「先生!大変なことになりました!」
「また君か。今度は何をやらかしたんだ?」
「あたし、ちょっとした連載小説を書いているんですけど、重大な描き間違いを犯してしまい、それがそのまま発行されることになっちゃったんです!」
「ははーーん。それは困ったもんだ。いったい、どういうお話なのかね?」
「ええと、或る村の先祖代々の御蔵から、100個の宝石が見つかったというストーリーなんです。元素も構造も形状も全く同じ100個の宝石。そして、その村の住民もたまたまちょうど100人であり…」
「結構な話じゃないか。一人ひとりが宝石を1つづつってわけだ」
「ところがそうはならないの!あたし、村人の数をうっかり101人と記してしまったのよ!つまり村人が1人余っちゃうの!これだとケンカになってしまうでしょう!あーー、このままネットに掲載されちゃうんだ!」
「フフン、なんだそんなもの、村人を1人だけ排除すればいいんだよ。それでストーリーがまーるく収まるじゃないか」
「簡単に言わないで!村人を1人だけ排除だなんて、そんなひどいストーリーは書きたくないもん。あーー、どうすればいいの?」
「さぁな。でも覚えておけ。いいか、大抵の問題にはだ、あらかじめ正解がセットで対応しているんだ。入試問題などが典型だ。名言だろう。by 俺。はははは」
「……あっ!…そうじゃないんだわ…!あらゆる問題は、それ自体があらゆる正解によって成り立っているのね。by あたし。そもそもこの話はあたし自身が書いたものであり、問題もあたし自身が引き起こしたもの。だから、だから…」
「だから?どうするつもりかね?」
「こうするのよ!」
なんと、彼女は自らがその小説世界に飛び込んでいったのであった。
え?なになに?
そうなると、彼女を加えて村人は102人となり、宝石は100個なんだから、いよいよ帳尻が合わないだろうって?
まあ、おしまいまで聞きなさい。
ほどなくして、彼女は1人の男性と連れ添って、また現実世界に舞い戻ってきたのだ。
もちろん、この幸せな二人の手には宝石が ─ あるわけがなかろう。
これで、あっちもこっちも丸く収まったことになる。
女の思いつきなんて、せいぜいこんなもんだ。
ともあれ、彼女は意気さかん、続編を書き綴っているようである。
(おわり)
※ 本編は遥か昔、高校生の頃に思いついた話を、立体的に改編したもの。