混じり出した。
鉄イオンは海中の酸素と結び付いて、酸化鉄として海底の岩石を成し、これがそのごに隆起して大陸となったので、酸化鉄である赤鉄鉱(ヘマタイト、Fe2O3の鉱脈をつくった。
赤鉄鉱は現在、露天掘りで大規模に採掘が出来る。

なお、日本列島は火山造成なので、赤鉄鉱はほとんど無いが、火山から噴き出したマグマが風化して、とくに磁性の強い酸化鉄、つまり砂鉄≒磁鉄鉱(マグネタイト、Fe3O4) を成した。
砂鉄鉱は、花崗岩や安山岩として河川に流れ込んできた。

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<融点低下・還元>
酸化鉄の鉱石から酸素を分離(還元)するため、炭素を用いる。
炭素を用いるメリットは、燃焼過程で鉄鉱石から酸素を引き離すこと、かつ、鉄鉱石の融点(凝固点)を下げ融解分離を促すこと。
ここまでの工程が、溶鉱炉(高炉)にてなされる銑鉄の摘出つまり製銑である。

溶鉱炉にて、鉄鉱石に炭材(コークスや木炭)と石灰石を混ぜ、約1200℃の高圧熱風を吹き込むと、炭材が燃焼して二酸化炭素を発生、さらに炭材と反応して一酸化炭素となり(ブードワー反応)、鉄鉱石から酸素を奪い還元する。
このブードワー反応は鉄の本来の融点以下で進み、鉄は固体のままでも還元が始まる。
しかも、固体としての鉄は炭素を吸収しやすい構造であり、炭素吸収によって鉄の融点は下がり続ける。
こうして、還元された鉄を溶鉱炉中で液滴として得られ、これが銑鉄である。
銑鉄中の炭素の多くは冷却すれば黒鉛として析出され、銑鉄は鋳型に流し込んで鋳物に出来る。

なお、赤鉄鉱の結晶は、鉄と酸素の原子配列がやや粗いコランダム構造を成し、一方で、磁鉄鉱の結晶はこれらの配列が密なスピネル構造を成す。
よって、赤鉄鉱の方が還元しやすい結晶構造であり、ヨリ低温から還元が始まる。
これら鉄鉱石にはもともとシリカやアルミナなどの脈石が混在しており、上のプロセスで還元中にもこれら脈石は残留し、石灰成分と反応してスラグを成し分離する。

鉄は炭素濃度を4.2%まで増やせば融点が1154℃まで下がる、尤も、これ以上に炭素濃度を増やしても融点は下がらない。

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<炭素濃度低減・精錬(製鋼)>
銑鉄や鋳鉄は2~4.5%の炭素と不純物(ケイ素やリンや硫黄など)を含んでおり、このままでは展性や延性に乏しい。
これら銑鉄を加熱し、炭素分離すれば、軟らかくて粘り気あり加工性に優れる「粗鋼」を獲得出来る。
この脱炭による粗鋼獲得の工程プロセスを精錬(製鋼)といい、転炉でなされる。

融解した銑鉄を転炉に入れて生石灰などと混ぜ、高圧で酸素を吹き込んで急速に酸化熱を発生させると、銑鉄から炭素や不純物が分離し、粗鋼が出来る。
炭素が分離されるので、粗鋼は融点が高くなり、鋼塊としても溶鋼としても得られる。

こうした得られた粗鋼が、圧延や外延の加工プロセス以降に回される。
ここで分離された不純物もスラグとして固定化される。

※ 転炉における粗鋼の精錬の基本工程は、ベッセマー方式の確立後、根本的には現代まで変わっていない。

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<以上までの、還元~脱炭の反応内訳>

炭材による、酸化鉄鉱石の還元
3Fe2O3 (酸化鉄III) + CO (一酸化炭素) → 2Fe3O4 (酸化鉄III鉄II)+ CO2 (二酸化炭素)
Fe3O4 (酸化鉄III鉄II)+ CO (一酸化炭素) → 3FeO (酸化鉄II) + CO2 (二酸化炭素)
FeO (酸化鉄II) + CO (一酸化炭素) → Fe (鉄) + CO2 (二酸化炭素)

銑鉄の酸化と脱炭による、粗鋼の精錬
Fe (鉄) + 1/2O2 (酸素) → FeO (酸化鉄)
C (銑鉄中の炭素) + FeO (酸化鉄) → Fe (鉄) + CO (一酸化炭素)

以上は鉄鉱石の還元~銑鉄の脱炭反応を段階的に成すフローだが、一気に直接成す反応と工程もある。

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<熱間加工・含有炭素量の調整>
そもそも鉄元素は(粗鋼も)、温度によって結晶粒子構造の異なる同素体であり、結晶構造に応じて含有炭素量が以下のように変化する。
912℃以下…α鉄、体心立方格子、粒子間が小さく、炭素は0.02%までしか溶けない。
912~1394℃…γ鉄、面心立方格子、粒子間が大きく、炭素が1.7%まで結合する。
1394℃以上…δ鉄、体心立方格子、粒子間が小さく、炭素は0.1%しか溶けない。

そこで、粗鋼をたとえば以下のように「熱間加工(鍛造)」して、炭素含有量を調整する。
「焼き鈍し」…γ鉄をゆっくり800℃以下まで冷却し、フェライトとセメンタイト(炭化鉄)の交互分離したパーライト層構造とする。
この結果、α鉄は全体としてフェライトの軟らかく粘り強い性質を有す。
「焼き入れ」…γ鉄を水で急速に冷却し、フェライトとセメンタイトのパーライト分離をさせず、炭素が過飽和で粒子の動きにくいマルテンサイト組織状態に導く。
この結果、α鉄は硬いがやや脆い性質を有する。
「焼き戻し」…急冷したγ鉄を、また600℃くらいに熱し、マルテンサイト組織からセメンタイトの小粒子を分離する。
この結果、硬さをやや軟化させつつ粘り気を出すことが出来る。

工業用途としての粗鋼は、実際には以下の炭素含有量にて精錬/製鋼されている。
最硬鋼: 炭素残留量が0.80%以下、硬いが脆い
硬鋼: 炭素残留量が0.50%以下
軟鋼: 炭素残留量が0.35%以下
   特に0.3%以下のものをいわゆる普通鋼と称す
極軟鋼: 炭素残留量が0.12%以下、極めて軟らかく粘り気がある
   特に0.02%以下のものがいわゆる工業用純鉄である

なお、炭素以外の元素を加えた鋼は合金鋼と称す。
たとえば、鋼にクロムとニッケルを混ぜると、これら物質が不動態の酸化被膜をつくり、ステンレス鋼となる。
特殊な性能用途を企図して合成されたものは、特殊鋼と称す。

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※ ところで、銅の融点は1084℃、これは木炭でも十分に実現可能な温度、よって古来から青銅器をつくる際には木炭を用いていたとされる。
この木炭による熱と炭素の古典的技術が、ある時に鉄鉱石の還元へ応用されたことは、想像に難くない。

※※ 粗鋼の精錬(製鋼)には、電気炉による方式もあり、これはスクラップ鉄を素材として、電気放電熱によってそれらから酸素ほか不純物を一気に融解分解するもの。
この電気炉での粗鋼精錬は、高炉による鉄鉱石還元からのプロセスに比べ、概して投入エネルギー量も排出ガスも少なく、粗鋼の炭素量と融点に応じて、高炉方式との使い分けがなされている。

※※※ なお、日本古来の「たたら製鉄」は、たたら炉に砂鉄と木炭を交互に積み上げ、空気で砂鉄を還元させて鉄を取り出すシステム。
ここで得られた鉄が「玉鋼(たまはがね)」であり、炭素は0.9~1.8%以下で、不純物はほとんど含まない高純度の鋼である。

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受験生しょくん、ここまでまとめてやったんだから、あとはてめぇで勉強しろ、興味意欲を高められれば幸いだ。

2017/08/17

【読書メモ】 この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた

『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた ルイス・ダートネル著 河出書房新社』
本書は軽妙かつユーモラスな科学概説エッセイ、とりわけ化学論である。
総論をごく大雑把に概括すると  - 『少なくとも地球上にて、農業/工業の基幹たりうる化学物質は、苛性アルカリ物質である炭酸ナトリウム(ソーダ灰)と、強力な酸化剤である硝酸でありえよう、またカリウム源および燃源としては木材(木炭)が最高だろう…。』
ざっとここのところ実証的に思考実験すべく、本書は半ば冗談めいた人類文明再生プロセス (build our world from scratch) を想定してみせたのではないか。

本著者のダートネル氏は宇宙生物学が専門の由、よって本書は、巷間に喧しい科学論とは一線を画した、いや遥かに卓見した科学論かつ文明論たりえよう
じっさい、本書の記述は分野を超えた横断的な展開を呈しており、エネルギー収支比、農業への投入エネルギーと摂取カロリーなど、熱/物理エネルギー効率にも大いに着眼、また電気応用についても触れている。
かつ、たとえば 「水でさえも化学物質だ」 などというヌーボーとした記述について、どこまでシリアスなのかはたまたユーモアなのか、いずれにしても吹き出すほどおかしい。

ただし、為念の注釈もしおく。
本書における諸々の主題は総論概説に留まっており、化学コンテンツについても化学式や定量計算は仔細引用されていない、ゆえに、読み易いともまた読み難いともいえよう、ともあれ、理科に通じた読者が速読する蘊蓄本としては絶好の一冊か。
それでは、以下、特に炭酸ナトリウムと硝酸を根本に据えたさまざまな転用/応用論について、僕なりの読書メモとしてまとめおく。



石灰岩(炭酸カルシウム)を900℃以上の高温環境で熱すると、無機物が分解し二酸化炭素ガスとして放出、残留物はアルカリ性の生石灰(酸化カルシウム)となる。
さらにこれを水と反応させると水分子を分離させ、強アルカリ性の消石灰(水酸化カルシウムとなる。
廃水の浄化にも適する。

・木炭をつくる(炭焼き)過程で有機物と無機物に分離できるが、ここで水溶性の無機物質(灰汁)を採って煮沸すると、いわゆるカリ、一般には強アルカリの炭酸カリウムが得られる。
カリウムは植物の生育に必須物質で、肥料に活用される。
さらに、炭酸カリウムを更に強アルカリ性の消石灰(水酸化カルシウムと反応させると、苛性アルカリの水酸化カリウムが得られる。

・海藻の山を燃やす過程で、このうち水溶性の無機物質を採って煮沸すると、強アルカリのソーダ灰(炭酸ナトリウムが得られる。
これも、消石灰(水酸化カルシウム)と反応させると苛性アルカリのソーダ(水酸化ナトリウムが得られる。

・生物体内にて、余分な窒素は水溶性化合物つまり尿素に換えられるれるが、これを発酵させればアルカリ化合物であるアンモニアを採れる。

※ そもそも、植物体内にては、エネルギー移動のためにリンを必要とし、水分損失を防ぐためにカリウムも必要とし、そしてタンパク質合成のために窒素(アンモニア)が必要。
これらが農地の土壌成分に含まれねばならない。
なお、エンドウ、インゲン、クローバー、大豆、ピーナッツなど豆科の植物は、生育する過程で栄養素を土壌中に再注入する能力がある。
17世紀以降のいわゆる(ヨーロッパの)農業革命は、特定の農作物を活用し土壌中の窒素量を増やしつつ循環させる技術であった。

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・木材から木炭をつくる(炭焼き)過程で発生する有機廃棄物のガスを分溜すると、有機の木酢から主に酢酸アセトンメタノールを抽出出来る。
酢酸は酸性で、アルカリの炭酸ナトリウム水酸化ナトリウムと反応して酢酸ナトリウムをつくり、これは染料や顔料として使われてきた。

・海水を電気分解すれば、塩素ガスを得られる。
塩素ガス黄鉄鉱を反応させれば、硫酸塩化水素ガスを得られる。
硫酸によって、土壌中のリンを分解し植物に回すことが出来、だから人工肥料としてよく用いられている。

塩素ガスは、消石灰(水酸化カルシウムないし苛性ソーダ(水酸化ナトリウムと反応させると酸化して漂白剤になる。
また、水に溶かせば塩酸になる。

・ラードなどの油脂を成す炭化水素分子と脂肪酸(カルボン酸の意か?)を、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)などのアルカリで加水分解(置換)すると、脂肪酸塩になり、これが炭化水素を以て油脂と水を界面的に(弾き合うように)繋ぎ、石鹸にもなる。
この生成過程でグリセロールも抽出出来る。

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・木材を徹底的に燃焼させると、化学結合エネルギーの大きな有機物つまり木炭だけが残り、木炭は木材どころか石炭よりも高温で燃える。
燃えながら一酸化炭を放出し、これが極めて強力な還元剤として、金属製錬プロセスにて酸素や硫黄などを分離させる効用がある。
一方で、木炭の重量は木材の約半分となるため、実に有用なエネルギー源たりうる。

・植物のセルロース繊維は、リグニンによって強力に束ねられた重合体であるが、これを苛性ソーダ(水酸化ナトリウムに長時間浸して加水分解(置換)すると、重合体が切れて、加工しやすいパルプ材になる。

・粘土は、アルミノケイ酸塩鉱物で出来ており、これはアルミニウムケイ素がそれぞれ酸素と結合したものゆえ、不燃性である。
これを900℃以上で加熱すると、粘土粒子が強固に融合を始める。
この物質にナトリウムを加えると発熱し、ナトリウム蒸気が年度中のシリコンと混じり、ガラス質の皮膜となり、これは耐火性に優れつつ防水機能にも優れている。

・ソーダ灰(炭酸ナトリウム)は、ガラス製造にて砂を溶かすための融剤として不可欠であり、世界で生産されるソーダ灰の半分以上はガラス製造のために用いられている。

・消石灰(水酸化カルシウム)に少量の水を混ぜると、石灰モルタルになり、レンガ類の結合能力がある。
これが土中成分のアルミニウムケイ素と水和反応すれば、さらに強度が増してセメントになリ、セメントは水中でもむしろ解けずに硬化する性質を有する。
セメントからコンクリートもつくれる。

セメントもコンクリートも、古代ローマ帝国期には大いに起用され、その建造物は今もなお健在だが、中世ヨーロッパではあまり用いられず、ゴシックの大聖堂は石灰モルタルで出来ている。
なおコンクリートは圧縮強度は高いが張力には脆いため、抗張力のある鉄筋とともに建材に用いられている。

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・生石灰(酸化カルシウム)と水を反応させると、アセチレンを得られる。
アセチレンは燃料ガスとして最も高熱の炎を発し、アセチレンガスと酸素を活かせば3200℃以上の金属溶接器も作れる。

・鉄鉱石に石灰岩(炭酸カルシウム)を混ぜると、鉱石内の不純物質の融点を下げて液化し、溶鉱炉から除去出来る。

・堆肥の窒素(硝酸の状態の意?)に消石灰(水酸化カルシウム)を加えると、カルシウムが硝酸イオンと結びつき、更にこれに少量の炭酸カリウムを混ぜると分子構造が置き換わって、炭酸カルシウム硝酸カリウム(硝石)を得ることが出来る。
この硝酸カリウムに多くの有機物を結合させて一層酸化させると、酸化剤としての硝酸カリウムと還元剤としての燃料分子が極めて急激に反応しあうため、燃焼しまた爆発もする。

人類最初期の黒色火薬は、硝石を酸化剤とし、木炭を還元剤として、硫黄を混ぜたもの。
硝酸カリウムに、セルロース繊維をもとにした有機物を結合させると、ニトロセルロースを作れる。
またグリセロールを活かせばニトログリセリン(ダイナマイト)にもなる。

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・アルカリとして最重要の化学物質たりうるソーダ灰(炭酸ナトリウム)を、確実にかつ効率的に製造する方式の代表例が、いわゆるソルベー法である。
重炭酸アンモニウム(アンモニア)と二酸化炭素と塩水(塩化ナトリウム)を反応させ、アンモニアによって塩水をアルカリ性に換えつつ、重炭酸イオンをナトリウムに移し、よって不溶性の重炭酸ナトリウム(重曹)をつくる。
この重炭酸ナトリウムを熱してソーダ灰(炭酸ナトリウム)を抽出する。
なお、ここで投入する二酸化炭素は、石灰岩(炭酸カルシウム)の焼き出しから取り出すものであり、残留する生石灰(酸化カルシウム)はアンモニアと塩水の再生に用いている。

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……ここまで、ざっと抜粋メモしてみた。
なお、本書は産業化にいたる工程仔細を精密に記したレポートではなく、たとえば合成アンモニアの製造方式として知られるハーバー=ボッシュ法にしても略記に留められている。
しかしながら、化学における縦横自在な着想の面白さ、その根源への遡及的な思考などなどを更に誘いうるという点にて、本書はなかなか触発的な快作といえよう。

以上